Ep.25後半
ワイスピ回。
日が沈み、夜も深まったサンフランシスコの街。
何台もの派手なピックアップトラックには、いくつもの三角コーンと、『ROAD CLOSED』と書かれた工事用の立て看板が積まれており、いくつかの交差点の前でそれらが封鎖するように設置される。
看板とコーンを立て終えたトラック達は、廃墟と化した工場の敷地に入っていく。
廃墟と化した工場の開けた場所に、何台ものカスタムカーと、それに乗ってやってきた、ヤンチャそうな若者達が集まっていた。
カスタムした車を披露する男、露出度の高い服装で踊り男達を誘惑する女、そして男女問わず、ストリートレースの主催者に、レースへの参加表明を伝え、勝利後に賞金となる参加費用を渡している者も居る。
レースは彼らが今集まっている場所がスタート&ゴール地点となり、開始後に道路に飛び出し、封鎖されたことによって出来上がった街中の道を走り回っていくことになる。
トラックに乗って看板を立てていた者達が、主催者に封鎖完了の報告に向かう。
ストリートレースの主催者は、スキンヘッドでマッチョな厳つい顔の白人男性で、白いタンクトップに黒いスラックスという服装だ。
報告が終わると、早速レースが始まる。
赤いホンダ・シビック、黒いシボレー・カマロ、紺の日産・マキシマ、銀のBMW・M3のカスタムカーが横一列に並び、フラッグを持ったビキニ姿の女性が、フラッグを勢いよく降ろして「GO!」と叫ぶと、四台は一気に加速し、白煙を撒き散らしながら道路へと向かっていく。観客達のボルテージはMAXになり、皆歓声を上げる。
レースのルートとは違う道から、愛華達の車が入っていく。カスタムカーの中に紛れ込むように群れの中へ車を停めて降車し、條一郎が居ないか辺りを見回す。
すると、丁度主催者に参加費用を手渡している條一郎の姿があった。主催者は「ガハハッ!」と笑いながら、金を受け取り終えると條一郎と熱いハグを交わした。
「生きてて嬉しいぜジョー!」
「あぁ…元気そうで良かった、”ケヴィン”…」
という会話が聞こえ、ハグを解くと、早速條一郎は例のチャレンジャーに乗り込み、スタート位置に着く。
レースの相手は、ボンネットから飛び出すスーパーチャージャーを搭載した黄色の70年型ダッジ・スーパー・ビー、カーボンのボンネットの下からとてつもない轟音を響かせる白い日産・GT-R、一見大人しい外観に見えるがプロレース仕様に近い改造が施されたワインレッドのトヨタ・86だ。
「あの86…他の車に対して不利なんじゃ…」と呟く愛華の後ろから、ダニーがその疑問に答える。
「このレース、カーブが多いみたいだから、そこまでアクセルを踏み込めない。勝算はある。それにこの国は、”遅い車を速くする”のを楽しむ連中が多い」
「へぇ~…」
そうこうしている内に、レース開始のフラッグが降ろされた。
先に飛び出したスーパー・ビーは前輪を浮かせながら勢いよく発進し、例の86も負けじと一気に先頭に躍り出る。
それからの様子は見えなくなり、やがて道路に出たのかスキール音が遠くから響き渡ってきた。
巧登は愛華の隣に立って声を掛けた。
「それで、どうします…?」
「…考えがあるの。
二人とも…幾ら持ってる?」
「…何?」とダニーはキョトンとする。
「愛華さん…まさかとは思いますけど…」
そう話していると、最初のレーサー達が戻ってきた。勝ったのはマキシマで、ゴールするやいなやドーナツターンをし始めて観客を盛り上げた。
やがて、條一郎達も戻ってきた。
最初にゴールしたのは…條一郎のチャレンジャーだった。次にまさかのあの86、そしてGT-R、最後にゴールしたのはあんなに豪快に発進したスーパー・ビーだった。
降車した條一郎は、駆け寄ってきたケヴィンと言葉を交わした。
