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バラとの約束

「オレ感想文書くから、渡辺さんは脚本がんばって。出来たら見せ合おう」

 そう約束して、二人で勉強することになった。

 お互い自分の課題に向かってるから会話はないけど、超幸せな時間。

 見せ合う約束したから、脚本も本気で頑張る。

 補習に参加して、本当に良かった。

 はあ。

 幸せな気持ちで、ふと窓の外に目をやると作間とみのりがいた。

中庭のベンチで座って何か話しているようだ。あの二人が一緒にいるのはよくあること。付き合ってるのか付き合ってないのか分かんないけど、そこに声をかける人がいても、二人の世界を壊すような雰囲気は生まれない。

 いつもいつも、この状況を見たら「悠人~」といいながらタダシ君はみのりに近づく。二人の存在に気付いたら、すぐさま行ってしまうんだろうな。

 ドラマ見てたら、CMに切り替わったみたいに、急に現実が流れ込んできた。

 みのりのいない所で、どんなに近づけたとしても意味ないんだ。

 別にタダシ君の心がわたしに向いてくれるわけじゃないんだから。

 だんだん、欲が深くなっていくな。

 最初は一緒にいられれば、少しでも会話が出来ればいいと思ってただけなのに。

 妄想は沢山したけど、ありえない前提だった。

 最初からあり得ないから、現実を見せられて傷つくことなんかない。

 けど、こんなに近くにいられるようになって、妄想が想像に変わって、限りなく現実と地続きになってくると、もう引き返せない。

 ここで、ひょいっと、みのりの所に行く姿を見たら、傷つかないなんてできない。

 泣いちゃうかも。

 ああ、でもこのタイミングで席を立つのも、、ましてや帰ることにするのも不自然。

 タダシ君がみのりたちに気付いてないことを祈る。

 わたしは、二人に気付かなかったようにぼんやりと遠くを見つめて、ゆっくりと視線をずらした。

「渡辺さんどうかしたの? なんか、からくり人形みたいになってるよ」

「えええ」

 自分では自然だと思ってたのに変な動きだったみたい。わたしは恥ずかしくて、お前たちのせいだと言わんばかりに、作間とみのりを睨むように見てしまった。

 わたしの目線をたどったタダシ君は、二人の存在に気付いた。

 ああ、バカだわたし。

「あ、悠人とみのりちゃん」

 向こうはこちらに気付いていないようだ。

 ああ、二人のところに行っちゃうんだろうな。

 なにか、夢から覚めるような気分になった。

 自分がしかけた目覚まし時計がなってしまったんだからしかたがない。

 涙はなんとか止められそうだ。

 わたしは小さく溜め息を付いた。ペンを一度机に置いて、ちらりと外を見た。

 目線の先に二人の姿がない。

 え?

 タダシ君は横にいた。

「作間君たちの所、いかなくてよかったの?」

 わたしは恐る恐る聞いた。

「なんで?」

「え、いや、いつも、三人一緒だから」

「だって、今、スゴい面白いし。別に用ないから」

 え?

「あ、ああ」

「え、あ、やっぱり、オレ、邪魔してる? いない方がいい?」

「いやいやいや、そういう意味じゃなくて。いてくれていい。むしろいて」

「そう、よかった」

 タダシ君は極上の笑顔を向けた。

 え?

 何、何? この笑顔。

 みのりの所へ行くより、ここにいたい。

 今、スゴく面白い?

 乃璃香のそばにいたいってこと?

 それって、

 ってか、「むしろいて」とか流れで素直に言っちゃったけど、これって、好きだからいて欲しいって感じ伝わっちゃったかな。

 いやあああ、ドキドキしてきた。

 どうしようどうしよう。

「バラとの約束、だからさ」

「え?」

「きちんとやり切りたいんだオレ。自分が納得できるように」

「バラ?」

「うん」

 タダシ君は照れたように笑った。

 バラってさ、わたしのこと?

 だよね。

 さっき、渡辺さんはバラか、それはみんな納得だねって言ったもんね。

 それって、

 あれ? あれれれれ? 乃璃香、補習のおかげで大躍進じゃない?

 もうこれは。

 え? 本当に。いやあああ。どうしよう。

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