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Ep.24前半

 横浜駅周辺にある、大型のショッピングモール。

 数年前に、元店員の男が企て実行に移された爆弾事件に遭った建物だが、長い改修工事を終えて少し前に営業を再開している。

 最上階である屋上には、野外の広場があり、休憩スペースであるベンチや子供用の遊具などが設置されている。

 広場の出入口の横には、アイスクリームやたい焼きなどの軽食を販売している店舗があり、秋のシーズンのため期間限定でさつまいも風味のアイスなどが注文できる。

 そのアイスクリームを食べながら、休憩スペースのベンチに座っている四人の団体が居る。

 普段の通学の時よりも可愛らしくオシャレなコーデを着こなしたかな、普段と変わり映えしない服装だがかなと隣同士で座れることに心の中の高ぶりを多少堪え切れていない鈴、その二人の向かいに、落ち着いた雰囲気の服装をした愛華と巧登が座っている。

 先のコブラ部隊の一件で、かなのお陰で任務を円滑に進行することができた。そのお礼として、愛華がアイスクリームを奢っているのだ。本来なら、アイスで済む程小さなことではないのだが、何も知らないかなにはこれくらいのことしかできない。

 鈴も先の件で色々助けてもらった。そのお礼も兼ねて彼も連れてきている。

 巧登は成り行きで同行しているが、久しぶりの休日を日本で過ごすという名目ならばうってつけのプランだろう。

「美味しいね鈴くん!」と、かなは満面の笑顔で鈴に言う。鈴は照れ臭そうに小さく頷きながら「うん…」と答えた。

 微笑ましい二人の様子を見て愛華と巧登も微笑んだ。


 アイスを食べ終え、下の階にある店舗を四人で周り始めた。愛華は彼女達に何か欲しい物があれば、お礼の一環として買ってあげるつもりでいる。

 モールを見て回っていると、かなは歩きながら愛華の方を向いてある話を始めた。

「すごいね愛華お姉ちゃん…ここ、あんなことがあったのにこんなにキレイになって…」

「そうね~…爆発でほとんど壊れたから、全部建て替えたみたいな感じだから…」

「愛華さんとかなちゃんが出会ったのもその時でしたっけ?」と巧登が尋ねる。

「そっ。あの時偶然__」


 すると、辺りを見回していた愛華の視界に、少し離れた場所で歩いている不審な男の姿が映り込んだ。

 黒い薄毛で色黒の肌をした、ゴツい体格の、恐らく日本人ではない顔つきの、背の高い男。季節外れの薄手の半袖シャツを着ており、両手を黒いスラックスのポケットに入れている。

 それだけなら不審に思えないが、愛華が注目したのは、シャツの下から首に露出している刺青、更に、尾行が居ると思っているのか時折露骨に後ろに振り向いたりしているのだ。

「…?」

 愛華は巧登の肩に手を当てて引き留める。

「巧登君…ちょっとかなちゃん達をお願い…妙な男が居る…」

「妙な男…?分かりました…後で合流しましょう」

 愛華は三人と別行動を始め、男の方に向かっていく。

 かなは「どうしたんだろう?」と首を傾げ、鈴は(仕事かな…?)と感じた。

 男を尾行し始めた愛華。やはり時折男が後ろを確認するが、愛華が尾行だとは気づいていない様だ。

 しばらく尾行し続けていくと、二階に降り立つ。

 男は立体駐車場に向かうようだ。

 尾行を続けようとした愛華だったが、人気が少なくなり、尾行がバレるリスクが高くなり、様子を伺おうと立ち止まった。


 すると、後ろを歩いていた誰かが、止まり切れずに愛華の背中とぶつかった。

「わっ!?す、すみません…」

 振り向いて謝罪する愛華だったが、ぶつかった人は、「いや…大丈夫…」と覇気のない声で言った。

 ぶつかった相手は男で、ボサッとした長い後ろ髪と口の周りに添える濃い髭が特徴の、背の高い瘦せ型の日本人だ。どこかやつれた様な雰囲気を醸し出している。クリーニングをしていないような皺の多い黒いスーツを着ており、ワイシャツの上から締められている黒いネクタイは緩められてネクタイピンも付けられていない。