「ヘヘっ、楽勝だったな!チャリンコと競ってる様なもんだ!んじゃ、この賞金は、お前んモンだ」
「賞金はそのまま預ける…このまま次のレースに出る」
「マジかよ…いいぜ、任せな」
すると、愛華が人ゴミを搔き分けて、二人のもとにやってきた。彼女の後ろには、不安そうな表情の巧登とダニーがついてきている。
「待って!次のレースは、私も参加する」
そう言って愛華は、三人で出しあった参加費用の札束をケヴィンに見せつける。
彼女の姿を見て、條一郎は呆れた様な顔をし、深々と溜め息を吐いた。
「…なんだこのお嬢ちゃんは?」とケヴィンは引き攣った顔で、親指で愛華を差す。
「…ちょっと、複雑な仲でね」
「何だよ、お前のオンナか?」
「いや違う…」
ケヴィンは愛華に歩み寄り、参加費用を握った彼女の手を押し返しながら言う。
「帰んな。ここは子供の遊び場じゃねぇ」
その言葉に愛華は少し苛立って、左手、特に結婚指輪がはめられた薬指を彼に見せつける。
「これでも既婚者よ…文句ある?」
「ほぉ…こりゃまた可愛い人妻だな、えぇ?ちゃんと旦那と__」
彼が何かよからぬ発言を続けそうと感じた條一郎は、「よせケヴィン…」と、彼の肩にポンと手を置いて彼を引き留める。
「先に他のレーサーの相手をしててくれ…彼女と少し話をする」
「…分かったよ。んじゃまた後でな」
ケヴィンは次のレースのため、その場を離れていった。
條一郎はチャレンジャーのボディに寄りかかり、また再び大きく溜め息を吐いた。
「…俺を追ってわざわざこの国に来たのか」
「そうよ…お願い…私達と協力して」
「断る。あの時言ったはずだ、これは俺の問題…関わろうとするな…」
「…どうしてそこまで、私達を拒むの…?ジェンセン達に恨みを持ってるのは、アナタだけじゃない…!私だって…!」
「修作のための復讐だってことは俺もわかる。
だが…君はアイツが残した妻だろ…?大人しく日本に帰れ」
愛華は力強く歯を食いしばると、大きな声で言い放った。
「…なら、私とレースして、私に勝ちなさい!」
そう訴える愛華の目は、本気だった。
「…俺とレースを?
ハッ……何言ってる?」
「私がレースに勝ったら、アナタは”私達と行動を共にしてもらう”。”アナタは私の指示に絶対”。
もし私が負けたら、私達は”アナタの下に付く”。”私達はアナタの指示に従う”…」
「それ…どっちにしても君は付いてくることに…
…いや、俺が勝って、君らに「帰れ」と言えば良いのか…」
「そういうこと…」
條一郎は黙り込んだ。もし自分が勝って彼女に帰るよう命じれば、彼女達も引き下がることだろう。
「…よし、そうしよう」
それを聞いた愛華は、食いしばる歯を緩めて、小さく口角を上げた。
後ろに居る巧登とダニーは頭を抱えていた。特にダニーはあることが気がかりな様子だ。
「あの、奥さん…せめて負けても、俺の金は返してよ?今月結構ピンチだからさ…」
* * *
レースが始まる。
愛華のG35、條一郎のチャレンジャーの他に、極限まで重量を削ぎ落した、本格的なストリートレース仕様の黄色のスバル・WRX、そして660以上の馬力を発生させるV8スーパーチャージドエンジンを搭載した、紺のボディに白いストライプが施された2013年式シェルビーGT500が参戦する。
WRXのドライバーは、男勝りな雰囲気を醸し出す、日焼けした肌が眩しい黒髪の女性で、シェルビーのドライバーは、巨大なマシンに似合うゴツい身体をした金髪の白人男性だ。
四台が並ぶと、皆それぞれ隣のドライバーの顔を伺う。
條一郎以外の誰もが、愛華を見て鼻で笑った。
「まるで、狼の群れに迷い込んだ子ウサギちゃんね…話になんない」とWRXのドライバーは吐き捨てる様に呟く。
「ハンッ…チビのアジアン女なんざ、ケツ突っついてゴミ捨て場に突っ込ませてやる」とシェルビーのドライバーは嘲笑う。
