296話─抹消された世界へ
一日かけて、コリンたちは決戦の準備を整える。そして、翌日の朝。とうとう、最後の戦いの時がやって来た。
アルソブラ城の大広間に、コリン以外の星騎士たちが集まっている。後は、自分たちの総大将が来れば準備完了だ。
「さて、わしもそろそろ大広間に……」
「あ、いたいた。やあ、コリンくん。ちょっとだけ話をしてもいいかな?」
「おお、アルベルト殿。話とはなんじゃ?」
コリンが大広間に向かおうとしたその時、部屋にアルベルトが来訪する。ヴァルツァイトからコリンが買った義足のおかげで、スムーズに歩けている。
アルベルトは部屋に入ると、コリンの手を掴む。そして、自らの身体に流れる星騎士の力……その全てを与えていく。
「いろいろ考えてね。もう戦えない僕がこの力を持ち続けるより、君に役立ててもらった方がいいと思ったんだ。本来は、君のお父さんのモノだったわけだし」
「アルベルト殿……しかし、それでは」
「ああ、大丈夫だよ。怪力はなくなっちゃうけど、氷を操る能力はそのままだからね。何とでもなるさ、だから気にしないで。勝利のために役立ててほしいな」
「……分かった。では、ありがたくこの力を受け取らせてもらうぞよ」
かつて、フリードの運命変異体を殺して奪った力をコリンに返すことで、アルベルトは最後のケジメを終えた。
五体不満足であるが故に、もう戦えない自分の代わりに。勝利を掴んでほしいという願いを、コリンは受け取った。
「この戦い、必ず勝つでな。ここで待っていておくれ、アルベルト殿」
「頑張ってね、コリンくん。君の勝利を祈っているよ」
言葉を交わした後、コリンは部屋を出る。大広間に着くと、早速箱を起動させて抹消された世界に通じる道を作り出す。
「みな、心の準備はよいな? 一度この門を潜れば、全てが終わるまでは戻れぬぞ」
「へっ、問題なンかねぇよ。行こうぜ、コリン。今日がフィニスの命日だ!」
「ああ。この日のために、私たちは力を磨いてきた。全てを終わらせよう。そして、平和を世界に!」
コリンの言葉に、アシュリーやラインハルトはそう答える。他の星騎士やマリアベル、コーディも頷いていた。
みな、思いは同じ。フィニスを打ち倒し、世界を救う。そのための戦いに身を投じることに、恐れなど欠片もない。
「よし、では行くぞ! 目的地はただ一つ。わしの手で改変され、存在を抹消された……かつてのイゼア=ネデールじゃ!」
「おおーーー!!!」
コリンは箱を起動させて生み出した、光の門に手を伸ばす。彼を先頭にして、星騎士たちは突き進んでいく。最後の戦いの舞台へと。
◇─────────────────────◇
「着いたか。さて、まずは忘れぬうちにビーコンをセットして、と」
「これが起動すれば、神々も加勢に来られるってわけだ。でもよ、そう簡単に行くかねぇ? どう考えてもよ、妨害されるフラグだろこれ」
抹消された世界にたどり着いた後、コリンはまずビーコンを地面に刺す。完全に起動するまでに必要な時間は、十分。
それまでの間、ビーコンを守る必要がある。そんな中、ドレイクが不穏なことを言い始めた。果たして、その言葉は……現実になってしまう。
「きゃははは!! み~つけた! 侵入者は八つ裂きだね~!」
「待ってたぜ、てめぇらが来るのをよぉ! あんまりにも待ちすぎて、怒りの炎がメラメラしてるぜ!」
コリンたち星騎士連合の元に、フィニスの分身たち……怒り、憎悪、闘争、狂気、渇望が現れる。フィニスの命を受け、抹殺しに来たのだ。
「ドレイク、貴様の不用意な一言で余計な奴らが集まってきたぞ。責任を取れ」
「はぁ!? オレのせいかよ!? いや、確かに不用意な発言だったとは思うけど」
「そーだよ、今回はドレイクが悪いよ。フラグ立てたから速攻回収されちゃったじゃん!」
『まあ、ちょっとタイミングが悪すぎるね。ビーコンを壊されたら、援軍を呼べなくなるしね』
ラインハルトやアニエスに非難され、ドレイクは文句を言う。彼の発言のせい……かはともかく、今襲撃されるのは非常にまずい。
完全に起動して道を補強し終えればビーコンは用済みだが、今はまだ起動の最中。破壊されてしまえば、援軍が来れなくなる。
そうなれば、コリンたちの独力で戦わねばならなくなる。もしもの事態に備える上で、それだけは避けねばならない。
「みな、纏めて仕留めて差し上げましょう。行きますよ、フォーメーション……リベンジレンジャーズ!」
「さあ、闘争の始まりだ!」
「私たちの恐ろしさ、思い知るがいい!」
五人の分身は、隊列を整え迫っていく。戦いが始まろうとする最中、ツバキがコリンとコーディに声をかける。
