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74話―雪国大捜査線!

 翌日の朝。場所は変わり、オルダートライン城。広い講堂にモリアンやマーゼットら帝国騎士団、そしてカトリーヌたちが集まっていた。


 昨夜行われた選帝侯との話し合いにより、貴族一家殺害事件に進展があったようだ。皇帝たちが出した結論が、伝えられようとしている。


「諸君! こんな朝っぱらから集まってくれてありがとう。さて、手短に本題を述べる。数日前に起きた例の事件、その犯人が判明した!」


 壇上にいるダールムーアの言葉に、騎士たちの間にざわめきが広がる。協力を要請されたカトリーヌたちも、いつになく真剣な顔つきだ。


「予想通り、ヴァスラ教団の手の者だった。目撃証言から、二十代くらいの男女二人組ということも分かっている。目撃者の証言を元に、似顔絵も作成済みだ」 


「凄いわね~。これまでの努力が実を結んだんだわ」


 説明を聞き、カトリーヌは小声で呟きを漏らす。その間にも、話は続いていく。犯人を捕まえるために、いよいよ動き出すようだ。


「犯人たちが逃げるとすれば、南以外にはない。そこで! 国境全体に騎士団を配備して封鎖し、逃げ道を塞ぐ。そうして、徐々に警備線を北上させるのだ」


「なるほど、そこを南進する部隊と挟み撃ちにして犯人をあぶり出そう、ということですね?」


「そうだ、モリアン将軍。この国は寒く生存に適さない土地が多い。どこに潜伏しようとも、長い間隠れ潜むことは不可能。他国への逃亡さえ阻止すれば、人海戦術で探し出せる」


 整備された街の外、雪と氷に閉ざされた土地に長期間滞在するのはまず不可能だ。そこに犯人たちを追い込み、数の力で探し出す。


 それが、ダールムーアたちが立てた作戦だ。騎士たちも、殺された一家の無念を晴らさんと気合いとやる気に満ちている。


「すでに、各選帝侯子飼いの騎士団が国境を固めに向かった。お前たちも加わり、犯人を追い詰めろ! 全ての街に手配書を配り、冒険者ギルドやハンターズギルドとも連携する。我々に牙を剥いた者に、裁きを下すのだ!」


「おおーーー!!」


 種族の壁を越え、全員が一丸となって犯人を捕縛せんと張り切っている。そんな中、ダールムーアはカトリーヌたちの方を見た。


「さらに、だ! 今回、かの星騎士の末裔たちにも協力を要請することにした。みな、こっちに来てくれるか? 改めて紹介したい」


「は~い。行きましょ、みんな」


「うん! 見過ごせないもんね、ボクたちも協力しないと!」


 カトリーヌたちとしても、放置したまま祖国に帰るつもりはない。教団が絡んでいるというのであれば、なおさらだ。


 ここにいないコリンの分まで、彼らに協力することを決めていた。壇に上がると、一斉に騎士たちが値踏みするような視線を向けてくる。


「諸君らも、彼女たちのことはよく知っているだろう。一人ひとりが、俺たちの想像も出来ないような強大な力を秘めている。彼女たちの協力があれば、早期の解決も夢ではない!」


