Ep.25前半
アメリカ編開幕。
深夜のサンフランシスコの街。
華やかにライトアップされたゴールデンゲートブリッジに、二台の車が走っている。
先を走るのは、97年式のシルバーのフォード・サンダーバード。車内には三人の黒いスーツ姿の男がおり、運転席側の窓ガラスが割られハンドルの下にコードが剥き出しになっており、このサンダーバードが彼らに強奪された物だと分かる。
それを追う車は、弾痕があちこちに目立ち、窓ガラスやライトのレンズもヒビが入っている、少し前までは綺麗な状態だったと思われる、黄色いボディに黒いストライプが入った、2008年式のフォード・マスタングだ。
運転しているのは、細マッチョな体格の黒人男性で、スポーツ刈りの短い髪に、鼻の下には髭を蓄え、細いフレームのサングラスを掛けている。
ドリンクホルダーにスマホが入れられており、スピーカーから低い声音の中年男性の声が流れている。ピース・メイカーアメリカ支部、SIAのリーダー、トミーだ。
《”ダニー”、いつまで手こずってる!?お前がいつまでも連中を捕獲できないせいで、サンフランシスコの街がパニックになってる!!》
ダニーと呼ばれた黒人男性は、スマホを片手で取り上げ、陽気な声音で話す。
「大袈裟だよボス~!確かにトラックが横転して道塞いじゃったけどあれは__」
《言い訳は不要だ!早くとっ捕まえろ!》
「はいはい…」
ダニーはマスタングのアクセルを踏み込み、逃走を続けるサンダーバードに急接近する。
リアバンパーを突き、路肩に無理矢理押し出そうとする。
すると、サンダーバードのリアウィンドウが車内から蹴り破られ、車内から一人の男が6発式リボルバーを構え、銃口をダニーに向けて発砲してきた。弾丸はマスタングのフロントウィンドウを突き破り、シートに着弾する。
ダニーはハンドルを切ってマスタングをサンダーバードの隣で並走させ、横から体当たりをし、路肩に押し付ける。
押し出されたサンダーバードは路肩の壁に辺り激しく火花を散らす。
すると、二台の前方に、一台のパトカーが見えてきた。パトカーに乗っている二人はルームミラーで後方の異変に気づき、サイレンを鳴らし始め、フルブレーキを掛けて白煙を上げながら斜め向きに急停車する。
それに気づいたダニーはブレーキを踏み込み、ダニーに気を取られて反応が遅れたサンダーバードの運転手は、ブレーキを踏み込んでも間に合わず、道を塞いだパトカーのフロント部分に突っ込んで乗り上げて横転し、路上に火花どガラス片を散らしながら滑っていった。
パトカーの乗員二人の内一人は停止したサンダーバードに駆け寄り、もう一人はダニーの停止を待った。
だがダニーは、マスタングを停止させると、「やっべ!」と、マスタングをバックし始め、彼を待っていた警察官は「フリーズ!フリーズ!」と叫びながら、支給品のグロック19を取り出し、逃走を図るダニーのマスタングのタイヤに向けて発砲した。
ダニーのマスタングはバックターンしようとしたが、警察官に左後輪のタイヤを撃ち抜かれパンクし、アクセル全開だったこともあり制御ができなくなり、そのまま一回転して路肩の壁にぶつかった。
ダニーはスマホを手に取ってマスタングから急いで降り、歩道をダッシュしかながら逃げ始めた。
追おうとした警察官だったが、上着に付けた無線機に通信が入った。
《待て、彼は追うな。そのまま逃がしてやれ》
「し、しかし…」
《いいんだ。それより潰れた車から男達を引きずり出せ》
そう命令された警察官は、大破したサンダーバードに駆け寄っていった。
ダニーは橋を渡り終え、橋の下にある通路のベンチで腰を落ち着かせ、呼吸を整えた。
ゴールデンゲートブリッジには警察のヘリや救急車が到着していた。
マスタングから降りる前に手に取ったスマホから、またトミーの声が流れている。
《逃げ切ったか?》
「あぁ…なんか急に追われなくなった。アンタなんかした?」
《こっちの根回しも大変なんだから、スムーズな仕事を心掛けろ》
「はいはい…」
身体の落ち着きが戻ってきたダニーは、トミーと通話しつつベンチから立ち上がり、街中へと歩き始めた。
《それとダニー、次の任務がある》
「はぁ~~!?俺もうクタクタだぜボス!!」
《落ち着け…。
