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285話─最後の始祖たち

 時は少しさかのぼる。アニエスとテレジアが海岸を探索していた頃、アシュリーとカトリーヌはクリガラン渓谷に来ていた。


 アシュリーにとっては、様々な思い出がある地だ。この土地に反応が現れたことに、彼女は複雑な思いを抱いているようだ。


「……思えばなぁ、ここにはコリンとの思い出があるンだよな。懐かしと言うか、なぁ」


「うふふ。楽しい思い出も苦い記憶も、シュリにとっては大切なものなのね~。だから、相手も無意識にここを選んだのかも~」


「おいおい、勘弁してくれよ。前の歴史の時の記憶が……む、気を付けろカティ。どうやら、もうロックオンされてるようだぜ」


 世間話をしつつ、渓谷の奥に向かっていたアシュリーとカトリーヌ。しばらく歩いていると、二つの気配を捉える。


 見上げると、崖の上に二人の人物がいた。片方は、魔導師風の黒い装束と三角帽子を身に付け、槍を持った長身の男。


 もう片方は、水色の鎧を身に付け、身長よりも大きなハンマーを持った青い肌を持つ小柄なオーガの少年だった。


「……どうやら、向こうから来てくれたらしいな。探す手間が省けてラッキーだな、カティ」


「そうね~、夜になる前に見つけられてよかったわ~。真っ暗な中で戦うのは大変だもの~」


 崖の上にいる者たちを、アシュリーとカトリーヌは知っていた。それぞれの先祖……『獅子星』ジェイド・カーティスと『金牛星』アルベルト・ウィンター。


 各家に伝わる書物や肖像画を幼い頃から見てきたが結えに、アシュリーたちにはすぐ分かったのだ。身構える中、相手が飛び降りてくる。


「どうやら気付いたみたいですよ。じゃ、行きますかジェイドさん!」


「……ああ。すでに、我らとゴルドーラたちを除き倒されているようだ。油断するな、アルベルト」


「ええ、分かってますよ。それっ!」


 オーガの少年、アルベルトと槍の使い手、ジェイドがアシュリーたちの前に降り立つ。体格はカトリーヌの方が圧倒的に勝るが……。


 アルベルトの放つ、子どもとは思えない鋭い殺気と覇気に当てられ、アシュリーたちは冷や汗を流す。コリンよりやや年上くらいの少年に、大の大人が気圧される。


 はっきり言って、尋常ではないことだ。


「……ふっ。どうやら、相手はお前を恐れているようだ。我ら星騎士の中でも最強格が相手だ、無理もない」


「もう、やめてくださいよ~。せいぜい、親指と小指だけでダイヤモンドを砕ける程度のパワーしか取り柄がないんですよ、僕は。知略や技術に優れる他の人たちの方が、もっと強いですよ」


