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288話─怒り、憎悪、闘争、狂気

「あら~、新しい敵ね~。次から次へと大変だわ~」


「お前、たちは……うぐっ、誰だ……?」


 新たな敵の襲来に、カトリーヌは身構える。アルベルトもよろめきながら起き上がり、ハンマーを構えて警戒する。


「オレはレイジ。フィニス様の抱く怒りの化身だ」


「私はヘイト。フィニス様が内に秘める憎悪の化身にして、お前たちを滅ぼす者だ」


 ドス黒い血のような刈り上げた髪と紫色の鎧が特徴的な男、レイジと青い長髪とローブが特徴的な青年、ヘイトはそれぞれ名を名乗る。


 相対するだけで、とてつもない量の魔力と敵意が伝わってくる。同数とはいえ、消耗した状態では勝ち目が薄い。


 それを理解しているカトリーヌの額を、冷や汗が伝って落ちる。レイジは両刃の大斧を呼び出し、一歩前に進む。


「無様なもんだな、ええ? フィニス様に助命していただきながら、なんだこのザマは。一人も敵を始末出来ねえで全滅たぁ、舐めてんのか?」


「それは……」


「フィニス様は大変お怒りだ。お前たちのていたらくにな。故に、お前たちに変わる新たな手駒として我らを創造なされた。用済みの駒には消えてもらおう。我らの敵と共にな」


 レイジたちは、カトリーヌ共々アルベルトを始末するつもりのようだ。ヘイトはレイピアを呼び出して二刀流の構えを取り、殺気を放つ。


 アシュリーが合流してくれれば、ハンデがあっても勝機は十分にあるのだが……まだ現れる気配がない。彼女が戻るまで、二人で戦うしか道はないのだ。


「さあ、覚悟しやがれ。まずはてめぇらだ。このブラッディメルアックスで八つ裂きにしてやる」


「それとも、私のツインラントピックで穴だらけにされる方がいいか? それくらいは選ばせてやろう」


「そうはさせねえ! わりぃ、ようやく着いたぜカティ!」


 敵が迫る中、アシュリーが到着した。ギリギリのタイミングで、どうにか間に合ったようだ。これで三対二となり、数の上では優勢になった。


 そう思っていたのだが……。


「よぉ! 面白そうなことしてるな。アタシらも混ぜてくれよ」


「そ~だよ! 楽しいことはみんなでやらなくちゃ! ね~」


「!? おいおい、増援だと!? マジかよ、流石にこの数は……」


 最悪なことに、『狩り』を終えたストライフとインサニティがやって来てしまった。二人とも返り血まみれになっていたが、傷は一つもない。


 無傷の相手が四人……それも、実力が未知数の相手となればアシュリーたちでも勝ち目はない。良くて瞬殺、悪ければなぶり殺しだ。


「クレイヴィンは来ないのか? ま、いいか。四人だけでもこいつらは殺せらぁ」


「ボク知ってるよ、こいつらもこの世界の星騎士なんだよね? サクッと殺して、フィニス様を喜ばせちゃお~!」


「まずいわね、三人だけじゃ……コリンくんがいてくれたら、何とか出来るのだけど……」


 レイジたちに包囲されつつある中、カトリーヌはそう呟く。だが、コリンたちはイゼア=ネデールを覆う結界を守るため奮闘している最中。


 とてもではないが、援軍は期待出来ない……はずだった。だが、奇跡は起きる。いつだって、どこででも。何度でも。


「さあ、覚悟しろ! オレたちの怒り、思いし」


「そうはいかぬのう。ここでくたばるのはおぬしらの方じゃ! ディザスター・サイス【殺戮者(デ・リーパー)】!」


「! コリン!」


「コリンくん!」


 カトリーヌたちを守るように魔法陣が現れ、そこから死神が飛び出す。少し遅れて、コリン本人が姿を現した。


「なんだと!? バカな、てめぇは結界の守護に回ってるはずだ! 何でここに!」


「ほっほっほっ。ママ上が戦力をちーっとばかり回してくれてのう。おかげで、わしの手が空いたのじゃ。地上を見てみれば、おぬしらの姿が見えたのでな。カトリーヌたちを助けに来たというわけじゃ」