朝になったら、空港に行って日本支部の二人を迎えに行け》
「日本支部?なんで?」
《急な要件ができたとかでな…とにかく、二人を乗せて、そっちの拠点に送り届けておけ》
「へいへい…。
んでその日本の人らはどんな人?」
《一人は君も会ったことがあるタクト。
もう一人は今現在日本支部のエースである女性、マナカ…”ハヤト・シンカイ”の奥さんだ》
その言葉を聞いて、ダニーは立ち止まり、我が耳を疑った。
「…ハヤトの?!」
《そうだ…”シュウサク・アマハネ”と名乗っていたから、間違えないようにな。以上》
トミーは通話を切り、ダニーは黙り込んだ。
「ハヤト…ハッ、懐かしい奴だ…」
* * *
アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコの国際空港。
朝日が差し込む窓際の通路を、條一郎は歩いていた。羽田空港での搭乗前に着替えたのか、返り血の付いたスーツではなく、テキトーに買ったであろう地味な服装をしている。
手続きなどを済ませて正面の出入口を出て、徒歩である場所に向かい始めた。
街中に立つハイウェイの高架橋の下に、一軒の自動車整備工場がある。辺りには大量の廃車が積み上げられており、敷地の外からは建物の様子が分らないようになっている。
整備工場の前で、明らかに堅気の人間では無さそうな、屈強な男が二人立っている。こんな朝から、古びたバーベキューグリルでチキンやソーセージを焼きながら、瓶のビールを豪快に飲んで談笑していた。
條一郎は彼らに近づくと、男達は談笑を止め、突然やってきた謎の男を睨み、瓶を握ったまま彼に近づいた。
「チャイニーズが一体何の用だ?」
「チャイニーズじゃない、ジャパニーズだ」
「同じだろ、クソアジアのクソ人種共め」
男はそういうと、近くに置かれている廃車のボディに瓶を当てて瓶の下半分を割り、鋭利になった瓶の先を條一郎の顔に向けた。
「帰んな。ここは他所もんの来る店じゃねぇ」
それを聞くと、條一郎は深々と溜め息を吐くと、瓶を向けてくる男の腕を掴み、思い切り振り回し、男を廃車の壁に叩きつけた。叩きつけられた男はそのまま地面に落下するが、先程自分が割った瓶の破片の真上に落ち、後頭部や背中に瓶の破片がめり込んだ。
もう一人の男が條一郎に襲い掛かるが、條一郎は彼の背後に回り込み、彼の服の襟を掴み、そのままバーベキューコンロまで引っ張り、彼の顔面の半分を横から掴み、肉を焼き続けている熱々の網の上に彼の頭を押し付けた。男は悲鳴を上げ、顔の半分が十分焼き上がると、條一郎は彼をコンロから離して、そのまま脇腹に鋭い蹴りを入れ、廃車の壁に叩きつけた。
彼らを倒し終えた條一郎は、整備工場の中に入る。
何台もの車が整備やカスタムの作業を行われていた様子だが、先程の騒ぎを聞きつけたのか、作業員と思わしき一人の男は、レンチを持ち、條一郎を警戒しながら立っていた。
「何だテメェ…!!何の用だ…!?」
「車が欲しいだけだ」と條一郎は冷静な口ぶりで答える。
「ふざけんなよ…!!車のディーラーならこっから歩いて10分もかかんねぇよ!!」
條一郎は怯える彼に歩み寄り、彼の胸倉を掴み、彼の眼を真っ直ぐ睨みながら言った。
「無駄な時間を取らせるな…俺は長い間虫の居所が悪くてキレやすいんだ…」
「ふ…ふ、ふざけんじゃねぇ__」
彼はレンチを條一郎にぶつけようとしたが、條一郎は咄嗟にレンチを受け止めて彼の手から引き抜き、彼の顔面をレンチで殴りつけた。
少し経つと、整備工場の敷地から、一台の車がアクセル全開で勢いよく道路に飛び出した。マットブラックのボディに、二本のニトロタンクを装備した、ダッジ・チャレンジャーSRTヘルキャットだ。
運転している條一郎は、ヘルキャットのとてつもない排気音を響かせながら、ロサンゼルスの方角へと向かい始めた。
* * *
少し遅れて、サンフランシスコに到着した愛華達。
ウォーレンと澪が愛華と巧登の見送りをするためロビーに居た。
「じゃ、俺らはここで」
「えぇ…ありがとう、ウォーレン」
愛華はそう言って、ウォーレンと握手を交わした。
「…西門、追いつくといいな」
「…そうね」
二組はそれぞれ別れを済ませ、各々の目的地へと向かい始めた。
空港の外に出た愛華と巧登は、辺りを見回す。
