76話―スティールボール・ストライク
「コリンくん、体調はどう?」
「うむ、一晩ぐっすり寝てよくなったぞよ! 完全復活とはいかぬが、八割は快復したわい。看病してくれてありがとうのう、イザリー殿」
イザリーの看病とマリアベルの薬により、コリンの体調は全快していた。すっかり熱も収まり、元気いっぱいだ。
着替えを済ませたコリンは、館のあちこちを回る。結局、何だかんだで一晩付きっきりで看病してくれたイザリーや、一座の人々にお礼を伝えた。
「うふふ、一時はどうなるかと思ったけど。やっぱり、子どもは元気なのが一番ね。そう思わなぁい? マリアベルちゃん」
「ええ。お坊っちゃまには例の力を使わないよう釘を刺しましたし、しばらくは大丈夫でしょう。ミセス・マデリーン、助力感謝致します」
「や~ねぇ、困った時はお互い様よぉ! コリンちゃんにはたくさん助けてもらったもの、恩返ししなきゃオンナが廃るってものよ。オホホホホ!」
常に吹雪に閉ざされているノースエンドでは珍しく、雲一つない快晴が広がっている。まるで、コリンの快復を祝うかのように。
館の最上階にあるマデリーンの私室にて、二人は和やかに会話している。後は、カトリーヌたちの所に戻り合流するだけ……の、はずだった。
「……この距離まで近付けば、十分な威力が出せるわ。始めましょうか。神託魔術……【ブレイク&ラン・アウト】発動」
館から数十メートル南にある、崖の上。先端部に陣取るオラクル・メイラーは右腕を前に伸ばす。すると、腕が変形を始めた。
溝が付いた細長い台座のような形になり、肩の付け根付近にビリヤードで用いるキューのような短い棒が接続される。
「ショットアーム展開完了。続いて、クッショニング・ラン・ボール配備。射出!」
台座の上にテニスボールほどの大きさのボールが八つ並び、それを棒が勢いよく打ち出す。発射されたボールは空を突き進み、館を囲むように漂いはじめる。
「これでよし。さあ、いくわよ。みんな纏めてシマツしてあげる。第一ゲーム、スタートよ!」
ニヤリと笑いながら、オラクル・メイラーは再度ボールを射出する。真っ直ぐ進むかと思われたが、途中で風に煽られ右へ逸れていく。
外れるかと思われたが、先に放たれていた八つのボールのうち、一つが動き出す。攻撃用のボールにぶつかり、軌道を修正したのだ。
「よし、これで全員にお礼を言えたのう。そろそろ支度をして、おいとませねば」
「まあまあ、そんなこと言わないで。お昼ご飯を食べていってよ、ママの作る料理、とっても美味し」
「! イザリー殿、危ない!」
「きゃっ!?」
三階東側の廊下を歩いていたコリンとイザリー。和やかな会話をしている最中、コリンは不穏な気配を察しイザリーに飛び付き押し倒す。
直後、窓をブチ破り鉄球が飛び込んできた。壁を破壊し、奥にある部屋まで貫通して床に落ちる。コリンの行動がなければ、イザリーは死んでいただろう。
「な、何? もしかして、また敵!?」
「どうやら、そうらしいのう。館を覆うバリアをも容易く貫通する威力……並みの相手ではなさそうじゃ」
間一髪、難を逃れた二人。バゾッドたちを退けたばかりで気が緩んでいるところへの襲撃は、かなり効果があったようだ。
「ふふ。驚いているわね。でも、これで終わりじゃないわ。皆殺しにしてあげる。一人残らず、鉄球で貫いてあげるわ! エイトボール・ショット!」
館の周りを浮遊する衛星と目をリンクさせて相手の様子をチェックしつつ、オラクル・メイラーはさらなる攻撃を放つ。
八つのボールが、バラバラに散開しながら館へ向かって飛ぶ。衛星とぶつかり、鉄球が乱舞する。館の各所を貫き、中にいる一座を強襲する。
「うわっ、なんだ!? 何か飛んでくるぞ!」
「みんな逃げろ、館の奥に逃げ……ぐああっ!」
コリンたちのみならず、一座の者たちにも無差別に鉄球が襲いかかる。館の中に飛来し、勢いを失くして床に落ちた鉄球は外に転移する。
浮遊衛星の上にテレポートし、弾かれることで再び勢いを取り戻し館内の者たちを攻撃する。メイラーはその繰り返しで、全員を仕留めるつもりなのだ。
「くっ、まずいのう。このままではみな殺されてしまう。マリアベル、マリアベルよ!」
「はっ、ここに。マリアベル、推参しました」
「また敵が攻めてきおった。わしが迎え撃つでな、マリアベルはみなを城に避難させるのじゃ! 館から離れさえすれば攻撃は届かぬだろうからの!」
「かしこまりました。ただちに、全員を城に送ります。お坊っちゃま、くれぐれも無理はなさらぬよう」
このまま館に籠っていては全滅する。そう考えたコリンは、一座のメンバーの安全確保をマリアベルに任せ、こちらから打って出ることを決めた。
