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61話―一難去った後のこと

 オラクル・アムラを倒してから十日後。首領を失ったことで過激派部族は降伏し、裏で暗躍していたヴァスラ教団も草原から撤退した。


 一触即発の状況にあったグレイ=ノーザス二重帝国とも、ハンターたちを通じて和解の意志を伝えることが出来た。現在、コリンたちは返事が来るのを待っている。


 リュミたちガルダ部族だけでなく、草原に住まう全ての獣人たちの歓待を受けながら。


「あーっはっはっはっ! いいよいいよ、ジャンジャンお肉もお魚も持ってきてー! ぜーんぶボクが平らげちゃうからねー!」


「あらあら~、そんなに急いで食べると喉に詰まっちゃうわよ~? もっとゆっくり食べないとね~」


「……なあリュミ殿、こんな長期間もてなしてもらってよいのかのう? これだけの食材、用意するだけでかなり大変じゃろ?」


 毎日毎日、代わる代わるやってくる様々な獣人たちの歓待が続きコリンは心配になってきたようだ。そんな彼を見て、リュミは笑う。


「なぁに、そんなこと気にしなくていいんだよ。君は草原を救った英雄なんだから。それにどのみち、北の帝国からの返事が来るまではここにいてもらわないとね」


「むう……ならばいいのじゃが」


「そういえば、お仲間が一人いないね。ハインケルと言ったね、どこに行ったんだい?」


「ゼビオン帝国に戻って、依頼達成の報告としばらくわしらが草原に留まることを知らせに行ってもろうたのじゃ。……正体が分かった以上、近くには置けぬしな」


 どんちゃん騒ぎが繰り広げられる広いテントの中、リュミの質問に答えた後コリンはボソッと呟く。集落に帰還した後で、カトリーヌから聞いたのだ。


 ハインケルの正体が、天上に住まう神々……その中で最も戦闘に長けた存在。ベルドールの七魔神に連なる系譜であることを。


(すでにマリアベルを通してパパ上に伝えてあるが……どう転ぶか全く読めん。まあ、わしにはどうにも出来ぬことじゃが)


「コリン、ぼーっとしてる。どうした? 暑い?」


「ん、何でもないぞよマリス。ちと考え事をしていただけじゃ」


「分かった。はい、あーん」


「そなたも好きじゃな……あーん」


 すっかり『あーん』するのを気に入ったようで、マリスはひたすらコリンにご飯を食べさせていた。肉を咀嚼しながら、再びコリンは思考の海に沈んでいきのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「もうすぐ時間になるが、遅いな。全く、最近は神すらも平気で遅刻してくるな。嫌な世の中だ」


 その頃、コリンの父フリード・ギアトルクは大地を繋ぐ次元の狭間にいた。マリアベルからの報告を受けて、()()()()と会うために。


 事前にコンタクトを取りら待ち合わせの場所と時刻を指定したようだが……どうやら、相手が来るのが遅れているらしい。


「! この気配……ようやく来たか。待ち合わせの時間ギリギリだな、仕方のない奴だ。時間と空間を司る神のクセに、情けなくはないのか? なあ。時空神バリアスよ」


「こちらにも都合というものがあってね。何事も、事前の計画通りに行くとは限らないのだよ。親愛なるギアトルク、『頼らざる者』よ」


 しばらく待っていると、突如空間に亀裂が走り一人の男が姿を現す。青色の法衣を身に付け、片手にはねじれた輪と融合した時計が納められた青色のオーブを持っている。


 彼の名はバリアス。神々が住まう始まりの大地、グラン=ファルダを治める【創世六神】の一角。時間と空間を司る時空神だ。


「まあいい、手短に用件を言わせてもらう。七百年前、俺とお前たちは協定を結んだ。ファルダの神々はイゼア=ネデールに一切干渉せず、俺の一族もまたグラン=ファルダには関わらないと」


