237話─星々の想い、束ねて
『我々はずっと、お前への怒りを原動力として生きてきた。この四年の全てを! コーネリアス、奴を仕留めるための力を貸そう!』
「助かるぞよ、ラインハルト殿! ……じゃが、おかしいのう。まだクールタイムを消化してないはずなのに、何故ネックレスが……?」
広い玉座の間で、光と闇の魔法がぶつかり合う。その最中、ネックレスからラインハルトの声が響く。だが、それはコリンに違和感を与えた。
ついさっき、アニエスとテレジアから力を借りたばなりなのだ。だというのに、もうラインハルトが助力出来るようになっている。
エリザベートの説明と食い違う現象に、コリンは戦いながら首を傾げる。が、すぐに考えを改めた。使えるものは全部使おう、と。
(何故クールタイムの縛りを無視出来たのかは分からな……む? 待てよ、もしやこのネックレス……ヴァスラサックの魔力を吸収しておるのか?)
戦いの中、ふとコリンは気付く。邪神が魔法を放つ度に、ネックレスがほんの僅かに輝いていることに。そして、その輝きが強くなってきていると。
どうやら、エリザベートすらも知らない特殊な力がネックレスに存在しているようだ。
『どうした、コーネリアス。私の力を使い、奴を追い詰めるのだ! スターコンバート……』
「ん、おお! では、そなたの力を借りるぞよ! リブラ!」
考えるのは後回し。今はヴァスラサックとの戦いに集中しなければならない。コリンが魔力を放つと、空中に四つの金属の塊が現れる。
「何だこれは。こんなものでわらわを倒すと?」
「そうじゃとも。磁力を操る力、とくと見るがよい! ディザスター・ジオストーム!」
コリンが叫ぶと、金属の塊が動き出す。ヴァスラサックが身に付けている金属製の装具に反応し、磁力によって引き寄せられているのだ。
空中を自在に移動し、攻撃を避けるヴァスラサックだが、次第に追い詰められ逃げ場を失う。コリンとラインハルト、二人がかりの攻撃だ。
「ちょこまかと鬱陶しい! こうなれば、装具を捨てるまで!」
『お前がそうすることは予想済みだ! それよりも先に押し潰してくれる! ジオメタル・ジ・エンド!』
「ぐっ……がああ!! 一度ならず二度までも! ネシャイニングウェーブ!」
装具を取り外して磁力から逃れようとするヴァスラサックだったが、一歩遅かった。四つの鉄塊に押し潰され、全身の骨が折れる。
だが、それでもまだ死なない。しぶとく生き延び、身体を再生させつつ光の魔力を放つ。そして、鉄塊を消滅させてみせた。
その瞬間、コリンはハッキリと認識した。放出された邪神の魔力をネックレスが吸収し、その輝きを増幅させたのを。
(そうか、分かってきたぞ。このネックレス、神の力を吸収して少しずつ力を増していくんじゃ。だから、クールタイムが短縮された……なら!)
閃きを得たコリンは、一旦ラインハルトとのリンクを切って自分の中に眠る神の力を呼び覚ます。まだ完全に使いこなせないため、普段は使わないが……。
今回は別だ。ネックレスに向かって、適当に魔力を放出するだけでいいのだから。結果、ネックレスの力が急速に増強されていく。
(思った通りじゃ。これだけ強化してやれば、もう制限はないも同然。ここからは……これまでの比ではない猛攻を叩き込めるぞ!)
「何をブツブツ言っている? わらわを無視するとは呑気なものだな!」
「フン、貴様を滅ぼすための策を練っていたところよ。ネックレスに宿る星騎士たちの魂よ、わしに力を!」
『ハーイ、それなラ!』
『オレたちにお任せだな!』
ネックレスの変化を、中にいる星騎士たちの魂も敏感に感じ取っていたようだ。コリンの呼びかけに、フェンルーとドレイクが答える。
「肉体を成長させたわらわの怪力、とくと見せてやろう。その貧弱な身体、粉々にしてくれるわ!」
「やってみよ、こちらには拳を極めた武闘の覇者とパワフルな大海賊が付いておるのじゃ。返り討ちにしてくれる!」
『モチロン! 叩き潰しちゃうヨー!』
『全力でぶっ放せ、コリン!』
地に降りた邪神は、千変の力で筋力を増加させる。今度は、直接攻撃を仕掛けて魔法を使う隙を与えない作戦に出たようだ。
「スターコンバート……アリエス&アクエリアス! さあ、殴り合いの始まりじゃ! ほあっちゃー!」
「ふざけた声を。その余裕、粉々にしてやる!」
コリンとヴァスラサックは、取っ組み合って互いの拳を振るう。鉄拳が唸り、空を切り裂く。最初こそ互角の戦いを演じていたか、少しずつコリンが優勢になってくる。
「バカな、有り得ぬ。その細腕のどこにここまでの力が!?」
『ハッ、そりゃ簡単だ。オレたちが力を貸してるからだ。このオレの怪力と!』
『ワタシの技巧が合わされば、怖いものなんてナシだヨ!』
「そういうことじゃ。食らえ! アクアベール・ナックル!」
力のドレイク、技のフェンルー。二人の能力を宿したコリンに、苦戦する要素はない。水の帯を作り出し、腕に巻き付け拳を邪神の顔面に叩き込む。
