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77話―アシュリーの帰還

「アシュ……リー? そなた、何故ここに……?」


「こまけぇ話は戦いながらな。加勢するぜ、コリン」


 窮地を救いに現れたのは、母レイチェルと共に星遺物継承のための修行の旅に出ていたアシュリーであった。鳥の魔物の背中から、コリンの元に降り立つ。


 相当過酷な修行をしてきたのだろう、身に付けている鎧は傷だらけだった。その傷を隠すように、深紅のマントを羽織っている。


「そなた、だいぶ修羅場を潜り抜けてきたようじゃな。わしには分かる。相当な鍛練を積んだのじゃろ?」


「ああ。おフクロに死ぬ寸前まで鍛えられてきたからな。だから……」


 コリンと話をしている途中、アシュリーはおもむろに槍を振るう。直後、炎の壁を突き抜けてきた二つの鉄球が両断され地に落ちた。


「――アイツの相手は任せな。生まれ変わったアタイの力、見せてやるよ」


 そう言いながら、アシュリーは不敵な笑みを浮かべる。炎の壁を消し、ゆっくりと後ろを振り向く。オラクル・メイラーと向かい合い、対峙する。


「……アシュリー・カーティス。『獅子星』ジェイド・カーティスの末裔。炎と熱を自在に操る力を持つ……」


「へえ、アタイのこと知ってンのか。そいつぁ光栄だな。キュイキュイよく動くなァ、その目。かくし芸か何かか?」


「解析しているのよ。あなたの実力をね。その結果を教えてあげる。あなたが私に勝つ確率は……たったの0.4%よ」


「ハッ、本当にそンな結果が出たってンならよ。おめーの目は文字通りフシアナってわけだ。ポンコツ人形はサッサとゴミ箱に行きな?」


「あら、単細胞の下等生物が何か吠えてるわね。生憎と、ミジンコ以下の存在の言葉なんて響かないわ。これっぽっちもね」


 互いに悪口をぶつけ、場の空気が急速に冷え込んでいく。近くにいたらまずい、そう判断したコリンは静かに後退し距離を取る。


「ふっ……ふふふ、ふふふふふふふふ」


「はっ、はははははははは!!」


 それぞれ悪意の籠った言葉をぶつけ合った二人は、睨み合いながら笑い出す。表情こそ笑顔だが……両方とも、目だけは笑っていなかった。


「てめぇぶっ殺す! 誰が単細胞のミジンコだコラァッ!」


「黙りなさい。お兄様に綺麗だと誉めてもらった目を侮辱した罪、地獄で悔いろ! ブレイク&ラン・アウト、第二ゲームスタート!」


 互いに怒りを爆発させ、本格的に戦いが始まる。オラクル・メイラーは再び右腕に浮遊衛星となるボールを八つセットし、勢いよく放つ。


 発射された衛星はアシュリーを包囲するように浮遊をはじめる。範囲外に逃れたコリンは、大声で警告の言葉を発した。


「その鉄球、中々に固いぞよ! 他の鉄球にぶつかって加速させてくる、気を付けるのじゃ!」


「避けきれるものなら避けてみなさい。エイトボール・ショット!」


 間髪入れず、攻撃用の鉄球が八つ放たれる。これまで操っていた六つの鉄球のうち、撃墜されなかった四つも加わり……合計十二個の鉄球が、アシュリーを襲う。


「ケッ、くだらねえ。こんな小細工、おフクロの修行を乗り越えたアタイにゃ効かねえンだよ! 星遺物、炎槍フラウルダイン! パワー全開、焼き尽くせ!」


 四方八方から襲ってくる鉄球を避けながら、アシュリーは右手に持つ銀色の槍に魔力を込めた。すると、槍が深い深紅に染まり熱を帯びはじめる。


 次の瞬間、灼熱の炎が槍から吹き出しアシュリーを包み込む。凄まじく温度が高いらしく、飛来する鉄球は炎を突き抜ける前に蒸発してしまう。


「!? そんなバカな! たかが炎ごときに、私の鉄球が溶かされるなんて!」


「言ったろ? アタイは強くなったンだ。星遺物を託されるほどに……この国の皇帝に、助っ人として頼られるくらいにな! フラム・バル・スレイル!」


 十二個の鉄球を全て蒸発させたアシュリーは、脚に力を込め真上に飛び上がる。槍を横に伸ばし、身体を回転させて炎の刃を生み出す。


 それらを飛ばし、自身の周囲を滞空する衛星を全て両断してみせた。第一ゲームはメイラーが勝ったが、第二ゲームはアシュリーの圧勝だ。


「衛星まで……! くっ、こうなれば!」


「おっと、もうゲームは終わりだぜ! これでジ・エンドだ、くたばりなぁ!」


