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243話─禁断の邂逅

「リオ、だと? だが、その姿は……」


「ああ、これか? 元のボディでは、七つのジェムの力に耐えられないのでね。『創造のエメラルド』で新たな身体を造って乗り換えたのさ。それと、私のことはフィニスと呼ぶがいい。()()()()からはそう呼ばれている」


 鎧の胸元に取り付けられた七つの宝石のうち、緑色のソレを指差しながらリオ──否、フィニスは笑う。一方、エイヴィアスは震えていた。


 目の前の存在は、あまりにも危険過ぎる。本能が激しい警鐘を鳴らす中、彼は思案する。どうやって、目の前の存在を元の世界に戻すかを。


「若いな、この世界線の君は。私がいた世界の君は、もう少し老いていた。思慮深さはあったが、覇気は足りていなかったよ」


「ワレのことはどうでもいい、お前は……」


「震えているね。私が怖いのかい? まあ、無理もない。絶対なる存在を前にすれば、誰しもそうなってしまう。狼の前に立つ子羊のように」


 警戒心をあらわにするエイヴィアスに、フィニスは優しい声で語りかける。その言葉は、温かな湯のように魔戒王の心に染み渡り、溶かしていく。


 絶対なる超越者に対する恐怖と、警戒心を。心を許し始めている。エイヴィアスがその事に気付いた時には、もう遅かった。


「そうだ、友だちになろう。私と君は、どこか似ている。お互い、内に強い野心を秘めているからね。そうだろう?」


「確かに……そうだが」


「ほらね。ますます君を知りたくなったよ。教えてほしいな、この世界線の君のことを。代わりに、私のことも教えよう。この世界での、最初の友だちになってくれるかい?」


 否定しなければならない。そして、すぐに門を開いて目の前の存在を元いた世界に戻さねば……頭ではそう理解していても、身体が伴わない。


 世界線を問わず、リオは持っていた。相手の警戒心を解き、親しみを覚えさせる人懐っこさと……強大なカリスマ性を。それに、王は抗えなかった。


「……ああ、いいとも。ワレも、心のどこかで望んでいたのかもしれない。互いの抱く野望を語り合える、友が現れるのを」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいなぁ。やっぱり、君とは分かり合えると思ってたよ。それじゃあ……何から()()()しようか」


