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幼少編

「ドーラψ」

ドーラ・ラボに極秘潜入したマカマカとソフィ…彼女たちに待ち受ける者とは…

「ちょっとまつのじゃ、ソフィ!お主、足をケガしておるではないか!」


巫女マカマカは、上品な雰囲気の年輩女性の足をさすりながら言った。


「先生、こんなところで時間を食っている暇はありません。ドーラψ(プサイ)を起動前に破壊しなければ」


ソフィが言うと、巫女マカマカは頷いた。巫女マカマカは、ウサギのような耳と、エルフの耳、合計4つの耳を持った特別な雰囲気のとても小さな獣人の少女。全身は真っ白の毛で覆われており、緑色の長髪を肩辺りできれいに束ねており、赤色の豪華な雰囲気のマントを羽織っている。


ソフィは、齢80ほどの年輩女性で、いまだ輝きを失っていない凛とした瞳をした知的な雰囲気の女性。人間族であり、短めに揃えられた銀色の髪はよく手入れがされている。マカマカと同じような赤いマントを羽織り、彼女に恭しく接していた。


2人が居るのはドーラ・ラボと呼ばれる研究施設。獣人達の伝説で、赤い月の天使と呼ばれるドーラという生命体を研究、生成する秘密組織の施設である。ドーラは獣人以外を無差別に攻撃する謎の殺戮者と長年言われていたが、巫女マカマカの検証により人為的に作り出された自我を持たない生体兵器であると判明した。ドーラは獣人をベースに作られており全てが全く同じ容姿でかつ女性である。自我を全く持たず、獣人以外を判別して襲い掛かる災害のような存在で、何百年も人類を苦しめてきた。その戦闘能力は絶大であり、腕を振るだけで真空刃が発生して全てを切り裂き、巨大な岩盤すら簡単に砕く腕力を持ち、受けた傷は瞬時に全快してしまう。赤い月の天使と呼ばれる理由は不明であるが、全く襲われない獣人達にとっては救世主のような存在でもある。しかしこのドーラの存在が人間と獣人に溝を作る原因にもなっていた。




ドーラは生成のために長い年月とエネルギーが必要なことが長年の研究で判明しており、1つの施設には1人のドーラしか存在しないと言われる。ドーラはドーラ〇というように、〇の部分にギリシャ文字が当てられ、後の文字になっていくほど強大な力を持つと言われている。巫女マカマカが世界各地のドーラ・ラボで集めた資料による研究で最終的にドーラΩ(オメガ)が生まれて獣人以外の全ての人類を滅ぼすとされている。


今回のドーラψはそのΩに続く終盤の個体と言われているので、世界最強の魔術師とも言われ、魔王を監視する役割を担った巫女マカマカ・マーカと、マカマカの弟子でもあり賢者連合と言われる現実世界の国連に相当する機関の事務総長ソフィア・アリエータの2人が、危険なドーラψを起動前に破壊するという極秘任務を行っていた。なぜ極秘に動くかと言えば、多くの獣人達にとっては救世主である赤い月の天使ドーラを破壊などもってのほか、必ず妨害されるからである。


「これでいいのじゃ、ソフィ無理をするでないぞ?お主にはやることがまだまだあるのじゃ」

「はい無理はしません。先生、自分の力量は弁えているつもりです」

「うむ」


ドーラ・ラボ内でも警備による妨害はあったものの、そのほとんどもやはり自我を持たない生体兵器でありマカマカ達にとっては倒しやすい存在であった。他のドーラ・ラボでも研究や生成はAIによって行われており研究員自体は存在していない。今回のように何らかのクローンと思われる自我を持たない警備員が侵入者対策として配備されているだけである。強さもドーラと比べれば雑魚であり、誤って設備を破壊しないように最小限の力しか持たされていないことが伺える。


「先生、地下室に続く階段です」

「間違いないのじゃ、他のドーラ・ラボでもこの地下室の先にドーラの生成プールがあったのじゃ」


マカマカは慎重に階段を下りていく、後にソフィが続く。

暗い地下室に重い機械の音が響く…。


「明かりよ我らを照らせ、キンデイトラ!」


マカマカが唱えると、当たりが徐々に明るくなった。


「うわ!!先生!!」


ソフィが声を上げる。


「居たのじゃ、ドーラψなのじゃ」


マカマカとソフィの視線の先に、何らかの液体の満たされた巨大なガラス管の中に、赤子と思われる獣人が眠っていた。刹那、周囲の壁にあった多数のポットから大量の警備員が出現したが2人は特に難なく撃退した。


