238話─王からの提案
邪神ヴァスラサックを打ち破ったコリンは、彼女の首を獲った。エリザベートの協力でルゥノール城を異次元に落とし、脅威は完全に消えた。
仲間たちと共に凱旋を果たし、全ての大地の民の祝福を受ける。四年に渡る悪夢は終わり、邪神とその子たちは滅び去ったのだ。
「はー、平和っていいなぁ。これで、オヤジたちも喜ンでくれるよな……」
「ええ。おじ様もおば様も、きっと天国で喜んでくれてるわ~」
「うむ、わしもそう思うぞよ。ようやく、みな休めるわい」
国の垣根を越えた華やかな祝勝パレードが行われてから、七日が経った頃。取り戻された平和の象徴として、スター・サミットが開催された。
ゼビオン帝国の公会堂を借り、十三人の星騎士たちが集う。戦いを終え、みな安らかな笑みを浮かべて嬉しそうにしている。
「そういえば、あの魔神さんたちはどこに行っちゃったのかしら。私の歌を聞いてほしかったのに」
「パレードの前に、故郷へと帰っていったぞよ。目的を果たした以上、いつまでも留まるのはルール違反じゃとな」
「律儀なものだ。どこぞの海賊も見習ってほしいものだな、え?」
「うごっ!? 何でオレがとばっちり!?」
会議の最中、イザリーが口にした問いにコリンが答える。そこにラインハルトとドレイクが乗っかり、笑いが生まれた。
これからまた、平和な日々を謳歌しながら復興を行う。そう意気込んでいたのだが……。
「やあやあ皆さん、こんにちは。ご機嫌如何かな? 邪神討伐おめでとう、だね」
「!? この禍々しい気配、貴様闇の眷属か!」
突如、会議室の中に一人の少年が転位してくる。空中に浮かぶ玉座に座り、星騎士たちを見下ろしながら祝福の言葉をかけた。
ツバキが刀を呼び出し、抜こうとした瞬間。コリンが大声を出して彼女を制止する。コリンもマリアベルも、酷く驚いているようだ。
「やめよ、ツバキ! そのお方は敵ではない、刃を収めるのじゃ!」
「な、何故貴方様がここに? 序列一位の魔戒王……フォルネウス様」
「やっほー。初めましてだね、コーネリアスにマリアベル。君たちのことは、フェルメアから聞いてるよん♪」
現れたのは、闇の眷属の頂点に立つ十三人の王……その中でも、最強の力を持つ覇者。フォルネウスだったのだ。
星騎士たちが驚く中、フォルネウスはコリンとマリアベルにフレンドリーな態度で声をかける。が、肝心の二人は驚きで声も出ないらしい。
「な、な、な……」
「何で僕がこの大地に来たのかって? フフ、知りたいよね? みんなそうだよねぇ、何の用もなく魔戒王が来ることはないからね」
「で、えーと……フォルネウスさんの目的は何なんですか?」
ケラケラ笑うフォルネウスに、恐る恐るソールが問いかける。すると、誰もが予想していなかった言葉が口にされた。
「目的なんて一つさ。頑張ったコーネリアスに、ご褒美……セカンドチャンスをあげに来たんだよ」
「セカンドチャンス?」
「簡潔に言うよ。コーネリアス、過去に戻って歴史をやり直してみない?」
「!? そ、それはどういうことにございましょう」
フォルネウスの言葉に、コリンたちは仰天する。そして、発言の意図を尋ねる。楽しそうな笑みを浮かべたまま、少年王は真意を語った。
「君たちはこの四年で多くを失った。家族、友人、同胞。もし彼らを失ったという歴史が、なかったことになるとしたら……どうだい?」
「ちょ、ちょっと待つネ! それってどういうことなノ?」
「簡単に言えば、四年前に時間を巻き戻すのさ。そこから歴史を変えるんだよ。悲劇を防ぎ、何も失われないハッピーな世界を作るんだ。どう?」
「ど、どうと言われても……」
フェンルーの問いに、フォルネウスは答える。時を巻き戻し、世界をやり直す。もしそれが可能なら、ダズロンたちも死なずに済む。
だが……いきなりそんなことを言われて、はいそうですかと信じることは出来ない。あまりにも突拍子がなさ過ぎるのだ。
「いやいや、冗談にしては壮大過ぎるやろ。確かに、過去に戻ってやり直せるんやったら、ウチはそうしたいけど……」
「僕も、兄さんを助けられるならそうしたい。でも……信じられるだけの判断材料が……」
「……ある。フォルネウス様は、わしら闇の眷属の頂点に立つお方であり……グラン=ファルダ最初の堕天神でもあらせられる」
「そう。僕は元神。第三代時空神にして、フォルネシア機構の創設者。時間を操るのは……」
そう言いながら、フォルネウスは虚空からリンゴを取り出す。リンゴに魔力を込めると、時計のマークが浮かぶ。
腐っては元に戻り、青リンゴへ若返る。時間を操る力を、コリンたちにまざまざと見せつけた。王の力を見た星騎士たちは、にわかに色めき立つ。
「ま、マジなのかよ……。じゃあ、オヤジやおフクロ、冒険者ギルドのみんなを……」
