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275話─同時多発、世界防衛戦線!

 エステルとツバキが勝利を収めた頃。グラン=ファルダにも、フィニスの侵略の手が伸びていた。星騎士たちを送り出した後、神々は何重もの結界を張る。


 結界を破壊せんと、フィニスが集めた平行世界の堕天神や異神たちが猛攻を仕掛ける。創世神殿にて、バリアスが陣頭指揮を採っていた。


「南西のLブロックの守りを固めろ! あそこを破られたら一気に雪崩れ込まれる。それだけは避けるのだ!」


「ハッ!」


「バリアス様、民間神たちの避難が完了しました! 街には非戦闘員はいません!」


「分かった、市街戦の準備を。一カ所だけ結界を解いて、奴らをわざと迎え入れろ。我々の総力をもって壊滅させる!」


「かしこまりました! ただちに準備を進めます!」


 グラン=ファルダが陥落すれば、基底時間軸世界は滅亡する。それに連動し、全ての平行世界も消滅してしまう。


 それだけは、何があっても防がねばならない。故に神々は必死だ。みな、それぞれの出来ることを精一杯に行い、世界を守ろうとしている。


「ちっす。みんな忙しそうだねー、あーしが生まれてから一番ヤバい状況じゃない?」


「それが分かっているなら、ムダ話してないでお前も働け。ムーテューラ、鎮魂の園の守りは?」


「だいじょーぶだいじょーぶ。あっこの守りはパーペキに固めてあっから。ちょーキョーリョクな助っ人に、お手伝いしてもらえることになったからさ」


「……グランザームと死した旧魔神たちか。確かに、異神との戦闘経験がある彼らなら適任だろう」


 防衛作戦を進める中、臨時で作られた司令室にムーテューラがやって来る。彼女の管轄である死後の世界……鎮魂の園の守りを固めてきたようだ。


 外から爆音が聞こえてくる中、バリアスとムーテューラは無言で机の上に広げられた地図を見る。地図には、リアルタイムで各地の様子が映し出されていた。


「フィニスはいないようだな。奴の目的を考えれば、自分でグラン=ファルダ(この場所)を攻撃してくると踏んでいたが……」


「仲間も捕らえてあるしねー。エカチェリーナだっけ? あの金髪ドリル頭の運命変異体」


「ムーテューラ、その呼び方はやめろ。毎回ツボに入るんだ、集中力が途切れる」


 神殿の地下には、唯一生け捕りに出来た超越者……エカチェリーナが隔離されている。彼女を取り戻し、神々を滅ぼすためにフィニスが直接来る。


 そう考えていたバリアスだったが、今のところその気配はない。とはいえ、平行世界から現れた数千の邪神たちが脅威なのに変わりはない。


「アルトメリクたちを呼んできてくれ、ムーテューラよ。我々も打って出る。奴らを囮のブロックにおびき寄せ、殲滅するぞ」


「ほいほーい。んじゃ、ぱーっと一暴れしてやりますかぁ!」


 そんな会話を交わした後、バリアスたちは司令室を出る。彼らが去った後、机の上に残された地図に三つの世界の様子が映し出された。


 リオたちの故郷、キュリア=サンクタラム。アゼルたちの古巣、ギール=セレンドラク。そして、死者たちが眠る鎮魂の園。


 三つの世界にも、フィニスが放った刺客たちが迫ってきていた。



◇─────────────────────◇



「いい気持ちだ。千年ぶりの娑婆の空気は、格別と言えるな」


「ヘッ、そりゃようござんしたね。オレサマたちからすりゃ、おめぇと共闘する日が来るなんて驚きだ。なぁ、グリオニールのアニキ」


「全くだ。せっかくいい詩が書けたというのに。プライベートな時間を潰されてはこまるね、ホント」


 グラン=ファルダの地下深くに、死者たちの眠る国……鎮魂の園がある。いつもは、死者たちが転生する日を待ちながら穏やかに暮らしているが……。


 今日に限っては、厳戒態勢が敷かれている。最上層にある花園には、ムーテューラの部下たる冥府の騎士たちと、三人の男がいた。


「不服かな? 余としては、貴公らと共に戦えるのは望外の喜びだが」


 漆黒の鎧と赤色のマントを身に付けた、紫色の肌を持つ闇の眷属の男……グランザームは他の二人にそう告げる。


 彫刻のように美しく整った顔には、歓喜の色が浮かんでいた。一方、残りの二人は……。


「まあ、リオだったら大喜びするだろうな。アンタと一緒に戦えるってなりゃあよ」


「そうだな、ミョルド。まあ、私たちも嬉しいか嬉しくないかで言えば……嬉しいがね」


 腰から蛇の尾が生えた半裸の大男、旧鎚の魔神ミョルドはグランザームにそう答える。弟に同調し、灰色のコートと山高帽を身に付けた青年……旧槍の魔神グリオニールも自分の意見を述べた。


「皆さん、気を付けて! 敵が結界に接近してきています、迎撃の準備を!」


「っしゃあ! 一万と千年ぶりに大暴れしてやるぜ! ここの敵を潰し終わったら、キュリア=サンクタラムに行っていいんだろ? へへ、やる気がムンムン出るじゃあねえか!」


