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286話─始祖たちの過去

「そぉれ、よいしょお!」


「くうっ、腕が痺れるわぁ~……。グラキシオス様に稽古してもらってよかったわ~。そうじゃなかったら、耐えられないもの」


 クリガラン渓谷での戦いが始まってから、三十分が経過した。カトリーヌとアシュリーは敵の連携を阻止すべく、別れて戦っていた。


 アシュリーが渓谷の奥へとジェイドを押し込んでいったのを確認し、いよいよカトリーヌが反撃に出る。恐ろしい破壊力を持つ攻撃を掻い潜り、接近する。


「そろそろ反撃させてもらうわ~。いくわよ、メタル・クラッシュ!」


「おっと、あぶなーい。いい攻撃だね、当たってたら青アザ出来てたかも。ま、肌青いから出来ても分かんないけどね! アハハハ!!」


 渾身の一撃を放つカトリーヌだったが、ひらりとかわされてしまう。小柄な身体による、フットワークの軽さにも秀でているようだ。


 ジョークを飛ばせる辺り、かなりの余裕があることが窺える。もっとも、カトリーヌの方も十分な落ち着きを保てていたが。


「あら~、すばしっこいのね~。でも、それならそれでやりようはあるわ~」


「へー、それは楽しみだね。僕の子孫がどれくらい強いのか、見せてもらおっかな!」


 ハンマーとタワーシールドを構えるカトリーヌに、アルベルトがそう答える。地殻変動すら引き起こしかねない怪力の持ち主たちが、全力を出そうとしていた。



◇─────────────────────◇



 その頃、渓谷の奥では……アシュリーとジェイドが壮絶な死闘を繰り広げていた。お互い全身に裂傷を刻みながら、槍を振るっている。


「……中々やるな。お前が私の子孫だとフィニスから聞いていたが、予想以上に強いな」


「へっ、お褒めの言葉ありがとな。……なぁ、一つ聞かせてくれよ。あんたらは何で悪党になっちまったンだよ? これだけつえぇなら、真っ当に生きられたはずだろ?」


「……そうもいかない事情があったのだよ。私たちのいた世界は、もう手遅れだったのだ」


「手遅れ?」


「……ヴァスラサックの支配が完成していた。どう足掻いたところで、絶望が覆らないところまでな」


 アシュリーの問いを受け、戦いながらジェイドは答える。元いた平行世界の、悲惨極まる状況を。何故彼らが悪人にならざるを得なくなったのか、を。


「……私が生を受けた時にはもう、ヴァスラサックが天上の神々を滅ぼし終えた後だった。大地の民も闇の眷属も、みなあの女神の奴隷も同然の環境に置かれていたよ」


「そいつは……ひでぇ世界だな」


「……そんな世界で、私は孤児として生まれた。物心ついた頃から、強盗やスリをして生きてきた。泥水をすすり、残飯を食べ、誰も信頼出来ず傷つけ合う日々。この辛さが、お前に分かるか!?」


 それまで落としていた声のトーンを上げ、ジェイドは叫ぶ。平行世界のヴァスラサックから受けた仕打ちは、彼の……いや、彼らの心に消えない傷を残したのだ。


「闇の眷属の王たちも、ヴァスラサックの仲間になった。奴らは自分たちの保身を優先して、民を見捨てたんだ。そんな絶望の中、私が出会ったのが……アビダルたちだった」


「……」


「不思議と、彼らといる間だけ……私は痛みを忘れられた。心に安らぎを感じていたんだ。それは、他の者たちもそうだったのだろう。気付けば、私たちはチームを組み……凶悪なならず者集団として幅をきかせていた」


 頼れる親も無く、たった一人で生きてきたジェイドにとって、のちの星騎士たちとの出会いは喜びに満ちたものだった。


 同じ痛みを共有出来る友を得た彼らは、裏社会でのし上がっていったのだという。数年後、アルベルトが加わるころには少数精鋭の組織になっていた。


「我らは少数ながら、神々にも匹敵する影響力を持つようになった。そこに目をつけ、スカウトに現れたのが……フリードだった」


「コリンのオヤジさんか。何で殺しちまったンだよ、一緒に戦ってりゃあ」


「言ったはずだ、手遅れだと。今更十二人程度が蜂起して、ヴァスラサックを倒せるものか。盤石の支配体制を築いた独裁者を倒すほど、困難なことはない」


 アシュリーの言葉を、ジェイドが切って捨てる。基底時間軸世界とは違い、平行世界のヴァスラサックは強大な軍隊を備えていた。


 ファルダ神族の生き残りや、徴兵した大地の民や闇の眷属……そして、自分の子どもたち。統制された軍が相手では、勝ち目など無い。


 故に、フリードからの打診を受けたジェイドたちは決めたのだ。──フリードから力だけを奪い、これまでのように裏社会で暮らそうと。


「私たちは知っていた。神々に関わってもロクなことにはならんと。だから、奴を殺して力を奪い、さらに裏社会でのし上がっていった。だが……そこに、フィニスが来た」


「それで、世界を滅ぼされて仲間に……ってわけか」


「ある意味、フィニスには感謝しているよ。あんな掃き溜めのような世界を滅ぼしてくれたのだからな。他の者たちがどう思っているかはともかく……私はそう考えている……はあっ!」