「敷さんの話だと、迎えが来るはずなんですが…」
すると、巧登の後ろから、ある人物の声が聞こえてきた。
「よぉ!タクト~!待ってたぜ~!」と、陽気なデカい声で喋るダニーだ。小さくステップを踏みながらこちらに向かってきた。
「ダニーさん!お久しぶりです!ダニーさんが送迎ですか?」
「そっ!」
やってきたダニーに、巧登は握手をし、ダニーからの優しいハグを受け入れる。
それを終えて巧登はダニーを愛華に紹介する。
「愛華さん、この人は”ダニー・アンバート”。サンフランシスコ支部のメンバーです」
「よろしくお願いします…」
愛華と向かい合うダニーは、先程の陽気な雰囲気を落ち着かせて、彼女を見つめた。
「…あ~…えっと、”ハヤト”…んじゃなかった…シュウサクの、奥さんっては聞いてる。
俺もアイツとは何度か仕事をした。だからー…まぁ気にせず話しかけてくれ、アイツとの思い出話を聞きたくなったりしたらさ!」
「…えぇ、分かったわ」
三人は駐車場に行き、ダニーの車を見つける。黒いジープ・グランドチェロキーだ。
運転席にダニー、後部座席に愛華と巧登が乗り込み、ダニーはひとまずサンフランシスコ支部のビルへと向かい始めた。
「アメリカ支部って、拠点が一つってわけじゃないのね?」
「えぇ。なんたって広いですからねぇ…州の一つ一つに拠点が置かれています。とはいっても、アメリカの本部であるワシントン支部以外は、わりと小規模ですけど…」
後部座席の二人がそう話していると、運転中のダニーが話しかけてきた。
「ところで、まだ詳しい話を聞いてないんだけど…何の用でアメリカに来たんだ?」
「えっと…西門條一郎って覚えてます?」と巧登は尋ねる。
「ニシカド…?あ~…。ソイツ、シュウサクが殺したんじゃなかったか?」
「実は生きてて…今ジェンセンを追ってアメリカに向かったんです。もうここに着いて、別の街に向かっているかも…」
「そうか…じゃあ急がないとな」
ダニーはグランドチェロキーのアクセルを、速度違反にならない程度に加速させた。
しばらく街を走っていると、ビル群の中に入り、黒いガラス張りの、他のビルより階数が低いビルの、地下駐車場に入っていく。
テキトーな場所で車を停めて降車し、ビルに入り、エレベーターで上階部へと向かう。
その間にも、ダニーは西門についての詳しい話を二人から聞いた。彼が陥った境遇に、ダニーは心を痛めた様子だ。
「マジか…そりゃジェンセンを殺したくなるな…」
「とはいえ、いくら強いっていう彼一人じゃ、ジェンセンに触れることすら怪しい…私達が手を貸さないと…」
「でも敵対関係だったんだろ?」
「死んだことになってジェンセンにも追われてる身…もはや敵味方は関係ないと思っていた方が…」
「…とにかく、ここで使う車と銃は支援する。
ただし約束してくれ…」
エレベーターが止まり、三人が降りると、ダニーは二人に振り向いて、真剣な表情と眼差しで言った。
「シュウサクの二の舞だけはならないでくれ…もし二人に何かあったら、俺があの世に行った時にシュウサクに合わす顔が無くなる」
その言葉を聞いた愛華は、ある人物が脳裏を過った。碧柳だ。
__「ごめん…っ!ごめん…っ!アイツを…助けてやれなくて…っ!ごめん…っ」
酷く後悔し、荒んだ彼の姿は今でもハッキリと覚えている。ダニーも、彼の様になってしまうかもしれない…。
「…精進します」
「…よし、分かった。
んじゃ、ついてきな」
ダニーに案内されながらしばらく歩いていくと、ある部屋に通される。
ガレージの様な広い部屋で、一部の壁際には銃などの武器を保管しているロッカーなどが置かれている。
ダニーは銃器を収めたロッカーを開けながら二人に尋ねた。
「そういや、二人は銃はどうした?」
「普段使ってる拳銃だけは持ってきてます。できればライフルとかショットガンが欲しいですね…」
「あれ?ピース・メイカーの所有機で来たの?」
「あ、えっとそれは…」
スパイダー・ウェブのプライベートジェットで来たとは到底言えたものではない…ここは誤魔化すしかない。
「まぁいいや…んじゃ、MP5に、HK416、モスバーグM500とか…好きなの持ってってくれ。
で、車なんだが…こっちも好きに使っていい」
