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ホシュウのおじさま

乃璃香「わたしたちは、この物語をある大人のひとに捧げたいと思う。

 その大人のひとはわたしたちにとって、親友とも言える。

 その大人の人はどうしても慰めなければならない人だからである。

 その大人の人は、昔一度は中学生だったのだから、

 わたしたちはその中学生にこの物語を捧げたいと思う」


乃璃香「おじさまは、とても無邪気な人でした。

 私たちは出会ってまだ三ヶ月しか経っていませんが、

 親戚のおじさんのような近所のお兄さんのような友達のような存在でした。

 補習の時間にプールに行って副校長先生に怒られるようなおじさまは、

 再会した初恋の人にいいところ見せたくて、

 補習授業を受けたわたしたちに無理なお願いをしてきました」


 BGM イン

作間「きゃー助けて!!」

山田「ははははっ。この花は戴いた。返して欲しければ、俺の家来になって、おれを褒めちぎるがいい」

タダシ「なんだと、貴様は何者だ!」

山田「俺か? 俺は複数の星の王であり実業屋であるちょっと自惚れ屋な地理学者点燈夫呑み助だ!!」

タダシ「一体何ものなんだ」

山田「さあな。お前の大事にしているこのバラの花、戴いていくぞ」

タダシ「いいよ」

山田「えーー」

作間「いやよ、いやよ、わたしくし、こんなのいや」

タダシ「最近のバラは僕への文句が多すぎる。一緒にいすぎて愛されることが当たり前になって、僕の愛が分からなくなっているんだ。きっと別れた方がいい」

山田「そうか、じゃあ君たち二人は愛を知るために別れるんだな」

タダシ「ああ、きっと離れれば分かるさ」

作間「尾路さま……」

タダシ「元気で」

山田「よし、では遠慮なく戴くー。もう返してって言ってもダメだからねー」

タダシ「いいんだ、これで。これがお互いのためさ」

二逆「尾路さま」

タダシ「キツネ」

二逆「大切なものは目に見えない」

タダシ「そう、だね……」

二逆「お、尾路さまぁあああ!!」

乃璃香「おわり」

 BGMがフェイドアウトしていく


作間「それにしても酷い脚本だな。ほしのおじさま」

タダシ「尾路さんが書いたんでしょ。星の王子さまになぞらえてるらしいよ」

山田「実業屋であるちょっと自惚れ屋な地理学者、点燈夫呑み助って、そんなキャラ出てくるの?」

二逆「まとめただけだと思います。これで本当にラジオドラマやるんですか」

作間「尾路さん、勝手に応募するって約束しちゃったみたいだからな」

タダシ「好きな人にいい所見せたいだけだろ。その約束オレらには関係ないよな」

山田「確かに、大人なんだから自分でどうにかしろよな」

二逆「もっと他の方法を提案してみてはどうですかね」

タダシ「他の方法って?」

二逆「先生の好感度が上がればいいんですよね」

タダシ「好感度か。つまりはどうしたらモテるかってことか」

山田「俺らで考えてやるか」

作間「よし、じゃあ、尾路さんがモテる方法について思いついたこと言ってみよう。古今東西おじさんがモテる方法。はいはい。髪型を変える。はいはい」

タダシ「ジャージ以外も着る。はいはい」

山田「料理が上手くなる。はいはい」

二逆「本を読んで知的にふるまう。はいはい」

作間「まずは生徒に好かれるように努力する。はいはい」

タダシ「まずは同性に好かれるように努力する。はいはい」

山田「まずはおばちゃんに好かれるよう努力する。はいはい」

二逆「まずは動物に好かれるように努力する。はいはい」

作間「これ、意外とできてる。おれ、尾路さん好きだぜ」

タダシ「確かに、オレも」

山田「用務員のおばさんが、いい男ね、って言ってた」

二逆「この間、野良猫に囲まれてるの見ました」

作間「んじゃ、流行のモテそうな習い事をする。はいはい」

タダシ「話し方教室みたいなのに行って話術を磨く。はいはい」

山田「寺にこもって煩悩を捨てる。はいはい」

二逆「病院に行く。はいはい」

作間「病院?」


乃璃香「ラジオドラマに応募するという無理なお願いをなんとか回避しようと、

 わたしたちは考えました。尾路先生がモテるようになるなんて、

 この広い砂漠でいきあたりばったり井戸を探すようなものです。

 そんなバカげたこと、と思いながらわたしたちは話し会い続けました」


作間「脚本書くのは無理だけど、おれたちで尾路さんにカッコイイ決めゼリフ考えるっていうのはどうだ」

タダシ「カッコイイ決めゼリフ? 大切なモノは目に見えない。みたいなの」

作間「そうそう」

二逆「砂漠が美しいのは井戸を隠してるから」

山田「何それ、カッコイイ。でもどういう意味?」

二逆「星の王子さまに出てくるんで言ってみただけです。僕もよく分からないです」

山田「平服でお越しください、みたいなのか」

二逆「それは信用しちゃいけない言葉ですね」

作間「頭いい奴の、テストで全然勉強してこなかった~」

タダシ「付属のタレとかの、こちらの面どこからでも切れます」

山田「母ちゃんが言う、怒らないからいってみなさい」

二逆「女子が言う、えー、モテそうなのに」

作間「全米が泣いた」

タダシ「ピーマン嫌いな人でも食べられるピーマンです」

山田「お年玉、母ちゃんが預かっておく」

二逆「原作のイメージ完全実写化」

作間「完全に遠ざかってるぞ」

タダシ「やっぱり無理じゃん!」


乃璃香「結局、尾路先生の恋が実ろうが壊れようが、

 わたしたちの中学生活に関係ありません。

 でも、まったく不思議なことです。

 尾路先生を知っているわたしたちが、わたしたちにとっては、

 わたしの知らない、どこかの女の人に、

 振られたとか、うまくいったとかで、

 この世界にあるものがまったく違ってしまうのです……。

 数年後、空をごらんなさい。

 尾路先生に恋人ができたか、結婚できたか考えてご覧なさい。

 そうしたら、世の中のことが、どんなに変わるか、おわかりになるでしょう」


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