「来るか……コリン殿、ここは拙者たちにお任せを。あなたとコーディ殿は先に進み、フィニスを討ってください!」
「なぬ?」
「奴は部下を差し向け、無防備な状態。今攻めれば、あの五人にもプレッシャーを与えられるはず。主を守りに戻るか、残って拙者たちと戦うか……どちらを選んでも、奴らには打撃になる」
「なるほどのう。よし……コーディ、一足先にフィニスを討ちに行くぞよ! ここはマリアベルたちに任せるのじゃ!」
「分かった! みんな、頑張ってね!」
「行かせるかよ! てめぇらもここでアタシらと戦いな!」
ツバキの進言に従い、コリンとコーディは先にフィニスの元へ向かう。それを見た分身たちは、当然二人を阻止しようとする。
が、そう簡単にやらせるほど星騎士たちは甘くはない。それぞれの持つ力を発揮し、分身たちによる追走を防いだ。
「おっと、コリンたちの邪魔はさせねぇぞ! スケイルトラップ!」
「プラントバインド! ししょー、今のうちに行っちゃって!」
「チッ、邪魔をしやがって!」
「済まぬ、後は頼んだぞよ!」
ディルスとアニエスが妨害に動き、コリンたちをアシストする。その結果、無事逃げ切ることが出来た。フィニスの元へと、二人は走る。
「やってくれたな、クソどもが! なら、こっちも切り札を見せてやる! 全員集合だ、アレをぶっ放すぞ!」
「もう使うのか? ま、いいだろう。一網打尽にしてくれる!」
レイジの号令を受け、ヘイトたちが集まる。そんな中、インサニティとストライフがスタージャマーを起動した。
彼らの切り札……ジャッジメント・ピラーを発動するための態勢に入ったのだ。五人はスライムのような不定形なボディになり、合体して姿を変えていく。
「これは……! 皆様、お気をつけください。詳細は不明ですが、強力な攻撃が来ます」
「おまけに、この感覚……スタージャマーも使ってやがるな。どうするよ、先に潰すか?」
「いえ、ここはわたくしにお任せください。わざわざ相手の攻撃に付き合う必要はありませんから」
「何かごちゃごちゃ話してるようだが、もう遅い! 食らえ! ジャッジメント・ピラー!」
合体した分身たちは、巨大な大砲へと姿を変える。そして、マリアベルたちに向かって必殺の一撃を叩き込んだ。
スタージャマーによって弱体化した星騎士たちを、一網打尽にするつもりなのだ。しかし……そう簡単にやられるほど、星騎士たちは弱くない。
狙いを付け、魔力の波動が放たれる。マリアベルはその瞬間、アシュリーたちの足下に開いたドアを作り出した。
「おわっ!?」
「きゃあっ!?」
「お、落ちるー!」
「一反退避しましょう。わざわざ攻撃を防いで力を消耗する必要など、全くありませんからね」
「なんだと!? こんな回避法が……」
マリアベルはアルソブラ城に自分ごと仲間を退避させて、ジャッジメント・ピラーをやり過ごすことを選んだ。
彼女の言う通り、スタージャマーで弱体化されている状態でわざわざ攻撃を受けてやる必要などない。ササッとやり過ごし、全力で反撃すれば良いのだ。
「あれだけの規模の攻撃、一回撃ったらしばらくインターバルが必要なはずよ!」
「その間に、ワタシたちが総出でボコボコにしちゃえばいいんだネ! やってやるヨー!」
アルソブラ城から戻ってきたイザリーとフェンルーが、合体を解いている途中の敵を見ながらそう口にする。攻めるなら今。
十二対五と、数の優位は星騎士たちにある。このまま全員で猛攻撃を仕掛け、フィニスの分身たちを叩きのめしぶっ殺す。
「うふふ、それじゃあ始めましょうか~。早く片付けて、コリンくんたちを追わないとね~」
「せやな、サクッと倒してしまおか。さ、ウチらの本気を見せたるで!」
星騎士VSフィニスの分身。最後の戦いが今、始まる。
◇─────────────────────◇
「着いたのう。ここに……フィニスがおる。気配で分かるぞよ」
「コリン、この廃墟はなに?」
「これはヴァスラサックの城。戦いの後で異次元に落としてやったはずじゃが……大方、サルベージしてきたのじゃろうな。ムダなことをしよる」
その頃、コリンとコーディはフィニスが潜む廃墟に到着していた。中に踏み込もうとした、その時。フィニスがテレポートして姿を見せた。
「来たか、我が宿敵たちよ。待っていたぞ、この時が来るのをな」
「ええ、私も待っていたわ。同胞たちの、世界の仇。今ここで討たせてもらう!」
「覚悟せよ、フィニス。貴様の悪行もここで終わる。潔く往生するがよい!」
「やってみるがいい。私を倒せるのならばな!」
最後の決戦が、ついに幕を開けた。




