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90話―少年たちの友情

「ぐっ!」


「うあっ!」


 コリンとアゼル、互いの放った攻撃は相手に見事ヒットした。闇の槍がアゼルの左肩を抉り、アゼルの斬撃がコリンの胸を切り裂く。


 だが、致命傷には至らない。お互いの攻撃を食らったことで、威力が減ったのだ。ハイレベルな攻防に、観客たちは熱狂する。


「いいぞー! 二人とももっと戦えー!」


「持てる力を全部見せろー! 俺たちを楽しませてくれ!」


 彼らの声はコリンたちに聞こえていないが、熱気は伝わっているようだ。決して浅くはない傷を負っても、二人の闘志は消えない。


「なかなか、やりますね。あとちょっと狙いがズレてたら、腕がちぎれてましたよ」


「そなたこそ、かなりの剣の腕前じゃの。もう少し斬撃が深ければ、わしは死んでおったわ」


 体力回復を兼ねて、二人は互いの技量を讃え合う。当然――この後も、手を抜くことなどしない。むしろ、ここからが本番なのだ。


「なれば、手加減するのはそなたに失礼というもの。全力を出させてもらうぞ、アゼル」


「ええ、望むところです。もちろん、ぼくも全力で行きますよ。その上で、あなたに勝つ!」


 そのやり取りの後に訪れた、数秒の沈黙。全ての者が息を呑み見守る中――それぞれの得物が、顕現する。


「いでよ、闇杖ブラックディスペア!」


「来い! 魔凍斧ヘイルブリンガー!」


 コリンの左手に、星騎士の証たる黒い杖が現れる。一方、アゼルの右手に冷気が集い、骨で出来た巨大な両刃の斧が姿を現す。


 それぞれが全力で戦うための、必殺の武器。それを構え、魔力を練り上げる。真っ先に動いたのは、コリンの方だった。


「ディザスター・ランス【三重奏(トリプル)】! さあ、我が槍を防いでみせよ!」


「望むところです! チェンジ、重骸装(フォートレス)モード!」


 アゼルは鎧を三度変形させ、右腕に大きな盾を備えた重装甲スタイルになる。そこへ、三つに分裂した槍が飛んでいく。


 頑丈な盾と装甲を駆使して、アゼルは槍を強引に受け止めてみせた。直後、右手に持った斧を掲げ、力強く魔法を発動する。


「今度はこっちの番です! ジオフリーズ!」


「むうっ、吹雪で視界が……! これは、ちと警戒を強めねばならぬな」


 一瞬で猛吹雪が吹き荒れ、コリンの視界を銀一色に染め上げる。アゼルの居場所を見失ったコリンは、ゆっくりとまぶたを閉じる。


「おい、コリンの奴目ぇ閉じちまったぞ。一体なに考えてンだ?」


「精神、研ぎ澄ます。感覚、強くなる。肌で、居場所悟る。待ちの構え。マリス、分かる」


 動きを止めてしまったコリンを見て、アシュリーとマリスはそう口にする。極限まで精神を研ぎ澄まし、アゼルの居場所を暴こうとしているのだ。


(……目に映るモノに囚われてはならぬ。かつて、我が師ヴェルダンディーより教授された言葉……今、ここで活かす!)


「……そこじゃ! てやあっ!」


「うわっ! どうして、ぼくの居場所が……完璧に気配を消してたのに!」


 数秒ののち、コリンの精神が相手を捉えた。素早く背後に振り向き、杖を振りかぶり叩きつける。反撃は避けられたが、相手の攻撃は無事潰せた。


「吹雪もやんだ。これでこちらも攻撃出来るというもの! 受けてみよ、ディザスター・ランス【豪雨(スコール)】!」


「全部叩き落とす! ルーンマジック、ソウルルーン! ベルセルクモード! からの……戦技、アイシクル・ノック・ラッシュ!」


 頭上より降り注ぐ無数の槍に対し、アゼルは身体能力を強化した上でヘイルブリンガーを振り回し応戦する。劇的に向上した膂力から繰り出される斬撃が、闇の槍を粉砕していく。