「さて目覚める前に破壊出来てよかったのじゃ。可哀そうではあるがの…」

「仕方ないです。生まれても殺戮者としての運命しかない…その方が哀れです」

「そうじゃな、ソフィ離れておれ、一気に破壊するのじゃ」


マカマカがなにやら呪文を唱えだすと、ソフィは嫌な雰囲気を感じた。マカマカもそれを感じ取っており、詠唱完了した攻撃魔法を右にあった大きめのポットに向けて放った。


ドーーン!!


ポットが破壊され、中から凄まじいスピードの少女が出現する。


「なんじゃ!こいつはドーラλ(ラムダ)なのじゃ!λ…まだ残っておったのじゃ!?」


ドーラλ、100年以上も前にさる王国に出現したドーラであり、その王国は研究によって多数のクローンを作り出し兵器転用をしようとしたが、従わせることができずに逆に王国自体が滅ぼされた。生成された数は不明であるが当時の賢者連合の精鋭達によって一体残らず撃破されたはずであった。


ドーラλの凄まじい攻撃とスピードにソフィは舌を巻いた。

しかし、マカマカは冷静に、的確に攻撃をあててドーラλを追い込んでいく。

さすが魔王を監視する巫女と呼ばれ、ドーラを何体も撃退してきた歴戦の魔術師である。ドーラに対しても全く遅れをとることはなかった。


マカマカの的確な攻撃についにドーラλは倒れた。しかし…恐れ居たことが起きてしまった。


「せ、先生…ドーラψが、こっちを見ています…目覚めてます!!」

「なんじゃと!」


試験管の中のドーラψが狂暴な目でじっとマカマカ達の動きを追っていた。


「しまったのじゃ。ドーラλは衝撃でこやつを目覚めさせるための装置の役割だったのじゃ」


マカマカはそう言った次の瞬間、即座に詠唱完了した特大の攻撃魔法をドーラψに向けて放とうとしたが途中で不発になってしまった。


「先生、どうされたのです?!」

「すまぬのじゃ…、こんな赤子を殺せんのじゃ」

「気持ちはわかりますが、こいつはドーラです…、無理なら私が!」


ソフィがドーラψに向けて手をかざした、本当にその一瞬、試験管が木っ端みじんになると同時にソフィの後ろに狂暴な表情で瞳を緑色に輝かせたドーラψが立っていた。ソフィは体中に鋭い痛みを覚えうずくまった。


「ぐあぁぁ…!!」

「ソフィィィ!!」


ソフィは倒れこみ床にはソフィの鮮血が広がる。


「先生…私は自己治癒でいけますっ…ドーラψを!!」

「う、うむ」


ドーラψは、獣人であるマカマカを攻撃できないのか絶えずマカマカの動きを視線で追っていた。獣人であってもドーラは攻撃の気配を察知されれば敵と見做すため、攻撃されずに一方的に戦えるわけではない。


「よくもソフィをやってくれたのじゃ…、赤子でも容赦はできぬのじゃ!」


ドーンッ!!!

マカマカの無詠唱の攻撃魔法がドーラψに炸裂して、ドーラψは壁に激突したが、カウンターのように壁から跳ね返ったドーラψはマカマカの腹部にめがけて狂暴な笑みを浮かべて突っ込んできた。咄嗟にマカマカは防御結界を張るが、一枚目を難なく突き破られ即座に展開した二枚目の結界でガードする。その横から回復したソフィが強烈な攻撃魔法をドーラψに放つが、ドーラψは叫んだけで魔法をかき消してしまった。ドーラψはソフィの居る場所に凄まじい速度でダイブした。床は巨大な穴が開いて陥没したが直前にマカマカがソフィの腕を掴んで避難させていた。


「先生、ドーラψの力、想像以上です。赤子でこれだけの力が出せるとは」

「うむ…じゃが、みたところ物理攻撃だけなのじゃ!」


マカマカは何度も妨害魔法や呪縛魔法をドーラψに放つが全く効果が無かった。自我を持たず、襲ってきたとしてしも相手が赤子である以上、マカマカもソフィも本気で攻撃することに躊躇いがあった。