「マリス、誓う。犯人、必ず捕まえる。みんな、安心させる。コリンなら、きっとそうする。だから、マリス頑張る!」


「せや、こういう時こそウチの能力が輝くんやで。見といてや、みんな。必ず犯人とっ捕まえたるわ!」


 騎士たちを鼓舞するべく、マリスとエステルは自身の決意を述べる。一部を除き、騎士たちは彼女らのことを受け入れてくれたようだ。


「今この瞬間から、犯人捜索を開始する! 騎士たちよ、暴雪で鍛えられたグレイ=ノーザスの民の底力を見せてやれ!」


「おおーーーー!!」


 国を挙げての大捜索が、始まる。



◇―――――――――――――――――――――◇



「オラクル・ゼライツ。この道もダメです、すでに騎士たちが検閲所を設営しています。このまま向かえば、確実にバレてしまいます」


「面倒なものだ。吹雪で足止めを食らっている間に、ここまで捜査の手を広げられるとはね。あの皇帝、やはり暗殺しておくべきだったな」


 その頃、二重帝国最南端の町、ラクタールの郊外に一台の馬車が停まっていた。国境を越えてゼビオン帝国に向かおうとするも、一歩遅かったようだ。


 選帝侯子飼いの騎士団によって設置された検閲所により、亡命を阻止されていたのである。後部座席に乗っていたオラクル・ゼライツは足を組む。


「ちからずくで押し通ることも出来るが、やめておいた方がいいね。こちらは準備不足、何かあったら対応しきれない」


「では、どうします? このままここにいても、いずれ見つかるかと」


「一旦基地に引き返そう。装備を整え、改めて国境を突破する」


 街道のある場所には検問所が、ない場所には監視用のゴーレムが配備されている。無理矢理突破しようとしても、すぐに見つかり捕まるだろう。


「かしこまりました。しかし、オラクル・メイラーを呼び戻さなくてよろしいので?」


「そういうわけにもいかないさ。バーウェイ家は何としても始末しておかないとならない。バゾッドからの連絡が途絶えた以上、自分で動かなくちゃあね」


 バゾッドたちがしくじったと考えたオラクル・ゼライツは、朝日が昇る前に妹のメイラーをノースエンドに向かわせていた。


 彼ら兄妹には、何が何でもバーウェイ家を根絶やしにしなければならない理由があるようだ。もっとも、その理由は部下たちすらも知らないが。


「それと、帝国軍に引き渡されたディールの回収は……」


「すでに始末してある、回収は不要だ。ムダ話はもういい、慎重に基地へ戻れマドック。あの様子では、俺と妹の手配書も出回っているはず。何が何でも、俺たちを見つけようとしているだろうからな」


「か、かしこまりました。では、仰せのままに」


 御者をしている教団の信者は、透明化の魔法を用いて馬車を見えないようにする。ちらほらと降り始めた雪に紛れて、北へと引き返していった。



◇―――――――――――――――――――――◇



 数時間後、カトリーヌたちは犯人捜索に出るための準備を整えていた。とある町の住民から、教団の信者らしき人物を見たと報告があったのだ。


 その真偽と、犯人捕縛に繋がる情報がないかを確かめるべく東にある町ヴェルビントンへ向かうことになった。荷物を整えていると、部屋の扉が開く。


「おいーっす! みんなー、準備はいいかなー? 今日はこのマーゼットちゃんが同行するよ! よろしくね」


「あら~、それは心強いわ~。よろしくね~、マーゼットさん」


 入ってきたのは、バッチリ重装備で固めたマーゼットだった。教団との戦いになるのを想定しているようで、愉快な言動とは裏腹に表情は真剣そのものだ。


「ヴェルビントンは、ちょっと前から変な噂が流れててねー。もしかしたら、教団が巣食ってるかもしれないんじゃない? って話もあるの。だから、気を引き締めていくよ!」


「まっかせといてよ! ボクたちがいれば、ししょーと同じくらいの働きが出来るからね。期待しといてよー!」


「わあ、頼もしい! それじゃ、ヴェルビントンに向けてしゅっぱーつ!」


 竜車に乗り込み、カトリーヌたちは東に二十キロほど離れた場所にある小さな町、ヴェルビントンに急行する。


 町に到着した後、一行は早速聞き込みを始める。教団についての情報が得られるかもしれない、と考えていると……。


「えっ、怪しい人たちを見たってホントかいな!?」


「ええ。数日前、大量の食べ物と水を買っていったわよ。よそよそしい態度だったし、この辺じゃ見ない顔だから怪しいなー、とは思ってたのよねぇ」


 聞き込みをはじめてから十数分、早速有益そうな情報をエステルがゲットした。八百屋の女店主は、パイプを吹かしながら頷く。


「その話、もっと詳しゅう教えてくれへんか?」


「そう言われてもねぇ、もう何日も前のことだし記憶があやふやだわー。でも、()()()()()()()()()()()わねぇー……」


 エステルが頼み込むと、店主は意味深な発言をしつつチラチラ視線を投げ掛ける。その意味を理解したエステルは、そっと金貨を三枚握らせた。


 すると、それまで渋々だった店主の態度が一変し、ペラペラ饒舌に話を始める。


「ああ、思い出したわ。町の北に、温泉が湧く岩場があるんだけどね? 最近、そこに住み着いてる人たちがいるのよ。荒行をするために仮の宿としている、なーんて言ってるけど本当なんだか」


「ふむふむ、なるほどなぁ。その荒行しとる連中の一人が、食料を買いに来たっちゅうことか?」


「そうよ。本人がそう言ってたわ。最近入った新入りだから、雑用を一手に引き受けてるんだってさ」


「あんがとな、おかげで助かったわ。さっき渡したんは小遣いや、取っといてぇな」


 情報を仕入れたエステルは、報告のため仲間たちの元に向かう。その様子を、路地裏から眺める者がいた。


「……まずいな、我らの正体を探りはじめてる。なんとかして阻止しなければ、基地の存在がバレてしまう……。よし、やるしかない!」


 エステルたちに、教団の魔の手が迫ろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石に国の連中もやられっぱなしって訳じゃないか(ʘᗩʘ’) 自国の貴族殺されて、皇帝もオペラ座も危険に晒した外道だけに絶対逃さない構えか(↼_↼)
[一言] >彼ら兄妹には、何が何でもバーウェイ家を根絶やしにしなければならない理由があるようだ。 ……どういう事なんだ?
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