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51話―獣たちの事情

「話は分かりもうした。しかし、何故わしなのじゃ? 他国と王族や皇族の方が相応しいかと思うがのう」


「確かになぁ、ウチもそう思うわ」


 リュミの話を聞いた上で、コリンはそんな疑問を抱いた。エステルも同調して頷くと、何故かハインケルが話に入ってくる。


「フッ、そうもいかない事情があるのだよキミたち。まずゼビオン皇家だが、第一皇子のベクセル様にはすでに婚約者がいる。第二皇子のラウル様は、本人が縁談を突っぱねている状態だ。婚姻を結ぶのはまず無理なのさ」


「へー、意外とそういうの詳しいんだねハインケルって。ボク、ただのヘタレだと思ってた」


「へ、ヘタレ!? ……こほん、まあいい。僕は心が広いからね、一度は許そう。さて、続きを話そうか。ゼビオンがダメとなれば、次はグレイ=ノーザスだが……今の情勢ではまず無理だろうね」


 ハインケルの言葉に、リュミが頷く。パリパリに焼いたせんべいのようなものを頬張り、バリボリ噛み砕きながら答える。


「獣人狩りが始まりそうなほど、緊張感が高まっているからな。まず候補に入らない」


「ままならぬものじゃのう……。他に候補はおらぬのかえ?」


「そうね~、ゼビオンの南にランザーム王国があるけど……王には子どもがいなくて、近々王制から共和制に移ることになっているから無理ねえ~」


「海を隔てた東の地に、ヤサカという国もあるのだけれどね。あまりにも遠すぎてまあ間に合わないだろうさ。いろいろと。そうなると、王族に準じる血筋の者……星騎士の一族が候補に上がるわけだ」


