89話―激闘! コリンVSアゼル!
スカーレット城の地下に、広大な格闘場が存在している。女王を守る闇の騎士たちが、日々鍛練を行うための場所だ。
そこに、フェルメアによってコリンとアゼルが転送される。同時に、二人の様子が新たに立体映像として上座、下座の両ホールに映された。
「さて、ここでなら存分に戦り合えるのう。なあ、アゼル殿」
「あはは……ぼくのことは呼び捨てでいいですよ。見たところ、歳も近いようですし」
「ふむ、ならそなたもわしを呼び捨てにしてよいぞ。では……みなも待ちかねておるし、始めるとしよう。血沸き肉躍る、エキシビジョンマッチを」
コリンの言う通り、招待客たちのボルテージは最高潮に達していた。闇の眷属は、戦いを見るのもするのも大好きなのだ。
神と魔の血を継ぐ半神と、並ぶ者なき熟練のネクロマンサー。二度と見られないだろう好カードを前に、興奮するなという方が無理なのだ。
「コリンくん、大丈夫かしら~。あのアゼルって男の子、とっても強そうなオーラを放ってるわ~」
「大丈夫、ししょーは負けないよ! あんなチビ、すぐコテンパンにエ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
「ほう、余の夫を愚弄するか? なら、相応の仕置きをせねばなるまいなぁ」
ついうっかりそんなことを口走った結果、アニエスは凄まじい速度で接近してきたアーシアにアイアンクローを食らう。
「……なんだか上が騒がしい気もするが。まあ、どうでもよかろ。構えよ、アゼル。言うておくが、わしは手加減なぞ一切せぬぞよ」
「ええ、もちろん。やるからには全力を尽くす。それがボクたち『操骨派』のネクロマンサーの信条ですからね。……覇骸装ガルガゾルデ、展開!」
アゼルが叫ぶと、黒いもや状の魔力が全身を包む。もやが晴れた後、現れたアゼルはガイコツを模した鎧に身を包んでいた。
それまで着ていたローブは、マントのように背中に羽織っている。直後、二人は同時に攻撃を仕掛けた。
「サモン、スケルトンナイツ!」
「ディザスター・ランス【雨】!」
アゼルの胸元に輝く装飾品から魔力が放たれ、剣と盾、鎧兜で武装した十二体のスケルトンが現れる。それに対し、コリンは無数の闇の槍を放つ。
「さあ、避けきれるものなら避けてみよ。我が槍は、一体残らずスケルトンを穿つぞ!」
「早速、三体……でも、この程度の損害は計算の内ですよ。チェンジ、射骸装モード! スケルトンナイツ、反撃です!」
「む、あれは……フッ、よかろう。来るがよい!」
雨のように降り注ぐ槍が、三体のスケルトンを貫き消滅させた。残りの九体は盾で防いだり、軽やかなステップで槍をかわす。
そうしている間に、アゼルは次のカードを切る。身に付けている鎧が変形し、両腕に巨大なボウガンが装着された。
「おお、見ろ! あっちのネクロマンサーが着てる鎧が変化したぞ!」
「あのボウガンから矢を射つんだわ! 若君、避けられるかしら」
観客が戦いを見守る中、アゼルは予想された通り狙いを定め矢を放つ。スケルトンの攻撃を避けるために移動中の、コリンの動きを先読みして。
「今です! 戦技、ボーンネイトアロー!」
「くっ、こやつわしの動きを! ならば……ディザスター・シールド!」
回避不可能な、必殺の一射。辛うじて闇の盾を呼び出し、コリンは攻撃を防ぐ。そこにスケルトンが飛びかかってくるも、蹴りの連打を浴びせ撃退する。
「惜しい……あと少しだったんですけどね」
「やるではないか。スケルトンとの巧みな連携……実に見事なものよ。なら、わしもお見せしようぞ。ディザスター・サイス!」
「! これは……死神? 凄く不気味な風貌ですね。スケルトンナイツ、一時退避……」
「させぬ! ディザスター・バインド!」
