表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/311

84話―大地の真実

「はぁ!? ちょっと待てよ、それってどういうことだ!?」


「全てを理解してもらうには、まず遠い昔……この大地の成り立ちから話さねばならぬ。パパ上とママ上に聞いた話じゃがな。今から二千年前、神々のとある計画によってこの大地は生まれた」


 仰天し、食い気味に質問してくるアシュリーを手で制しつつ、コリンは静かに話し出す。口を挟める雰囲気ではなく、アシュリーたちは黙って聞く。


「その計画とは、神と魔と人……相反する三つの種族が共存出来る理想郷を創り出すことじゃった。計画成就のために、神と闇の眷属はそれぞれ代表者を選んだのじゃ」


「闇の眷属側からは、わたくしの主君フェルメア様が立候補。神々との融和政策を推し進めていましたから、都合がよかったのです」


「な、なるほど~。それで、神様側の代表が……」


「そう。ヴァスラサックと、その一派の者たちじゃ。彼女らは計画をスムーズに進めるため、創世六神の許しを得て下天した。そうして生まれたのが、ヴァスラ神族と呼ばれる支族神の一族じゃ」


 コリンとマリアベルが語る衝撃の真実に、カトリーヌたちはどう答えていいか分からなくなってしまう。自分たちが教えられた歴史と、まるで違うのだ。


 困惑してしまうのも、無理はないと言えた。少しして、ようやくそろそろとアニエスが手を上げて質問をする。


「あ、あのー。ボク、そんなの初耳なんだけど。どの歴史書にも、そんなこと書いてなかったよ?」


「そりゃそうじゃ。邪神との戦いの中で、そうした情報が失われてしもうたのじゃから。みなが知らぬのも無理はない」


「話を戻しましょう。最初の千年は、計画が順調に進んでいました。ヴァスラサック率いる七人の神と、我が主君が手を取り合い、理想郷の完成まであと一歩のところまで来たのです。ですが……」


「突如として、ヴァスラサックが反旗をひるがえしたのよ。奴は心の内に、恐るべき野望を秘めておったのじゃ。それを実現させるべく、計画に志願しおったのよ」


 途中までは、理想郷を創る計画が順風満帆に進められていたようだ。だが、その計画は頓挫した。他ならぬヴァスラサックの手によって。


「あやつは、神と闇の眷属……相反する二つの種族の力を一身に集め、究極の力を宿す覇者になろうとしておったのじゃ」


「反乱を起こしたヴァスラサックは、自分の仲間である六人の神を喰らい、自らの子として()()()()()のです。そうして産まれた八人の子をしもべとし、イゼア=ネデールの侵略を始めました」


「なんか……想像しとった以上に壮絶なことが起きとったんやな。正直、頭がついていかへんわ……」


 エステルの漏らした呟きに、アシュリーたちも頷き同意する。彼女たちからすれば、遥か遠い神世の出来事なのだから、仕方ないことだ。


 コリンは机の上に置かれたカップを取り、紅茶を一口飲む。喉をうるおした後、続きを話し出す。


「まずはじめに、ヴァスラサックは最大の障害になるママ上を大地から追い出した。そうした上で、八人の子どもたちを用い侵攻を進めておったのじゃがな」


「その中から二人、邪神を裏切った者たちがいました。一人は、兄妹たちの末子。もう一人は……」


「ししょーのお父さん、なんだね?」


「はい。兄妹たちの長兄、豊穣と厄災を司る闇の神……ギアトルク様です」


 アニエスが問うと、マリアベルが答えを返す。邪神の子として産まれてなお、フリードは正義のために戦うことを選んだのだ。


「パパ上はヴァスラサックが捨て去った善の心、その全てを受け継いで産まれた。故に、母の悪行に加わることなく……虐げられ、苦しむ民のために戦うことを選んだのじゃ」


「ン? ちょっと待て、もう一人はどうしたンだ?」


「もう一人の裏切り者は、イゼア=ネデールに取り残されていた闇の眷属たちを助け、いずこかへと消えていったそうじゃ。未来永劫、中立の立場を貫くつもりなのだろうとパパ上は言っておったわ」