條一郎は、シートの間に設置されている、ニトロのボンベのバルブを開ける。先程のレースでは全く使わなかったようだが、愛華を是が非でも追い返したいのか、保険を掛けたようだ。
愛華も、助手席のシートのアンダーボックスに隠されたニトロのボンベのバルブを開ける。
フラッグを持ったスターターの女性が、スタートラインの横で立ち止まり、ポーズをとって、フラッグを上げる。
そして大きな声で言った。
「用意は良い?」と、レーサー四人に視線を送る。愛華含め、皆頷いてみせる。
それを確認すると、スターターの女性は、カウントを始めた。
瞬間、四人はアクセルを踏んでマフラーを吹かし始める。
「3!」
愛華は條一郎の方を見て言った。
「私に負けて泣かないでよ!」と言って微笑んで見せた。
「2!」
それを聞いた條一郎は「ハッ…」と笑いを零した。
「それはこっちのセリフだ」
「1!」
レーサーは皆、前を見据え、シフトノブに手を当てる。
「__GO!!!」
スターターの合図が終わった瞬間、四台は勢いよく発進した。
先頭に躍り出たのはWRXだった。長年培った技術が注ぎ込まれた4WDの駆動と安定した機動力が功を奏したのだろう。
チャレンジャーとシェルビーは同じ位置に着き、結果的に愛華のG35が三台の後ろに着くことになった。
四台はあっという間に道路の手前に辿り着く。
先頭を走るWRXが曲がるための減速をすると、チャレンジャーが隙を突いてアクセルを踏み込んでWRXを抜き、先頭で道路に飛び出し、右側へとドリフトしながら突き進んでいく。
G35はWRXとシェルビーに行く手を阻まれ、前に出ることができずに道路へと出た。
シェルビーのドライバーはルームミラーでG35を見る。
「ヘッ!前へ出てみな!その小さいケツ引っ叩いてやるぜ!!」
直線道路になり、四台は更にアクセルを踏み込む。いくらチューニングされたG35でも、本物のストリートレーサー達の車には追いつくのがやっとだ。だがまだニトロを使うべきではないと愛華は判断する。
やがてWRXがチャレンジャーの後ろに着き、スリップストリームで更に加速し、チャレンジャーのリアバンパーと当たる所までやってきた。
そしてハンドルを左に切り、チャレンジャーの運転席側の真横に着く。
G35はシェルビーの隙を突いて加速し、前に躍り出る。だがシェルビーはG35の真後ろについて加速し、リアバンパーを突き始める。
「ほらほらどうしたぁ?ケツが感じちゃうのかぁ?えぇ?」
愛華はG35のアクセルを更に踏み込むが、シャルビーはくっ付いてる様に離れない。
やがて左コーナーと化した十字の交差点が見えてきた。
チャレンジャーとWRXが同時にフルブレーキで減速し、ほぼ同時にハンドルを切る。WRXの車体は次第にチャレンジャーの方に膨らんでいき、ギチギチとボディを擦らせる。
先頭の二台が曲がり終えた頃、G35とシェルビーもコーナーに差し掛かる。G35が一気に減速しようとしたが、後ろのシェルビーがアクセルを踏み込んでG35を押し出す。
「ちょっと…!んもぅ!!」
愛華はG35のハンドルを全開で切り、スピンして横向きになる。運転席側の側面にシェルビーが突っ込み、そのまま交差点に近づいてく。
愛華は更にサイドブレーキを引いてアクセルを踏み込み、再びスピンしてシェルビーの前方から抜け出す。
それと同時にシェルビーが減速し、二台とも交差点に進入する。
G35は態勢を立て直すことができず、愛華はそのままギアをリバースに入れてハンドルを戻し、アクセルを踏み込みバックで突き進む。
曲がり終えた二台は再び直線道路に入る。シェルビーがG35を抜き去ると、G35は勢いよくバックターンし、即座に前進する。シフトチェンジをする愛華の手には怒りが籠っていた。
せめぎ合う先頭の二台は、片方が前に出るともう片方が更に前に出るという動きを繰り返している。
