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80話―ナノボールの脅威

「連中を叩きのめせ! リカバリーする時間を与えるな!」


「八年分の恨みを晴らしてやる! 皆殺しだ!」


 ナノボールによって半壊した連合軍にトドメを刺すべく、教団の戦士たちが襲いかかる。洗脳を解くために奮闘するエステルを除いた星騎士の末裔たちが、敵を迎え撃つ。


「ふん、何人来たってムダだよ! ボクたちが返り討ちにしてやる! こい、樹双剣グーラヘイム! 食らえ、桜舞乱刃!」


「全員、撃ち抜く。旋風弓ゲイルフローン……ストームアロー!」


「エステルちゃんたちには手出しさせないわよ~。氷撃鎚バハクの力、見せてあげる。アイスボール・ショット!」


 迫り来る教団の戦士たちに、刃のように鋭い桜の花びらと無数の風の矢、そして氷の塊が襲いかかる。カトリーヌたちの本気の攻撃に、次々と倒れていく。


「うぎゃあああ!!」


「魔法障壁を張れ! 懐まで飛び込めばこっちが有利だ!」


「行け、行け、行け! 犠牲など気にするな、星騎士を一人でも殺せれば一気に有利になるぞ!」


 仲間の死など省みず、戦士たちはどんどん突き進んでくる。武器による攻撃だけでなく、火の玉や雷の矢を放つ魔法を併用し攻め立てる。


「あらあら、なりふり構わないのね~。いいわ~、ならこっちも手加減なしよ~。そ~れ、アイススパイク!」


「ぐああっ! あ、足があっ!」


「よくも仲間を! 食らえ、ファイアボール!」


「あら、そんなの当たらないわよ~。えいっ」


 カトリーヌはハンマーを地面に叩き付け、氷のトゲを発生させて戦士たちを貫く。間一髪、攻撃を避けた戦士は火の魔法で反撃する。


 が、カトリーヌの左腕に生成された分厚い氷のタワーシールドに阻まれ、火の玉は消えてしまう。反撃失敗を嘆く間も無く、風の矢が飛来する。


「そ、そんな……ひぎゃっ!」


「目標、沈黙。どんどん、射つ。敵、減る。みんな助かる」


「そうそう、その調子だよ! エステルちゃんのためにも、時間を稼がないとね」


 弓に新たな矢をつがえながら、マリスはクールに呟く。その後ろでは、エステルが大規模な砂操作を行っていた。


 以前、オラクル・アムラとの戦いでやってみせたように、洗脳されている者たちの体内に砂を流し込んでナノボールを排除しようと試みているのだ。


「みんな、頑張ってぇや! こっちの作業が上手くいけば、教団だけに集中して戦える。終わったら叫ぶさかい、それまで耐えてぇな!」


「洗脳されてる仲間の相手は私たちに任せて! 絶対そっちに手出しはさせないから! さあ、行くよみんな。グレイ=ノーザスの騎士の底力、見せてやるぞー!」


「おおーーー!!」


 洗脳されずに済んだ騎士や冒険者、ハンターたちは操られている仲間の攻撃がアニエスやエステルたちに向かないよう、壁となって食い止める。


 戦士たちを送り込んでいる魔法陣の破壊も順調に進み、このまま優位に戦いを進められると誰もが思っていた、その時。今一番来てほしくない者が現れた。


「ほう、これはこれは。まさに一進一退の攻防、というわけだ。フフッ、こうでなくてはゲームは面白くない」


「! あれは……どうやら、敵の総大将が出てきたみたいだよ!」


「こんなクソ忙しいっちゅう時に! ホンマ空気読まへんな!」


 新たに開いた黒い魔法陣から現れたのは、この国で起きた事件の黒幕。オラクル・ゼライツだった。その後ろには、マドックもいる。


「さあ、第二ゲームの時間だ。ここからは……俺も楽しませてもらおうか! ナノメタル・ソード!」


「アカン、こっちに来るで! 誰か止めへんと!」


「なら、わたしに任せて! ここから先には通させないわ!」


「マリス、手伝う。一人より、二人。それ、一番」


 ナノボールを集合させて作り出した二振りの剣を構え、突撃するオラクル・ゼライツ。迎え撃つのはカトリーヌとマリスの二人だ。


 教団の戦士たちの相手をアニエスに任せ、二人は走り出す。真っ先に仕掛けたのはカトリーヌだ。全身に力を込め、勢いよく跳躍する。


