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254話─命の女神、猛る!

「お二人は後ろに下がってください。ここはわたしが戦います!」


「面白いこと言うね、あんた。ちょうどいいや、まずはあんたから殺してあげるよ! 忍法、『水刃跳び』の術!」


 エステルたちを下がらせ、一人戦うアルトメリク。飛んでくる水の丸ノコを、ヌンチャクで破壊して叩き落とす。


 少しずつ後退しながら丸ノコを投げるエミカは、アルトメリクに気付かれないよう足を動かず。じわりと水が浜辺の砂に染み込む。


「中々やるね、拙者の連続攻撃を防ぐなんてさ!」


「ええ、もちろん。それだけではありませんよ? あなたがやろうとしていることもお見通しです! フレアスターナー!」


 ヌンチャクで攻撃を防ぎつつ、アルトメリクは右足で砂浜を踏み付ける。すると、足から放たれた炎が砂の中に潜っていく。


 砂の中に潜り進んでいた水とぶつかり合い、蒸気になって対消滅した。丸ノコの対処に気を取られている間に、何かをしようとしていたらしい。


 もっとも、それに気付かないほど鈍感なようでは神は務まらないため、アルトメリクにはすぐ看破されてしまったが。


「へぇ、中々鋭いじゃん。バレないようにやってるつもりだったんだけどねー」


「わたし、こう見えて人一倍感覚が鋭いんです。この程度の小細工なんてすぐ分かりますよ?」


「へー、なら……どれが本物の拙者かは分かるかな! 忍法、『魔霧影分身』の術!」


「なんや、あいつ分身しおったで! なんちゅう数や、こらしんどいやつやで!」


 エミカはポーズを決め、蓄えた魔力を解き放つ。空気中の水分と結合して霧になり、合計九体の分身へと変化した。


 エステルの言う通り、これだけの数を捌きつつ本体を見つけ出すのは至難の技だ。果たして、アルトメリクはどんな手を使うのか。


「ふむ、なるほど。では、面倒なので纏めて焼き払いますね♥ フレアエクステンド!」


「ちょ、待ぁぁぁぁぁ!?」


「わー、頭いーネー」


 本体を見つけ出すのが手間なら、分身ごと焼き尽くしてしまえばいい。それが、アルトメリクの出した結論であった。


 正体を特定されないよう、分身と共に飛びかかっていたのがアダとなり、エミカはエメラルドグリーンの炎に焼かれる。


「……まあ、そうやろなぁ。ウチも似たようなことするわ、同じ立場なら」


「そうだネー。ワタシもそうするよ、ウン。でも、これで終わりだネ! メデタシメデタシ!」


「お二人とも、まだ終わってはいません。この反応、奴はまだ生きています。周囲に警戒を!」


 意外とあっさりカタが着いたと喜ぶ二人に、アルトメリクが声をかける。生命の炎によるセンサーを用いて、エミカの居場所を探る。


「なるほど……そこっ!」


「わっ、もうバレた!? こうなったらもう、切り札を使うしかないね! ビーストソウル・オーバーロード!」


 分身を盾にして炎を防ぎ、岩に擬態して乗り切ろうとするエミカ。が、炎のセンサーで捕捉され、居場所を特定された。


 擬態を解いて迫り来る炎から逃れつつ、水色のオーブを呼び出す。そして、手刀を叩き込んでオーブを粉々に砕く。


「! 来ますね……。二人とも、もっと距離を。アレはかなり手強いですよ」


「いや、そろそろウチらも参加させてもらうわ。あのクソ【ピー】に一発ブチ込んだらんと怒りが収まらへんわ!」


「ワタシも頑張るヨ! 女神様に任せっきりじゃ、星騎士の名が廃るモン!」


 本気を出したエミカとの戦いに、エステルたちも参戦の意思を示す。もっとも、エステルの場合はお胸に関する私怨が大部分を占めていたが。


「分かりました、ありがとう。では、この炎を授けます。あなたたちの生命力を活性化させ、肉体を頑強にしてくれますから」


「おー、こりゃありがた……危ない! 蠍忍法、砂防壁の術!」


「ちぇ、防がれたか! 三人相手だと、やっぱり隙を突くのは難しいねぇ!」


 アルトメリクが祝福の炎をフェンルーたちに授けていると、彼女の背後から水の手裏剣が飛んでくる。それに気付いたエステルが、砂の壁を呼び出し防ぐ。


 背後からの奇襲を防がれたエミカは、つまらなさそうにあかんべーをする。サメの背ビレのような形をした刃を背中や腕から生やし、禍々しいオーラを放つ。


「中々強そうな姿になったなぁ! なら、こっちも負けへんで! 星魂顕現・スコーピオ!」


「ワタシもやるヨ! 星魂顕現・アリエス!」


「来なよ、纏めて溺れさせてあげるからさぁ! 奥義、天海深淵縛!」


 サメの化身となったエミカは、ポーズを取って奥義を発動する。すると、不可視の海がアルトメリクたちを囲み、水圧で動きを封じる。


 星の力を呼び出し、かつ祝福の炎を貰っていなければ、エステルもフェンルーも押し潰されてしまっていただろう。