すると、封鎖されている交差点に一台の一般車が見えた。
「なんだよ…工事なんてやってねぇじゃねぇか」と、一般車を運転している中年の男性がぼやきながら、立て看板を避けて交差点に進入した。
先頭の二台は咄嗟にその車を避けて突き進んでいく。
一般車の運転手は驚愕してブレーキを踏み込んで停車した。
「な、なんだぁ!?」
そう叫んでいる内に、次の二台がやってきた。二人とも驚愕しながら、咄嗟にハンドルを切る。
G35は一般車を躱すことが出来たが、シャルビーは一般車のリアバンパーをもぎ取っていった。右側のヘッドライトが砕け散ったが、ランプには当たらずに済んだのか光り続けている。
「っぶね~…!!」とシェルビーのドライバーは安堵の息を漏らし、そのまままたアクセルを踏み込む。
愛華も「危なかった…!!」と思わず口にしながらも、アクセルを踏み込んだ。
シェルビーが一般車と接触したおかげでかなり距離が開いたものの、すぐに追いつかれる。
先頭の二台は、緩い傾斜がある橋に到達した。その傾斜で車体は浮き上がり、着地の際にフロントバンパーや車体が路面に当たり火花を散らす。
歩道にゴミ捨て場がある短い直線道路を終えると、次の右コーナーに差し掛かる。ここを曲がれば、廃工場の裏手に繋がる道になり、ゴールへの一本道となる。
減速を始めたWRXだったが、チャレンジャーはアクセルを緩め切らずそのまま突き進み、ギリギリになって減速してハンドルを切る。
ドリフトしながら右コーナーに進入し、WRXの前に躍り出る。
後ろの二台も右コーナーに差し掛かる。
シェルビーのドライバーがゴミ捨て場に気づき、先程の宣言通り、愛華をゴミ捨て場に突っ込ませてやろうと企んだ彼は、G35の横に着き、体当たりをし始めた。
二台の車体の間から激しい火花が散り、どちらのボディも凹んでいく。
もう一度…と助走をつけてハンドルを切った途端、G35は一気に減速した。
減速したG35のフロントバンパーにシェルビーのリアフェンダーが接触し、シェルビーは態勢を崩す。
シェルビーはそのまま盛大にスピンし、愛華を突っ込ませようとしたゴミ捨て場を突き抜け、ゴミまみれになりながら、シャッターの壁に衝突して停止した。
G35はそのまま右コーナーを勢いよく曲がっていった。
「っ~~くされアマがぁッ!!!」とシェルビーのドライバーは怒鳴りながら、道路に復帰する。シャッターに勢いよく接触した影響でリアバンパーが片方外れて宙ぶらりんになっている。
だがその頃には、G35は追いつけない程遠くに行ってしまっていた。
「っ…畜生!!!」
引き続き先頭をキープしていた條一郎。ひたすら直進なら、チャレンジャーのパワーを最大限引き出して他車を突き放すことができる。
楽勝と思われていた。
だが、起こり得る中で最も最悪なケースに遭遇すると気づいた。
立て看板の手前に、チャージャーのパトカーが停まっていた。車内で無線通信をしている。立て看板の件を報告しているのだろう。
「まずい…っ!!」
條一郎はブレーキを踏み込んだ。WRXのドライバーも、こんな直進道路でブレーキを踏み込むという行為に嫌な予感を感じ、遅れてブレーキを踏み込んだ。
とはいえ、そんなことをしても無駄だった。封鎖されている道路を、こんな車が走っているのだから。
パトカーに乗っている二人の警察官は二台に気づき、無線を放り投げ、サイレンを鳴らす。
「やば…っ!!」WRXのドライバーは思わずそう呟いて青ざめながら、再びアクセルを踏み込んだ。
條一郎もブレーキペダルからアクセルペダルに足を置き換えてチャレンジャーを加速させる。
二台の後を追い始めるチャージャーのパトカー。助手席の警察官が放られた無線機を取り、応援要請をしているのが見える。