「そこから先は、皆様も存じている通り。ギアトルク様を筆頭とした星騎士たちが集い、ヴァスラサックと六人の神の子どもたちを打ち破ったのです」


 歴史の真実を知り、アシュリーたちは言葉に出来ない衝撃を受ける。しかし、これで全ての謎が解けたわけではない。


 何故ギアトルクがイゼア=ネデールを去ったのか。コリンの素性を偽る必要があったのか……それらの謎がまだ、残っている。


「でも、どうしてギアトルク様はこの大地を去ってしまったの? 別に、残ってもよさそうだけれど」


「そうはいかなかったのじゃよ、カトリーヌ。当時、神への憎しみがこれ以上ないほど高まっておったらしくての。パパ上は、この大地に神はいらぬと考えたのじゃよ」


「復興のために尽力し、今ある国々の基礎を造り出した後。ギアトルク様はこの大地を去りました。『かつての理想郷は、人の手に委ねるべし』と」


「その途中で、天上の神々とイゼア=ネデール、双方の不干渉も取り決められたのじゃ。もう二度と、悲劇を繰り返さぬようにな……」


 コリンたちの話を聞き、アシュリーたちは納得する。自分たちを苦しめた邪神を倒したと思ったら、今度はその子どもが支配者になる。


 そんなのは、到底受け入れられないだろう。ギアトルクが下した判断を、彼女たちは間違っているとは思わなかった。


「せやから、コリンはんは自分が半神(デミゴッド)やっちゅうことを隠しとったんか?」


「いえ、それに関しては別の理由です。お坊っちゃまの素性を偽り、徹底的に存在を秘匿していたのは……」


「わし自身を守るためじゃよ。天上の神々や、魔戒王たちからな」


「ん?? つまり……どういうことや?」


 いまいち話が呑み込めていないエステルたちに、コリンは苦笑いする。再び紅茶で口を湿らせた後、分かりやすく話して聞かせる。


「簡単なことじゃ。わしを敵対勢力殲滅のための兵器として利用しようとする者が現れることを、ママ上たちは危惧しておったのじゃよ」


「お坊っちゃまの持つ神の力は、あまりにも強大かつ未知数。魔の力も併せれば、神も闇の眷属も瞬く間に滅ぼせるでしょう」


「なるほど。確かに、そりゃ利用したがる奴がうじゃうじゃいそうだな」


 マリアベルの言葉に、アシュリーは頷く。コリンの小さな身体に、世界を滅ぼせるほどの力があるということを意識し、思わず冷や汗が流れる。


「だからこそ、わし自身がそうした悪意を持つ者に対抗出来る力を得るまで……存在を隠されてきた。異空間に浮かぶこの城で、ずっとな」


「ですが、それももう終わり。いつまでも存在を隠し通すことは出来ません。それこそ、お坊っちゃまを永久に幽閉でもしない限りは。そんなことは、誰も望みません」


「この大地で、わしは大きく成長出来た。みなとの出会いが、多くのものを与えてくれたのじゃ。本当に……みなと出会えて、よかった。心からそう思えるよ」


 これまで共に過ごしてきた仲間たちに、コリンは改めて感謝の言葉を伝える。彼女たちと出会い、共に戦ったからこそ、コリンは一人前になれたのだ。


「へっ、よせよ! 面と向かってンなこと言われたらよ、全身ムズ痒くなるぜ!」


「わたしも、コリンくんに出会えて本当によかったと思うわ~。ね、みんな」


「もちろん! ししょーに会えたから、お姉ちゃんと再会出来たわけだしね! お礼言わなきゃいけないのは、こっちの方だよ」


「マリス、同意。コリン、みんな助ける。次、マリスたちの番。お互い、支える。とても、素敵」


「せやなぁ。ウチもそう思うわ」


 礼を言われたアシュリーたちも、嬉しそうにしている。そんな彼女たちに満面の笑顔を向けながら、コリンはさらに話を行う。


「そうか、わしも嬉しいぞよ。恩返しになるかは分からぬが、みなをラーカに招待しようと思う。これまでの礼じゃ。闇の宴を楽しんでおくれ」


「お、いいね! そりゃ楽し」


「なので、皆様をどこに出しても恥ずかしくない淑女にしなければなりません。何しろ、貴女たちとわたくしたちでは、文化にいろいろと差異がありますからね」


 マリアベルが指を鳴らした、次の瞬間。彼女の分身が五人現れ、アシュリーたちを担ぎ上げる。嫌な予感を覚え、乙女たちは冷や汗を流す。


「ラーカまであと三日。それまで、みっちりとシゴいて差し上げますので覚悟なさってください。宴での作法、踊りの型、暗域の一般常識……ふふ、とても忙しくなりますね」


「おい、待て! その笑みはなんだ、明らかに悪意があるぞ! コラ、どこ連れてくんだ!? コリン、助け」


「みんな、ファイトじゃよ~」


「あああああああああ!!!」


 イイ笑顔を浮かべるマリアベルによって、アシュリーたちは別の部屋に連行されていく。その様子を、微笑みながらコリンが見送るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] またぶっ飛んだ話だったな(ʘᗩʘ’) でも全ては今回の宴を迎える為に必要な事だしな(゜o゜; ラ・グーも死んだ事だし上手く行けばその空席に座れたりして(☉。☉)! そんな訳だから花嫁修業と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