「ぐっ、やべっ!」


 話を終えた瞬間、ジェイドが一気に踏み込み槍を突き出す。不意を突かれたアシュリーは対応が遅れたもの、辛うじて防ぐことが出来た。


「さあ、ムダ話は終わりだ。そろそろ体力も尽きてきた。終わりにさせてもらうぞ!」


「へっ、だらしねぇな。こっちはまだ、体力が有り余ってるぜ! 神との修行で、基礎体力をバッチリ鍛えたからな!」


 数十分に渡る打ち合いと、長話が合わさってジェイドは疲弊していた。一方、アシュリーの方は元気いっぱいだ。


 バリアスの指導によって基礎体力を向上させた結果、三時間全力疾走しても疲れないタフネスを手に入れたのだ。


「食らえ! サウザンドフラムスピアー!」


「くっ、ちょこざいな! この程度の突き、捌ききって……」


 今こそ勝機アリと見たアシュリーは、それまで温存していた力を解放して果敢に攻め立てる。対するジェイドも、維持を見せ攻撃を捌いていく。


 だが、少しずつ相手に押されていき押し込まれる。体力を回復する暇も無く、槍を弾かれてしまう。しまった、と思った時には、もう遅かった。


「これで終わりだ! 獅子星奥義、ギガブレイブ・ドリラー!」


「まだだ! ここで負けるわけにはいかぬ! ギガブレイブ・ドリラー!」


 お互いに奥義を放ち、炎を纏った槍がぶつかり合う。しかし、決着はすぐに着いた。アシュリーが押し勝ち、ジェイドの腹を貫いたのだ。


 脇腹を消し飛ばされたジェイドは、その場に崩れ落ちる。少しずつ目から光が失われていく中、手を太陽に伸ばす。


「……こうなる、定めか。これほどまでに……生まれの不幸を呪う日はなかった。私は……アシュリー、お前が……羨ましいよ。何不自由なく、自由と幸福を……謳歌、してい……て……」


「わりぃな、ご先祖様。アタイもよ、いろいろあったンだぜ。決して、平坦な道のりじゃあなかった。ここまで来るのに……長い時間がかかったンだよ」


 憧憬と呪詛の言葉を呟き、動かなくなったジェイドのまぶたを閉じさせた後アシュリーはそう口にする。歴史を変える前、彼女もまた地獄の底にいた。


 だからこそ、ジェイドの気持ちを理解出来た。右手を伸ばし、遺体を火葬する。せめて、来世は幸せな人生を歩めるように。そんな願いを込めて。


「……安らかに成仏してくれよ。せめて、死んだ後くら……おわっ!?」


 喪に服していたその時、凄まじい揺れがアシュリーを襲う。直後、渓谷を形作る崖や谷が崩れ、あるいは隆起し形を変えていく。


「おいおいおい!? カティの奴、どンだけ大暴れしてンだ!? って、驚いてる場合じゃねえ。はぇえとこ脱出しねぇと呑み込まれちまう! 走れぇぇぇぇぇぇ!!!」


 アルベルトとカトリーヌの戦いの余波で、渓谷の地形が大きく変貌しようとしていた。いつまでも留まっていては、どうなるか分からない。


 冷や汗をかきながら、アシュリーは全速前進で渓谷の外を目指す。基礎体力を鍛えておいてよかった……と、心の底からバリアスに感謝しながら。



◇─────────────────────◇



「あそぉれ! パワーハンマー!」


「させないわよ~! バハクインパクト!」


 その頃、カトリーヌとアルベルトは驚天動地の大迫力バトルを繰り広げていた。互いの振るうハンマーが激突し、衝撃波が放たれる。


 その余波が広がり、渓谷のあちこちを破壊していた。ちょっとした天災レベルの攻防に、渓谷に住む竜たちは大慌てだ。


「面白いねぇ、君。ここまで歯応えのある人と戦ったの、初めてだよ!」


「うふふ~。なら、もっと本気を出さないとね~。覚悟してね、ご先祖様?」


 二人の戦いも、クライマックスに突入しようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど(ʘᗩʘ’)ご先祖で開祖の強さなら今世の世代より強いのは当たり前と言うものがあるが彼等の守るものは自分達しか居なかったのが最大の違いか(-_-;) オリジナルの歴史なら世界を守って…
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