284話─戦いに次ぐ戦い
アニエスたちの戦いが行われている頃。大地を渡るバンダナ男……旧牙の魔神、バルバッシュの運命変異体に魔の手が忍び寄っていた。
フィニスが創り出した分身、ストライフが追い付いたのだ。次元の狭間にて、二人は激しい戦いを繰り広げる。
「チッ、後少しだっつうのに。何なんだお前、邪魔をするな!」
「そうはいかねえんだよ、てめぇがオリジナルの魔神たちと合流するとアタシの主が困るんだ。だからここで殺す! 死になバルバッシュ!」
「ああ、そういうことか。確かに、オリジナルとちがってオレは善玉だからな。フィニスからすりゃ、邪魔で仕方ねぇってわけだ!」
互いに拳を振るい、あちこち吹き飛びながら殴り合いを行う。炎を纏うストライフの拳と、鋭い牙を備えた顎になったバルバッシュの拳。
それぞれが勢いよく振るわれ、相手の頬や腹にめり込む。一撃一撃が非常に重いようで、ヒットする度に恐ろしい音が鳴る。
だが、元々の耐久性の高さ故か、二人とも平然とした状態で殴り合いをしていた。どちらも、そう簡単に負けるつもりはないようだ。
「タフな奴め。その鬱陶しい手を食い千切ってやる! シャークファング・ナックル!」
「サメなんぞがアタシに勝てるか! 闘争の炎で焼き焦がしてやる! フレアラッシュ!」
顎を開き、相手の拳を噛み砕こうとするバルバッシュ。対するストライフは、拳に炎を纏わせる。炎が揺らめき、巨大なかぎ爪になった。
水の牙と炎の爪、相反する二つの属性を宿す二人の攻撃が同時に炸裂する。拳がぶつかり合った反動で、お互い反対方向に吹き飛ぶ。
「いってぇ! んにゃろ、手を火傷するとこだったぜ。でも、これで距離は離せたぞ。一気に離脱して奴を捲いてや」
「ざ~んねん! ここからはねぇ、ボクも加わっちゃうんだも~ん!」
このまま戦線離脱し、キュリア=サンクタラムへ向かおうとするバルバッシュ。だが、そう簡単に事は進まなかった。
新たな敵、インサニティが空間の亀裂から飛び出してきたのだ。挨拶代わりにと、バルバッシュ目掛けて首の無い死体を二つ投げ付ける。
「危ねえ! クソッ、また来るのかよ!」
「何だ、お前も来たのかインサニティ。……ん? その死体は?」
「あ、これ? 身の程知らずにも、フィニス様にさからお~とした星騎士二人だよぉ。生意気だったから、首斬っちゃった!」
追い付いたストライフは、次元の狭間を落下していく遺体を見ながら仲間に問いかける。おどけた様子で、インサニティは説明を行う。
「よく分からねぇが……お前が外道な野郎だってのはなんとなく分かった」
「じゃあどうする~? ここでボクたちとヤっちゃう?」
「ああ、二人ともぶっ殺してやるよ。……あの遺体を弔った後でな! 食らえ、渦牢の牙!」
名も知らぬ戦士たちの仇を討つ……と見せかけて、バルバッシュは手から激しい水流を放つ。油断していたストライフたちは、渦の中に閉じ込められる。
その隙に、バルバッシュは宙を泳いで落下していく遺体二つを回収する。そのまま一気に加速し、ストライフとインサニティから離れていく。
「まずは目的を遂げさせてもらう! てめぇらをブチ殺すのはそれからだ! 自分たちのしでかしたこと、必ず償わせてやるから覚悟しとけ!」
「あーあ、逃げられちゃった。ストライフ、どうする~? 追いかける?」
「いや、いい。これ以上進めば、キュリア=サンクタラムに近付きすぎちまう。残念だが、追跡はここまでだ。しゃあねえから、別の不穏分子を狩りに行くぞ」
「はいは~い! おっ任せ~!」
バルバッシュの追跡を諦め、ストライフは目的を切り替える。何の手柄も無く帰還すれば、フィニスに怒られてしまう。
そこで、別の不穏分子を始末して首を持ち帰ることにしたのだ。インサニティも同行することになり、二人は適当な亀裂に入る。
