298話─この世界に生きる命のために
「ディザスター・ランス【旋回】!」
「ムダだ。シールドスローイング!」
コリンの放った闇の槍と、フィニスの投げた飛刃の盾がぶつかり合う。双方共に威力が相殺され、槍は砕け盾は弾かれる。
魔神としての力を発揮し始めたフィニスに、コリンとコーディは苦戦を強いられていた。二人ともボロボロになっていたが、それでも諦めない。
「こうなったら……! コリン、私に闇の力を! イヴィルブレイカーに注ぎ込むのよ!」
「よし、分かった! むうぅ……てやぁぁぁ!!」
「来るか……出でよ、不壊の盾!」
コーディの言葉に頷き、コリンはありったけの魔力を彼女に注ぎ込む。コーディの身体を経由し、イヴィルブレイカーに集まっていく。
光と闇、相反する二つの魔力が融合し、剣が白と黒の光に包まれる。十分に力を蓄えた後、盾を構えて突進してくるフィニスに剣を向ける。
「食らいなさい! ツインソウル・インパクト!」
「チィッ! ぬぅぅぅぅ!!!」
刃が輝き、切っ先から白と黒の波動が放たれる。フィニスは急ブレーキをかけ、大地を踏み締めて攻撃を受け止めた。
絶対防御の特性を持つ不壊の盾を以てしても、攻撃を無効化することは出来ないようだ。少しずつ押されて、後退していく。
また、フィニス自身は気付かなかったが……この時、盾の表面に小さな亀裂が走っていた。
「いい技だ。だが……逸らせばいいだけのこと!」
「コリン、気を付けて! あいつが来るわ!」
「分かっておる! ディザスター・クロウ【殴打】!」
「ムダだ、こんなもの!」
フィニスは盾を斜めに傾け、波動の向きを変えることで弾くことに成功した。コーディが限界を迎え、攻撃が止まった瞬間走り出す。
それを見たコリンは、闇の拳を作り出して追撃を行う。だが、フィニスの放ったシールドバッシュによって跳ね返されてしまった。
「ぐあっ!」
「コリン! ……ハッ!」
「仲間の心配をしている暇はないぞ、コーデリア。お前から仕留めてやろう!」
「そうはさせないわよ! セイクリッド・ガーディアン!」
跳ね返された拳の直撃を食らい、コリンは宙を舞う。そのまま瓦礫の向こうへ吹き飛び、気を失ってしまった。
助けに行こうとするコーディだが、そこへフィニスが迫る。女神のレリーフを備えた盾を呼び出し、コーディは敵を迎え撃つ。
「来なさい、フィニス。コリンとの修行で得た新しい力、存分に見せつけてあげる! 食らいなさい、ディザスター・セイバー!」
「! 闇の斬撃……なるほど、暗黒の力を体得したということか!」
「ええ、そうよフィニス! お前を殺すために、私は闇の力を。コリンは光の力を覚醒させたの。さあ、ラストダンスを踊りなさい!」
闇のオーラを刃に纏わせ、コーディは踊るような剣さばきでフィニスに猛攻を加える。対するフィニスも、不壊の盾を振るい反撃をする。
剣と盾がぶつかり合い、激しい金属音が鳴り響く。コーディは剣技に加え、体術や頭突きといった体術、フェイントを交え果敢に攻める。
だが、それでも魔神の持つ高い身体能力と、強大な再生能力による鉄壁の牙城を崩すには至らない。相手が言った通り、一撃で倒すしかないのだ。
「くっ、このっ! いい加減倒れなさい!」
「そうはいかぬな。フォートレス・ストライク!」
「させない! セイクリッド・サンクチュアリ!」
全身全霊の力を込め、さらに『破壊のアメジスト』の効果を乗せた体当たりを放つフィニス。それに対抗し、コーディは聖域の力を解き放つ。
フィニスとコーディ、二人の持つ盾同士が激突して衝撃波が放たれる。何とか耐えきったコーディは、反撃しようとするが……。
「今よ! これでも」
「させぬ! D・キャプチャー!」
「しまった、イヴィルブレイカーが!」
『空間のサファイア』の力を使い、フィニスは突き出された剣を止めてしまった。腕を振り払い、固定した空間ごと剣を吹き飛ばす。
そのままコーディを殴り倒し、足で胸を踏む。ダメ押しとばかりに『空間のサファイア』で足を固定し、完全に動きを封じてしまった。
「形成逆転だな。このままトドメを刺してくれよう」
「そうはいかない! 戻りなさい、イヴィルブレイカー!」
「ふむ、なら……こうするまで!」
コーディは手を伸ばし、弾き飛ばされたイヴィルブレイカーを手元に呼び戻す。……が、それを見たフィニスは、戻ってくる剣を奪い取った。
「!? か、返しなさい!」
「ああ、返してやろう。お前自身を鞘とし、この剣と共に永遠に朽ち果てるがいい!」
イヴィルブレイカーを構え、フィニスはコーディの胸を突き刺そうとする。刃を掴み、押し留めようとするコーディだが……。
残念ながら、膂力の差は覆せない。少しずつ剣が進んでいき、切っ先が胸に到達する。分厚い鎧をゆっくり切り裂きながら、心臓へと……。
「ぐ、う……」
「さあ、死ぬがい──がはっ!」
「貴様、そこまでにしておけ……。これ以上、コーディに手出しはさせぬぞ!」
次の瞬間、瓦礫の向こうから氷撃鎚バハクが飛んでくる。不意を突かれたフィニスは直撃を食らい、遠くに吹き飛ばされた。