「ソフィ…すまぬが、わしはこやつを素手で捕まえるのじゃ。失敗したら逃げるのじゃ?よいな?」

「先生ちょっとまって…!」


マカマカは言うやいなや、ものすごい速度でドーラψの両腕を掴んだ。ドーラψは暴れたが、渾身の魔力の籠ったマカマカの手は解けなかった。


「ソフィ!!わしごとこやつにありったけの攻撃魔法をぶつけるのじゃ!」

「え!そんな先生にも当たります!」

「わしがおまえの魔法ごときで死ぬか!遠慮するななのじゃ!はやくやるのじゃ!」

「はいっ!!」


ソフィは無詠唱で自身の持てる最大の攻撃魔法をドーラψめがけてぶつけまくった。マカマカにもかなり当たったがマカマカはドーラψの両腕を握ったまま離れない。


「続けるのじゃ!いまっ、こやつに心を作り出しているのじゃ!できるだけ時間を稼ぐのじゃ!治療費はあとで賢者連合に請求するのじゃ!」

「はい先生!!」


ソフィはひたすら攻撃魔法をドーラψに当て続ける。徐々にドーラψにも疲れのような表情が見られるが依然、狂暴な瞳を輝かせていた。


ソフィは特大の攻撃魔法を見舞った直後…


「よーーし!!成功なのじゃ!!」


マカマカが歓声をあげた。マカマカの胸に寄りかかって眠るドーラψの姿があった。


「まだ研究の途中であったが、ドーラに心を作り出して自我を獲得させたのじゃ」

「それはすごいですね…、しかし危険なドーラに心を与えて大丈夫でしょうか?」

「なあに、何かあればなんとかするのじゃ…。こんな赤子を殺せんからの…」

「そうですか…、ドーラψはいつ目覚めるのでしょうか?」

「しばらくは無理じゃな」

「では賢者連合の施設に、研究用のサンプルで…」

ソフィがドーラψに手を伸ばすと、マカマカはぴしゃりと手を払った。


「え?だめですか?」

「ソフィおまえはまたサンプルなのじゃ?昔から変わらんのぅ」

「しかしどうするのですか?ただでさえ危険なドーラですよ?」


マカマカはうなずいて言った。

「わしの娘にして育てるのじゃ」

「えええええ!?先生の…?」

「なんじゃ?何か言ったかの?」

「い、いえ」

慌てて口をつぐむソフィ。


「ではこんなところ長居は無用じゃ、帰るのじゃ」

ドーラψを背負ったマカマカが転送魔法を唱えようとすると、ソフィが言った。


「先生、獣人達の耳にドーラψを連れ帰ったことがバレると彼らは奪還に動くでしょう。とりあえずここで彼女に名前をつけて、今後はドーラを隠された方がいいでしょう」

「もっともじゃない。さすが事務総長をしてるだけはあるのじゃ」


マカマカは思案したが良い名前を思いつかない。

「何か良い名前はないかのぅソフィ…」

「先生が育てるのですから先生が名前を考えないと…」

「そ、そうじゃの… ポチとか?」

「いや…先生、犬じゃないですよ、女の子ですし…」


「せっかく強い力があるのじゃから、自分に自信のある子に育ててあげたいのじゃ。でもわしみたいな上品にもしてあげたいのじゃ」

「え?上品ですか?」

「なにかいったのじゃ??」

「いいえいいえ!上品なら貴族系の名前をつけるなどどうでしょうか?」

「貴族は好かんのじゃが、ううーむ、勝ちまくって自信をつける子、ヴィクリー… ヴィクトリアじゃ!」

「お、いいですね!先生」


マカマカは眠っているドーラψを抱き上げて言った。

「よし!これからはおまえはドーラではないのじゃ、わしの娘ヴィクトリア・マーカなのじゃ!」


つづく…。

少しおバカだけど元気で活発な獣人少女ヴィクトリア。少し厳しいけど大らかな性格の母マカマカと、マカマカの家に居候をしている弟子達を姉兄同然に慕い、明るく成長していく。次回、「一番美味しいごはん!」運命に打ち勝てヴィクトリア!!

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