「そ~れ、メタル・クラッシュ!」


「おっと、危ない危ない。いくら俺でも、お前の一撃をまともに食らえばタダでは済まないからな」


「あら、いいこと聞いちゃったわ~。つまり~、わたしが全力でブン殴るだけで、あなたは死ぬってことでしょ~? うふふふふ」


「そう簡単に攻撃を食らうとは思わないでいただきたい。逆に……お前を切り刻んでやろう! ソニック・タップダンス!」


 両手に持った剣を猛スピードで振るい、オラクル・ゼライツは苛烈な攻撃をカトリーヌに加える。タワーシールドをドッシリ構え、カトリーヌは斬撃を防ぐ。


「かなりのパワーね、腕が痺れちゃうわ~」


「案ずるな、もうその心配をする必要はない。お前の盾ごと、腕を切り刻んでやるのだから!」


「それ、無理。マリスいる、お前死ぬ。トップエアー・アロー!」


「これは……身体が浮くだと!?」


 カトリーヌとの戦いに集中していたオラクル・ゼライツの側面から、突風の矢が放たれる。矢は途中で暴風に変わり、ゼライツを吹き飛ばす。


「カトリーヌ、あいつ遠く、離した。みんな、離れる。気にせず、倒せる」


「ありがとう、マリスちゃん。ここだと他のみんなに流れ弾が当たっちゃうかもしれないしね~、遠くに飛ばしたのはいい判断だわ~」


 本隊と違い場所で戦えば、奮戦しているアニエスや洗脳を解除している最中のエステルを巻き込む恐れがある。故に、マリスは一計を案じた。


 相手を遠く離れた雪原に吹き飛ばすことで、仲間への被害を気にせず思う存分戦えるようにしたのだ。カトリーヌに誉められ、マリスは笑う。


「誉める、嬉しい。もっと誉めていい」


「うふふ、偉い偉い。さあ、行きましょうか。早く倒して」


「そうはさせるか! オラクル・ゼライツの元には行かせ」


「うるさいわ~。えいっ」


「うぎゃっ!」


 二人を阻止しようと襲いかかるマドックだったが、あっさりとハンマーに叩き潰されて死んだ。ついでに魔法陣を破壊し、二人は追撃をしに向かう。


「いた、あそこ。雪の上、倒れてる」


「このまま近付くのは危険そうねぇ、念のために……アイスボール・ショット!」


 本隊のいる場所から東に数十メートルほど離れた雪原に、オラクル・ゼライツが倒れている。接近したところへの奇襲を警戒し、カトリーヌは氷塊を投げつける。すると……。


「!? あらあら、アイスボールが木っ端微塵になっちゃったわ~。マリスちゃん、今なにが起こったのか見えた?」


「小さい、丸いの。突撃、バラバラ。近付く、危険」


 オラクル・ゼライツに届く前に、氷の塊が見えないナニカによつて粉砕されてしまった。超視力でマリス全てを見ていたマリスが、何が起きたのかを説明する。


 どうやら、大量のナノボールが高速で突撃し、氷の塊を木っ端微塵に粉砕したようだ。奇襲が失敗したゼライツは、何もなかったかのように立ち上がる。


「いやあ、惜しいものだ。そのままこっちに来ていれば、二人まとめてハチの巣に出来たのだがね」


「……カトリーヌ。あいつ、強い。本気出さない、死ぬ」


「そうね、マリスちゃん。第二陣が来れば本隊の方は何とかなるけれど……あいつだけは、ここで倒さないといけないわ」


 大量のナノボールをローブの下に潜り込ませ、何かをしているオラクル・ゼライツを見ながらカトリーヌとマリスはそう話す。


 得物を持つ手に力を込め、一歩前に進む。それを見たゼライツは、ローブを脱ぎ捨てる。その下から出てきたのは……ナノボールによって構成された、白銀の鎧だ。


「さあ、来るがいい。第三のゲームを始めよう。もっとも、負けるつもりは欠片もないが……ね」


「うふふ、それはこっちも同じよ。ここで死んでもらうわ。オラクル・ゼライツ」


 陽光が降り注ぐ雪原で、最後のウォーゲームが始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 群体能力者は下手に近づくより結界で包んで一網打尽にしないと拉致あかんぞ(ʘᗩʘ’)
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