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31話―新たな出会いの予兆

 舞踏会が行われた日から、十五日が経過した。この十五日間、コリンはベイルの生首から抜き取った記憶を元に帝国各地にある教団の基地を破壊して回っていた。


「コリン、中にいた連中は全員捕らえたぜ。激しく抵抗してきたから何人かは殺しちまったがよ」


「なに、気に病むことはないぞアシュリー。戦いともなれば、どちらかが命を落とすのはやむを得ぬからのう。……さて、ここで帝国にある基地は最後じゃな」


「ええ、ベイルの記憶が正しければそうなるわ~。お疲れさま、コリンくん。うふふ」


 たったの十五日で、コリンたちは帝国に二十七も存在する教団の基地を壊滅させてみせた。捕らえた教団の信者たちは帝国軍に引き渡される。


 こうなれば、帝国内に巣食っていた教団の残存勢力は、国外への撤退を避けられない。コリンが睨みを利かせている限り、二度と帝国内で猛威を振るうことはないだろう。


「ただいま帰ったのじゃ! 無事、ヴァスラ教団掃討作戦の依頼を完了させたぞい!」


「おかえりなさい、コリンくん。はい、この用紙に依頼達成のサインをお願いね」


「ん、ではここに……っと」


 最後の基地を壊滅させ、帝都アディアンに帰還したコリンたち。冒険者ギルド本部に戻り、皇帝ラファルド七世からの依頼を達成したことを報告する。


 十五日間で行われた、一連のヴァスラ教団掃討作戦は皇帝の立案によるものであった。教団の幹部、ベイルの撃破を好機と見たのだ。


「はい、お疲れさまでした! 皇帝陛下から報酬を預かっています、こちらをお受け取りください」


「お、ずいぶん重そうな袋だな。金貨が何百枚入ってるかな……数えるのが楽しみだぜ」


「も~、はしたないわよシュリ。それはおうちに帰ってからにしましょうね~」


 手続きを終えた受付嬢は、大量の金貨が詰め込まれた皮袋をカウンターに置く。それを見たアシュリーとカトリーヌのやり取りを聞きながら、コリンは考え込む。


「のう、受付嬢さんや。この皮袋の中には、金貨が何枚あるんじゃ?」


「はい、八百枚はありますね」


「そうか。なら、半分をウィンター財団への寄付に回してくれぬか?」


「ええっ!? い、いいんですか!? 金貨が八百枚もあれば、三年は遊んで暮らせるんですよ!?」


 コリンの発言に、受付嬢だけでなくアシュリーやカトリーヌ、さらには近くで羨ましそうに眺めていた冒険者たちも驚きをあらわにする。


「構わぬ。今のわしには、金の使い道がないでな。ならば、一人でも多くの貧者が救われた方がよい」


「おいおい、いいのかよ? まあ、別にアタイは文句ねえけどさ」


「よいよい。なんなら、残りの金貨もアシュリーたちで等分してよいぞ? 腐らせておくより、そなたらが有効に使ってくれた方がいいでな」


「流石にそれは気が引けるわ~。ダメよ、ちゃんと三等分しないと。ね?」


 カトリーヌに諌められた結果、金貨八百枚のうち半分を財団へ寄付し、残り四百枚を三等分することに決まった。


「これでよし、と。へへ、今夜は教団の基地壊滅祝いにパーッといこうぜ! 酒場の旨いモン、片っ端から食ってやる!」


「そうね~、わたしたちはまだお酒を飲める歳じゃないから~。美味しいお肉、たくさん食べたいわ~」


「ふむ、それは楽しみじゃのう。今から楽しみで仕方ないわい」


「あの~、盛り上がってるところ悪いんですけど……。実は、コリンくんに別の依頼が来ていまして……二つほど」


 わいわい盛り上がっているコリンたちに、受付嬢が申し訳なさそうに声をかける。コリンは咳払いをした後、受付嬢に問う。


「なんじゃ、まだあるのか? まあよい、誰からの依頼なのじゃ?」


「はい、一つはエレナ皇女殿下から、三日後のお茶会へのお誘いの依頼です。もう一つは……」


「もう一つは?」


「ゼビオン帝国の東に隣接する、深い森に囲まれたエルフの国。ロタモカ公国を束ねる公王にして、十二星騎士の末裔の一人。『双児星』ベルナック・トラム・オーレイン陛下からの指名依頼です」


