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67話―不穏に満ちた公演

「座長、準備完了しました! 衣装もメイクもバッチリ仕上げてあるっす!」


「この子、ちょー凄い逸材ですよ座長! 正直、メイクしなくてもいいんじゃないかなって思うくらい顔が整ってますもん!」


「うう、こう堂々と誉められると恥ずかしいわい……」


 五分後、裏方担当たちの並外れた努力によってコリンの着替えとメイクが完了した。元から整った顔立ちをしていたコリンだが、化粧をしたことでさらにレベルアップしているようだ。


 メイクを担当した女性は、テンションが限界突破してしまっている。大部屋には他の出演者や裏方担当が集まり、三十人近い竜人たちでわいわい賑わっていた。


「……いい。いいわ。ガルドー、あなたの目に狂いはなかった。パーフェクトな人選よ、これは。アタシは今日ほど、あなたを誇りに思ったことはないわ」


「ありがとうございます、座長! さ、時間も迫っていますし早く歌魔法を!」


「ええ、そうね。イくわよコリンちゃん、そこでジッとしていてちょうだいね。歌魔法、覚醒の讃美歌!」


 咳払いをした後、マデリーンは歌い出す。中年男性とは思えない、澄みきったソプラノボイスが響き、コリンに力を与える。


「な、なんじゃ? 頭の中に何か流れ込んで……これはオペラのやり方かの?」


「そうよ。これで今日一日、あなたは一流の役者になったわ。歌もセリフも踊りの振り付けも、全部完璧に記憶出来ているはずよ」


「うむ、確かに。一字一句、バッチリ覚えておるぞよ! これなら、代役を果たせそうじゃ」


 マデリーンの助力により、コリンは一時的に歌劇に必要な技能を身に付けることが出来た。身体の内側から、自信とやる気が満ちてくる。


 これなら行ける、とコリンが確信していると、大部屋の扉が開く。やってきたのは、マデリーンの娘イザリーだ。開演の時間が近いため、呼びにきたらしい。


「みんな、急いでちょうだい! 早くスタンバイしないと間に合わないわ……って、きゃー! あなたが噂のコリンくんね!? 本物よ、本物に会っちゃった!」


「紹介するわね、コリンちゃん。この子はイザリー。バーウェイ一座が誇る、世界一可愛い歌姫(リトルスター)よ!」


「もー、ママったらそんなホントのこと……って、だからそんなこと言ってる場合じゃないんだってば! ほらほら、みんな準備準備! 開演が遅れるわよ!」


「イエス、リトルスター!」


 イザリーの一声で、全員が動き出す。瞬く間に控え室を去っていき、あとにはコリンとバーウェイ親子だけが残った。


「さあ行きましょう、コリンくん。私が舞台裏まで案内してあげるわ。はぐれないように、その……て、てててて、手を繋いであげてもいいわ!」


「では、お願いしようかのう。一回やらかしてこの状況じゃからな……ふふふ」


「!!?!??!!??!? わ、分かったわ! ふー、落ち着いて私。憧れのコリンくんの手をそーっと握るのよ、そーっと」


「とても不安になってくるのじゃが……呟きが不穏すぎる……」


 憧れの人物との突然の出会いに、イザリーは舞い上がってしまっているようだ。緊張のあまりバイブレーションの如く震える手に掴まれ、コリンは内心不安感に苛まれていた。


 そんな彼らは、まだ知らない。劇場の中に、すでにヴァスラ教団の魔の手が伸びていることを。



◇―――――――――――――――――――――◇



『……もうすぐ開演だな。バゾッド、分かっているな? ショーの終わり際に歌姫を暗殺するんだ、いいな?』


『分かってるさ、相棒。そのために、わざわざ一階と二階に別れたんだ。オラクル・ゼライツ様から与えられた任務、必ずやり遂げるさ』


 一階と二階、それぞれの観客席の最後列。他の観客から目立たない位置に、二人の男が座っていた。隠し持った通信用の魔法石を使い、小声でやり取りしている。


『俺たちがここで歌姫を仕留めれば、バーウェイの血は絶える。そうすれば、女神復活のための障害が一つ消えるってわけだ』


『ケッケケケ、今日があの小娘のラストダンスってわけだ。最後のショーを見届けてやろうぜ。ゆっくりとな』


『ああ、そうだなバゾッド。事が済んだら、ついでに集まっている愚民どもも殺すとしようか。日頃の恨みをここで晴らしてやる』


 開宴時間が迫る中、二人は不穏な会話を行う。二人とも、水筒に偽装した吹き矢を所持していた。竜人ですら耐えられない、猛毒が塗られている。


 ミュージカルが終わり、最後のカーテンコールが行われる瞬間。出演者、観客、警備員。全員の気が緩むその隙を突いて暗殺するつもりなのだ。


『おいおい、()る気マンマンなのはいいけど気ィつけろよディール。も一つ上の階に、皇帝一行に例の星騎士の末裔どもがいるぜ? バレねぇように気ィつけねえとな』


『何? ああ、そうか。ガルダ草原側の密偵から連絡があったな。奴ら、和平交渉のためにこの国に来ているのか。だが、座っている階が違うからな……バレたとしても、逃げるのは簡単だ』