 カトリーヌやハインケルが語った通り、王族にはもう相手がいない。ならば、婚姻の候補に出来る血筋はもう決まっている。


 リュミたちと同格の存在である、他の星騎士の一族から選ぶ他はないのだ。


「そう。マリス、自分で選んだ。コリン、マリス、結婚。ばっちこい」


「いや、ばっちこいと言われても……」


「失礼します。お客様、ガルダ族名物の果物ジュースをお持ちしました。よければお飲みになりますか?」


 再びマリスがアプローチする中、大きめの壺を持った馬獣人の女が近付いてくる。壺の中には液体が入っているようで、ちゃぷちゃぷ水音がしていた。


「むむ、あまーいやつかのう? なら、一杯欲しいのう」


「はい、もちろん! では、器にお注ぎし」


「待て。お前、仲間違う。知らない匂い、誤魔化せない。お前、誰だ。正体見せろ!」


「うわっ! くっ、魔法の香水で体臭は完璧に馴染ませたはず……何故バレた!?」


 女がコリンのグラスにジュースを注ごうとした、その時。これまでとはまるで違う、ゾッとするほど冷たい声をマリスが発する。


 直後、風が渦巻き女を吹き飛ばす。女は素早く空中で体勢を整え、床に着地する。それを見た他の部族の女たちは、リュミの合図で臨戦態勢に入った。


「どこの誰だか知らないが、マリスの前でコトに及ぼうとしたのが運の尽きだ。マリスはとんでもなく鼻が利くんだよ。それこそ、下手な香水なんて無意味なレベルでね」


「おぬし、わしに何を飲ませようとした? まさか、毒を」


「チッ、一旦離脱だ! てやっ!」


「逃がさへんで、サソリにんぽ……って、はやっ!? もう逃げてもうたで!?」


 多勢に無勢で形勢不利と見た女は、脱兎の勢いでテントから逃げ出した。エステルが驚く中、真っ先に動いたのはコリンとマリスだ。


「マーマ。マリス、あいつ追う。捕まえる、目的、吐かせる」


「わしも行くぞよ! カトリーヌたちはここにおれ。他にも不埒な輩がいる可能性もあるからのう!」


「はーい! ししょー、気を付けてね!」


「マリス、頼んだぞ!」


 怪しい人物が他にも紛れ込んでいる可能性があるのを考慮し、コリンはカトリーヌたちをテントに残してマリスと共に外に飛び出す。


 すでに女は集落にはいないようで、マリスは匂いを辿り西の方へ歩いていく。


「……もう、逃げた。この速さ、匂い。間違いなく、チーター獣人の部族。急ぐ、追う。……はっ!」


「おお!? ま、マリス殿の下半身が馬に!」


 マリスが魔力を解き放つと、腰から下がつむじ風に包まれる。少しして、スラリとした脚が美しい、馬の胴体へと変化した。


「よし、マリス殿に乗って敵を追跡し」


「ダメ。まだ、乗せない。心の準備、要る。コリン、自分で走る」


「なぬっ! ……むう、今はそこを追求しておる場合ではないか。仕方あるまい。こい、シューティングスター!」


 背中に乗ろうとするコリンだったが、マリスは何故か顔を赤くして拒否してしまった。納得のいかないコリンだが、争っている暇はない。


 コリンは愛車を呼び出し、サドルに跨がる。エンジンを吹かしながら、マリスに声をかける。


「さて、行こうかの。わしは地理が全く分からぬ故、先導を頼むぞよ」


「ん、分かった。マリス、頼りになる。コリン、喜ぶ。惚れる。けっこ」


「はよう行くぞ! 追跡出来なくなったら大変じゃぞ!」


「ちぇ。コリン、こっち。匂い、西の方ある。西、チーター獣人の集落ある。逃げ込まれる、面倒。その前に、追い付く。出発!」


「うむ、それっ!」


 走り出したマリスの後を追い、コリンもバイクを駆り草原を進む。一方、ガルダ族の集落から逃げ出した女は、一目散に西へ向かっていた。


 すでに変装を解き、手足をチーターのソレに変えてひたすら草原を駆け抜けていく。時おり後ろへ振り返り、追っ手が来ていないか確認しながら。


「クソッ、よりによって酋長(オサ)の娘に正体がバレるとは……。でも、私の部族がいる集落まではあと十五キロ。このまま逃げ切ってみせる!」


 人の持久力とチーターの走力。二つが合わされば、誰も自分に追い付くことは出来ない。そう自負していたが、割りとすぐにその自信は粉砕される。


「コリン、いた。背中見える。あいつ、敵」


「案外早く追い付けたのう。このまま距離を詰めるぞよ!」


「!? うそ、もう追い付かれた!? くっ、絶対逃げ切ってやる!」


 十分も経たないうちに、追跡してきたコリンとマリスに追い付かれることとなった。捕まってなるものかと、女はさらに速度を上げる。


「むっ、奴め……ジグザグに走り出しおったな。攻撃の狙いをつけさせないつもりじゃな!」


「姑息。小細工、ムダ。マリス、狙い外さない。星遺物……旋風弓ゲイルフローン!」


 女は背後からの攻撃を牽制するため、右に左に不規則に移動しながら逃げていく。バイクを運転しながらでは、コリンも狙いをつけるのは至難。


 そんな状況の中、動いたのはマリスだった。両手を横に伸ばすと、それぞれの手につむじ風が集まる。そして、ライムグリーンの色合いをした弓と矢に変化した。


「マリス、優れた狩人。嵐の中でも、狙い外さない。この程度の相手……マリス、貫く!」


「まずい、もっと速度を!」


「はあっ!」


「あああああああ!!」


 左手に持った弓に矢をつがえ、マリスは弦を引き絞る。狙いをつけ、矢を放った。風を切りながら、矢は女の右足に突き刺さり貫く。


「おお、一発じゃな! 流石、草原の民と呼ばれるだけあるのう!」


「そう。マリス、凄い。弓の腕、一番。誰にも負けない」


「う、うう……。逃げなきゃ……ここで捕まったら、族長に迷惑が」


 コリンたちが話をしている間に、女は這いずりながら逃げようとする。が、矢の尻に風のワイヤーがついており、マリスの右手首と繋がっているため逃げられなかった。


「ダメ、逃がさない。集落、連れて帰る。情報聞き出す。話せば、痛い、ない。話さない、痛い。覚悟」


「なぁに、もし話さんようならわしが記憶を抜き取るだけじゃ。何も問題はないわい、ほっほっほっ」


「ぐっ、ぐうぅ……くそぉ……こうなったら!」


 もはや逃げ場はないと悟った女は、懐に隠し持っていた短剣を取り出して喉を突き、自害しようとする。しかし、コリンは見逃さない。


「させぬ! ディザスター・バインド!」


「うわあっ! う、動けない!」


「ありがと、コリン。やっぱり、マリス正しい。コリン、強い。部族の皆、認める。だから、結婚する。奉る」


「何故最後は必ず奉るのじゃ……。とにかく、下手人を捕らえたことじゃしみなの元へ戻ろうぞ」


 相変わらずよく分からないアプローチをしてくるマリスに苦笑しつつ、コリンはサイドカーを展開し捕らえた女を放り込む。


 情報を聞き出すため、マリスと共に集落へと戻っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘッポコが豆知識で自慢しても結局はヘッポコだろうに(ʘᗩʘ’) ケンタウロスが背中に乗せる=主従の証、永遠の誓って所か(↼_↼)
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