「ああ、そうだとも。君が生きている限り、我々は決して干渉しない。かの大地にはな」


「白々しいことを。ならば何故、お前たちの支族神の末裔がイゼア=ネデールにいるのだ? え? これは明白な協定違反じゃないのか? 答えろ、バリアス」


 フリードに詰問され、バリアスはしばしの間考え込む。少しして、口を開き弁明を始めた。


「まず一つ、これだけは言いたい。私たちは決して、君を裏切るつもりはないんだ。(くだん)の支族神……いや、ベルドールの七魔神と言った方が早いか。彼らはつい最近旗分けしたばかり。事情を知らないんだよ」


「ほー、なるほどなるほど。ま、確かに……『生まれざる者に首輪を着けるべからず』という神のルールもあるからな。今回だけは不問にしてやる。だがな」


「だが、なんだ?」


「そのベルドールの七魔神……いや、ヴェルド神族に伝えておけ。イゼア=ネデールは神を戴かぬ、人と魔の大地。余計な介入は決してするな、と」


 バリアスの説明に納得しつつも、フリードは脅しをかける。その真の意味を知るバリアスは、苦笑いをした。


「神を戴かぬ、か。だから、君は去ったのだな。なにせ、君はかの女神ヴァスラサックの――」


「それ以上は言うな。言えば、お前であろうと首を斬ることになる。話は終わった、俺はもう帰る。じゃあな、バリアス」


 ドスの利いた声で相手の発言を遮り、フリードは二度目の警告を告げる。その後、もうこの場所には居たくないとばかりに帰っていく。


 その後ろ姿を、バリアスは無言で見送る。フリードがいなくなった後、後ろを向いて歩き出す。天上の世界に戻る直前に、呟きを残して。


「……いつか、また会おう。豊穣と厄災、そして正義を司る『神』。ギアトルクよ」


 そう口にした直後、青い光の柱が降り注ぎバリアスを呑み込む。柱が消えた後、そこにはもう神の姿はなかった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「おかえりなさい、フリード。だいぶ機嫌が悪そうだけれど、どうしたのかしら」


「ただいま、フェルメア。なに、ちょっと苛立つことがあっただけさ。そう言う君はとても嬉しそうだが、何か良いことがあったのかい?」


「ええ、そうよ。ついさっきね、ヴェルダンディーちゃんが吉報を知らせてくれたの。昨日ね、十三人の魔戒王の一人……序列第十三位の王、ラ・グーが死んだわ」


 バリアスとの話し合いを終えて、帰還したフリード。愛する妻が待つ寝室に戻ると、やけに嬉しそうな様子のフェルメアに出迎えられた。


 妻から告げられた衝撃の出来事に、フリードは動揺……することはなかった。むしろ、妻のように大喜びしている。


「本当か! どこの誰がやったかは知らんが、よくやってくれた! これでようやく、コーネリアスを()()()()()社交界にデビューさせられるな!」


「ええ、本当に嬉しいわ。王のルールを平然と破るような者が生きている間は、危なすぎて存在を公表出来ないもの。ああ……ずっと待ちわびていたわ、この日が来るのを」


 同志と言える存在が討ち取られたのにも関わらず、二人の関心はそこにはない。彼らにとって重要なのは、息子――コリンのことだけだ。


「次の新月の夜に、宴を開くわ。そこで、こーちゃんの爵位授与式もするの。素敵なパーティーになるわ、今から楽しみね」


「ああ、もちろんだ! こうしてはいられん、すぐに配下の貴族たちに招待状を送らねば。今回ばかりは、全員参列してもらう他ないな。そうだろう?」


「ええ。とびきり素敵な仮面舞踏会(マスカレイド・ナイト)にしてみせるわ! ふふ、久しぶりにやる気がグングン湧いてくるわね!」


 エキサイトした二人は、興奮状態のまま寝室を飛び出していく。自ら陣頭指揮を執り、宴の準備に取り掛かるのだ。


 こうして、コリンたちの知らないところで――新たな物語が、始まろうとしていた。人と魔、二つの世界で……コリンは、次のステージに進むのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何やら気になるワードがあったが(ʘᗩʘ’) 今回だけで第一部第二部の関係者が出てきたが (゜o゜; やっぱりラ・グーは何処でも嫌われものか(◡ ω ◡)
[一言] 時系列はラ・グーが討たれた後なのだな……。
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