「いや待てよ!? 何さらっと恐ろしいこと抜かしてンだおい!」


 謙遜なのか自慢なのか分からないアルベルトの発言に、思わずアシュリーは突っ込みを入れてしまう。そんな彼女を見て、ジェイドは笑った。


「……信じられない、という顔だな。なら、見せてやれアルベルト。お前の怪力を」


「分かりました、じゃあ……戦いの中でじっくりと、見せつけちゃいましょうか!」


「シュリ、来るわ! 星魂顕現・タウロス!」


「チッ、上等だ! カティのご先祖様だからって、手加減しねぇぞ! 星魂顕現・レオ!」


 最初から全力を出さなければ、すぐにやられてしまう。そう判断したカトリーヌとアシュリーは、すぐさま星の力を解き放つ。


 それから僅か十数秒後、二人はその判断が正しかったことを痛感する羽目になる。アルベルトは手にした鉄鎚……『氷撃鎚バハク』を振るう。


「そおれ! 食らえ、ダイヤモンドブレイカー!」


「受け……いや、無理だろ! 逃げ一択だこンなの!」


「おりゃっ! あー、外し……あ」


 受け止めようとしたアシュリーだったが、すぐに諦めガン逃げする。空振ったハンマーが地面に叩き付けられた、次の瞬間。


 巨大な地割れが発生し、崖が崩れる。クリガラン渓谷の地形が変動するレベルの、凄まじい一撃だった。


「……おい、マジかよ。新しい崖が出来たぞ。地面が隆起するトコ初めて見たぞアタイ」


「そ、そうね~……これはちょっと、予想外だわ……」


「やっちゃった。まあ、でもいっか。ここに住んでるわけじゃないし。へーきへーき」


 凄まじい破壊力を目の当たりにし、アルベルトの末裔であるカトリーヌは冷や汗をダラダラ流す。同じ怪力の持ち主だからこそ、理解したのだ。


 自分の先祖が、生物の限界を超えたパワーの持ち主であることを。まともに正面から組み合えば、確実にミンチにされるだろうことも。


「……そういえば、七百年前の文献の多くに書いてあったわね。十二星騎士の中で、誰が最強なのかについて。フリード様を除いた中で……アルベルト様が一番強いって、ほとんどの文献に乗ってたわ」


 地形の変わった箇所を見ながらカトリーヌは呟く。神であるフリードを除外した中で、最強の星騎士は誰なのか?


 当時の学者も、現代の学者も。満場一致で名を出すのが……今、目の前にいる少年。アルベルトなのだ。


「どうするよ、カティ。もう片っぽもいるンだぜ、正直二人だと荷が重いぞこれ」


「でも、みんなを呼んでる暇はないわ~。場所も遠すぎるし……ここはわたしちだけで切り抜けるしかないわよ、シュリ」


「うーん、うーん! やっばーい、久々に全力でハンマー振ったから中々抜けない……ふんぬっ!」


 鎚頭がまるごと地面にめり込んだハンマーを引き抜こうと悪戦苦闘するアルベルトと、いまだ静観を決め込んでいるジェイドを見ながらアシュリーたちはヒソヒソと会話する。


 コリンとコーディは大地を覆う結界の防衛に向かっており、他の星騎士は他国にいる。とてもではないが、増援は期待出来ない。


 カトリーヌの言う通り、二人だけで窮地を切り抜けなければならないのだ。


「よし、なら……まずはアタイのご先祖様から倒す! 正直、あの怪力に真正面から勝てる気しねぇもん!」


「アルベルト様はわたしが抑えるわ。ジェイド様はシュリに任せる!」


「……来るか。アルベルト、いつまでも遊んでいる暇はないぞ。無双の怪力も、振るえねば持ち腐れ。早くハンマーを抜け」


「分かりました……よっと! ふう、やっと抜けた!」


 ジェイドに注意され、ようやくアルベルトはハンマーを引き抜けた。が、その時にはもうアシュリーたちは行動を開始していた。


 二手に別れ、アシュリーはジェイド、カトリーヌはアルベルトの元に向かって走る。先に到達したのは、アシュリーの方だ。


「ご先祖様個人に恨みはねえが、この大地を守るためだ。死ンでもらうぜ! フラムスピアラッシュ!」


「……遅いな。本物の突きとは、こういうものを言うのだ。フレアレジメント・ストライク!」


「ぐっ、はやっ!? クソッタレ、ンなところで負けてられるかァァァァァァ!!!!」


 槍を構え、神速の突きを放つアシュリー。それに対抗し、ジェイドも突きのラッシュを見舞う。双方互角のラッシュ勝負が繰り広げられる中……。


「そぉれ、よいしょおっ!」


「危ないわ、フローズンイージス!」


「わお、頑丈な盾だね。……いや、超スピードで常に修復してるんだね。なるほど、そうやって僕の怪力に対抗してるわけだ」


「ええ、そうよ。何の策も無しに受けたら、まともに戦えないもの。これくらいはやらないとね~」


「むー、面白くないなぁ。こういう時ってさ、真正面からぶつかってくもんじゃない? というわけで、どんどん行ってみよー!」


「……まずいわね。わたし、五体満足で……というか、生きて帰れるかしら?」


 フィニス配下の、最後の星騎士たちとの死闘が幕を開ける。勝利の女神が微笑むのは、果たして……。

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― 新着の感想 ―
[一言] コリンの最初の仲間であるアシュリーとカトリーヌだけど(ʘᗩʘ’) 最後の刺客が最強格二人とは貧乏クジを引いた物だな(‘◉⌓◉’) カトリーヌも御先祖でも子供相手は辛かろうに(◡ ω ◡) …
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