 男は何も発さず、愛華を一瞬だけ、一瞥した。

 だが、彼女のあることに気づいて、一瞥ではなく凝視することになった。

 彼の視線の先は、愛華が左手の薬指にはめている、結婚指輪…。

 その指輪を見た男は、光を失っている目を見開いて、愛華の顔に視線を移した。

「君…”駿斗”の…?」

 その言葉を聞いて、愛華は驚愕した。

 夫のことを知っている人間なのか?と。

「夫を…知ってるんですか…!?」

 その愛華の言葉を聞いて、男は一瞬黙り込んだ。しかし、愛華が尾行していた男が駐車場に足を踏み入れたことに気づき、静かに冷静さを取り戻し、愛華を避けて男の後を追い始めた。

 すれ違いざまに男は「…すまない」と呟き、そのまま駐車場へと向かっていった。

 一体何のことかと考えたが、ハッと我に返り、駐車場に駆け込んだ。

 だが、愛華が尾行していた男は既に車に乗り込んで発進していた。黒塗りのボルボ・V70だ。

 愛華の横を通り過ぎ、彼女は走り去ろうとするV70を目で追った。

 すると、更に後ろから、先程ぶつかった男が運転する車が通り過ぎ、V70を追う様に走っていった。年季の入った、少し色褪せたワインレッドのコルベット スティングレーだ。

 走り去っていく二台を、愛華は黙って見つめることしかできなかった。



 * * *



 夕方。かなと鈴をそれぞれ親の元に帰宅させ、愛華はピースメイカー日本支部のビルへと向かっていた。

 その道中、助手席に座っている巧登に、先程の男について話をした。

「そのぶつかってきた男…可能性があるとすれば…いやでも…」

「誰なの?」

「えっと…”西門條一郎”って、殺し屋の一人です…けど、三年前に修作さんを襲って返り討ちに遭って死んだはず…」

「…修作さんを殺そうとしたの?」

「あの時、コブラ部隊の陰がちらつき始めた頃で…西門は、ジェンセンに雇われてたんです…」

「ジェンセン…」

 ジェンセン・ランカスター…コブラ部隊のリーダーとされる男。愛華の復讐の対象の一人でもある。先の一件では、直接姿を現すことはなかった。

「当時のPM-9と戦う上で、修作さんの存在は彼らにとって非常に厄介でしたからね…同じくらい戦闘力の高い西門を使って始末させたかったんでしょう…」

「返り討ちに遭って死んだはずなのに、あの場に居た…どういうことかしら?」

「…修作さんが、西門を見逃したとしか考えられませんね…裏取引した…とは思えないし…」

「…とにかく、本部で情報を集めましょう」



 * * *



 その一方…。

 人気のないとある峠道の中間地点の道路で、愛華が尾行した男が運転していたV70が、無残な姿に変わり果てて横転していた。

 手前には、條一郎が運転していたコルベットが停車している。カーチェイスで激しく衝突しあったのか、ボディ一体が傷や凹みだらけになり、片方のリトラクタブルヘッドライトが欠落している。

 大破したV70の運転席から、血塗れの男が、條一郎に引きずられて出てくる。

 身体に刺さったガラス片に苦しむ彼に、條一郎は容赦なく腹に蹴りを入れる。

 悶え苦しむ男の隣で條一郎はしゃがみ、ただでさえ薄い髪の毛を千切れんばかりに引っ張って持ち上げ、顔を覗き込む。

「聞きたいことが山ほどある…。

 ジェンセンはどこだ?」

 男は條一郎の顔に唾を吹きかけ、苦しそうな声を漏らしながらも彼を嘲笑う。

「ケッ…死人に話すことなんか何もねぇ…ッ!!」

 條一郎は男の頭部を地面に叩きつけ、脚に刺さっているガラス片に手を当て、自分の手を切らないように男の脚にガラス片を押し込んだ。男は情けない悲鳴を上げる。

「ガアァァア…ッ!!!」

「今お前に与えられた選択肢は二つだ…。

 俺の知りたいことに全部正確に答えるか、このまま野垂れ死ぬか…どうする?」

「わっ、分かった…ッ!!喋る…喋るからガラスを抜いてくれ…ッ!!!」

 仕方ない…と思いながら溜め息を吐き、條一郎は彼の脚に刺したガラス片を引き抜き、辺りに投げ捨てる。

「…で、ジェンセンはどこだ?」

「俺も知らない…っ!!俺は組織の中でも下っ端だ…っ!!

