261話─最後の戦い……?
「案外早かったな、復活するのが。どうやら、どの世界でも私はタフなようだ」
「おしゃべりはしないよ。お前を倒して、全部終わらせる!」
「そのガントレットの宝玉……ふむ、アブソリュート・ジェムではないようだが……?」
フィニスは、リオが装備しているジャスティス・ガントレットに嵌め込まれている七つの宝玉に興味があるようだ。
もっとも、それはアブソリュート・ジェムではなくベルドールの七魔神たちの力が結晶となったものだ。それを知らないフィニスは、警戒を強めている。
「二人は離れてて。こいつは強い、攻撃に巻き込まれたらタダじゃ済まないよ!」
「逃がすと思うか? 全員ここで始末させてもらう! シールドスローイング!」
「させない! シールドブーメラン!」
リオとフィニスは、全く同じタイミングで飛刃の盾を作り出し投げ付ける。二つの盾が空中でぶつかり、甲高い音を立てて弾かれた。
戻ってきた盾をキャッチしつつ、リオはコリンたちに向かって叫ぶ。逃げろ、と。自分がフィニスを食い止めている間に、神々と合流しろと。
「ここは僕に任せて、二人は逃げて!」
「そうは……」
「おっと、手は握らせない! これでも食らえ! フローズンクロフト!」
アブソリュート・ジェムの力を解き放とうとするフィニスに先んじて、リオは右手を握る。すると、ジャスティス・ガントレットに嵌められた青色の宝玉が輝く。
凄まじい冷気が巻き起こり、フィニスの左手を分厚い氷の塊が包む。これで、しばらくの間はジェムの使用を封じることが出来るだろう。
「ぬっ、これは……!?」
「コーディ、今のうちじゃ! ひとまず撤退するぞよ!」
「う、うん!」
「逃がすものか! 界門の盾!」
コリンたちの逃亡を阻止するべく、フィニスはワープゲートを作り出し彼らの前に現れる。驚いて立ちすくむコリンに、拳を振り下ろそうとした次の瞬間。
「そうはさせねぇ! フラムレントスピア!」
「コリンはんに手出しはさせへんで! 蠍忍法、砂縛縄の術!」
「アシュリー! それにエステルも!」
「貴様らは……そうか、アーリャたちはしくじったということか」
次々と青い光の柱が降り注ぎ、星騎士たちが姿を現す。神々と合流し、傷を癒やしてもらった後コリンを助けるべく加勢しに来たのだ。
真っ先に現れたアシュリーが斬りかかり、エステルが砂で作った縄を引っかけフィニスを妨害する。その間にも、続々と仲間たちが集う。
「コリンくん、助けに来たわ! 遅れてごめんね、私たちも戦うわよ!」
「奴が今回の黒幕か。これ以上イゼア=ネデールを破壊させぬぞ!」
「また現れたか、羽虫どもめ。鬱陶し……ぐっ!」
「おっと、僕がいるのを忘れちゃダメだよ!」
続けて、イザリーとラインハルトが現れる。二人を攻撃しようとするフィニスの横っ面に、リオが蹴りを叩き込む。
よろめくフィニスを、ラインハルトが磁力で操り高速で前に飛ばす。そこへ、イザリーが尻尾によるラリアットを首にお見舞いした。
「食らうがいい! 我らの……」
「コンビネーションアターック! そりゃあ!」
「ぐおっ!」
強烈な一撃を食らい、フィニスの巨体が宙を舞う。だが、攻勢はこれで終わらない。まだまだ、星騎士たちは残っているのだ。
「おのれ、羽虫風情が! 食らうがいい、嵐斬の」
「斬撃勝負か? なら、拙者が相手をしてやる。闇寧神譲りの剛の剣、その身に刻み込んでやる!」
「オレも忘れんなよ、キザ男! てめぇよりこのキャプテン・ドレイクの方がイイ男だってのを教えてやるぜ!」
背中から地面に叩き付けられたフィニスは、左手を覆う氷を叩き割り反撃に出ようとする。が、その瞬間ドレイクとツバキが現れた。
「食らえや! アックスマキシマム!」
「女神様から聞いたぞ、その腕を切り落とさせてもらう!」
「ムダなことを。私の腕は切り落とせぬぞ、強度が違うからな!」
斬りかかってくるドレイクたちに向かって、フィニスは腕を振るう。直撃を受けた二人が吹き飛ばされるも、すぐに助けが入る。
