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27話―舞踏会、始まる

 コリンたちが和気あいあいと舞踏会に出席するための準備をしていた頃。ヴァスラ教団幹部、オラクル・ベイルもまた水面下で動いていた。


「これが今回成り代わる対象の貴族の写真か、オラクル・アムラ」


『そうだ。その貴族……ヘンリー・ラドレス伯爵はゼビオン皇帝と懇意の仲。警戒されることなく近付き、暗殺出来る』


 第四十九前線基地にて、ベイルは同志であるオラクル・アムラと水晶玉を通して会話していた。ベイルの手には、一枚の写真がある。


 舞踏会に潜入するため、招待客の中からもっとも簡単に皇帝ラファルド七世に近付ける人物に成り済ますつもりなのだ。


「助かる、オラクル・アムラ。皇帝を暗殺し、混乱に乗じてコリンも殺す。ところで、本物のラドレス伯爵はどうした?」


『家族もろとも拉致し、殺した。万が一にも、偽者だと見破られるわけにはいくまい? 密偵を伯爵の妻に変装させ、お前に同行させる予定だ』


「分かった、ではこれから実行部隊と打ち合わせをしてくる。通信を切るぞ、同志よ」


『武運を祈るぞ、オラクル・ベイル。偉大なる女神、ヴァスラサックの加護あれ』


 通信が切れ、水晶玉から輝きが失われた。ベイルは机の上に水晶玉を置きつつ、写真を眺める。写真には、人のよさそうな笑みを浮かべる小柄な老紳士が写されていた。


「さて、早速始めるとしようか。全身丸ごと()()()するのは久しぶりだな……」


 ヘンリー伯爵の顔と体型を記憶に刻み込んだ後、ベイルは左手に魔力を宿す。そっと額に手を当て、ゆっくりと下へおろしていく。


 顎まで下ろし、手を離すと……ベイルの顔が、写真に写っているヘンリー伯爵のソレと全く同じになっていた。続いて、肉体にも変化が現れる。


「む、ぐ……ぬううっ! やはり、身体を小さく『造り変える』のは負担が大きいな……。だが、これで準備は整った。コリン、覚悟していろ。貴様を殺してやるからな」


 そう呟いた後、肉体の再構築を終えたベイルは歩き去っていった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「いよいよ今日じゃのう。舞踏会……楽しみじゃ」