ダニーはロッカーを離れ、部屋に収められている車を二人に見せる。
そして一台ずつ、指を差しながら紹介し始めた。
「まずはこれだ」と指を差した先には、程よくカスタムされた赤いクーペが置かれていた。派手すぎないエアロ一式に、ボディカラーと同色のダクト付きカーボンボンネット、高すぎない黒いカーボンのGTウィングなどが装着されている。
「インフィニティ・G35クーペ!この国じゃ日本車のカスタムも人気だから、そこまで目立たない。それでいて3.7リッターV6エンジンをストリートレース用にチューンして、ニトロのボンベも付けてある」
次に隣に置かれている黒いボディに金色の不死鳥のペイントが施されたマッスルカーを指差す。
「こっちは77年式のポンティアック・ファイヤーバード トランザム!イーグルマスクと不死鳥のペイントが最高にイカしてる!気分はバンディットだな!」
バンディットが何なのか知らない二人は頭に「?」を浮かべ、ダニーはそれを気にせず次の車を紹介し始めた。
それからしばらく、置かれている車の紹介を一台一台され、聞かされていた二人は軽く疲弊しながらも、それぞれが使う車を決めた。
愛華はG35クーペ、巧登は純正の外装を防弾仕様にした銀色の05年式ポンティアック・グランダムを選んだ。
「そういえば、アメリカって州によっては16歳から免許取れるみたいだけど、巧登君は持ってるの?」
「一応持ってますけど、18歳からの本免の偽装品も持ってます。16歳から免許取れるとはいえ、18歳までは同伴者が必要ですから…ダニーさんが良ければ、これからしばらく同伴してもらえますか?」
「いいぜ!よろこんで!」
すると、部屋に一人の若い白人男性が入室してきた。
「ダニー、ちょっといいか?あぁ、二人も来てくれ」
三人は同じ階にあるモニタールームに案内される。横浜支部より広く感じるが、これでもワシントン支部より小規模というのだから、ワシントン支部はどれだけ広いのだろうか…。
白人男性に案内された先には、一つのモニターがあり、ある場所の監視カメラを表示している。
「さっき空港から10キロ圏内にある、ギャングが経営している車の整備工場が襲撃された」
「空港から10キロ…あぁ、差別主義者の溜まり場か」
「そ、あの悪名高き、ね…。
んで、近くの防犯カメラによると、襲撃者は一人。それがな…この男だ」
白人男性はモニターの下に置かれているキーボードを押し、その防犯カメラの映像を表示する。
そこには、空港から歩いて整備工場に入る様子と、チャレンジャーを奪って逃走する様子の條一郎の姿があった。
「西門さん…」
「間違いないですね…」
「君達はコイツを追って来たのか?」と白人男性は尋ねる。
「えぇ…。
この男は今どこに?」
「ハイウェイに乗ってロサンゼルス方面に向かっていったが、一度ハイウェイを降りてまだサンフランシスコ圏内に居る様だ」
「どこで降りたんです?」
郊外の田舎道に繋がる場所だ」
そう言って白人男性は地図を表示し指差す。
「この辺りには何が?」
「さぁ…」
しばらく考え込んだ愛華は、ひとまずその場所に向かうことにした。
「分かりました、ありがとうございます。
巧登君、ちょっと行ってみましょう」
「えっ?あ、はい…」
「んじゃ、俺も行くわ」
愛華達三人はモニタールームを出て、先程ダニーに紹介された車に乗り込み、車両用の大型エレベーターを使って車に乗ったまま地上に降りて行った。
* * *
ハイウェイを降りた條一郎が向かった先は、山の麓にある田舎道をひたすら走った場所に建つ、とある一軒の整備工場だ。先程チャレンジャーを奪った先の、ギャングが営業していた整備工場とは違い、中を見えなくする壁などはなく、見た目も綺麗だ。
シャッターの前にチャレンジャーを停めて降車し、整備工場の中に足を踏み入れる。
整備工場の中では、油に汚れた紺色のツナギを着、黒ずんだ軍手を付けた一人の黒人男性が、客の物と思われるビュイック・グランドナショナルのボンネットを開けてエンジンを整備をしていた。男性は細身で、少し背が低めではあるが、整備の手つきは丁寧かつ素早いのが見える。
「…相変わらずいい腕だ、”ドミニク”」
條一郎が彼にそう言うと、ドミニクと呼ばれた男は作業の手を止め、エンジンルームから顔を上げる。