 横浜(ハマ)にある組織の潜伏拠点に行けば、知ってる奴に会える…っ!!」

「…どこだ?」

 條一郎は男に場所を聞き、頭の中に入れる。

「最後に一つ…。

 ”俺の子供”はどこだ?」

「こっ…子供…?し、知らねぇ…」

「…そうか」

 條一郎はゆっくりと立ち上がると、懐からガバメントを取り出し、セーフティーを解除する。

 男はまさかと思い、「や、やめろ…!!生かしてくれるんじゃないのかよ…っ!!おい待てっ!!!」と必死に叫ぶが、條一郎は何の躊躇いもなく、男の頭部に四発、45口径弾を撃ち込んだ。



 * * *



ピースメイカー日本支部の資料室で、愛華は西門の情報が記載されたファイルをまとめ、オフィスの自分のデスクに運んで読み進めていた。

その横で、巧登はルナとジョンの相手をしつつ、敷島と暮葉の三人で会話をしていた。

「西門が、ねぇ…。

 まぁ怪しいとは思ってたのよ…死体は見つからないし、火災に遭った彼の自宅には奥さんの死体も無かったし…」暮葉はそう語りながら、マグカップに淹れたホットコーヒーを口にする。

「問題はどうして修作(アイツ)が西門を殺さなかったか、今までどこに潜んでいたか、だ…仮に本当に裏取引をしていたしても、一体何のために?」

「愛華さんに関わること…とか?」

「それだったら修作(アイツ)がただで済ますワケないだろ…」

 敷島はそう言いながら、熱心に資料を読み進めている愛華に視線を向ける。修作に関連することだけあってか、妙に真剣な様子だ。

 しばらくすると、オフィスのFAXにある物が印刷されると同時に、敷島のスマホに電話が掛かってきた。伊達からだった。

「もしもし…何か分かったか?」と電話に応答しながら、届いたFAXに目を通す。

《西門広実って知ってるか?》

「あぁ。條一郎の奥さんだろ?」

《実はな…色々探ってみたら、長崎県警に当たってな…。

 聞けば、ある海沿いの住宅で起きた火災の現場で、西門広実の焼死体が見つかってたそうなんだ…身元の特定は難航した様だが、何か月も通ってた産婦人科を見つけて特定に成功したそうだ…。

 遺体は腹を裂かれていて、本来なら出産間近の赤ん坊が居たはずなんだが見つからなかった…》

「赤ん坊、か…」

《西門広実の死体以外にも、武装した男の死体が転がってたそうだ。

 恐らく…西門條一郎への見せしめで奥さんを殺し、條一郎を始末しようとして返り討ちに遭ったんだろう…》

「その線が打倒だな…。

 ありがとう。この礼はそのうち」

《いいってことよ…》

 通話を終え、敷島は改めてFAXの内容に目を通す。火災当時の現場の様子、そして関連されてると思われる整備工場での殺人事件についての記事などが載せられていた。

 一方、敷島の通話に耳を傾けつつ資料を読んでいる愛華は、修作と條一郎が戦った日の記録を見つけた。

 修作の報告書だ。

『西門 條一郎 の奇襲を受け、応戦。始末に成功。』などと記載されている。たったこれだけの記述で済ませられることだったのか…思いたくもないが、愛華も薄らと、裏取引の線で考えるのもありかと感じてきた。

 あまりに熱心に読み進めていたからか、少し疲れを感じて、椅子の背もたれに寄りかかって肩の力を抜いた。


 すると、オフィスに一人の女性がやってきた。モニタールームの監視員の一人だ。

「天羽さん、ちょっと良いですか?」と尋ねながら歩み寄ってくる。

「はい?何です?」

「さっきお話していた車、二台とも発見されました」

「ホントですか!?」

 その会話は巧登達にも届いていた。

「どこで?」と巧登が駆け寄ってきながら尋ねる。

「尾行した男が乗っていたボルボは、川崎の峠道で横転しており、男が頭部に四発の銃弾を受けて倒れていたそうです…。

 コルベットの方は、先程神奈川区内の防犯カメラで走行しているところを発見しました。かなりボロボロになってましたが…」

「尾行を終えて始末したか…今どこに向かってる?」

「みなとみらい方面に向かってるようです」

 それを聞いて愛華は立ち上がり、「すぐに向かいます!」と敷島に言って、自室に向かっていった。



 * * *



 みなとみらいの高層ビル群に紛れ込む一軒のビル。よくある何の変哲もないビルなのだが、高層階のほとんどの部屋やオフィスと思われる場所は全てカーテンが閉め切られており、中では銃を隠し持った男達が、表向きの仕事である事務作業などを行っている。