二台が急減速したおかげで追いついた愛華は、二台を追うパトカーに気づき、「仕方ない…!」と呟き、アクセルを踏み込んで、チャージャーのリアバンパーを勢いよく突いた。
チャージャーは態勢を崩してスピンし、G35は回転するチャージャーを華麗に避け、二台の後を追う。
一度停止したチャージャーは態勢を立て直して、三台の後を追おうとした。
だがそこに、止まり切れなかったシェルビーが勢いよく追突した。後輪が宙を浮き、やがて地面に車体が勢いよく叩きつけられる。
「うがっ!!!」
シェルビーはエンジンがダメージを負ったようで、ボンネットの中から白煙が吹き始め、エンジンも掛からなくなった。
チャージャーに乗っていた警察官達は、首を痛めた様子を見せながらも、拳銃を抜いて、シェルビーのドライバーに銃口を向けた。
「車から降りろ!!」
「っ~~クソッ…!!!」
その光景を、三台のドライバーはルームミラーやサイドミラーで確認し、安堵の息を吐いた。だがこのままではいけない。急いでレースを終わらせて逃げなくては…。
そうと分かれば、條一郎はハンドルに取り付けられた、ニトロの発射ボタンに指を置いた。
前方に障害物などが無いのを確認すると、そのボタンを押した。
倍以上のパワーが放たれ、一瞬タイヤがスピンして白煙を上げる。
そして一気にWRXを突き放した。WRXのドライバーは更にアクセルを踏み込むが、どう足掻いても、もうチャレンジャーに追いつくことは出来ない。
更に愛華も、これ以上温存はできないと判断し、インパネに取り付けられた、ニトロの発射装置の一つであるトグルスイッチを入れ、ハンドルに付いた本命の赤いボタンを押す。
G35のマフラーから炎が噴き出し、一気に加速していく。
WRXも追い抜き、次第にチャレンジャーとの距離が縮まっていく。
そして遂に、G35がチャレンジャーの横に着いた。
條一郎はチャレンジャーを更に加速させるが、愛華も負けじとG35のアクセルを踏み込む。
互いのニトロが尽きても、二台のせめぎ合いは終わらない。
チャレンジャーはまだもう一本ニトロが残っているが、バルブを開けていないためすぐには発射できない。それにもうすぐゴール直前の最後の右コーナーだ。
やがて目印として停車しているピックアップトラックが見えてきた。二台は減速し、ほぼ同時にハンドルを切る。
勢いよく右コーナーを曲がっていき、最後の直線へと入る。このまま突き進めばゴールだ。遅れて曲がってきたWRXなどもはや追いつけない。
二台は限界までアクセルを踏み込む。
ケヴィン達の方からも、二台の様子が見えるほど近づいてきた。
「どっちだどっちだ!?」
観客達はドキドキした様子で見つめる。
このままアクセルを踏み込んだままでは、止まり切れずに壁などに激突する可能性がある。どこで減速するかが勝負の決め手になる。
ここか…いやまだだ…二人は思考を巡らせ、タイミングを見計らう。
そして、減速し始めたタイミングは同じだった。
同時にフルブレーキを掛け、ゴールを示す白いラインを突破した。
ゴールした瞬間、カメラのフラッシュが焚かれたことに気づく。
二台が停車した途端、観客達は歓声を上げた。
遅れて到着したWRXは、悔しそうにハンドルを叩いたが、すぐに気を取り直し、そのまま走り去っていった。
何故彼女がこのまま走り去るのか理由を知らないケヴィン達は、困惑しながら彼女を見送った。
條一郎は急いでチャレンジャーから降車し、彼に駆け寄った。
「どっちが先に着いた!!?」
「いや分らん…でも写真を撮った。今に分かる」
「今じゃ遅い…!!すぐに警察が来る!!早く逃げろ!!」
「何ぃっ!!?わ、わかった!!」
ケヴィンは観客やレーサー達に「皆逃げろ!!警察が来る!!!」と叫んだ。その瞬間、皆大慌てで車に乗り込み、その場から逃げ始めた。
條一郎もチャレンジャーに再び乗り込む。