「ふ……ふふ、ふははははは!! そなた、強いのう! これほどまでの強者に会ったのは、そなたがはじめてじゃよ!」


「ええ、ぼくも楽しいですよ。ぼくの知らない強いヒトたちが、まだいただなんて! 本当に……楽しくて仕方ありません!」


 素晴らしい好敵手を得た二人は、獰猛な笑みを見せながらそう叫ぶ。もっともっと、戦いたい。目の前の強敵を打ち倒し、勝利の快感が欲しい。


 心の底から闘志がみなぎり、熱き血潮がたぎる。全ての槍を捌ききったアゼルは、必殺の一撃を放つべく勢いよく飛び上がった。


「いきますよ、コリンさん! これで終わりです! 戦技、ブリザードブレイド!」


「面白い、返り討ちにしてくれよう! ディザスター・ランス【貫壊(ドリラー)】!」


 一切の情け容赦のない、全力の攻撃が放たれる。直撃すれば、タダでは済まない。下手をすれば、死体すら残らないだろう。


 戦いに夢中な二人は、すっかりそのことを失念していた。このままでは、相討ちになり二人とも死んでしまう……かと思われた。


「はい、そこまで。これ以上やると、二人とも死んじゃうぜ? そうなったら皆悲しむ。だから……」


「のじゃ!? パパ上、いつのまに!」


「ヘ、ヘイルブリンガーが全く動かせない……。身体能力を強化してるのに」


 テレポートしてきたフリードが二人の間に割って入り、両者の攻撃を()()()()受け止めてみせた。そのおかげで、コリンたちはようやく我に返る。


「二人とも、素晴らしい戦いだったぜ。みんな大喜びだ、俺も興奮したよ。さ、エキシビジョンマッチは終わりだ。上に戻るぞ、美味いご馳走と楽しいダンスが待ってるからな」


「む、そう言われるとお腹が空いてきたわい。よし、上に戻ろうぞアゼル。戦いの後は、平和に語らうのじゃ!」


「ええ、そうですね。もっともっと、親睦を深めたいです! アーシアさんも待ってますしね」


 コリンとアゼル、二人のエキシビジョンマッチは『引き分け(ドロー)』で幕を閉じた。勝利こそ得られなかったが、その代わりに。


 二人は決して滅びることのない、素晴らしい『友情』を手に入れたのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



――暗域第二十階層世界、『アストラ』。海の底にある城の中に、一人の少年がいた。序列第一位の魔戒王、フォルネウスだ。


 彼は他の魔戒王の城に偵察用の羽虫を送り込み、各派閥の情勢をチェックしている。将来有望な眷属を見つけ、ヘッドハンティングするために。


「さぁてさて、今回もいい具合に有望なのがいたねぇ。特に、あの男の子……いやー、まさかフェルメアに息子がいたなんて思わなかったよ。……そう思うでしょ? グラキシオスにアルハンドラ」


 羽虫の視界とリンクしている水晶玉から、空中に映像が投影される。フェルメアが主催しているラーカの様子が最初から最後まで映されているのだ。


「ガッハハハ、そりゃあもちろんよ! 寝耳に水たぁまさにこのことだ! 結構結構、愉快なもんだ!」


「本当にねぇ。あーんなカワイイ子、放っておけないわぁ」


 フォスネウスの言葉に、二人の男女が答える。少年王の背後にいるのは、筋骨隆々の老人と、妖艶なベリーダンスの衣装に身を包んだ絶世の美女。


 どちらも、フォルネウスやフェルメアの同志……それぞれ序列第二位と第六位の魔戒王。十三人の王の中でも、上位に君臨する存在だ。


「ラーカやってる最中だってのに、わざわざ呼びやがるから何だと思って分身寄越してみりゃあよ。いいモンが見られたぜ。酒の肴にゃぴったりだ」


「あーん、もう我慢出来ないわ! 今からフェルメアちゃんとこ行って、拉致って来ちゃおうかしら!」


「やめときなよ、全面戦争になるから。ただでさえ混沌たる闇の意志(ダークネス・マインド)がご立腹なのに、逆鱗撫でるのはまずいって」


 三人の魔戒王は、以前からフェルメアが何かを隠しているとアタリをつけていた。その秘密を暴くべく活動していた矢先、その正体を知り歓喜していた。


 ラ・グーの死による、再度空白となった玉座に座るのに相応しい存在を見つけたのだから。


「あのダメ蛇のせいで、わたしたちまで大目玉食らっちゃったものねぇ。本当、いい迷惑だわ」


「フン! いい面汚しだ、あいつは。奴のせいで、王の威光が陰っちまった。おかげで、そこそこ実力のある大魔公どもが反乱しやがって始末に負えねえぜ」


「だから必要なのさ。グランザームやラ・グーに代わる、新たな実力者がね。あの子……コーネリアスくんなんて、実にピッタリだと思わないかい?」


 コリンの知らないところで、とんでもない話が進んでいく。表面上、穏やかに話が進んでいるが……水面下では、三人ともコリンの引き抜きを狙っていた。


「そうねえ、わたしは賛成よぉ。でも、ま……これ以上の話し合いはまた今度にしましょ。今は、それぞれのラーカを楽しまなくちゃ、ね?」


「だな! 今最優先するべきは祭りだ。っつうことで、俺は消えるぜ。そろそろ飲み比べ大会の時間だからな!」


「はいはい、それじゃあ今日は解散。この話は、また今度ね」


 話が終わり、グラキシオスとアルハンドラの分身は消えた。一人残ったフォルネウスは、映像に目を映す。アシュリーと一緒に踊るコリンを見て、舌なめずりをした。


「ふふ、君を僕の部下に迎え入れる日が来るのが待ち遠しいなぁ。狙った獲物は逃がさない……それが、僕の王としての矜持。必ず君を手に入れるよ。コーネリアスくん」


 闇の宴の裏側で、新たな陰謀が動き出そうとしていることを――コリンはまだ、知らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少年マンガの様な熱いバトルだったが安全考えた上で引き分けか(ʘᗩʘ’) でもその存在の価値は計り知れない物だけに誰もが欲しがるか(゜ο゜人)) コイツは遅かれ早かれコリンが拉致られたで戦…
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