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僕の欠点  作者: 慶野るちる
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 翌日から僕は学年末テストに向けての勉強を始めた。まだ十二月中旬だけど。

 ……始めたと言っても、これまでの国語のテスト問題をさらったり、市販の問題集を片っ端から解くという、とりあえず今までと変わらないやり方。近いうちにみんなにどんな勉強をしているのか訊いてみようとは思ってる。

 学校の休憩時間もできるだけ国語の参考書を開いたし、苦手な読書も始めた。……本を読むのが嫌い、っていう時点で僕の国語人生は絶望的な気もしてるけど。漫画は読むけど、延々と字ばっかりのやつは頭が痛くなる。

「戸田」

 近代作家の文庫本を机の上で仕方なく開いていると、クラス委員長の新名にいなが目の前に立った。 

「うん?」

「大丈夫か?」

「え? うん……」

 何の話だろう。

「国語、ずっとダメだよな、お前」

「ああ……うん」

 そのことか。成績は一年生の頃からみんなが共有している。この選抜クラスだけ。だから互いにどんな折れ線グラフを描いてきたか知ってるのだ。

「一年生のまだみんなが満点取れてない頃、お前だけが満点連発だったもんな。天才だと思ったよ」

「あはは……最初だけね」

 どうして取れるんだ、と訊かれたな。あ……そうだ。僕はみんなにこうしたらいいとアドバイスしてきたのに僕自身、誰にも訊くことはなかった。舐めてたわけじゃなくて、みんなを見下していたわけじゃなくて、いつか取れるんだろうと高を括っていたから。

「みんなお前が目標だった」

「結局みんなに抜かれちゃったよ」

 そんな輝かしい時期もあったけど、すぐに終わった。みんな努力して、並ばれて抜かれてしまった。今じゃ僕だけが全教科満点が一度も取れていない落ちこぼれだ。

「上広は満点取れたからもう大丈夫だろう。学年末は俺が国語一緒に勉強するよ」

 そう言ってもらえるのを待っていたわけじゃない。そういうことにすら気づいていなかったのだ。誰かに教えを乞うという発想が僕にはなかった。傲慢だな。今頃になってわかるなんて。何で取れないのだろうとは思ってたけど、どうしたら取れるのかとは思ってなかった、ってことだ。みんなは早くにそれに気づいて実行した、そういうことだ。

「新名……ありがとう。でも大丈夫。学年末は僕一人で頑張るよ。上広さんに教えてもらって少しは点上がったし」

 これでも成長がなかったわけではない。

 僕に教えたところで新名には何のメリットもない。すでに満点を取れてるのだから自分の勉強だけをしていればいいのだ。みんなに迷惑はかけたくない。

「みんなで上に行きたいじゃん。お前だけナシなんておかしいよ」

「もちろん僕は諦めてないよ? みんなと一緒に行きたいと思ってる。だから頑張るよ」

 他のクラスと違い、大学入試が基本的にない僕たちのクラスの学年末テストは一月の中旬に行われる。

「わかった。気になるところは俺に訊いてくれ。夜中でも何時でもいいから」

 そう言ってくれた日の夜。

「これ」

 寮で机に向かっていると、新名が部屋をノックして入ってきた。

 一冊のルーズリーフバインダーを机の端に置く。

「うん?」

「みんなでさ、これまでの国語の出題傾向と解説を書いてみた。それぞれの思うように書いてるからお前に合うやつがあれば使ってみて」

「……ありがとう」

「頑張れよ」

「うん」

 少し涙声になった気がしたけど、もう泣かないと決めたのだ。僕は頑張らないと。みんなが時間を削って作ってくれた必勝メモ。無駄にはできない。

 僕は言葉通り、寝る間も惜しんで勉強した。泣いても笑ってもこの一か月しか勉強できない。やるしかないのだ。国語ばかりやりすぎて他の教科を落としては何の意味もないから他ももちろんやりつつ。

 新名や上広さんに体調は大丈夫なのかと何度か訊かれたけど、テスト勉強ハイとでも言うのか疲れはちっとも感じなかったし、むしろ寝なければならないのが残念なほどだった(睡眠は大事だから絶対二時間はとるようにした)。

 クリスマスケーキも大晦日の年越しそばもお正月の雑煮も、全部今年はなし。お祭り気分は一切排除。冬休みで帰省した実家では母親に僕の分まで初詣のお賽銭投げてきてと頼んだ。一緒に初詣行きたかったのに、と残念そうだったけど一人で行ってくれて、さらにお守りを買ってきてくれた。

 そして僕は三学期の初日、始業式が行われている体育館でぶっ倒れた。


お読みいただきありがとうございました

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