 新たなる星騎士の末裔との出会いの時が、コリンの元に訪れようとしていた。



◇―――――――――――――――――――――◇



 同時刻、イゼア=ネデールのどこか。ヴァスラ教団が保有する大聖堂に、六人のオラクルたちが集結していた。


 同志であるオラクル・ベイルの死と、ゼビオン帝国における勢力の壊滅に対する会議を行うためだ。円卓を囲み、話し合いが始まる。


「さて、こうして直接集まってもらった理由だが、話す必要はあるまい。十五日前、我らの同志が例の子どもに敗れ、死んだ」


「そのせいで、ゼビオン帝国からは完全撤退しねェといけないハメになったんだろ? 参ったもんだね、こりゃ」


「オラクル・トラッド、口を慎みたまえ。結果がどうあれ、同胞の死を貶める発言は許さん」


 やれやれとかぶりを振るトラッドを、カディルはドスの利いた声で諌める。小さく舌打ちした後、トラッドは軽い調子で謝った。


「へーへー、オレ様がわるぅござんしたよ。……で、実際問題どーすんだ? もっかい帝国内に基地築くのも骨が折れるぜ」


「悔しいけれど、数年から十数年は勢力再興は無理だろうね。例の子どもを含めた星騎士の末裔に帝国軍、冒険者ギルド……目を光らせている連中が多すぎる」


「オラクル・アムラの言う通りだと俺も思うよ。焦りは事を仕損じさせる。それよりも今は、例の子どもの対策を話し合うべきかと」


 オラクル・アムラの言葉に、物静かな口調で話す男が同調する。その上で、議題をコリンへの対策に切り替えることを提案した。


 議長を務めるオラクル・カディルは、しばし考え込んだ後ゆっくりと頷く。彼としても、これ以上コリンに邪魔をされたくはないのだ。


「帝国内にいる、残存勢力をかき集めるのだ。しばらくは、その者たちに監視させる。仮に、例の少年が帝国の外で動こうとする予兆が見えたら……」


「そんときゃ、全力で邪魔する感じぃ?」


「そうだ、オラクル・ロルヴァ。帝国内の勢力を掃討したとなれば、次は国外に目が向くのは火を見るより明らかだ」


「帝国の東にはロタモカ公国、北にはグレイ=ノーザス二重帝国、西にはガルダ草原連合、南にはランザーム王国。いずれも、俺たちが侵攻している国だね」


 円卓に世界地図が広げられ、六人のオラクルたちは立ち上がり覗き込む。ゼビオン帝国の四方を囲む国々は今、各オラクルによる侵略の真っ最中なのだ。


「同志ロルヴァ、トラッド、ゼライツ、メイラー。それぞれの配下を使い、常に例の子の動向を確かめろ。自分の担当する国に移動する前兆を掴んだら……全力で阻止するのだ。よいな?」


「はいはーい、任せていて。ま、ウチがいればロタモカ公国の土は踏ませないしー。よゆーで対処しちゃうから」


「その自信、どこまで続くやらな……」


 オラクル・ロルヴァは自信満々にそう告げる。が、この時の彼女はまだ知らなかった。すでに、ロタモカ公国がコリンへとある依頼を出していることを。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……今日も雨、か。なかなか降り止まぬものだな、この時期の長雨は」


「ええ。明日には止んでくれればいいのですが。侍女たちが、洗濯物が乾かないと愚痴をこぼしていましたよ」


 ロタモカ公国の首都、ヘミリンガ。深い森に囲まれた街の奥にある城の一室で、白いひげを蓄えたエルフの男が窓の外を眺めていた。


 しとしと降る雨を見つめながら、自身の右腕である執事ととりとめもない話をしている。その時、部屋の扉がノックされた。


「お父様ー、いるー?」


「ああ、いるとも。入っておいで、アニエス」


「えへへー、しっつれいしまーす!」


 部屋に入ってきたのは、褐色の肌と銀色の長い髪を持ったエルフの少女だった。朗らかな笑顔と、口からチラッと見える八重歯が愛らしい。


「ねえお父様、例の依頼もう出したの?」


「ああ、出したとも。三日後くらいには返事が来るだろう。そんなに楽しみなのかい? 彼……コリンくんに会うのは」


「もっちろん! ボクねー、決めたんだよ。コリンくんに会ったら、弟子にしてもらうの! そして……お姉ちゃんの行方を、一緒に探してもらうんだ」


「アニエス……」


 明るい笑顔から一転、少女――アニエスは真剣な面持ちで父親に告げる。握り締められた右手の甲には、真っ二つに割れた【オーレインの大星痕】が刻まれていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次の旅先でも戦いは避けられんか(-_-メ) まぁいつもの事か(ʘᗩʘ’) 次なる星の英雄はどんな人物かな(?・・)
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