「そうだな。久しぶりに会いたいからね。私たちの後継者や兄妹たちに。みな、元気にしているといいのだが」


「余も同じ想いだ。初めての恋をした乙女のように、心が躍るのを感じる。我が娘アーシア……そしてリオ。戦いが終わったら……ふふふ」


 鎮魂の園を制圧し、空と地下からの挟み撃ちを画策する堕天神たちを追い払うべく……死者たちも立ち上がる。


 かつて魔神だった者たちと、最強の魔戒王と称された闇の戦士。彼らがいる限り──神々の敗北は決してない。


「総員、構え! 結界を一部開き、敵を誘い込む! 多数で取り囲み撃破を」


「んなまどろっこしいことしてられっかよ! ミョルド様の大暴れっぷり、よーく見とけ! 来い、豪雷の鎚!」


「こら、ミョルド! ……やれやれ、これだから喧嘩っ早い奴は。キミもそう思うだろう、グランザ……あれ、いない!?」


「一番槍は譲れんな! リオよ、遠い故郷から刮目して見るがよい! そして喜ぶがいい。貴公の好敵手(ライバル)は……死してなお、その実力が健在だということを!」


「はっや!? おいコラ、後から来たクセに抜かしてくんじゃねー!」


 背中に闇の翼を生やし、グランザームはミョルドを追い越して結界の外へ向かう。ひしめく無数の邪神たちとの戦いに……かつての王は、獰猛な笑みを見せた。



◇─────────────────────◇



 グラン=ファルダで戦いが起きている頃。アゼルたちもまた、激しい戦火の中にいた。平行世界から現れた、自分たちと縁のある運命変異体たちと戦う。


「吹き荒れよ、死の吹雪! ジオフリーズ!」


「ギャアアアアアアア……!!」


「アゼル、大丈夫か!?」


「ええ、何とか! ……運命変異体とはいえ、ヴァールさんを殺してしまうのは気が引けますね」


 黄金の鱗と六枚の翼を持つ巨大竜を仕留めたアゼルは、走り寄ってきたリリンに答える。遙か上空には、無数の魔法陣が展開されている。


 その中から、フィニスが送り込んできた数千の刺客たちが地上に降りてくる。ギール=セレンドラクを滅ぼし、障害を一つ消すために。


「二人とも、ここにいたか! 我の背に乗れ、味方の援護に行くぞ!」


「分かりました、ムルさん! リリンお姉ちゃん、行きましょう! 奴らの思い通りになんてさせたくないですからね!」


「ああ、分かった! ……しかし、敵も味方も総力戦だな。かつての王たちにまでご出陣していただくことになるとは」


 互いの無事を確かめ合っていると、銀色の毛を持つ大きな狼が走ってくる。狼の背に跨がり、二人はそのまま東へ向かう。


 直属の騎士団が、平行世界の敵と戦っている。彼らを援護するため、狼は地を駆けていく。その途中、遙か天の彼方で雷がとどろいた。


 見上げると、黄金の竜が雄叫びをあげ雷を落としていた。雷は敵の一団に直撃し、消し炭へと変える。


「見た目が同じなせいで、誰がオリジナルで誰が運命変異体なのか分からぬな。先ほども、危うくオリジナルの方のシャスティを食い殺しかけたぞ」


「いい見分け方がありますよ、ムルさん。武器を振りかざしながら、ぼくたちに向かってくる奴らが敵です!」


「……雑な見分け方だ。まあ、非常事態だ。贅沢は言うまい」


 笑顔でそう言い放つアゼルに、ムルは呆れ顔で答えた。二人を乗せた狼は、戦場を駆ける。世界の命運を賭けた戦いは、始まったばかりだ。



◇─────────────────────◇



「ここが反応のあるポイントらしいが……それらしい奴ぁいねえな」


「恐らく、海の中に潜んでいるのかもしれません。奇襲に注意しないといけませんね、ドレイクさん」


 同時刻、イゼア=ネデール東の海上。マリンアドベンチャー号に乗り込んだドレイクとディルスが、敵の反応があった海域に向かっていた。


 注意深く船を進めていると……前方十数メートルのところに大渦が発生する。その中から、二人の男女が飛び出してきた。


「へぇ、アンタが……アタシの子孫、ドレイクか。ふぅん、中々の色男じゃないか」


「貧相な子どもだ。こんなのが我が末裔だとはな。ファンダバル家の威光など、未来にはないようだ」


「来やがったか……オレたちのご先祖サマの運命変異体が。ディルス、構えな。ここで仕留めるぜ!」


「はい!」


 基底時間軸世界のあらゆる場所で──世界の命運を賭けた大戦が、幕を開けていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] グランザーム……今度こそ、一緒に闘ってくれるのだな!!!
[一言] あっちゃこっちゃ忙しそうだな(ʘᗩʘ’) かなりお久な人物達も多くて一瞬え〜と?と思ったがこういう展開は中々熱いな(⑉⊙ȏ⊙) しかしグランザームの旦那、アンタはリオとの再会、再戦に頭一杯…
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