 コリンが一人でも多くの仲間を救いに行けるようにと、フェルメアが自身の親衛隊を援軍として送ってきれたのだ。


 彼らとコーディ、マリアベルに結界の防衛を任せコリンは自由に動けるようになった……とのことだった。頼もしい援軍に、カトリーヌは涙ぐむ。


「コリンくん……ふふ、本当に助けに来てくれるなんて。やっぱり、わたしたちは運命の赤い糸で結ばれてるのね~」


「ノロケるのは後にしろ、カティ。まずはこいつらをぶっ殺すのが先だ。そうだろ、コリン?」


「うむ。……ところで、そっちの子どもは味方なのかえ?」


「うん、まあ……一応、そうなるかな?」


 アルベルトが寝返ったことを知らないコリンは彼を訝しむも、とりあえずは味方認定しておいた。まずは目の前にいる脅威を排除しなければならない。


 それからでも、アルベルトの進退を決めるのは遅くないのだ。杖を構え、コリンはレイジたちを睨む。


「さ、始めようかの。わしの力を見るがよいわ!」


「だ、そうだ。やるぞ……レイジ、ストライフ、インサニティ。フォーメーション、インペリアルクロス!」


 フィニスの分身たちとコリンの戦いが、始まろうとしていた。



◇─────────────────────◇



「全砲門解放! 一斉射、てー!」


 同時刻、リオたちベルドールの七魔神が暮らす大地キュリア=サンクタラムでは、一方的な殲滅戦が行われていた。


 リオの虎の子、空中戦艦オメガレジエート率いる大艦隊が出撃したのだ。地上はリオたち、空中は戦艦の大部隊。


 二つの勢力による波状攻撃の嵐が、フィニス配下の堕天神や異神、闇の眷属の混成部隊たちを次々と打ち破っていく。


 戦果は上々、士気も向上。着々と戦争終結に向けて進んでいた。


「ウラァッ! リオ、こっちは片付いたぜ!」


「こっちもだ、案外大したことないな、平行世界の悪者どもは」


 とある街に、リオを含む三人の魔神がいた。片方は、肌も鎧も真っ赤なオーガの女、鎚の魔神カレン。


 もう片方は、灰色のトレンチコートと山高帽を身に付けた長身の優男、槍の魔神ダンテだ。


「街に被害が無くてよかったね、二人とも。さあ、そろそろかえ……むっ! 誰か来るよ、二人とも気を付けて!」


「この気配……誰だ? アタイは知らねえな」


「オレもだ。新手の敵か?」


 戦いを終え、帰投しようとする三人。その時、リオが怪しい気配の接近を察知した。猫耳を激しくパタパタさせながら、カレンたちに警戒を促す。


 三人が身構える中、目の前に魔法陣が現れる。いつでも仕掛けられるように力を込めた、次の瞬間。現れたのは、二つの死体を担いだバルバッシュだった。


「あっ! お前はバルバッシュ! 混乱に乗じて、鎮魂の園から逃げてきたな!」


「なんだ、てめぇだったのか。ちょうどいいや、千年前は相手出来なかったんだ。今回はボコボコにしてやる!」


「待て待て、待ってくれ! オレは基底時間軸のオリジナルじゃない! 平行世界から来た運命変異体だよ!」


 相手の姿を見た瞬間、リオとカレンは即座に戦闘モードに入る。何しろ、千年前に敵対していた相手が出てきたのだから無理もない。


 幸い、本気の攻撃が放たれるより早くバルバッシュが弁明したため、二人の殺意満点の攻撃が炸裂することはなかったが。


「運命変異体ねぇ。で、何の目的があってここに来たんだよ。つーか、その死体はなんだお前」


「これについては、話すと長くなると言うか……オレにも身元分かんねぇんだよ、この二人」


 素性を怪しまれる中、バルバッシュは自分の目的を語る。平行世界の門が開かれたことで、基底時間軸で起きている戦いを知ったこと。


 オリジナルの自分との記憶の共有、さらにフィニスの野望を知り止めなければならないと決意したこと。それらを話して聞かせた。


「元々いた世界じゃ、魔神はファルファレーに殺されてオレしか残ってねぇ。その世界も、オレが不都合な存在だと気付いたフィニスに滅ぼされちまった。だから……」


「僕たちに協力するために、逃げてきたんだね。そっか……君は、オリジナルと違って善人なんだ」


「おい、信じるのかリオ。こいつが嘘をついてたらどうすんだ?」


「大丈夫だよ、ダンテさん。オリジナルと違って、綺麗な目をしてるもん。それに、もし敵だったとしてもだよ? 寝首を掻く前に姉さまたちが始末しちゃうよ、うん」


「言われてみりゃそれもそうだな……」


 バルバッシュを信用しきれないダンテが問うも、リオの返答であっさり納得した。人一倍リオの安全に敏感なアイージャやファティマがいる限り、リオの命が脅かされることはない。


「その遺体は……後でムーテューラ様に聞いてみるよ。とにかく、今はフィニスの軍団と戦おう! よろしくね、バルバッシュ!」


「ああ、こっちこそな!」


 魔神たちの大地、キュリア=サンクタラム。世界を超えた共闘が、始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィニスの新幹部、感情分身体も手負い3人相手に大人気ないと言うか余裕が無いと見るか(ʘᗩʘ’) この分だと敵の星騎士は打ち止めで蛇使い座のマリアベル(悪)は居ないようだな(?・・) にし…
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