 かなり動きにくくなってしまったが、エミカの奥義が適応されるのは生命体だけらしい。その証拠に、フェンルーの帯は普通に動いている。


「さあ、大人しくしていようねぇ。動かなければすぐ終わるからさぁ!」


「ドアホ、そう言われて動かへんやつがおるか! 裏蠍忍法、毒鋏潰しの術!」


「負けないヨ! 白羊柔拳、帯刃乱打!」


 見えない水の圧力によって動けないなら、制限を受けない方法で戦えばいい。エステルは砂で出来たハサミで、フェンルーは帯で。


 それぞれの得意とする攻撃方法を用いて、エミカを迎撃する。一方、アルトメリクは力を溜め、炎を蓄えていた。


「二人とも、少しだけ時間を稼いでください。長期戦は敵に有利、一気に焼き払い仕留めます!」


「させると思う? そうはいかないんだよねぇ! 忍法、『水獄千手牙』の術!」


「来るで、気ィ張りやフェンルーはん!」


「ウン!」


 エミカはアルトメリクを阻止せんと、水で出来た千手観音像を作り出す。一本一本の腕がサメの頭部になっており、口には鋭い牙が生えている。


 女神を守らんと、エステルたちは全力で千手サメ観音を迎撃する。雨あられと拳が降り注ぎ、アルトメリクを殺そうと猛攻撃を放つ。


 エステルたちは何とか移動し、女神を守るため立ち塞がる。各々の得意とするやり方で、拳の雨からアルトメリクを守る。


「でりゃああああああ!!! 貧乳の意地見せたらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「負けないヨー! 根比べなら誰にも負けないもんネー!」


「へぇ、粘るねぇ。でも、いつまで生きていられるかなぁ!」


 エミカと違い、再生能力を持たないエステルたちは少しずつ傷付いていく。だが、それでも退かないし諦めない。


 その不屈の精神による粘りが、彼女たちに勝利をもたらす。五分ほど経過した頃、アルトメリクのチャージが完了したのだ。


「二人とも、ありがとうございます。さあ、これで終わりです! 平行世界より来たる悪逆の徒よ、聖なる炎に焼かれ滅びなさい!」


「うるさいなぁ、滅びるのはお前だよ! 全部を拙者たちに押し付けて、フィニスが……リオくんがグランザームに負けたのを見て見ぬフリしたお前らがぁぁぁぁぁぁ!!!」


「焼かれなさい、エミカ! インフェルニティ・イクスプロージョン!」


 アルトメリクは小規模なバリアを展開して自分とエステルたちを守りつつ、巨大な爆炎を放つ。炎は水の千手サメ観音を飲み込み、蒸発させる。


「負ける……拙者が負ける? これが、基底時間軸の……始まりの世界の住民たちの……チカラ……」


 圧倒的な炎の破壊力を前に、エミカはそう呟く。その時、走馬灯が走る。脳裏によみがえるのは、元いた世界での遠い過去の記憶だ。


『ダメだった……やっぱり僕じゃ、みんなを……キュリア=サンクタラムを……救えなかった……』


『悪いのはリオくんじゃないよ! 悪いのは全部ファルダ神族(あいつら)だ! あいつらが力を貸してくれなかったから!』


『違う、違うよエミちゃん。悪いのは僕だ。僕が弱かったから……故郷を、守れなかった。もっと、力があれば……絶対的な力さえあれば!』


 脳の底で眠りに着いていた、遙か昔の忌まわしい過去の記憶。最後の最後でソレを思い出してしまったことに不快感を覚え、エミカは呟く。


「やだなぁ、最期くらい……もっと楽しい思い出に浸りたかったよ。あーあ、こりゃサイアク……」


 最後まで言い切ることなく、エミカは炎に呑まれ消滅した。地獄の業火が消えた後、砂浜の上に人の形をした焼け跡だけが残った。


「へっ、死におったか。一発ブン殴れへんかったんは残念やけど、まあええわ」


「これにて一件落着だネ、女神さ……ま?」


 勝利を喜ぶエステルとフェンルーだが、アルトメリクは複雑そうな顔をしていた。エミカが死に際に放った言葉が、気になるようだ。


「わたしたちが見捨てた……。彼女たちのいた平行世界では、一体何が起きたというのでしょう? リオが変貌してしまうような事態が、起きたのかもしれませんね……」


 そう呟き、女神は天を仰ぐ。フィニスが放った刺客との戦いが終わる時は……すぐそこまで迫っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「やだなぁ、最期くらい……もっと楽しい思い出に浸りたかったよ。あーあ、こりゃサイアク……」 エミカ、理由がどうであれ、外道に堕ちたのならば消すまでだ。 ……バルバッシュみたいな外道に成り…
[一言] た〜ゆんた〜ゆん音が鳴りそうな戦場でよく頑張っなエステルよお前が1番勲等賞だよ(ʘᗩʘ’) しかし予想パターンの中でまさかと捨ててた可能性(-_-メ) グランザームに負けて故郷を失うか(>…
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