250話─二つの世界の戦い
「さて、これで『境界のオニキス』は手に入れたね。残るは二つ……フフ、楽しみだ」
フィアロたちがランディを撃破した頃、フィニスは五つ目のアブソリュートジェム……『境界のオニキス』を手中に収めていた。
洞窟の最深部に封じられていた黒い宝石を右手の指で摘まみ、ゆっくりと鎧の胸元に近付ける。それまで嵌めていたレプリカが消え……。
「ん……ふううう!! 素晴らしい……これがアブソリュート・ジェムのパワー……! 一つ増えるごとに、力が増していくのを感じるぞ」
穴のすぐ側まで近付けると、ひとりでに宝石が嵌め込まれる。すると、フィニスの身体を黒いオーラが駆け巡り力を与える。
「これで、現実と虚構の境界は消え、我が物になる。さあ、次だ。『霊魂のトパーズ』を手に入れれば……ふふ、ふふははははは!!」
高笑いをしながら、フィニスは洞窟を後にする。残ったのは、かつてマゴット・マゴットと呼ばれていた自動人形と、アームの残骸だけだった。
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その頃、ヤサカではキョウヨウ守護者隊とドレイクが、カレルを追い返すべく死闘を繰り広げていた。雷が鳴り響く中、武士たちが突撃する。
「進め! あの悪女を仕留めるのだ!」
「ハッ、そんなナマクラじゃあアタシに傷一つ付けられねえぜ! サンダーボルトブレイク!」
「ぐあああっ!!」
雷が降り注ぐ中、守護隊は二手に別れ戦う。片方がカレルを押し留め、もう片方がキョウヨウの民を逃がすため活動する。
だが、その動きを理解しているカレルがわざと救助部隊の方へ攻撃を浴びせかける。市民も含め、皆殺しにするつもりなのだ。
「卑劣なことを! 貴様には人の心がないのか!」
「はっはっはっ! こちとら超越者だぜ? 人の心なんて知らねえなぁ! サンダーボールシュート!」
「斬り捨ててくれる! 刃性変換、断殻刀【斬鉄】! はぁっ!」
トキチカは一人、屋根の上に登りカレルに向けて刃を振るう。放たれた雷の球を両断し、駆け寄って反撃を叩き込む。
「おっと、当たらねえなぁ。そんな攻撃……チッ!」
「トキチカのおっさんばかり構ってると、オレたちに足掬われるぜ! ……やれやれ、敵じゃなかったら口説いてやりたいくらいイイ女なん……あばっ!」
地上にいたドレイクが、水のレーザーを放ってカレルを牽制する。最後の呟きがしっかり聞こえていたようで、雷を落とされた。
電撃を纏うハンマーを呼び出し、カレルは大きく跳躍する。直後、雷雲がうごめき不穏な音が鳴り響く。
「めんどくせぇ、纏めて灰にしてやる! グローリー・サンダー!」
「まずい、全員退避ー!」
「おっと、てめぇは逃がさねえぜ? 大将首を獲りゃあ、一気に士気が下がるからな!」
「そうはさせない! 父上に手出しはさせぬ!」
ツバキが屋根の上に登った瞬間、黒雲から無数の雷が落ちてくる。退避命令を出し、自身も安全な場所に向かおうとするトキチカにカレルの手が伸びる。
襟が掴まれようとした瞬間、雷雲を切り裂き紫色の光の柱が降ってくる。その衝撃でトキチカが前に吹き飛び、ツバキと合流した。
「な、何だ!? これは……」
「この気配……チッ、神どもが介入して来やがったようだな。しかもこの色は……闇寧神か!」
雷が止み、人々が広場に降り注ぐ光の柱を見つめる中……一人の人物が出てくる。紫色のゴシックドレスに身を包み、頭に小さなシルクハットを被った女性が出てきた。
「うぃーっす。どもども、助けに来ましたよーっと」
「な、何だ? この軽い調子のねーちゃんは」
「あーしはムーテューラ。創世六神の一角、死を司る闇寧神でーす。はい、テストに出るんでよーく覚えとけよー」