「コリンくん、気を付けてね!」
「うむ、行ってくるぞよ。済まぬが、窓から行かせてもらう。ていっ!」
攻撃が途切れた隙を突き、コリンは壊れた窓から外に出る。雪が積もる庭に降り立ち、そのままバリアを抜け近くの岩場に飛び込む。
「アレか、鉄球を撃ち込んできておるのは。敵の居場所が分からぬ以上、まずはアレを破壊しておこうかのう。ディザスター・ランス!」
館の周囲に浮遊している衛星を見上げ、コリンは手始めに闇の槍を放つ。攻撃は見事直撃したが、傷一つ付いていない。
予想はしていたが、基本魔法では歯が立たないようだ。【雨】と【回転】、どちらで攻めようかコリンが考えていると……。
「外に出たわね。なら、二つを残して他の鉄球を例の子に向けましょうか。ボールコントロール!」
「! 鉄球がこっちに……なるほど。どうやっておるかは知らぬが、わしの動きは全て把握されておるというわけか!」
館から六個の鉄球が飛び出し、衛星を介して自分めがけて降ってきたのを見てコリンはそう叫ぶ。咄嗟に横に飛び、攻撃を回避する。
魔力のレーダーを用いて敵の居場所を探りつつ、鉄球への対処も同時に行う。星遺物、ブラックディスペアを呼び出し魔力を増幅させ……。
「ディザスター・シールド【天蓋】! これで、どの方向から攻撃が来ても大丈夫じゃろう。まずは敵の居場所を暴かねば」
コリンはドーム状の強固な闇の盾を展開し、飛来する鉄球から身を守りながら敵の居場所を探る。しばらくして、館の南に強大な生命反応を捉えた。
「見つけた。距離的に……ふむ、あの崖の上じゃな? なれば、すぐに向かうとしよう。それっ、今じゃ!」
オラクル・メイラーの居場所を探知したコリンは、全力疾走して崖へ向かう。それを阻むように、六個鉄球が襲いかかる。
館を囲んでいた八つの浮遊衛星のうち、二つがコリンに追随する。よほど自分の所に到達されたくないとみたコリンは、ニッと笑う。
「ホッ、何者かは分からぬが墓穴を掘りおったな。これでハッキリしたわ、やはりあの崖におる。なればわざわざ向かうまでもない! ディザスター・ランス【旋回】!」
敵の居場所が確定した以上、わざわざ危険を犯して直接出向く必要はない。【回転】系統の中位魔法を発動し、コリンは崖に闇の槍を撃ち込む。
「直撃じゃな! 崖が崩れれば無事では済むまい。攻撃を続行してくるか、それとも……」
高速回転する槍の直撃により、崖が崩落する。それと同時に、盾を攻撃していた鉄球の動きが止まり、地面に落ちて動かなくなった。
それを見たコリンは、何かしらの形で敵に有効打を与えられたと考える。再度攻撃が始まる前に、距離を詰めようとするが……。
「さて、今のうちに……ぐっ!? ぬうっ、地面から鉄球が……!」
「……やってくれたわね、ガキ。でも、その盾も万能ではないようね? 覆えていない足元からの攻撃は防げないんだもの」
コリンの足元の雪が盛り上がり、鉄球が飛び出してきたのだ。左肩を貫いた鉄球は、盾をも突き抜け飛んでいく。
直後、コリンの数メートル前に女がテレポートしてくる。館を攻撃した張本人、オラクル・メイラーだ。
「流石に、病み上がりでは避けきれぬか。全く、たいした威力じゃのう。……貴様、何者じゃ?」
「私はオラクル・メイラー。あなたが知るのはそれだけ。それ以上知る必要はないし、教えもしない。あなたはここで、私の神託魔術……【ブレイク&ラン・アウト】の餌食になるの」
貫かれた肩を押さえるコリンに、オラクル・メイラーはゆっくり歩いていく。右手を向け、次の鉄球を発射する体勢に入りながら。
「くっ、流石にダメージが大きすぎる、か。この距離では、避けきれぬ……」
「お兄様が出るまでもないわ。あなたを殺して、館にいる連中も皆殺しよ。さ、どこから貫かれたい? その綺麗な顔? それとも、足? 選ばせてあげ――!?」
「むうっ!? なんじゃ、この炎の壁は!」
鉄球が放たれようとした、その時。地面から炎の壁が吹き出し、コリンとメイラーを遮る。二人が驚いていると、頭上から声が響く。
コリンにとって、頼もしく懐かしい声が。
「そこまでだぜ、クソアマ! それ以上コリンに手ェ出すってンならよぉ……相手になってやるぜ、このアタイ……アシュリー・カーティスがなぁ!」
コリンたちが上を見ると、巨大な鳥の魔物が滞空している。その背には――かつて別れた、アシュリーが乗っていた。
太陽をバックに、炎が吹き出す槍を右手に持っている。地上を見下ろし、若き獅子は笑う。
「ただいま、コリン。修行を終えて帰ってきたぜ!」
頼もしい仲間が、帰還した。