「ああ。でも、気ィ付けろよコリン。教団の密偵どもが何人紛れ込ンできてるか分からねえからな」


「もちろん、分かっておるとも。会場に着いたら、それとなく観察するでな」


 翌日の朝、コリンとアシュリー、カトリーヌは馬車に乗りゼビオン城へ向かっていた。マリアベルが御者を務め、大通りを進む。


 コリンは黒いタキシードとシルクハットを、アシュリーは背中の開いた赤いドレスを身に付けている。一方、カトリーヌは……。


「まーた修道服なのか、カティ。そろそろドレスデビューしたらどうだ? オーダーメイドで作ってもらえよ」


「ううん、わたしにドレスは似合わないわ~。この筋肉とのミスマッチが酷いもの。だから、せめて場違いにならないように修道服を、ね」


 流石に舞踏会にビキニアーマーを着てくるわけにはいかないため、カトリーヌは財団職員としての正装である修道服を着ていた。


「もったいないのう。わしは見てみたいがのう、カトリーヌがドレスを着ておる姿を」


「うふふ、ありがとうコリンくん。でも、今はその言葉だけ受け取っておくわ。今からじゃドレスの用意も出来ないしね~」


「いんや、それくらいならお茶の子さいさいじゃ。じっとしておれ、ズレるとすっぽんぽんになってしまうでな」


「え? 何を……きゃあっ!?」


 コリンが指を鳴らすと、カトリーヌの首から下が黒いもやのようなものに包まれる。少しして、もやが晴れると……。


「おおっ、すげぇ!? なんつーきらびやかなドレスだ! カティ、滅茶苦茶似合ってるじゃん!」


「え? え? い、一体何が起きたのかしら……って、これは!?」


「うむうむ。やはりわしが見立てた通りじゃわい。深い瑠璃色のドレスが、カトリーヌには一番似合うのう!」


 地味な修道服姿だったカトリーヌが、海のような深い青色のドレス姿になっていたのだ。ドレスは露出はほとんどなく、布地が多めになっている。


 さらに、胸元やスカートの裾には大きな青色の宝玉が取り付けられていた。一流の仕立屋が製作したものに勝るとも劣らない、豪華絢爛なものだった。


「ほれ、鏡を見てみるとよい」


「こ、これがわたしなの? こんなふりふりで可愛いドレス……凄いわ~、本物のお姫様になったみたい」


「ふふ、やっぱりカトリーヌは朗らかに笑っておる方がいいのう。そのドレス、似合っておるぞよ!」


「ふふ、ありがとうコリンくん。舞踏会が終わっても、このドレス大切にするわ」


 暖かな雰囲気の中、馬車はゼビオン城に到着した。マリアベルは馬車の扉を開き、コリンをエスコートする。


「お坊っちゃま、足元にお気をつけください。さあ、参りましょうか」


「うむ! 招待状もちゃんと持ってきておるからの、行くとしようか」


 城の入り口に立っている守衛に招待状を見せ、コリンたちは招かれし者であることを証明する。少しして、無事四人は会場入りすることが出来た。


 すでにダンスホールは招待された貴族たちで賑わっており、そこかしこから談笑する声が聞こえてきた。……が、コリンに気付いた途端、空気が変わる。


「ほう、あの男の子が例の……」


「可愛らしい顔立ちの子ね。うちの娘より可愛いわ」


「つい最近、Sランクの冒険者になったとか。ふむ、将来が楽しみだ」


 そこかしこから、獲物を狙う獣のような視線がコリンに向けられる。マリアベルは主を守るようにそっと寄り添い、貴族たちをけん制する。


「ほっほっ、わしも大人気じゃのう。みんなこっちを見ておるわい」


「ああ、そうだな。しかも、この何十人もいる貴族たちの中に……混ざってるンだぜ、教団の密偵が」


「お坊っちゃまに手出しはさせません。怪しい者は見つけ次第……おや、あそこにいるのはもしや」


「あら~、ラファルド七世様ね~。この国を束ねる皇帝陛下よ~」


 周囲を警戒していたマリアベルは、会場の一角に人だかりが出来ているのを見つける。豪奢な衣服で着飾った中年男性が、貴族たちに囲まれ朗らかに笑っていた。


「むむ、であれば挨拶してこなければなるまい。こうして招いていただいたのじゃからな、無礼な真似は出来ん」


「ええ。では、わたくしもお伴します」


「アタイらはホールの隅々をチェックしてくる。怪しい奴がいたらとっ捕まえてやるぜ、なあカティ」


「そうね~。被害が出ないように頑張りましょ~」


 一旦アシュリーたちと別れ、コリンはマリアベルを伴いラファルド七世の元に行く。コリンに気付いた皇帝は、明るい笑みを浮かべ両腕を広げる。


「おお、よく来てくれたね! ダズロン卿から聞いているよ、君がかの英雄の息子か。今日はよく来てくれた、舞踏会を楽しんでおくれ」


「ありがたき幸せにございます、皇帝陛下。本日はこのような誉れ高き宴にお招きいただき……」


「ははは、そんな堅苦しい挨拶は抜きだ抜き。さあ、おいで。息子たちに紹介しよう。()()()()()()()になるだろうからね」


 どこか含みを持った言い方をした後、ラファルド七世はコリンを連れていこうとする。その時、一人の老紳士が近付いてきた。


「おやおや、今日はいつにも増してずいぶんと賑やかですなぁ。お久しぶりですな、陛下」


「おお、ヘンリーではないか! 別荘で療養していると聞いたが、元気そうで何よりだ。よく来てくれた、私は嬉しいよ」


「ほっほっ、このヘンリー、まだまだ死にはしませんわい。どれ、久しぶりの再会を祈って握手でも……」


 ヘンリーは右手を差し出し、ラファルド七世と握手を交わそうとする。が、その時。コリンが手を伸ばし、ヘンリーの腕を掴んだ。


「おや、どうされたかなぼうや。ははあ、先に握手をし」


「待たれよ。そなた……()()()()()()()()()おるな? その魔力で、何をするつもじゃ?」


「ぐうっ!」


 コリンはヘンリーの腕を捻り上げながら、そう問いかける。周囲がざわめく中、ヘンリーの右手が白く染まっていく。


 微弱な闇の魔力をコリンが流し込んだことで、ヘンリーが手のひらに薄く纏っていた魔力が見えるようになったのだ。


「くっ、まさかこんな早くバレるとは! だが、逆に好都合。このまま、貴様を仕留めさせてもらうぞコリン!」


 ヘンリーに成り代わっていたベイルは本性を現し、コリンの腹を蹴って吹き飛ばす。体勢を立て直したコリンは、闇の魔力を解放する。


「フン、ヴァスラ教団の刺客か。良かろう、返り討ちにしてくれるわ!」


 コリンとオラクル・ベイル。二人の戦いが、始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変装対象そっくりに体を再構築するとは只の能力ではできんな(ʘᗩʘ’) これも奴等の信仰する禍神の加護か(↼_↼) 手早く鎮圧せんと大パニックなって色々逃げられそうだな(⌐■-■) たぶん逃…
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