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36話―公王の真意

「おお、救援か。これは助か」


「ぎゃああああああ!! む、虫ィィィィィ!!」


 いいところに来てくれた騎士団を歓迎するコリンだったが、その横でアシュリーが絶叫する。電光石火の速さでカトリーヌの後ろに回り、隠れてしまう。


「なんや、虫がニガテなんか。それでも帝国最強の冒険者の片割れかいな」


「うふふ、シュリは昔から虫さんが嫌いだものね~。ちっちゃい頃、お昼寝してるシュリの顔にダンゴムシを」


「やめろカティ! それ以上言うといくらお前でも蹴り飛ばすぞ!」


 どうやら、虫にトラウマがあるらしい。ぎゃあぎゃあ喚いているアシュリーはひとまず置いておき、コリンは騎士たちの方に近付く。


「騒がしくて済まぬのう。よう来てくれて、ありがたいわい」


「ふっふっふっ、ちょっと前にウーグ側の国境管理ギルドから連絡があってね! もうすぐ来ると思って迎えに来たんだよ! このボク、アニエス・オーレインがね……ふべっ!」


 コリンがお礼を言うと、先頭にいた騎士が被っていた兜を脱ぐ。無機質な兜の下から現れたのは、キリッとしたドヤ顔をするエルフの少女だった。


 騎乗していた巨大カマキリから颯爽と飛び降りようとした結果、緑色のサーコートの裾がカマキリに引っ掛かり顔面から地面に落ちる。


「ふおおおお……! 鼻が、鼻がぁ……!」


「ああっ、アニエス様が負傷なされたぞ!」


「衛生兵、衛生兵を呼べー!」


 鼻を打ったようで、アニエスは悶絶しながら身体を震わせる。お付きの騎士たちがてんやわんやするのを見て、コリンは呆れてしまう。


「……こやつ、いろいろと大丈夫なのかのう。しかし、今オーレインと言うたな。するとつまり……」


「ああ。信じたくねーかもしれねえけど、このアホがベルナック陛下の娘さんにして、十二星騎士の一人『双児星』シルヴァード・オーレインの末裔だ」


「ふっふっふっ。ほうはよ、ほふがこのふにのほひめはまなのひゃ!」


「いや、鼻血止めてから喋れよ」


 カッコつけたいお年頃なようで、鼻にちり紙を詰めて止血しながら名乗りをあげるアニエス。……が、その姿はマヌケそのものであった。


 アシュリーがツッコんでいる間に、コリンとエステルが迷いの森での一部始終を他の騎士たちに話して聞かせる。結果、ダイモスを連行することになった。


「我々ワルドリッターもヴァスラ教団には手を焼いていましてね。この男から情報を引き出せれば、おおいに助かりますよ」


「うむ、なんなら今ここでわしが記憶を……むっ、危ない!」


 副官の騎士と和やかに話をしていたその時。殺気を感じ取ったコリンは、咄嗟に騎士を押し倒す。直後、騎士の首があった場所を短剣が飛んでいく。


「あの羽根飾り野郎、まだ生きてやがったのか!」


「……一時、撤退。借リ、必ズ返ス」


「逃がすな、捕らえろ!」


 アシュリーとカトリーヌの連携技で倒されたはずのエルフたちのうち、羽根飾りのエルフはまだ生きていたようだ。


 仮面の一部が割れており、右目とその周辺があらわになる。目の下にある傷を見て、アニエスは驚愕し目を見開いた。


「嘘……その傷、まさか!?」


「……何ダ? オ前、ドコカデ見タヨウナ……。マア、イイ。逃ゲルゾ、ダイモス」


「すまねえ、恩に着る」


 騎士たちやエステルの攻撃をかわし、倒れて動けないダイモスの元に飛び込む。ダイモスの身体に触れた瞬間、転位魔法を発動させ逃げてしまう。


「チッ、逃げてしもうたか。ホント、逃げ足の速いやっちゃで」


「むう、仕方あるまい。被害が出なかっただけマシと思えば……ん? どうしたのじゃ、アニエス殿。随分静かじゃが」


「ううん、何でもないよ。皆、死体を持ってこう。検分すれば何か分かるかもしれないしね」


「ハッ! かしこまりました、アニエス様」


 すんでのところで刺客たちを取り逃がしてしまったが、コリンたちは気を取り直して迷いの森を進むことにする。……が。


「嫌だぞ、絶対にアタイは乗らねえ。カマキリに乗るくらいならここで遭難した方がマシだ!」


「も~、そんなわがまま言わないの。ほら、よく見るとカマキリさんも可愛いでしょ~?」


「そうそう。慣れると可愛いんだよ。ほら、お手! おかわり! くるっと回ってヴァー!」


「キシャー! ……ックシュン!」


 カマキリに乗るのを全力で拒否するアシュリーを、カトリーヌとアニエスが説得にかかる。芸をさせることで、フレンドリーさと知能の高さをアピールする作戦に出たようだ。


 が、その直後にカマキリがくしゃみをした。その拍子に、カマキリのお尻からヒモのようなモノがにゅるりと飛び出し……。


「あ、ハリガネムシのミーコちゃんが出ちゃったね。せっかくだからミーコちゃんも挨拶しようねー。はい、こんにちはー!」


「おお、これは凄いのう。ハート型に身体をくねらせておるわ。面白いのう、カトリー……た、立ったまま気絶しておる……!?」


 流石のカトリーヌも、ハリガネムシは無理だったようだ。白目を剥き、立ったまま気絶してしまっている。


 当然のようにアシュリーも気絶してしまったため、二人は荷物として運搬されることになったのであった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「さあ、到着したよ。ボクたちが住む街、公国の首都ヘミリンガに!」


