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「あたしね、思ったんだ」
二学期の期末テストが一週間前に差し迫った時、上広さんが帰り支度をしている僕の席へ来た。
「どうしたの?」
「なぜこれまで共闘しなかったんだろうって!」
「きょうとう?」
ってなんだ?
瞬時に漢字が思いつかない程度にはやっぱり僕は国語に弱い。もっともできないのは作者の意図を書けとか、傍線部一の人物の気持ちを三十字以内で書けとかそういうものだけど。
「共に、闘う、よ」
最善最高の答えを見つけたのだと言わんばかりに、意気揚々ドヤ顔で上広さんは言った。
「私たちさ、お互い苦手科目が違うわけじゃない。だったら教え合えばいいんじゃないかってことに気付いたのよ! 今更だけど」
「なるほど……」
……確かに三年生の二学期で気づくことではないかもしれない。僕たちは三年間同じクラスで、超親しいわけではないにしろ知らない仲ではない。しかもクラス最後尾を一緒に走ってきた。って、そういうの女子同士でしてこなかったのだろうか。
まあ。僕もしてこなかったということは、みんな自分の勉強が精一杯で人に教えてる時間なんてない、ってことだ。多分、他人を蹴落としたいとかは思ってないだろうから(このクラスに限っては意味がないから)本当に自分のことで精一杯なのだと思う。時間だけは皆平等だから。
「どう?」
「どう、って……いいんじゃないかな。それもアリだと思う」
「ちょっと、他人事みたいに言わないでよ。やるかやらないか訊いてるの!」
……女の子と勉強なんて……やったことないし。
上広さんに対してトクベツな感情を持っているのだったらきっと僕は喜んで両手をあげていたかもしれない。だけどそういうのは特にないし。……だったらそれはそれでいいか。余計な感情がない方がはかどる。
「やるよ。今度こそ満点取ろう」
「おおおおおっしゃあ! よくぞ言ったダークナイトよ、我に頭を垂れ忠誠を誓え」
上広さんは椅子の上に乗ると悪徳教皇?のように邪悪な笑みを浮かべ両手を広げた。
「……ええ……まあ、うん」
大丈夫かな、この人。
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