そして條一郎の顔を見るなり、驚いた様に目を見開いた。
「…”ジョー”…お前、死んだんじゃなかったか?」
「フッ…地獄から這い上がってきたのさ」
ドミニクは整備の道具と外した軍手を、近くにある赤いツールカートに置き、條一郎に歩み寄り、彼とハグをした。
「久しぶりだジョー…」
「あぁ…久しぶり」
ハグを終えると、彼は條一郎の顔を見て質問を始めた。
「お前今までどこに行ってた?」
「日本の隠れ家を襲われて、ジェンセンを追いながらずっと隠れてた…ここ一年は、自分がどこに居たかも把握してない…」
「そうか…。
まさか、お前がアメリカに来たのも、ジェンセンを追うためか?」
「あぁ…ドミニク、手を貸してくれ」
「…ジョー、ジェンセンを相手するのは、子犬がライオンに突撃するのと同じくらい無茶だ。
近づこうとしただけで、ライオンの手下に囲まれてお前は死ぬ」
「それを承知の上でやってるんだ…このまま何もしないで逃げ続けて、野垂れ死ぬ気は毛頭ない」
「だがな…」
「ドミニク…妻が殺された。お腹に居た子供も、きっとアイツらに攫われた。親友も、隠居中にしてた仕事の同僚も、皆殺された…お前は同じことがあっても、ただ黙っていられるのか?」
それを聞いたドミニクは黙り込んだ。彼も、そんなことを自分がされたら居ても立っても居られないだろう。
「…分かった。手を貸そう。
ただし”条件”がある」
「…何だ?」
ドミニクはそう聞かれると、整備工場を見渡すよう両手を広げてジェスチャーする。
「見ろ、この工場を。
働いてるのは俺一人。人を雇えばいい?そう簡単な話じゃない」
「…金か?」
「ご名答。長い間、資金難が続いてる…最近の客は、昔馴染みしか来ない。それも、だんだん数を減らしてきてる…このビュイックだって、二カ月ぶりの仕事だ」
「…分かった。金を集めればいいんだな。何をすれば稼げる?」
「お前のドライビングスキルを借りたい。
今夜、街の方でストリートレースがある。そのレースで勝てば…賞金は大体、総額3万ドルになる」
「なるほど…」
「お前車は?」
「ギャングから貰ったヘルキャットがある。ニトロも積んであるから、あれでレースする」
「ギャングねぇ…あとで厄介なことにならないと良いな」
* * *
條一郎が去って少し経った頃。整備工場に二台の車がやってきた。愛華達だ。
ダニーは何か納得した様な顔で笑って見せた。
「ハハ~ン…そういうことか。ニシカドはドミニクと知り合いなんだなあ」
「知ってるの?」
「今乗ってきたこの車も、ここでカスタムした」
「ということは、中立の立場で居るってことね…今の私達と同じ」
工場の中に入ると、ドミニクがグランドナショナルの整備を終え、エンジンを掛けていた。良好な音だと分かると降車し、道具の片づけに取り掛かろうとした。
だが三人に気づいて足を止めた。
「よぉドミニク!」
「ダニー…」ドミニクは複雑そうな顔をした。
「…どうした?暗い顔しちゃって~」とダニーはドミニクの肩をポンポン叩いた。
「…何の用だ?」
「あ~…日本人の男がここに来なかったか?」
「…ジョウイチローのことか。来たぞ。もう出てったがな」
「やっぱりね…。
どこに行った?教えてくれ」
ドミニクはダニーの後ろに居る二人に視線を向けた。
「…アイツに何の用だ?」
愛華がダニーの隣に立ち、その質問に答える。
「彼は今、ジェンセン・ランカスターを追ってる…知ってる?」
「もちろん。その話もアイツはしたぞ」
「彼一人じゃ、ジェンセンを倒せない…手を貸してあげたいの…」
「頼むよドミニク…せっかく日本から来たんだぜこの二人は…教えてくれ」と、ダニーはドミニクの目を真剣な眼差しで見つめて訴えかける。
「……今日街でストリートレースがある。俺は、アイツに手を貸す代わりに、そのレースで勝って賞金を持ってくるように行った」
「ストリートレース?」
「賞金って…いくらだ?」
「総額大体3万ドルだ」
「3万ドル!!?」と、三人は驚愕した。
「えっと…日本円にすると大体3百万円…今日のレートを考えると…4百万は行くのか…!?」と巧登はブツブツと呟きながら計算する。
「どうする?」とダニーは愛華に尋ねる。
愛華はすぐに答えた。
「彼と少しでも話し合いがしたい…行きましょう」