「おお、緑いっぱいじゃのう。流石、森の国だけあるわい」


 迷いの森を抜けたコリンたちは、各町に設置されている騎士団専用のワープマーカーを使い首都ヘミリンガに到着した。


 街の外には森が広がり、その中を各町に繋がる街道が通っている。騎士団の面々は、街の外れにある虫舎にカマキリたちを帰す。


「これでよし、と。皆は先に研究所に行ってて。お父様への報告はボクがしとくから」


「かしこまりました、アニエス様。では、我々は先に死体を調べておきます」


「うん、よろしくー。じゃ、行こっかみんな!」


 一旦騎士団と別れ、コリンたちはアニエスに案内され公王の住むワルダラ城を目指す。街の通りを、エルフたちが行き交う。


 復活したアシュリーとカトリーヌも加わり、若葉の香りが漂う大通りを進んでいく。


「あー、酷い目にあったぜ。何だよあのクソデカいハリガネムシは……絶対今日の夢に出るわアレ」


「そうねえ……ハリガネムシはちょっと……。流石に可愛くないわ~」


「えー、なんでさ! ミーコちゃん可愛いよ! 頭撫でるとね、嬉しそうにくねくねするんだよ?」


「やめろ聞きたくねえ! 想像しちまうだろうが!」


「だいぶわしらとセンスが違うのう……。エルフというのは皆こうなのか?」


「いや、アニエスはんが個性的なだけやと思うで」


 相変わらず騒がしい女性陣のやり取りを聞きつつ、コリンはため息をつく。そんなこんなで、ようやくコリンたちはワルダラ城に到着した。


「はーい、とうちゃーく。それじゃ、お父様のところに案内するねー」


「うむ、頼むぞよ。……それにしても、随分と綺麗な植物園があるのう。マリアベルに見せたら大喜びするじゃろうな。綺麗な花が好きじゃからのう」


「えへへ、凄いでしょ。毎日、ボクもお世話してるんだよ。特に、あそこの青色の薔薇園の辺りをね」


 廊下を進みながら、コリンは窓から中庭を見る。庭の一角に、クリスタルガラスで作られハウスがあり、中には色とりどりの花が咲き乱れていた。


 その中でも、特に美しく咲き誇る青い薔薇がコリンたちの目を引く。日差しを浴びて輝く姿に、一行は神々しさを覚える。


「あら~、本当に綺麗ね~。孤児院の皆に見せたら、大喜びするわ~」


「ほー、随分デカい薔薇やなぁ。アレ売ったらいくらにな……冗談や、冗談やさかいそない睨まんてくれまっかカトリーヌはん。人殺しの目になっとるで!?」


「売らないよ、お姉ちゃんとの思い出が詰まった大切な薔薇だから。……知ってるかな? 青い薔薇の花言葉はね、『夢は叶う』なんだよ」


 どこか悲しそうな笑みを浮かべ、アニエスはそう口にする。何か事情があると見たコリンは、声をかけようとする……が、その前に玉座の間に到着した。


 扉を開け、中に入ると公王ベルナックが玉座に座っていた。アニエスはとてとて駆け寄り、父親に声をかける。


「お父様、連れてきたよ!」


「ご苦労だったね、アニエス。皆、よく来てくれた。さあ、もっと近くにおいで。遠慮はいらないよ」


「では、失礼しまする」


 ベルナックに促され、コリンたちは玉座の間を進み公王の眼前に立つ。そのままひざまずこうとしたが、ベルナックに止められた。


「いや、楽にしてくれていいよ。さて、早速だが本題に入りたい。いいかな?」


「構いませぬ。わしへの依頼とは、一体どのようなものでしょう?」


 コリンが問うと、依頼の内容が明かされる。その内容は……。


「うむ、依頼は二つある。一つ目は、()()()()の捜索に助力してもらいたい。二つ目は……我が娘、アニエスを弟子にしてはもらえないだろうか?」


「のじゃっ!?」


 コリンの予想を越えたものであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おいおい只でさえデカイカマキリなのに尻にハリガネムシまで飼ってんのか(ʘᗩʘ’) その上、主が女エルフ?(゜ο゜人))キモ過ぎるだろ百歩譲っても花カマキリぐらいにしとけよ(>0<;)
[一言] 閃いたw アシュリーにこっそりイモ虫をソイっと投げこmぎゃあああああああああ!?!?(メッタ刺しにされた
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