どこかダルそうな、やる気も覇気もない様子でやって来た女性に、思わずドレイクが呆れてしまう。そんな彼に、女神は答える。
「んで、そこにいるやつー。あんたカレンだよねー? なにそのカッコ、イメチェンでもしたん?」
「カレンだぁ? ハッ、そりゃこの世界線にいるオリジナルだろ? アタシはカレルだ、覚えとけスットコ女!」
「あ゛? 今なんつったてめー、フザけたこと抜かしてると【ピー】するぞゴラァ!」
カレルに挑発された瞬間、それまでのダウナーな雰囲気が一瞬で吹き飛んだ。罵倒されたのが相当頭に来たのか、こう見えて喧嘩っ早いのか。
ブチ切れたムーテューラは、一瞬でカレルの目の前に移動し……全力を込めて腹にパンチを叩き込む。呻き声を出す暇もなく、遙か遠くへ吹っ飛んでいく。
「あんたらはここにいな? 巻き込まれて死にたくないっしょ? あのクソ【掲載禁止ワード】はあーしがぶっ殺しとくから。おーけー?」
「い、イエスマム……」
「よろしい。っしゃあ! 覚悟しろや【ピー】ヤロォォォォォォォ!!!!!」
女神のイメージを覆す罵詈雑言を叫びながら、ムーテューラは全力ダッシュで西の方へ走っていく。その様子を、呆然と見送るトキチカだったが……。
「……今のうちに、負傷した者たちの治療をしておくとしようか」
「そうですね、父上」
「まあ、そうなるよなあ……」
巻き添えを食うのは嫌なので、都に残り負傷者のサポートに回ることを決めた。あの様子ならまあ勝つだろうなぁと、トキチカやツバキ、ドレイクは心の中で呟いた。
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「報告します、バリアス様! 反旗を翻したリオの反応が再び現れ、少し遅れてマゴット・マゴットの生命反応が消失しました!」
「やはり、敗れたか……。恐らく、奴は先に『霊魂のトパーズ』を回収しに向かうだろう。全力で阻止するのだ!」
「ハッ!」
平行世界のグラン=ファルダでは、バリアス以下創世六神全員がフィニスを止めるべく奔走していた。次々とジェムを奪われ、残るは二つ。
何としても簒奪を阻止し、ジェムを守り抜かなければならない。神兵団が慌ただしく動く中、バリアスは一人呟きを漏らす。
「リオ……君はまだ悔いているのか? あの日の敗北を。だから、力を求めているのか?」
四百年前に起きた『とある出来事』を思い返すバリアスだったが、すぐに首を横に振る。どんな理由があろうとも、見逃すことは出来ない。
リオを止め、滅ぼす決意を固める。例え自分たちが全滅しようとも、残りのアブソリュート・ジェムを渡さないという覚悟を決めていた。
「やはり、アブソリュート・ジェムは隠すのではなく破壊するべきだったか……。いや、今更それを自問自答しても意味はない。まずはリオを止めねば。命に変えても!」
バリアスは大神殿の奥にある宝物庫に向かい、壁に偽装した隠し扉の先へと向かう。部屋の中央には、七つのアームで固定された一対の小手があった。
神々が誇る秘宝の一つ……ツイン・ガントレット。黄金の輝きを持つ右手、ジャスティス・ガントレットと白銀の光を宿す左手、パラトルフィ・ガントレット。
斜めにクロスするように安置されたソレらを見つめた後、バリアスは手を伸ばし──ガントレットを装着する。
「皮肉なものだ。かつてベルドールに与えたこの小手で、彼の後継者たるリオを滅ぼさなくてはならないのだから。だが……もう引けない。覚悟しろ、リオ!」
そう呟いた後、バリアスは部隊の指揮を執るため宝物庫を去って行く。基底時間軸世界と、平行世界。二つの世界で神々の戦いが始まる。
その行方と結末を知る者は、たった一人。基底時間軸世界にいるコリンだけ。そして……彼が知る平行世界の戦いの末路はもう決まっている。
リオの勝利による、世界の滅亡という結末が。




