234話─天空の王、覇翼神将ラディウス!
遙かな空の果てで、コリンとエリザベートがラディウスとぶつかり合う。超高速で空を飛び回り、斬撃を放つ相手を見据える。
「中々に速い……が、狙い撃つことは不可能ではないのう! ディザスター・ランス!」
「こんがり焼けてしまいなさい! バーニングブレス!」
「当たらぬな、そんな遅い攻撃は!」
コリンは闇の槍を、エリザベートは燃え盛る火球を放って攻撃する。対するラディウスは、巧みな空中機動で避けた。
両手に持った剣が陽光を受けて煌めき、鋭い光を放つ。一旦離れた後Uターンし、エリザベートに向けて突進する。
「その翼を貫いてやる! スパイラル・パラライザー!」
「来るぞよ、エリザベート! 避けるのじゃ!」
「避ける? そんな必要はありませんわ。蚊とんぼなど叩き落としてあげます! スナップテール!」
「む……チッ!」
両手を頭の方に伸ばし、横を向いたラディウスはドリルのように回転しながらエリザベートに接近していく。コリンが叫ぶ中、竜の尾が振られる。
強烈なはたき落としが炸裂し、ラディウスを吹き飛ばす。攻撃を防がれ、舌打ちしつつエリザベートの下に回り込んだ。
「なら、これならどうだ? 神将技、サファイア・ウィングエッジ!」
「なんじゃ? 羽根のようなものがたくさん出てきたぞよ」
「何だかヤバそうな気配がぷんぷんしていますわね。触らない方が良さそうですわ」
「いいや、触れてもらう。そして、二人ともバラバラに切り刻まれてもらう! タイニィハリケーン!」
ラディウスの着る鎧の胸部に埋め込まれた、【瑠璃色の神魂玉】が輝きを放つ。すると、コリンたちの周囲に青い羽根のようなものが七つ現れた。
歴戦の戦士としての勘から、嫌な予感を抱いたエリザベートは羽根から離れようとする。が、そうはさせまいとラディウスが翼を羽ばたかせた。
小さな嵐が巻き起こり、空中を漂う羽根が動き始めた。その内の一枚が、エリザベートの腕に触れる。すると……。
「いった! 痛いですわ、腕がすぱりんこと切れましたわ! わたくしが魔神じゃなかったら片腕が無くなってますわよ!」
「その羽根そのものが、鋭い刃となっている。どのように触れても、お前たちの身体を切り裂くぞ。私の攻撃と共にな!」
「エリザベート、来るぞよ! ディザスター・ランス【雨】!」
両断されてしまった腕を再生させつつ、エリザベートは刃の羽根地帯から逃れようとする。が、そうはさせまいとラディウスが突っ込む。
相手へのカウンターと、羽根の破壊を兼ねてコリンは闇の槍を大量に射出する。羽根は五つほど破壊出来たが、ラディウスへの攻撃は叩き落とされてしまう。
「ムダだ、その程度の攻撃は私に当たらん! それに、闇雲に羽根を破壊すれば……お前たちの首を絞めることになるぞ?」
「なに……? なっ、羽根が増えおった!」
「破壊されればその分、小さくなって増えていく。増えれば増えるほど、お前たちの逃げ場は断たれていくのだ!」
「面倒くさいですわね、なら燃やし尽くして差し上げますわ! ヒートダウンウェーブ!」
完全に退路を断たれてしまえば、いくらエリザベートといえど轟沈してしまう。砕くのがダメなら燃やしてやろうと、身体から熱波を放つ。
「ぐうっ……逃がさぬ! ブレードブーメラン!」
「コーネリアスさん、一気に下降しますわ! しっかり掴まっていてくださいませ!」
「うむ、分かった!」
無事羽根を燃やし尽くし、消滅させることに成功したエリザベート。だが、そこにラディウスの剣が飛んでくる。
コリンに一声かけた後、エリザベートは急降下して剣をかわす。戦局は仕切り直しになった……が、総合的にはコリンたちが不利だ。
「あの羽根をまた使われたら、だいぶ厳しい戦いを強いられるのう。何とかしなければ……」
『コリンさん、コリンさん。聞こえていますか? 僕です、ソールです!』
