295話─決戦の地に続く道
翌日の昼。コリンはコーディを伴い、グラン=ファルダへと向かう。神々の都は武器の配備が進み、巨大で堅牢な要塞と化していた。
第二陣の敵やフィニスの分身たちが攻めてきても守り切れるよう、鎮魂の園を含めて防備を固めているようだ。神たる者、備えは欠かさない。
「いや、凄いものじゃ。僅か一夜で、これだけの要塞を築くとはのう。神々の力、侮れぬな」
「ホントね。通りも迷路みたいになってるし……はぐれないように手を繋いでおかないとね」
「うむ、そうしようか。迷子になったら、合流するのに骨が折れるでな」
そんなわけで、二人はバリアスたち創世六神がいる神殿へと向かう。十分近くかけて、ようやく創世神殿にたどり着いた。
門番に声をかけ、コリンとコーディはバリアスたちのいる会議室に案内してもらう。目的の部屋に着くと、六神が全員集合している。
「やあ、待っていたよ。早速だが、本題に入ろう。君たちにこれを」
「これは……箱?」
「それは導きの箱。その中にわたしたち創世六神の魔力が込められています。その魔力を使い、失われた歴史世界へのアクセスを可能としているのです」
バリアスは机の上に置いてあった、両手で抱えるサイズの箱をコリンに渡す。コーディが首を傾げると、アルトメリクが説明をする。
箱に込められた魔力を使い、フィニスの潜む世界へ続く道を作り出すことが出来るとのことだった。もっとも、今は誰も通れないが。
「わしらでは道を通ることが出来なかった。じゃが、そなたらであれば受け入れてもらえるやもしれぬ。試してみるとよい」
「ふむ、分かった。して、どうすればいいのじゃ?」
「側面にある取っ手を掴んで、魔力を込めてください。そうすれば、箱に内蔵された僕たちの魔力が動き出しますから」
「よし、やってみようぞ」
ディトスとフィアロから箱の使い方をレクチャーされたコリンは、試しに魔力を流し込む。すると、箱の正面に魔法陣が浮かぶ。
魔法陣は回転し、コリンの目の前に抹消された世界へ続く道を内包した光の門を作り出す。箱を床に置いて、コリンは扉に触れる。
「よし、開けるぞよ。コーディ、こっちに」
「うん、私も試してみるわ」
コリンとコーディは、二人で一緒に扉を開く。そして、その先にある光の道へと進んでいく。道を進む度に、様々な記憶がフラッシュバックする。
『どうなってしまったんじゃ、この大地は……』
『ヴァスラサックの復活で、多くの人が死んでしまったわ……。孤児院の、みんなも……』
『アンタたちは死ぬのよ、この枯れ果てた森でね!』
『イザリー、アタシは……天国でずっと、あなたを見守っているわ……』
改変される前の世界で起きた、多くの悲劇と戦い。それらの記憶が、流星雨のように降り注ぐ。過ぎ去った過去を思い出すコリンの元に、声が届いた。
誰のものでもない、言うなれば──イゼア=ネデールという大地そのものの、願いが込められた声が。
──お願い。私たちのこと、忘れないで。私たちが、確かに存在したことを。時々でいい、思い出してください──
「……忘れるものか。あの日々を、戦いを、人々の背負った悲しみと怒りを。何よりも……わし自身の不甲斐なさをな」
「コリン……」
「どうやら、抹消された世界はわしらを受け入れてくれたようじゃ。一旦戻ろう、アシュリーたちも連れてこなければならぬからな」
「そうね、戻りましょう。準備を整えて、今度はフィニスをブチのめしてやろうじゃないの!」
「うむ!」
世界が自分たちを拒絶していないことを理解したコリンたちは、元来た方へと引き返す。扉を潜り、神々の元へ戻ってきた。
「お帰りー。どーだった? 成功?」
「うむ、バッチリじゃ。わしら星騎士であれば、恐らく道を通れるはず。向こうに着いたら、道を補強すればいいんじゃろ?」
「ええ。このビーコンを地面に打ち込んでちょうだい。そうすれば、私たちも道を通れるようになるから。なくしちゃダメよ? 一個しかないから」
ムーテューラに問われ、コリンはグッとサムズアップして答える。そんな少年に、ランティリアは手のひらサイズの釘のようなものを渡す。
曰く、これを向こうの世界に打ち込むことで道が安定し、誰でも通行出来るようになるのだとか。なくしてしまわないよう、コリンはビーコンを受け取る。
「では、帰って準備をしてきまする。終わり次第、星騎士全員でフィニスの元へ」
「ああ、頼んだ。こちらも準備を整えておく。君たちだけに押し付けるつもりはない。全員の力を合わせて、フィニスを打倒しよう」
箱を抱え、アルソブラ城に戻ろうとするコリン。そんな彼に、バリアスは声をかける。最後の戦いへのカウントダウンが、着々と進んでいた。
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「気配が消えた……? 奴らめ、何故私の元に来ない? 何か裏があるのか、臆病風に吹かれたか……それとも」
その頃、フィニスは廃墟と化したヴァスラサックの城にいた。途中、コリンたちの気配を感じたものの、配下を差し向ける前に帰られてしまった。
相手の意図を読めず、不思議そうに首を傾げるも、すぐに意識の外に追いやった。今の彼には、やらなければならないことがあるのだ。
「ようやく見つけたぞ、この装置……ジャッジメント・ピラー。そして、スタージャマーを。これがあれば、我が配下たちも強化されよう」
フィニスが探していたのは、旧世界にてヴァスラサックの子の一人、ラディウスが研究と開発を行っていた破壊兵器……ジャッジメント・ピラー。
そして、星騎士たちが持つ星の力を弱め、大幅に弱体化させる装置、スタージャマー。この二つをクレイヴィンたちに与え、強化しようとしていたのだ。
「来るがいい、我が分身たちよ。そして吸収するがいい、邪神の残した遺産をな!」
フィニスが号令をかけると、五つの影が集う。主の頭上を旋回した後、廃墟の地下に隠された遺構へと潜り込んでいく。
コリンたちだけでなく、フィニスもまた……最後の戦いに向けて準備を進めているのだ。利用出来るものは全て使う。
その信条の元に。
「さあ、いつでも来るといい。私は逃げも隠れもしない。全てを滅ぼす……そのためにここにいるのだから」
分身たちの力が増していくのを感じながら、フィニスはそう呟いた。