「ヤサカの民や父上を……」
「みんな、死なない、済む。なら、過去戻る! みんな、取り戻す!」
「お待ちください。フォルネウス様、何故そこまでお坊ちゃまに肩入れをしてくださるのです? 失礼ですが、わたくしには貴方様の真意が分かりません」
アシュリーやツバキ、マリスがそう口にする中でマリアベルが疑惑の目をフォルネウスに向ける。そんな彼女に、王は答えた。
「もちろん、別の意図はあるさ。コーネリアスが持ってるオーブ、黒いやつ以外全部欲しいんだ。堕天してから何十億年も経つと、流石に神の力も衰えてきてねぇ。そろそろ補充したいんだよ」
「そういうことでしたら、喜んで差し上げますぞ。邪神亡き今となっては無用の長物ですから」
「いいねぇ。あ、そうだ。言い忘れてたけど……今ある時間軸の記憶を持って戻れるの、コーネリアスだけだから」
どうやら、フォルネウスはコリンが持つ神魂玉を欲しているようだ。それを手に入れる見返りに、やり直しのチャンスを与えるということらしい。
取り引きに応じるコリンに、フォルネウスは今思い出したという風にそんなことを言い出す。これには、星騎士たちもブーイングを飛ばした。
「あら、後出しでそんなこと言うのはダメよ~」
「そうだよ! 何でししょー以外はダメなのさ!」
『詳しく説明してほしいね、私たちが納得出来るように』
「簡単だよ、年単位で時間を巻き戻すんだから、その年数分の記憶をリセットしないと齟齬が生まれるんだよ。本来、記憶を保持したまま過去に戻れるのは能力を発動した者と、時空神だけなんだけど……」
カトリーヌやアニエス、テレジアに睨まれ、フォルネウスは語る。その途中、コリンの方へチラリと視線を送った。
「彼には呪いがかけられてる。神の力すらはね除ける、時滅の呪いがね。そのおかげで、記憶を保持したまま過去に戻れるんだ」
「なるほど……じゃが、一つお聞きしたい。もし過去に時間を戻せば、今わしらのいる時間軸はどうなるのでしょうか」
「なかったことになるよ、綺麗さっぱりね。僕と君、時空神以外の記憶からはスッパリ無くなる。それでもいいなら、やり直すチャンスをあげるよ」
そう言われたコリンは、順に仲間たちを見る。彼らもみな、コリンと想いは同じなようだ。これまで歩いた四年の歴史が、なかったことになろうとも。
失われた命を取り戻し、悲劇を未然に防ぎたい。邪神の脅威が事前に取り払われた世界を、新たに紡いでいきたい。全員がそう思っていた。
「みな、よいのじゃな? 過去に戻れば、この四年で得たモノは全てなかったことになるのじゃぞ」
「それでもいいさ。あの日死んでったオヤジたちを取り戻せるんなら。アタイは躊躇なくやり直すぜ!」
「私たちも同じだ、コーネリアス。全てを君に託してしまうことだけが、気がかりになるが……」
「問題はないわい、ラインハルト殿。この時間軸での記憶があれば、やりようはいくらでもある。何せ、何が起きるか全部知っとるんじゃからな! 負けようがないわい! わははは!」
コリンたちの心は決まった。彼らの想いを確認したフォルネウスは、大規模な魔法陣を創り出す。そんな彼に、コリンは七つの神魂玉を渡した。
「さあ、始めようか。過去へさかのぼる旅を。グッドラック、コーネリアス。さあ、歴史の分岐点へ舞い戻れ! リバースタイム・ワールド!」
時を巻き戻す魔法が発動し、魔法陣が青い輝きを放つ。今度は、全てを未然に終わらせる。そう決意し、コリンは目を閉じた。
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「始まったな、時間の巻き戻しが。フォルネウス、お前がそうすることは予想済みだ」
その頃、エイヴィアスは暗域にある自身の居城にいた。平行世界から集めたレテリアを喰らい続けたことで、神の力を身に付けたのだ。
「全てを巻き戻し、ワレの計画を頓挫させるつもりのようだが……ムダなこと。神を喰らったワレ──!? な、なんだ!? 力が、記憶が……消えて、いく……」
フォルネウスの真の狙い。それは、上位の魔戒王を追い落とすことを企てているエイヴィアスを阻止すること。
それを看破していたエイヴィアスは、その目論見が失敗に終わるとタカを括っていた。だが、彼は理解していなかった。
元神であるフォルネウスと、神を食らっただけの自分との間には、天と地ほどの差があることを。そして……時の巻き戻しのルールには、逆らえないことを。
「バカな、バカな! ダメだ、四年前の時点でヴァスラサックを倒されたら! 神を喰らうワレの計画が……完全に頓挫……し……」
絶望の叫びをあげるエイヴィアスを、時間の渦が呑み込んでいく。世界は、巻き戻される。運命の分岐点たる、四年前のスター・サミットへ。
歴史を変え、悲劇を喜劇へ変えるために。