そのすぐ後、瓦礫の向こうからコリンが姿を現す。頭から血を流し、荒い息を吐いている。アルベルトから託された星の力によって、バハクを使えるようになったのだ。
「まだ生きていたか。しぶとい奴め!」
「ぺっ! 生憎、わしはしぶとさに関しては人一倍じゃと自負しておっての。あれしきのことで死んでたまるかい! ディザスター・スタンプ!」
口から血の混じった唾を吐いた後、コリンは闇の鉄鎚を呼び出す。氷撃鎚バハクと合わせ、二つのハンマーで猛攻撃を仕掛ける。
「フン、いいだろう。先に死にたいというのならそうしてやる!」
「やれるものならやってみよ! インパクトショックウェーブ!」
「ぐうっ!」
闇の鎚で猛攻を加えている間に、コリンはバハクをフィニスの背後に送り込む。相手本人ではなく、地面を叩いて発生させた衝撃波をブチ当てる。
不意を突かれたフィニスは背中を破壊されるも、すぐに鎧ともども身体を再生させる。そして、振り向きざまにジェムの力を解き放つ。
「目障りな鎚め……消えるがいい!」
「! 氷撃鎚バハクが……!」
『境界のオニキス』と『破壊のアメジスト』の力によって、氷の鎚は粉々に砕かれた上に存在そのものを消されてしまう。
すぐに前を向くフィニス……だが、すでにコリンは前方にいない。アルベルトからのもう一つの贈り物。人智を超えた怪力の出番だ。
「いない!? どこに消えた!?」
「わしならここじゃ! 食らえ、フライング・ニー・シューター!」
「ぐうっ!」
強化された俊敏性を発揮し、一瞬で相手の背後に回り込んだコリン。自分を探しているフィニスの顔面に、逆襲の飛び膝蹴りを叩き込む。
よろめくフィニスに追撃を仕掛け、闇の鎚と杖を用いて打撃の嵐を見舞う。フィニスは不壊の盾で攻撃を防ぎつつ、ジェムの力で鎚を破壊する。
「いつまでも調子に乗るな。そろそろ身の程を教えてやろう! フォートレス・ストライク!」
「ならば! 受け止めるまで!」
「なにっ!?」
不壊の盾を用いた突進を繰り出すが、何とコリンは真正面から相手の攻撃を受け止めてみせた。その衝撃で、盾の亀裂が致命的に深まる。
それに気付き、笑みを浮かべるコリン。が、直後に首根っこを掴まれ放り投げられた。盾を変形させ、フィニスは狙いを定め投げる。
「おわっ!」
「こうしてやる! シールドスローイング!」
「させぬ! ディザスター・シール」
「ムダだ! 今、時は加速する!」
闇の盾を張り、防御しようとするコリンだったが……それよりも早く、『時間のルビー』が発動する。時の流れが加速し、闇魔法が発動する前に攻撃が炸裂する。
「くっ、まだじゃ! ロッドスマッシュ! はあっ!」
「ムダだ、不壊の盾は何者にも砕け……なにっ!?」
何者にも盾は砕けない。そう思っていたフィニスだが、亀裂の入った盾はコリンの一撃を受けて真っ二つに割れてしまった。
驚愕するフィニスを余所に、コリンは悠々と着地する。絶対防御を破られたことで、フィニスの精神に揺らぎが生じる。
「ふっ、案外脆いものじゃのう。貴様の自慢の盾など、この通り真っ二つじゃ!」
「おのれ……! よくも私を怒らせたな! その報い、絶大なる苦痛によって贖わせてやるぞ!」
オリジナルと違い、フィニスはこれまで不壊の盾を砕かれたことがない。初めて味わった屈辱に、怒りの炎が燃え上がる。
『時間のルビー』、『破壊のアメジスト』、『創造のエメラルド』。三つのジェムの力を使い、コリンに対する『処刑』を始めた。
「貴様は楽に死なせぬ! 三万回殺してやろう! クイックタイム!」
「はや……ぐうっ!」
「コリン!」
加速する時の流れに乗り、フィニスは破壊と再生の力が宿る拳の連打を叩き込む。コリンが絶命する度、肉体が再生され命が戻る。
宣言通り、フィニスはコリンに対して三万回の死と蘇生を味わわせているのだ。その様子を、動けないコーディは見ていることしか出来ない。
「これで……終わりだ! アブソリュート・ナックル!」
「がふぁっ!」
通常の数十倍の速度で放たれた攻撃の果てに、最後の一撃がコリンに炸裂する。吹き飛ばされた少年は、コーディのすぐ近くに落下した。
まだ息はあるが、凄まじいパワーで打ちのめされた肉体はボロボロだ。フィニスはジェムの力を解除し、コーディに呼びかける。
「決着の時が来た。二人仲良くあの世に送ってやろう。最後の祈りを済ませるがいい!」
「私たち……死ぬの? ここで、何も成せずに……」
「いいや……死なぬ。わしは……げほっ、諦めぬ。救わねばならぬのじゃ。わしは! 命を捨ててでも! この愛しき世界を守ってみせる!」
諦めの言葉を呟くコーディの隣で、コリンが立ち上がる。全身から血を流し、よろめきながらも。彼から希望は失われていない。
「まだ立てるのか。たいしたものだな。だが、もう終わりだ。お前たち二人で、私を倒すことなど不可能なのだよ!」
「そうだね、もう一人の僕。でもね、誰も加勢に来ないと思ったら大間違いだよ!」
フィニスが拳を握ろうとした、次の瞬間。どこからともなく、リオの声が響く。そして──フィニスを取り囲むように、一斉にワープゲートが開いた。
今──奇跡が、起こる。