「おお、ソール! そなたが語りかけてきたということは……今回はそなたが力を貸してくれるということじゃな?」
突破口を見出そうと思案していると、ネックレスの中からソールがコリンに語りかける。姿こそ見えないが、コリンはソールが頷いたのを感じた。
『あいつは……ラディウスは兄さんを狂わせた元凶だ。絶対に許せない! 奴の切り札を封じるのに、僕の力を役立ててください!』
「分かった、感謝するぞよ。エリザベート、一旦雲の中に逃げ込むのじゃ。そこで作戦会議をする!」
「かしこまりましたわ!」
「どこへ行くつもりだ? 私からは逃げられないぞ! レイニィフェザー!」
一旦ラディウスから離れ、策を練ろうとするコリンたち。が、そうはさせまいと邪神の子は八枚の翼を広げる。
無数の羽根が翼から離れ、雨のようにコリンたちへ降り注いでくる。エリザベートは翼を羽ばたかせ、羽根の雨から逃げていく。
「全くもう、鬱陶しいですわね! ん、あそこにちょうどいい大きさの雲がありますわね。コーネリアスさん、あそこに突っ込みますわよ!」
「うむ、行ってくれ!」
ラディウスの攻撃から逃れたエリザベートは、大きな雲の中に突入する。目標を見失ったラディウスは、一旦攻撃を止めた。
「何をするつもりかは知らないが……こちらも好きにやらせてもらおう。次に外に出た時、お前たちを仕留められるようにな」
そう呟き、ラディウスはニヤリと笑う。彼の胸元では、【瑠璃色の神魂玉】が不気味に光っていた。
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「さて、無事逃れられたわけじゃが。ソール、奴の羽根を封じる策はあるかえ?」
『ええ、僕の力を使えば。コリンさんたちが南ランザームの奪還に動いている間、対ラディウスを想定して訓練してましたから』
一方、雲の中に入り込んだコリンたちは、身を潜めながら作戦会議を行う。エリザベートが周囲を警戒する間、コリンとソールで話し合いをする。
この一ヶ月、ソールはコリンたちと別行動をしていた。その理由を今まで聞かされていなかったコリンは、目を丸くして驚く。
「おお、そうであったか。てっきり、兄の供養に出ているのかと思うておったわ」
『ええ、勿論供養もしました。でも、それ以上に特訓をしていたんです。ラディウスの手の内は、あらかた知っていますから。これでも、元部下ですし』
そんなコリンに、ソールは語る。兄、ディルスと戦ったあの日から、ずっと復讐を考えていたと。自分たちを救った存在でもあり、狂わせた元凶でもあるラディウスを。
『ラディウスの使う、あの羽根……サファイア・ウィングエッジは恐ろしい技です。闇雲に壊しても、あいつが言う通り自分の首を絞めるだけ』
「なれば、どう戦う? そなたの意見を聞かせてほしい、ソール。どんな作戦でもよいぞ」
『ええ、簡単な話ですよ。壊すと増えるなら、壊さずに無力化しちゃえばいいんです。ごにょごにょ……』
「ほう、ほう。なるほど、それであれば確かに……」
ソールは小声でコリンに語りかけ、一ヶ月の特訓で編み出した作戦を伝える。二人が話をする中、エリザベートはもどかしそうにしていた。
「なになに、なんですの? 二人だけで内緒話なんてズルいですわ! わたくしも混ぜてくださいませ!」
「ダメじゃ、そなたは作戦とかを顔に出して漏らすタイプと見たからのう。ラディウスに悟られたら全部パーじゃ、そなたには話せん」
「酷いですわ! ズルいですわ! 無情ですわ! 私にも教えてくださいませー!」
けんもほろろに断られ、エリザベートは癇癪を起こす。そんな彼女を適当にあしらって宥めつつ、コリンはソールと最終確認をする。
「では、そなたの作戦で行かせてもらう。共に力を合わせ、ディルスの仇を討とうぞ!」
『ええ、任せてください! 必ず、ラディウスを仕留めます。兄さんの鎮魂のために!』
最後の邪神の子との戦いは、クライマックスに突入しようとしていた。