「ぐ、があぁ……」
「さあ、そろそろフィニッシュとさせてもらおうかのう。これまでの罪を悔い改めながら死ね、ヴァサラサック!」
「まだ、だ……ようやくよみがえったのに、また滅びるわけにはいかぬ! こうなれば、我が奥義で仕留めてくれるわ!」
吹き飛ばされたヴァスラサックは、再び宙に浮かび上がる。炎の力を身に纏い、巨大な火球へと自らを変え始めた。
「焼き尽くしてやる。肉も骨も、血も! 魂さえも灰になる滅びの業火でな!」
『あらあら~、あんなの直撃したら大変ね、コリンくん』
『ここは拙者たちにお任せを。守りならば誰にも負けませぬ!』
『私の歌魔法、本領発揮の時間よ。スターコンバート!』
「タウロス&キャンサー! そして……ヴァルゴ! ふっ、三つ同時とはのう。流石のわしも、ちとキツいわい」
カトリーヌ、ツバキ、イザリーの三人の力を借り、コリンは邪神の奥義に備える。だが、流石のコリンも三人分の力の同時発動は堪えるらしい。
室内の気温が上昇し、陽炎が揺らめく中、コリンは四人分の魔力を束ねる。数分のチャージを経て、魔力を解き放つ。
「三人とも、ゆくぞ! 合体奥義、プロテクション・イージス!」
ドーム状の甲殻がコリンを覆い、その上に分厚い氷が張り巡らされる。イザリーの歌魔法によって、二重のシェルターの強度がさらに増す。
『これが、拙者たちの出来る最大限の守りの策。これを破られれば、もう後はない』
『大丈夫よ~。コリンくんと力を合わせれば、どんな奇跡だって起こせるわ。これまでもそうだったでしょう?』
『ええ、そうよ。みんなの絆があれば、あんな邪神なんかの奥義にだって余裕で耐えられるわ! ……多分』
「ほう、面白いことをするわね。そんなチャチな防御なんて、わらわの前には無意味。食らいなさい! 奥義……フェイタルインフェルノ!」
限界まで火球を育てたヴァスラサックは、破壊の炎を解き放つ。火球が爆発を起こし、凄まじい熱風が玉座の間を破壊する。
それだけに留まらず、炎はルゥノール城の広範囲に広がっていく。荘厳な装飾が施された城は、あっという間に赤熱し溶けてしまう。
「ふふふ、これだけの威力があるんだからあのガキも良くて致命傷。悪ければ即死ね。わらわとしては、長く苦しんでから死んで──!?」
「ぐ、ぬ……流石に無傷とはいかぬか……。じゃが、ちょっと火傷しただけで済んでよかったわい」
「そんなバカな!? わらわの奥義が……致命傷にすらならないだと!?」
熱波が消えた後、床にはシェルターの残骸だけが残っていた。だが、その中にいたコリンは無事に生き延びていた。
顔の左半分に火傷を負ってはいたが、致命傷には至っていない。まだまだ、一日中戦える。奥義を凌いだコリンは、最後の反撃に出た。
「マリアベル、アシュリー! そなたらで最後じゃ、ヴァスラサックにトドメを刺してやろうぞ!」
『っしゃあ! 待ってたぜ、この時を! オヤジたちの仇、ここで討つ!』
『お坊ちゃまのため、我が力の全てを奮いましょう。尊いお顔に傷を付けた報い、受けさせます! スターコンバート……』
「レオ&オヒュカス! お返しじゃ、フレイムサーペント・エクスバインド!」
カトリーヌたちとのリンクを切り、コリンは最後に残ったアシュリーとマリアベルの力を身に宿す。左手を床に押し当て、無数の炎の大蛇を呼び出した。
「ぐっ、おのれ……アステロイド……」
「遅い! 炎の蛇たちよ、奴を拘束せい!」
「ぐっ、このっ! 放しなさい、わらわに纏わり付くな!」
小隕石の雨を呼び出そうとするヴァスラサックだったが、奥義の発動で魔力を使い果たし動きが鈍る。その隙を突き、炎の大蛇たちは邪神の手足に噛み付く。
完全に動きを封じ、抵抗出来ないようにしたところで──ついに、トドメの一撃が放たれる。コリンは闇の魔力を放出しながら、息を整える。
「ようやく、この時が来た。今、全てを終わらせる時じゃ!」
「おのれ、おのれぇぇぇ!! エイヴィアス、来なさい! わらわを助けろ! このガキを殺せぇぇぇ!」
「哀れなものよ。奴はもうこの城にはおらぬ。とうの昔に逃げたんじゃろう、形勢不利とあらば潔く手を引くのが闇の眷属のやり方じゃからな」
追い詰められた邪神は、協力者の名を叫ぶ。だが、返事が来ることはない。コリンが言ったように、すでに城を去っているのだ。
「さらばじゃ、ヴァスラサック。あの世で罪を償うがいい! 魔羯星奥義! ディザスター・フォトン・イレイザー!」
「やめ……ぎゃあああああああ!!!」
ヴァスラサックの頭上に、山羊の頭蓋骨が描かれた門が現れる。門が開き、闇の波動が降り注ぐ。絶大な闇の力に呑まれ……邪神は断末魔の声を残し、息絶えた。
「これで終わりじゃ、ヴァスラサック。貴様の抱いた野望も、人生も。今この場で……な!」
死闘の果てに、勝利を掴んだのは──偉大なる十三人の星騎士たちだった。