 魔戒王は、フィニスの前に屈した。彼のカリスマに魅入られ、友になる道を選んだのだ。その選択が、大いなる災いを呼ぶことを……まだ、誰も知らない。



◇─────────────────────◇



「くぅー……くぅー……。むにゃむにゃ、もう食べられないよぅ……えへへ」


「全く、いきなり来て晩ご飯を馳走になった挙げ句泊まり込むとは。噂通り自由奔放じゃな、盾の魔神は」


 夜。なんだかんだあって、リオがアルソブラ城に泊まることになった。仲間には、あらかじめ泊まってくると伝えてあるという。


 用意周到さに呆れつつ、コリンは彼を一晩泊めることにした。無理矢理帰すことも出来たが、保護者兼嫁の方々と揉めるのは避けたい。


 そう判断したのだが……あまりにもフリーダム過ぎるリオに、何度目かのため息をつく。


「全く……夕飯を食べ終えたかと思えば、城の探検に付き合わされ……挙げ句枕投げで大ハッスルときた。心のひろーいわしでなければ一喝しとるとこじゃよ」


「お疲れ様です、お坊ちゃま。リオ様を客室にお運びしようと思うのですが……大丈夫でしょうか?」


「うむ、ぐっすり眠っておる。揺すろうが叩こうが起きるまい。連れてってくりゃれ」


「はい、かしこまりました」


 遊び疲れて寝てしまったリオを、マリアベルが客室に運ぶ。えっさほいさと部屋を出て行くマリアベルを見送った後、コリンはベッドに寝転がる。


 彼もまた、リオと共にはしゃぎ回って疲れが溜まっていた。今日くらいは悪夢を見ずに熟睡したい……そう思いながらまぶたを閉じ……。


『ししょー! ししょー! 起きてる? ねぇねぇ、大変なことになっちゃった! 助けに来てー!』


「のじゃっ!?」


 机の上に置いていた連絡用の魔法石から、アニエスの声が響いてくる。ビックリして飛び起きたコリンは、ベッドから転げ落ちてしまう。


「いたたた……どうした、アニエス。こんな時間に」


『大変なんだよ、ヴァスラサックの遺体が誰かに盗られちゃった! 今、みんなで犯人の手がかりを探してるんだけど……』


「何じゃと!? 分かった、すぐそっちに行くから待っておれ!」


 魔法石の向こうでべそをかくアニエスにそう返事をした後、コリンは大急ぎで支度をする。次いで、マリアベルの分身を呼び手短に事情を話す。


「というわけで、今から海底神殿に行ってくる。留守は任せたぞよ、マリアベル」


「かしこまりました。お気を付けていってらっしゃいませ」


 マリアベルと別れ、コリンは玄関に向かう。扉を通り抜け、イゼア=ネデールにある海底神殿の前にある広場に転移した。


 神殿では、警備の兵士たちがてんてこ舞いになりながら消えた遺体と犯人の手がかりを探していた。そんな中、アニエスが走ってくる。


「うわーん、ししょー! ごめんなさい、ボクという者がいながら……」


『本当に申し訳ない、コリンくん。警戒心が足りなかったよ……』


「よいよい、二人のせいではない。しかし……嵐の海と厳重な結界で守られた神殿に、どうやって盗っ人が入り込んだのじゃ?」


 やらかしてしまい、大泣きしながら飛び込んできたアニエスを慰めつつコリンは考える。神殿には、三重の防御結界が張られている。


 侵入者を感知し、警報を鳴らすもの。入り込んだ者を痺れさせ、動きを封じつつ居場所を兵士たちに教えるもの。結界を破壊したりすり抜けようとする者を無力化し、兵士たちに異変を知らせるもの。この三つだ。


(内部からの手引きか? いや、有り得ん。手引きがあっても結界は止められぬ。それに、ヴァスラサックの死体を欲しがるような物好きは……やはり、あやつしかおるまい)


 しばらく考えた後、コリンは一つの結論を出す。時を巻き戻したことで計画が潰れたエイヴィアスが、復讐のために遺体を盗んだのだ、と。


 暗域へ向かい、直接問い質すことを決めるコリン。そのことをアニエスとテレジアに説明しようとした、次の瞬間。


「二人とも、わしはこれから……のじゃっ!?」


「ええっ!? ひ、人が! 人が出てきたよ!」


『女の子……? 急いで保護しないと!』


 突如、コリンたちの目の前に赤色の丸い門が現れ、その中から女の子が飛び出てきたのだ。黒いゴシックドレスを来た少女は傷だらけだ。


 暗域に行くのは後回し、まずは手当てを……と考えたところで、ふとコリンは気付く。倒れている少女は、悪夢の中に登場する女の子と同じ顔をしていると。


「この者は……。アニエス、テレジア。この者はアルソブラ城に連れて行く。二人は引き続き、犯人捜索を頼んだぞよ」


「うん、分かった!」


『任せて、コリンくん。必ず手がかりを見つけてみせるよ』


「頼んだぞよ。では、また明日来るでな」


 城に戻ったコリンは、早速マリアベルを呼んで一部始終を話して聞かせる。話を聞いたマリアベルは、すぐに少女を空いている客室に運ぶ。


 コリンと一緒に少女を介抱する……が、マリアベルも違和感を抱いていた。少女の顔立ちから雰囲気まで、コリンに瓜二つだったからだ。


「しかし、この少女……お坊ちゃまとそっくりですね。顔付きも、高貴な雰囲気も」


「うむ……ここ最近わしが見る悪夢にも、この者と全く同じ少女が現れるのじゃ。一体何も……む、目が覚めたようじゃな」


「う……ここ、は……」


 コリンとマリアベルが話をしていると、少女が目を覚ました。ゆっくりと起き上がり、コリンたちを見ながらお礼を言う。


「ありがとう。貴方たちが助けてくれたのね。看病までしてもらって……本当にありがとう」


「何、気にすることはない。して、そなたは何者なのじゃ?」


 頭を下げる少女に、コリンが問いかける。すると、予想もしていなかった答えが返ってきた。


「私はコーデリア。コーデリア・ディ・ギアトルク=グランダイザ。豊穣と厄災の神と、魔戒王の血を継ぐ者よ」


 平行世界からやって来た、もう一人のコリンに相当する少女との──驚きの出会いが、訪れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様のコメントだとリオのみならず、アイツ等も悪党に成り下がったらしいね……
[一言] 悪も善も異世界からのファーストコンタクトを果たしたか(ʘᗩʘ’) しかし大人リオ、フィニスだったか?コヤツ最初の兄妹達も手に掛けた様だな(‘◉⌓◉’) 前回の質問でサ○ス・クラスと言ってたが…
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