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エピローグ

 

 私はとても混乱していた。

 ここがとある乙女ゲームの世界だと気がつき、自分が図書委員長というサブキャラに転生したと確信した時以来の、大混乱である。

 人は混乱すると普段からは全く想像できない行動を取ってしまうことがある。そして後日、その行動を後悔するものである。



 ☆★☆


「これは、夢?」


 場所は月夜に照らされた図書室。手に持ったランタンの明かりが、その受け入れ難い光景を詳細に知らせてくれる。


「ゲームのメインストーリーが始まって1ヶ月。私が間接的に殺されるかもしれない日まで1年弱はあるはず。なのに、この状況は何?!」


 男が血を流して倒れていた。その左手には凶器であろう血に濡れた銀のナイフが握られている。


「どう見ても、自殺現場ですよね?!」


 見知っている男だった。


「魔呪の狂人『ヴィダル・ド・カールンハット』この世界のラスボス。エンディングによっては私を間接的に殺害する男」


 将来的に私を殺すかもしれないその男は、私が徹底的に視界に入れないよう避け続けている人物だった。


「ここで死ぬ人じゃない、よね?」


 そう。ここで倒れてるはずがない。ありえない。


 その男はこの乙女ゲームの世界で言わゆる『悪役』、しかもラスボスである。最後の最後に主人公に倒される人物である。


「いやいや、まって!?おかしいでしょ!!まだ主人公、編入してきたばっかですよね?これから壮大な戦いが始まりますよね?強大な敵との戦闘をスパイスに刺激的な恋愛する大ストーリーが!」


 その強大な敵、今、目の前で血を流して倒れているのですが。


「倒される予定の悪役、もう倒れているんですが」



 ☆☆★


「倒されているってことはつまり、もう学園は破壊されないということ?」


 このゲームの全ての攻略キャラのバットエンデングで学園は崩壊する。崩壊の原因はこの男が主人公の言葉に激高して放つ魔法だ。


「ということは、八つ当たり的に放たれた魔法で学園は破壊されず、崩壊に巻き込まれて死ぬ未来は回避されるということ!?」


 つまり、つまり巻き込まれ死ルート回避できたということ。このサブキャラらしい、『クラスメイトも学園の崩壊に巻き込まれて死んでしまった……』と1文で語られてしまうあっさりとした死。個人名すらでない。

『死人多い方が方がバットエンド感出るだろう』という制作者の思惑が透けて見える死。

 私はその運命に抗おうと、これから始まるゲームシナリオに身構えていたというのに。


「え、うそ。こんなにあっさり死亡フラグ折れることってあります?!嬉しいけど!いやでもこの状況!!」


 混乱している間にも男の体からは血が流れ続けている。床はみるみるうちに赤く染まっていき、顔は青白を通り越して土気色になっていく。


「うわうわうわ。どうしよう。喜んでいいの、や、やったー!生き残れたー?!?」


 空気がから回る。呼吸した空気が言葉となって零れていく。何を言っているのか分からない。人が死んでいるのに私は喜んでるのか。誰かが死ぬことによって自分が生きる残る気持ちってこんな気持ちなんだなぁと、めちゃくちゃな思考の中で冷静に考えてる。


 もう一度言おう。私はこの時、混乱していた。

 普段なら絶対にしない行動をするぐらいには。



「……とりあえず、死体は片付けないと、だよね」




 後日、私はとっても後悔した。

 どうしてあの時、その場から離れる所か留まり、掃除を始めたのか。床を1箇所綺麗にすると他の場所も気になり、最終的に全部やってしまったのか。せめて、腰が痛くなり始めた辺りで止めておくべきだった。







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