『ケケケ、それもそうだな!』


 そんな会話をしていると、開演を告げるブザーが鳴り響く。緞帳(どんちょう)が上がり、舞台が照らし出される。


 観客たちが沸き立つ中、三階の特別会員用の席に座るカトリーヌたちはいつまでも帰ってこないコリンを心配していた。


「なあ、やっぱり探しに行った方がええんとちゃうんか? もう始まってまうで、ミュージカル」


「そうねえ……でも、隅々まで探したのにいなかったのよ~? 一体どこ行っちゃったのかしら~」


「なぁに、心配することないさ。俺の護衛たちを何人か捜索に向かわせたからな、すぐ見つかるだろう」


「そうだといいんだけどなぁ……!? って、ちょちょちょちょっと待って! あれししょーじゃない!?」


 コリンを心配していたアニエスが舞台を見て、目を見開き仰天する。劇の序盤、突如現れた竜に王子が拐われるシーンが行われており……。


 舞台の上で踊る王子を見て、一発で正体を看破したのだ。アニエスの言葉を聞き、カトリーヌたちは一斉にオペラグラスを装着する。


「おおっ!? ホンマや、化粧しててちっと分かりにくいけど……あれコリンはんやないか! 一体なにしとんのや!?」


「あらあら~、いつの間にか役者さんになっちゃったのね~。うふふ、シュリにも見せてあげたかったわ~」


「……マリス、驚き。コリン、かっこいい。心臓、止まる」


「わっははは! こりゃケッサクだ! 飛び入りでミュージカルに参加たぁ、英雄はやることが違うねぇ!」


 予想を越えた状況に、皆驚いていた。とはいえ、今はどうにも出来ない。ミュージカルが終わるまで、おとなしく観賞せざるを得ないのだ。


「竜よ、王子を返してもらおう! もし断るのなら、我が剣の錆になるぞ!」


「やれるものならやってみるがよい、流浪の騎士よ。我が爪は鋼を切り裂き、炎の吐息は岩をも溶かす。お前など、恐るるに足らん!」


「そうか、なら仕方ない。ここでお前を倒す! 邪悪なる竜よ!」


 ミュージカルは順調に進み、クライマックスを迎える。石造りの古城にて、イザリー扮する流浪の女騎士と、女役者が変身した竜との戦いが始まった。


 勇壮な音楽をバックに、歌い踊りながら両者は剣と爪をぶつけ合う。鈴の音のようによく響くイザリーの美声に、観客たちはすっかり魅了されているようだ。


「いい声ね~。なんだか、こっちまで勇ましい気分になってくるわ~」


「歌姫の声には、特別な力があるからな。魔力を込めて歌えば、どんなにしょぼくれたヤツでもたちまちハッピーになれるのさ」


「お、戦いが終わったみたいやで。舞台が暗くなって……こっから一気に終わりに向かうようやな。終わったらコリンはんにいろいろ聞かへんとアカンなぁ」


 古城での戦いは、騎士の勝利に終わった。コリン扮する王子が助け出された場面が終わった直後、一旦照明が消える。


 少しして明かりがつくと、舞台の背景がガラッと変わっていた。魔法を用いて、きらびやかな王の城へと変化させたのだ。


「騎士よ、ありがとう。あなたのおかげで、僕は恐ろしい竜から救われました。あなたさえよければ、僕の妻となってくれませんか?」


「いいのですか、王子。私は剣だけが取り柄の女。あなたに釣り合うわけは……」


「いいえ、僕はあなたを愛しています。これからも末長く、僕の隣にいてほしい。竜をも滅する、誇り高き騎士よ」


「……わかりました。そこまで言うのなら、私はあなたの妻になりましょう。永遠に、あなたを守る剣となることをここに誓います!」


 騎士と王子が結ばれたシーンを以て、フィナーレとなった。拍手喝采が鳴り響く中、幕が降りていく。少しして、また幕が上がる。


 出演した役者たちが舞台の上に一列に並び、観客たちに手を振る。和やかなムードが劇場を包む、が……。


『歌姫が出てきた。今だ、やるぞバゾッド!』


『任せな、ディール! ここでくたばりな、歌姫さんよぉ!』


 完全に油断しているイザリーに向けて、教団の刺客たちはついに暗殺を決行する。水筒の中の水を飲むフリをして、魔力を用いて猛毒が塗られた矢を作る。


 狙いを定め、二人は同時に矢を放つ。真っ直ぐ飛んでいく矢は、イザリーの喉に直撃……。


「……やれやれ。せっかくのカーテンコールの邪魔をする阿呆がおるようじゃな。ダークネス・ウィップ!」


「きゃっ!?」


「な、なんだ!? 何か飛んできたぞ!」


 することはなかった。吹き矢の接近を真っ先に察知したコリンが、闇の鞭を作り出して叩き落とし、暗殺を阻止したのだ。


「気を付けよ、歌姫を狙う不届き者がおるぞ!」


 どよめきが広がる劇場に、コリンの警告の声が響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回は運命に救われたか(ʘᗩʘ’) 全く手の早い奴らよ┐(´ー`)┌でも周りをよく見とくべきだったな(◡ ω ◡)
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