死神を警戒し、スケルトンたちを呼び戻して守りを固めようとするアゼル。対するコリンはそれを許さず、闇のロープを使い骨の騎士たちを拘束した。
そこに死神が襲いかかり、大きな鎌を振るいスケルトンたちを切り刻む。九体のスケルトンたちは、脱出する間もなく消滅してしまう。
「いいぞ、やるじゃねえかコリン! このまま一気にトドメを」
「ふ、ふふふ。この程度でアゼルは負けぬ。あの子はまだ、本気になっていない。本当の戦いは……ここからだ」
「あばばばば……!」
コリンの活躍に興奮するアシュリーに、アーシアはアイアンクローを継続しながらそう声をかける。そろそろ、アニエスが死にそうだ。
「まさかこんなに早くスケルトンたちがやられちゃう何て思いませんでした。なら! サモン、ブラック隊長!」
「……お呼びでございますか、マスター。今宵は、誰を血祭りにあげればよいので?」
「む……しゃべるスケルトンじゃと? そのようなモノは見たこともない。……やはり、侮れぬ相手よのう」
新たに呼び出された、漆黒の骨を持つスケルトンを前にコリンは強い警戒心をあらわにする。先ほどの傀儡とは、まるで違う。
自我を持ち、自らの意志で動き、思考することが可能なスケルトン。コリンにとって、厄介極まりない相手だった。
「行きますよ、隊長! コンビネーション攻撃です! チェンジ、剣骸装モード!」
「御意! 我が剣、常にマスターと共に!」
「また鎧が変形しおったわ。どのような構造か、興味があるのう。が、まずは……あの黒いスケルトンを仕留める!」
アゼルが叫ぶと、再び鎧が変化する。ボウガンが刃へと変わり、着ている鎧も俊敏さを向上させるため装甲が軽く薄くなった。
「死神よ、あのスケルトンを引き剥がせ! 一対一に持ち込めば、十分勝機があるでな」
「カ、シ、コ、マ、リ……カカカカカカカ!!」
「む、来るか。ならば、望み通り相手をしよう!」
死神のタックルを食らい、ブラック隊長はアゼルから引き離される。一刻も早く撃破せんと、白刃を煌めかせ斬撃を放つ。
大鎌と湾曲剣がぶつかり合う中、コリンとアゼルは睨みあったまま動かない。互いに相手の隙を探り、必殺の一撃を打ち込む好機を狙っているのだ。
(……あやつ、全くもって隙がない。迂闊にディザスター・ランスを放てば、一気に懐に潜り込まれて斬られるじゃろう)
(参りましたね……今の状況で踏み込めば、確実にあの槍で貫かれます。全力で飛び込んでも、勝率は五分五分といったところでしょうか)
コリンもアゼルも、攻めあぐねていた。タイミングを誤れば、カウンターを食らい倒される。それが分かっているからこそ、動けない。
「二人とも、動かないわねぇ~……。あっちの骨さんたちの方が、先に決着がつきそうよ~」
「ああ、せやな……ついでに、アニエスはんも半分昇天しとるで?」
「おっと、これは失礼。そろそろ解放するとしよう」
「あぱ……あぱぴゅ……おぱー……」
「アカン、アニエスはんが廃人になってもうてる……」
手に汗握る……というか、手にアニエス握るという状況に長時間晒され、アニエスはグロッキーになってしまっていた。
よく分からない言語を呟き、死んだ魚のように床に横たわり、びくんびくん震えている。もっとも、それを気にする者はほとんどいないが。
「カカァッ!」
「ぐぅっ! こやつ、強い……」
数十分の間、睨み合いが続き……ついに、転機が訪れた。激しい死闘の末、死神とブラック隊長が相討ちになり倒れたのだ。
互いの相棒の消滅に、一瞬心が向いたその隙を。コリンもアゼルも、見逃すことはなかった。
「ディザスター・ランス【旋回】!」
「戦技、クロスボーン・スラッシャー!」
一気に加速し、踏み込むアゼル。それを迎え撃つべく、コリンは全てを穿ち貫く闇の槍を放つ。全力で放たれた一撃が、交差する。