「そうはいかないわ、ここで倒れたらお兄様が悲しむもの! シェイクボール・ショット!」


 このまま負けるわけにはいかないと、オラクル・メイラーは次の一手を放つ。これまでと違う、少し小さめな緑色の鉄球が発射された。


「へっ、また鉄球かよ。また槍で真っ二つにして」


「今よ、加速しなさい!」


「んなっ!? クソッ、舐めたこと……うおっ!?」


 鉄球を両断しようと身構えていたアシュリーだが、突如加速してきたことに焦ってしまう。鉄球を切ることは出来た……が、それこそがメイラーの用意した罠。


 真っ二つに鉄球が割れた次の瞬間、高周波が放たれアシュリーの耳を直撃する。聴覚をダイレクトに攻撃され、アシュリーはダウンしてしまう。


「ぐ、クソ……やりやがったな、このクソアマ……!」


「形勢逆転、トドメよ。やはり、解析通りの結果になったわね。あなたは私に勝てない! 奥義、ブレイクアウト・ショット!」


 フラついて動けないアシュリーを仕留めるべく、オラクル・メイラーは金色の鉄球を放つ。高速で回転しながら、鉄球は飛んでいく。


「何者も、導き出された確率を覆すことは出来ないわ! ここで無様に死になさい、アシュ」


「のう、お主。誰か忘れておりゃせんか? いかんぞよ、()()()()()()()()()ことを忘れては、な」


 勝利を確信して笑うオラクル・メイラー。だが、彼女はアシュリーに気を取られてすっかり忘れていた。コリンの存在を。


「なっ――!?」


「もう遅い! ディザスター・シールド!」


 身体を休めて体力を回復させたコリンは、アシュリーの目の前に闇の盾を作り出す。互角の強度を持つ盾と鉄球は、互いに砕け散り消滅する。


「邪魔をするな、ガキ! スピンボール・ショット!」


「ぐっ! つう……」


「順番を変える。まずはお前から殺してやるわ。抵抗出来ないように手足を撃ち抜いてから、ゆっくりといたぶって……」


「待てよ、てめぇ。どこに行くってンだ?」


「な……ぶふっ!」


 妨害に怒ったオラクル・メイラーは、もう一度鉄球を放ちコリンの右足を貫く。そのまま残りの右腕と左足も破壊し、トドメを刺そうとする。


 が、コリンに近付こうとする彼女の肩が、強い力で掴まれる。オラクル・メイラーが振り向くと同時に、顔面に拳が叩き込まれた。


「コリンをいじめる前によぉー、アタイを仕留めてけや。なあ? もっとも、てめーのようなクズに殺されてやるつもりはねぇけどな」


「あり、得ない……。復帰までが早すぎる。そう簡単に回復出来る威力じゃなかったはずよ……」


「ハッ、星騎士の末裔舐めンじゃねぇよ。数分ありゃあ、この程度楽々回復よぉ」


 吹っ飛ばされた後、地面を転がったオラクル・メイラーはよろめきながら立ち上がる。コリンが時間を稼いだおかげで、アシュリーの回復が間に合ったのだ。


「おの、れ……!」


「そういやぁよぉー……おめー、さっき確率がどーたらとか言ってたよなぁ? 今この状況でもよ、アタイに負けねえって言えるか? なあ、オラクルさんよ」


「くっ……お前の、勝率は……」


 オラクル・メイラーの瞳孔が開き、再び解析が行われる。今回、弾き出された答えは――。


「……100%よ。星騎士の末裔」


「なら、これで終わりだな! 覚悟しやがれ、オラクル・メイラー!」


「ぐうっ!」


 アシュリーは槍を叩き込み、オラクル・メイラーを空高く跳ね飛ばす。戦いに決着をつけるべく、槍に炎を宿しトドメの一撃を放つ。


「修行の成果を見せてやるぜ! 食らいな! ミリオンスピア・ガトリング!」


「う……あああああああ!!!」


 凄まじい勢いで放たれる突きの連打が、オラクル・メイラーの身体を穿つ。猛き獅子の牙が、悪を打ち破ったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「てめぇぶっ殺す! 誰が単細胞のミジンコだコラァッ!」 これだと脳筋呼ばわりしたら殺されるwwwwwwww
[一言] 謎の助っ人役はアシュリーだったか(ʘᗩʘ’) これで今回の敵幹部も兄一人か(゜o゜;でも妹殺られたのはバレてる筈だし怒って暴走して来たりして(>0<;)
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