262話─敗北と決意
フィニスとの戦いが始まってから、十数分後。『運命』に護られた超越者の前に、コリンたちは為す術なく敗れ去っていた。
「はあ、はあ……。反則過ぎンだろ、こっちの攻撃が一切当たらねえなン……がはっ!」
「これで十二人目だ。残るは四人。お前たちも倒してやろう」
満身創痍になったアシュリーに、飛刃の盾が直撃し倒れる。星騎士たちの骸が散らばる中、コリンとコーディ、リオとマリアベルが奮戦していた。
だが……アブソリュート・ジェムの力を打ち破ることが出来ない以上、コリンたちに勝機は無い。死ぬのが早いか、遅いか。その違いしかないのだ。
「反則過ぎるでしょ……。何よ、運命を味方に着けるって……」
「正直、ちょっと甘く見てたね……。これ、かなりヤバいかも」
「ようやく現実を認識出来たか? この世界の私よ。だが、もう遅い。私の勝利は揺らが……むっ!」
「そうはいかぬわ! 例え最後の一人になろうとも抵抗してくれる!」
精も根も魔力も尽き果て、荒い息を吐くコーディたち。そんな彼女らにトドメを刺そうとするフィニスの横っ面に、コリンが杖で殴りかかる。
闇の槍一本すら作れないほど魔力が枯渇していながらも、コリンは諦めない。師匠仕込みの杖術を用い、フィニスへ猛攻を仕掛ける。
「面白い、格闘で私と渡り合うつもりか。なら、少し遊んでやろう!」
「このっ、このっ、このっ!」
「お坊ちゃま……わたくしも、ぐうっ!」
マリアベルが加勢しに行こうとするも、彼女の両脚はすでにフィニスによって膝から下が切断されてしまっている。
満身創痍で動けないリオたちと共に、コリンの奮闘を見守ることしか出来ない。そして、コリンの猛攻も……長くは続かなかった。
「はあ、はあ……う、目眩が……」
「よく頑張った。だが、これで終わりにしよう。まずは武器を奪わせてもらう」
「何をする! 杖から手を離せ!」
疲労困憊になったコリンが振り下ろした杖を掴み、フィニスは莫大な魔力を注ぎ込む。設計限界を超えた魔力を流し込まれ、杖に亀裂が走る。
それに気付いたコリンは、フィニスの脛を蹴ったりして抵抗する。だが、相手は手を離さない。一分も経たないうちに……限界を迎えた杖は、粉々になってしまった。
「! ブラックディスペアが!」
「ほう、黒い絶望……皮肉な名だ。私ではなく、お前に絶望を運んできたのだからな」
「まだ、じゃ……まだわしは諦めぬ!」
杖の先端に取り付けられていた宝玉が地に落ち、コリンの足下に転がってくる。それを拾い上げ、コリンはフィニスに殴りかかる。
だが、逆に盾で殴り飛ばされてしまう。コリンを助けようと、リオとコーディが飛び出していくが……。
「これ以上はさせない!」
「コリンから離れなさい、フィニス!」
「邪魔だ、引っ込んでいろ! シールドスローイング!」
「うわっ!」
「あぐっ!」
盾の一薙ぎを食らい、二人同時に吹き飛ばされてしまった。何とか立ち上がろうとするコリンの前に移動し、フィニスは左手を向ける。
「最後までよく頑張った。戦士としての情けだ、最大パワーで消し去ってやろう。痛みも苦しみもなく、この大地と共にな」
「く……もう、ここまでなのか……」
フィニスが左手を握ると、七つのアブソリュート・ジェムが一斉に輝く。もう勝機は無いと、コリンが諦めかけたその時。
ビシッ、という嫌な音が響く。思わず顔を上げたコリンが見たものは……亀裂が走るアブソリュート・アームだった。
「ぐうっ! ……やはり、この篭手では……全てのジェムの同時発動の負荷に耐えられぬか。援軍も到着したようだし……ここは一度退くとしよう」
「援軍……?」
左手をおさえ、苦しそうに顔を歪めるフィニス。彼の発した言葉にコリンが首を傾げた直後。地が割れ、二人の男女が現れる。
姿を見せたのは、コリンの両親。フリードとフェルメアだった。我が子の危機に、ついに女王と神が動いたのだ。
「パパ上……ママ上!」
「ごめんね、こーちゃん。ママたち、助けに来るのが遅れちゃって」
「エイヴィアスの起こした反乱を鎮圧するのに手間取ってしまってな。だが、もう安心だ。奴は俺たちが倒す」
コリンを守るように、夫婦はフィニスと対峙する。第二ラウンド開始……かと思われたが、超越者は潔く撤退することを選んだ。
「この世界の魔戒王たちか。悪いが、今はお前たちの相手をしている暇は無い。破損したアブソリュート・アームを改良せねばならぬのでな、失礼させてもらう!」