次元の狭間の追走劇は、何とかバルバッシュに軍配が上がった。
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「まさか、オレに匹敵するパワーがあるとはな。お前、見た目に似合わずかなり強いな!」
「当たり前だろう? 私だって星騎士だ、これくらい出来ないようではオーレイン家の名が廃る」
その頃、テレジアはゴルドーラと一進一退の攻防を繰り広げていた。お互いパワーファイトを得意とする者同士、一歩も退かない。
剣と剣がぶつかり合い、激しい金属音が海岸に鳴り響く。最初は様子見だったゴルドーラだが、テレジアの腕力の強さに驚かされる。
「こいつは、ちっとばかし本気でかからねぇとまずいようだなぁ! ムーンソルケイド!」
「来る……! ダンシング・ステップ!」
本気を出したゴルドーラは、全力を込めた連続攻撃を繰り出す。シルヴァードほどの速度はないが、テレジアを防戦一方に追い込むには十分だ。
「そらそらそらそらぁ! どうだ、オレの剣捌き! このまま八つ裂きにしてやるぜ!」
「おっと、これはまずいね……アニエス、やれるかい?」
『うん、バッチリ回復したよ! ここから逆転しちゃお、お姉ちゃん!』
「よし、やるよ! 星魂顕現・ジェミニ! からの……ジェミニ・パージ!」
「なんだと!? こいつら、分裂出来るのか!」
『そんな、あり得ない! 私たちだって不可能なのに……!』
このまま押し込まれれば負ける。そう判断したテレジアは、アニエスに呼びかける。傷が癒えたことを確認し、逆転の一手を打つ。
星の力を呼び覚まし、そのままテレジアとアニエスは分裂する。それを見たゴルドーラとシルヴァードは、目を見開き驚く。
「そうさ、私たちのオンリーワンの特技だよ」
「そういうことだね、お姉ちゃん! さあ、このまま二対一でやっつけちゃおう!」
『まずいわね、交代するわよゴルドーラ!』
「ああ、ここはお前に任せる!」
スピードに優れるシルヴァードに交代しようとするゴルドーラ。だが、そうはさせまいとアニエスたちが先に仕掛ける。
一対の剣を一本ずつ持ち、アルハンドラとの修行で磨き上げたコンビネーション攻撃を叩き込む。
「させないよ! ツインドレス……」
「レボリューション!」
「くっ、小娘どもが!」
アニエスの次にテレジアが仕掛け、攻撃後に生まれる隙を相棒が埋める。息の合った連続攻撃に、ゴルドーラは追い詰められていく。
「ぐうっ! クソッ、このオレがここまで追い詰められるとは……」
「アニエス、そろそろトドメだ! いこう!」
「うん! せーの、双児星奥義……」
「ツインソウル・ワルツ!」
双子のエルフたちの空いた手に、魔力で出来た剣が現れる。四振りの剣が乱舞し、ゴルドーラと体内に潜むシルヴァードを切り刻んでいく。
「ぐっ……がはぁっ!」
『こん、な……私たちが、負ける……なん、て……』
「これで終わりだ、貴方たちのような外道には……死こそが相応しい」
「あの世で反省してよね! 自分たちの悪党っぷりをさぁ!」
全身から血を吹き出し、ゴルドーラは倒れた。完全に息絶えたのを確認した後、テレジアとアニエスは背中合わせになりつつポーズを決める。
が、その時。遙か東……ゼビオン帝国の方から強い殺気を感じ、二人は身体をビクッとさせる。気配がした方を見ると、二つの光の柱が遠目に見えた。
「お姉ちゃん、あれって!」
「……どうやら、イザリーたちの言ってた敵が動いているようだね。アニエス、行こう。アシュリーたちを助けに!」
「うん!」
双子のエルフは一つに戻り、東に向かって走り出す。フィニスの放った部下たちとの戦いは、いよいよ佳境に入ろうとしていた。