アシュリーたちがフィニスの追撃を阻止している間に、新たに参戦したアニエスとフェンルーがツバキたちを助けに来たのだ。
「二人とも、今助けるヨ! それ、シュルシュルー!」
「しっかりキャッチするからね、任せといて!」
「済まねえ、助かったぜ!」
『気にしなくていい、私たちは仲間だからね!』
「みな、来てくれたのじゃな! ならば、わしが逃げるわけにはいくまい。今ここでフィニスを仕留めてくれる!」
仲間たちが加勢し、命がけで戦う姿を見てコリンは逃亡することをやめた。魔力を練り上げ、きびすを返し戻っていく。
「私もやってやるわ! おじ様たちの仇、ここで討ってやる! ……って、きゃっ! ごめんなさい、ぶつかっちゃった」
「お前、誰? コリン、似てる。不思議」
「マリスさん、それを聞くのは後だ。まずはあいつをぶっ潰してやらないと。ソールたちを守るためにも!」
「ん、分かった。マリス、やる!」
コーディもコリンを追って走り出そうとするが、そこに光の柱が降ってくる。飛び出してきたマリスとぶつかってしまい、頭を下げる。
どことなくコリンと似ていることを察し、不思議そにするマリスだったが、ディルスに声をかけられ三人で加勢に向かう。
「うふふ、わたしたちも来たわよ~。さあ、怪我も治ったし反撃ね~!」
「お坊ちゃま、参戦が遅れて申し訳ありません! ここからはわたくしがお守りします!」
「……なるほど。こいつらがこの世界での星騎士たちというわけか。……ふっ、好き放題させた甲斐があったな」
傷が癒えたカトリーヌと、置いてけぼりを食らっていたマリアベルも現れ……ついに星騎士が勢揃いする。リオとコーディを加え、総勢十五人の連合軍だ。
全員でフィニスに挑みかかり、たこ殴りにする中……超越者フィニスは抵抗もせず、不気味な笑みを浮かべる。ただ一人それに気付いたリオは、大声を出す。
「! みんな、離れて! こいつ、何か企んでる!」
「ほう、よく気付いたな。だがもう遅い。何故私が、ここまで不利な状況にいるのに逃げないと思うかね? 『運命』が私に味方しているからだ!」
そう口にした瞬間、フィニスは飛びかかってきたドレイクを殴り飛ばし左手を握る。すると、白色の宝石が輝き始めた。
何か良くないことが起こる。その場にいる全員が、そんな予感を抱く。そして……それは現実のものとなってしまう。
「えいっ! ……あれ!? 攻撃が当たらない!?」
『おかしい、確実に首を狙っていたのに!』
「言っただろう? 運命は私に味方していると。『運命のダイヤモンド』の力で、因果律をねじ曲げた。次にジェムの力を使うまで、お前たちの攻撃は私に当たらない」
アニエスが斬りかかるも、何故か攻撃がフィニスに当たらない。驚愕する彼女に、超越者はとんでもないことを言い出した。
「くだらない冗談だな。みんな離れろ! あのボケ野郎の言うことが本当なのか確かめてやる! スケイルレイン!」
「わしも加勢する! ディザスター・ランス【豪雨】!」
「マリス、やる! スターリーアロー・シュート!」
ディルスにコリン、マリスの連携攻撃が放たれる。闇の槍と魚鱗、矢の雨がフィニスに降り注ぐ。アシュリーたちは急いで離れていき……。
三人の放った攻撃が着弾する。だが、信じられないことに──槍も鱗も矢も、全てフィニスを避けるように地面に落ちていく。
「う、そだろ……」
「ばかな、こんなことが有り得るわけが」
「これ、現実? マリス、信じられない」
「言っただろうに。『運命』が私を守ってくれているのだよ。そうだな、一つ宣言しよう。私はジェムの力を使わない。運命の加護の元……魔神としての力で、お前たちを全滅させてやる」
愕然とするコリンたちに向かって、フィニスはそう宣言する。ここに来て、彼らは知ることとなる。絶対の力を得た超越者の恐ろしさを。
本物の絶望が、今……フィニスという存在になって、コリンたちに襲いかかろうとしていた。