 ビルの地下にある駐車場には、男達の自家用車の他に、黒塗りのベンツSクラスやキャデラック・エスカレードが停まっている。黒塗りの車の集団はエンジンが切られていても近づくことを躊躇う様な仰々しい雰囲気を漂わせる。

 駐車場の出入口には監視員の男が一人立っており、彼もまた、懐に銃を隠し持っている。

 ただ、何も起きない日々に退屈しているのか、壁に寄りかかり、大きく欠伸をかいていた。

 近くを通りかかる人や車が一時的に途絶え、周辺が静かになる。

 眠気を誘う程の静けさで、監視員の男は辺りを見回すこともせずただ壁に寄りかかって立っているだけだった。


 それがまずかった。

 駐車場出入口の屋根から、一人の背の高い男が飛び降り、監視員が音に気づく直前に右手で彼の口を塞ぎ、左腕で首を力強く包み込んで締め上げ、監視員を窒息させる。

 やがて監視員の意識は途絶え、飛び降りてきた男…條一郎は、彼を地面に落とし、地下駐車場に足を踏み入れた。

 懐に隠したガバメントを取り出し、サイレンサーを装着し、周囲を見回す。

 すると、巡回でやってきた二人の警備員の男が、エスカレードの陰から現れた。

 歩きながら談笑していた様だが、條一郎に気づいて瞬時に我に返り、懐に隠したグロック26を取り出し、條一郎に銃口を向けた。

 そして顔を見て、目の前に居る男が誰なのか気づく。

「テ…テメェ西門じゃねぇか…ッ!!?なんで生きてんだお前…ッ!!?」

 その問いに、西門は答えることなく、隣に停まっていたSクラスの陰に飛び込んだ。

 その瞬間、警備員の男達は條一郎を追うように銃を向け続けて、引き金を引いた。放たれた弾丸は條一郎に当たることなく、Sクラスの車体に着弾し、窓ガラスやレンズを粉々に吹き飛ばした。

 彼らのグロックにサイレンサーが付いていなかったため、銃声は地下駐車場全体どころか建物の低層部に響き渡る。

 銃声を聞きつけた男達が、隠し持っていた武器を取り出して、次々と地下駐車場へと向かい始めた。

 その間にも、條一郎は警備員達と戦闘を繰り広げる。

 一人がSクラスのルーフに飛び乗り條一郎が居るはずの場所に銃を向けたが、そこに彼の姿は無かった。

 直後、真横から西門の鋭い左脚の蹴りが脇腹に襲い掛かり、男はよろけながらも立ち続けたが、二発目の蹴りが腹部に直撃し、男は固いコンクリートの地面に叩きつけられる。

 もう一人の男が條一郎に向けて再び発砲するが、條一郎は隣に停まっている車のルーフに次々と飛び移りながら弾を避けていき、一度エスカレードの陰に飛び込むと、横になったまま、発砲していた男の方を見る。エスカレードの下からなら、男の足が見える。

 條一郎は横になったままガバメントを片手で構え、男の足に向けて発砲する。力強い45口径弾はエスカレードの下から男の足に向かって飛んで行き、男の左足が半分弾け飛んだ。

 左足を撃たれた警備員は絶叫しながらその場に倒れこもうとしたが、條一郎がエスカレードの陰から飛び出し、彼の方に向かって駆け出してきた。

 直後、先程二度も蹴りを入れられた男が地面に胴体を付けたまま両手でグロックを構え、條一郎に向けて発砲した。弾丸は條一郎に当たらない所か、彼は左足を撃たれた男の後ろに回り込んだ。蹴りを入れられた男は思わずそのまま引き金を引き続け、さっきまで談笑していた同僚の胸部や顔面に弾を撃ち込んでしまった。

 息絶えて崩れ落ちようとする警備員の襟を掴み、右腕の脇からガバメントの銃口を覗かせ、警備員を肉盾にしながら、残った男に近づきながら引き金を引いていく。

 逃げようとした警備員は間に合わず、條一郎が放った弾丸を脚や腹に喰らい、終いには後頭部を撃ち抜かれた。

 條一郎は肉盾となった警備員の死体を放り投げ、ガバメントの弾倉を交換する。

 これからもっと多くの敵がこちらに向かってくる。その備えだ。

 彼は怯むことなく、ビルの入り口へと向かっていった。

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