299話─全ての命の明日を守れ!
絶体絶命の状況に追い込まれたコリンたちの元に、ワープホールを経由してリオが現れる。完全武装したオリジナルの自分の登場に、フィニスは笑みを浮かべた。
「来たか、私よ。だが、これだけの界門の盾……援軍はお前一人ではないのだろう?」
「もちろん! お前をブン殴りたくてウズウズしてる人たちを、みーんな連れてきたよ。みんなー、出ておいでー!」
リオが叫ぶと、ワープホールの向こうから大勢の気配が近付いてくる。真っ先にやって来たのは──フィニスの分身と戦っていた星騎士たちだ。
「コリン! わりぃな、遅れちまった! あいつらが自爆しやがったせいで、傷治すのに手間取らされたンだわ!」
「だが、もう安心だ。私たちが来たからには、敗北などない!」
「アシュリー……ラインハルト……みんな!」
真っ先に駆け付けてくれた頼もしい仲間たちの姿を見て、コリンは嬉しそうに笑う。直後、別のワープホールから巨大な海賊船が現れる。
掲げられた海賊旗のデザインは、炎のように真っ赤なバラ。すなわち……コリンの母、フェルメア率いるスカーレットナイツが参戦したのだ。
「カーカカカカカ! 殿下、我らスカーレットナイツが助けに来ましたぞー!」
「このヴェルダンディー、今宵は紳士の法を捨てましょう。ならず者には、相応の報復をせねばなりませんからな!」
甲板には、舵輪を回すキャプテン・ネモとヴェルダンディーがいる。その奥、船内からプリマシウスやプルフリンも姿を現す。
そして、彼らの主君たるフェルメア、その伴侶フリードも……。
「ハッ、あいつがフィニスって奴かい。いいね、中々強そうだ。いっちょ切り刻んでやろうかい!」
「If you want to protect your Highness, let's do our best with this Purfurin.(殿下の御身をお守りするためならば、このプルフリン全力でお相手致しましょう)」
「みな、遠慮はいりません。かの逆徒を抹殺するのです!」
「久々の実戦だな。親子揃っての戦いか……胸が躍るな、ふふっ」
海賊船が着地し、地響きが起こる。船内に待機していた闇の眷属の兵士たちが、タラップを通って降りてきた。
その直後、今度は上空に開いたワープホールから黄金の竜と無数の骨の鳥が舞い降りる。鳥の背中には、武装したスケルトンが乗っている。
彼らを従えるのは、もちろんアゼルだ。身重のアーシアを除く仲間と、かつての王たちを引き連れて友を助けにやって来たのだ。
「コリンくん! 遅れてごめんなさい! ここからはぼくたちもお手伝いしますよ!」
「アゼル……! みな、わしらのために……」
「そうとも。余も駆け付けたぞ。黄泉の国から舞い戻り、かつての好敵手と再び手を取るために」
続々と現れる助っ人に、コリンが涙ぐんでいると……突如、目の前に強大なオーラを纏う闇の眷属が姿を現した。
これまで余裕の笑みを浮かべていたフィニスは、初めて顔を歪めた。何しろ、新たに現れたのは故郷が滅びる原因となった相手。
グランザームなのだから。
「あ、あなたは!? グランザーム王、まさか御自ら参戦なされるとは!」
「フェルメアは我が友であった。ならば、その子息を助けねばなるまい。コーネリアス、もうあんし」
「グランザァァァァァム!!! 貴様……よくも私の前に顔を出せたなァァァァァ!!!」
グランザームの言葉を遮り、フィニスが怒号をあげる。額にはいくつもの青筋が浮かび、目は真っ赤に血走っていた。
「ああ、そうか。貴公が平行世界のリオか。ふむ、話に聞いていた通り、余を激しく憎んでいるな」
「当然だ。お前さえいなければ……! おっと、いけないいけない。闇雲な怒りは精神を鈍らせる。今は怒りを抑えねば」
今にも飛びかかりそうな勢いのフィニスだったが、ギリギリのところで冷静さを取り戻し踏み留まった。それを見たかつての王は、リオの方に向かう。