「待て! ……逃げたか。逃げ足の速い奴め」
「フリード、追う? 今なら追い付けるかもしれないわ」
「いや、いい。深追いは危険だし、まずは彼らを助けねば」
夫婦が仕掛ける前に、フィニスはジェムの力を使って逃亡してしまった。青と緑、赤に黒。四つの宝石の力で、いずこかに消えてしまう。
追うかどうかフェルメアに訪ねられたフリードは、首を横に振り星騎士たちの骸を見る。敵を追うより、彼らを助ける方が先だと判断した。
「アゼルくん、来てくれ! 君の力で、彼らを蘇生させてあげてくれないか」
「はい、分かりました! よかった、あらかじめ待機しておいて……よいしょっと!」
フリードが声をかけると、青い光の柱が降り注ぐ。そこから、バリアスとアゼルが現れた。アゼルが蘇生の炎を使い、アシュリーたちを生き返らせていく。
マリアベルの脚も無事元通りになったが……破壊された杖だけは、どうにもならない。命は戻せても、物体の修復は出来ないのだ。
「むう……この杖、ジェムの力で破壊されているな。これでは、私の力で時を巻き戻しても……修復は不可能だろうな」
「くそっ、やってくれたなあのクソ野郎! 次に会ったらぶっ殺してやる!」
生き返ったドレイクは、フィニスへの恨み言を吐き散らす。だが、彼以外の星騎士はみな意気消沈してしまっていた。
圧倒的な力の差の前に何も出来ず、ただ殺されるしかなかった自分に……すっかり、自信を無くしてしまったのだ。
コリンもうなだれていたが、すぐに顔を上げる。杖の破片をかき集め、べそをかきながらもフィニスへのリベンジを誓う。
「わしは……ぐすっ、諦めぬぞ。絶対に! パパ上、わしに稽古をつけてくだされ! あの憎たらしいフィニスを葬るための力が欲しいのじゃ!」
「そうだな……我々闇の眷属からしても、放置出来る問題ではなくなった。フィニスとエイヴィアスを放っておけば、全てが無に帰す。それだけは防がねばならない」
「フリード、ついにこの時が来た。今こそ、神と魔の対立を乗り越え手を取り合うべきだ。その準備が、我々にはある」
フリードの言葉に、バリアスがそう口にする。指を鳴らすと、青い光の柱が彼の側に降ってきた。柱を指差し、神はアシュリーたちに話しかける。
「君たち星騎士を、我々ファルダ神族と上位の魔戒王たちとで分担して鍛え上げる。私たちのところに来たい者はいるか?」
「こっちに来てもいいのよ? 私たちがやさーしく指導してあげるわ」
フェルメアはバリアスに対抗し、暗域へと続く門を作り出す。よみがえった星騎士たちは互いに顔を見合わせ、進むべき道を考える。
その果てに、彼らが導き出した結論は……。
「アタイは神に鍛えてもらうぜ。そっちの方がなンか安心するしな!」
「あら~、じゃあわたしは暗域に行くわ。コリンくんもいるしね~」
「拙者も神々のお世話になる。女神様の剣、もっと教授していただきたいのでな」
「俺は……暗域に行くよ。勘だけど、そっちの方が相性いいと思うんだ、俺」
最初に結論を出したのは、アシュリーとカトリーヌ、ツバキとディルスの四人だった。彼女らを皮切りに、みな決断していく。
「ほな、ウチは神様んとこ行くわ。どっちでもええんやけど、まあその場のノリや」
「ボクは暗域に行くよ! 修行ついでに、ししょの家族と仲良くなって……ふふふ」
『アニエス、動機が不純だよ……』
「全くね! でも……私もそっちにいこっかなー」
「オレは神のとこに行くぜ! きっと美人な女神様がいっぱいいるに違いねえからな! ガハハ!」
「ほう? 女神をナンパするつもりか? なら、私が監視役として同行しないとな。なぁ、ドレイク?」
「しまった、やぶ蛇だったか!」
結果、グラン=ファルダにはアシュリー、ツバキ、エステル、ドレイク、ラインハルト、フェンルーの六人が。
暗域には、カトリーヌ、ディルス、アニエス&テレジア、イザリー、マリスの五人とコリン及びコーディが行くことになった。
「フィニスの動向は、アゼルとその仲間たちに見張っていてもらう。奴がいつ事を起こすか分からないが、その時が来るまで修行をする。みな、しっかり着いてこい!」
「おおーーー!!!」
バリアスの言葉に、コリンたちは腕を突き上げる。フィニスにリベンジを果たすため、彼らの修行が始まる。