一度、G35に乗る愛華の方を見て、右手で「来い」とジェスチャーして見せた。愛華は頷き、走り去ろうとする條一郎のチャレンジャーの後に続き始めた。
巧登とダニーも乗ってきたグランダムに乗り込み、二台の後を追い始めた。
何台ものカスタムカーの群れに紛れながら道路に出ると、向こうからパトカーの大群が近づいていることに気づく。
條一郎はひとまずドミニクのガレージに向かうことにした。
だが向かった道路では、立て看板の代わりに警察のバリケードが設置され、クラウンビクトリアやトーラスのパトカーも道を塞いでいた。
何台ものカスタムカーがJターンして来た道を戻る中、條一郎は歩道に乗り上げ、そのまま豪快にバリケードを交わしていった。愛華達もそれに続いてバリケードを通り抜けていく。
道を塞いでいたパトカーがバックターンして三台を追い始める。
パトカーの先頭を走るトーラスは、最後尾のグランダムの横に着き、体当たりを始める。
「ヤバイヤバイヤバイッ!!」
泣く様に叫ぶダニーの横で、巧登は必死にアクセルを踏み込む。
「あぁもう…!こんなことになるならトランザムに乗ってくればよかった…!」
交差点を通り過ぎていくにつれ、パトカーの台数が増えていく。既に十台は集まっていた。中にはSUVのパトカーも居る。車重のあるこのタイプのパトカーに押されたらひとたまりもない。
「肝心な時には出てこないくせにこういう時は仕事しやがってぇ~~!!」
ダニーはそう叫びながら、グランダムのダッシュボードに隠し入れてあった発煙弾を取り出し、ピンを抜き、煙が出始めた途端外に放り投げた。
大量の濃い煙がパトカーの前方を埋め、煙に包まれたパトカーが停車し、そこに次々と後続のパトカーが追突する。だがそれでもまだまだ追ってくるパトカーは残っている。
そして、深夜とはいえ街の中心部に近づいている故か、一般車の数も増えてきた。
チャレンジャーとG35が赤信号を突破すると、往来していた車が急停車して追突され、追ってくるパトカーが止まり切れずに衝突する。衝突したパトカーは宙を舞い、地面に叩きつけられる。
そこに巧登のグランダムがやってきて、巧登は咄嗟にハンドルを切るが、間に合わずパトカーのリア部分に接触した。パトカーは横向きのまま回転し、更に続いてやってきたパトカーや一般車に突っ込まれた。幸い、車内に居た警察官達は無傷で済んだようだ。
グランダムはまだ走れるが、薄っすらと煙が上がり始めている。
「ヤバイ…ッ!!」
チャレンジャーとG35の前方にパトカーが道を塞ぐようにスピンして停車し、二台は近くにあった路地に入る。そのまま突き進んでいくと、路肩に何台ものバンが停められており、チャレンジャーではギリギリ通れるほどの細さになっていた。バンの車体にチャレンジャーのサイドミラーが接触して外れ、後続のG35のボディに砕け散ったチャレンジャーのミラーが飛び散る。
グランダムも路地に入り、先程からずっと横についていたトーラスは、曲がり切れず、道を塞いでいたパトカーに突っ込んだ。
残ったパトカーが路地に入り三台を追い続ける。
逃げ回る三台の前に、突然、あの黄色のWRXが三台の前にドリフトしながら現れた。
運転席側の窓が開いており、彼女が左手で「こっち」とジェスチャーしているのが分かる。
三台はWRXについていき、やがて立体駐車場に進入した。
駐車場は迷路の様に入り組んでおり、パトカーを撒くには最適だった。しかも、パトカーの先頭を走っていたクラウンビクトリアの手前に、バックで枠から出ようとしていた一般車が現れ、クラウンビクトリアはその車に激突して停車し、その後続から次々とパトカーが追突し、道を塞いだ。
四台を追うパトカーは居なくなり、彼女達はそのまま、ドミニクのガレージへと向かっていった。
やりたいことがまた溜まってきたのでまたしばらく休載します。