お互い心の底から嬉しそうな笑みを浮かべ、ガッチリと堅い握手を交わす。千年ぶりの、魔神と魔戒王の再会の瞬間だった。
「久しいな、リオよ。こうして会える日を、幾星霜の時の中で待ち続けていた」
「僕もだよ、グランザーム。異神騒動の時みたいに、今回も……」
「ああ。手を取り合い、共に戦おう。神々も、それを望んでいるだろうからな!」
そう口にし、二人が顔を上げた直後。創世六神率いる神々の軍団が、満を持して抹消された世界へ飛び込んでくる。
天馬の引く戦車の軍勢が、空を埋め尽くさんばかりにやって来る。神々の方も、今回の決戦の準備は万端なようだ。
「コーネリアス、よくやってくれた! 君たちがビーコンを設置してくれたおかげで、こうして私たちもこの世界に来られた。さあ、反撃を始めよう!」
「ちょーっと待った! まだ忘れておるぞ。妾たちベルドールの七魔神の存在をな!」
「のじゃっ!? 地面から何か出てきおったぞ!」
「あれは、キカイ仕掛けの……巨人?」
バリアスが号令をかけようとした、その時。地面に空いたワープホールから、凛とした女の声が響く。そのすぐ後、獅子の頭部を持つ巨大ロボットが現れる。
『我が君、レオ・パラディオンと共にこのファティマが馳せ参じました。まもなく、オメガレジエート率いる大艦隊も他の魔神と共に到着する予定です』
『リオよ、この機体の操縦は妾に任せよ。そなたは地上で存分に暴れるがよい!』
「おっけー! ふーちゃん、ありがとねー! ねえ様も大暴れしちゃってー!」
獅子頭の機巧騎士のコクピットには、旧盾の魔神アイージャとリオの従者、ファティマが乗り込んでいる。グランザームは、懐かしそうに目を細めた。
「ファティマも壮健か。フッ、良き日々を送って……む!」
「茶番は終わったか? まさか、お前たちだけが大軍団を用意しているとでも? 愚かな、私がこうなるように『運命』を操っていたとも知らずにな。貴様らを一網打尽にする我が計略、これにて完成だ!」
突如、フィニスが笑い声をあげ始めた。左手を高く掲げ、拳を握る。全てのアブソリュート・ジェムを用い、彼は呼び出す。
平行世界に住まう邪悪な者たち、そして……抹消された世界の住人たるオリジナルのヴァスラサック。邪神の子たちにヴァスラ教団、ダルクレア王国軍。
かつてコリンや星騎士たちに倒された宿敵たちを、ジェムの力でよみがえらせたのだ。己に刃向かう、全ての敵を滅するために。
「ああ……わらわたちにも、復活の時が来たか。歴史の闇に我らを葬り去ろうなど、許しはせぬ。コーネリアス、今度こそ貴様を滅してくれる!」
「ハッ、吠えるでないわ! 一度ならず二度も倒した相手に、今更負けるわけないじゃろうが!」
「そうよそうよ! 勝つのは私たちよ! あんたらみたいなのは、一山いくらのバーゲン品と同じ。まるで相手になんかならないわ!」
敵も味方も、大軍団が揃い踏みだ。ここからが、全ての命を守るための本当の戦いの始まり。コーディも立ち上がり、コリンを支える。
大きく息を吸い込み、コリンは力を蓄える。そして──声を張り上げ、最後の戦いの始まりを告げた。
「全軍! 突撃じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「おおおおーーーーーー!!!」
「……進め、我が兵団よ。きゃつらを滅し、身の程を分からせてやるがいい!」
「ハッハァァァァァァ!!!!」
一斉に走り出すコリンたち。対するフィニスは、左手を真っ直ぐ前に伸ばし号令をかける。神、魔、人。全ての種族が一つになり、戦場を駆ける。
「フィニス! 正真正銘、これが最後じゃ! お前を倒し、全ての世界を、命を! 守り抜いてみせる!」
「来い、コーネリアス! この地にお前たちの名を刻み、永遠の墓標にしてくれる!」
世界の命運を賭けた、最後の戦い……クライマックスのベルが鳴る。




