229話─決戦! ゲーニッツを討て!
「これで片付いたか。数を揃えればわしらに勝てると思うておるのなら、それは間違いじゃな」
「ええ。お坊ちゃまには勝てません。このような雑兵たちではね。時間と命のムダですよ、全く」
砦の最上階……の、一つ手前の部屋。ここもまた、魔法によって拡大された大部屋になっていた。コリンとマリアベルは、ラインハルト同様敵の兵団と戦っていた。
が、こちらもケリがついたようだ。マリアベルが右手を顔の横にかざし、クイッとひねると……部屋にかけられていた魔法が解けた。
「大地の民にしては、なかなか高度な魔法を使いますね。まあ、わたくしの手にかかれば解除は容易ですけれど」
「流石マリアベルじゃ。さて、邪魔者どもも蹴散らしたことじゃし。行こうか、恐らくこの先が最上階じゃろう」
「かしこまりました、お坊ちゃま。油断せぬよう、共に参りましょう」
コリンたちは、用心しながら階段を登る。どんな形で、敵の罠が待ち構えているか分からない。慎重に慎重を期するに越したことはないのだ。
扉を開け、長い螺旋階段を登る。しばらくして、二人は最上階にたどり着いた。扉のノブに手を掛け、コリンはマリアベルとアイコンタクトをする。
「……行くぞ。トーマの家族の仇を討つ!」
「全ては、お坊ちゃまの御心のままに。このマリアベル、お供致します!」
「よし、まずは罠を」
「確認の必要はない、入りたまえ。歓迎しよう、我らが宿敵よ」
扉越しに罠の確認をしようとするコリンだが、その直前でゲーニッツの声が響く。ひとりでに扉が開き、姿が丸見えになってしまう。
「ほう、随分と余裕があるのじゃな。よほど、わしらを倒す自信があると見える」
「勿論。そうでなければ、わざわざ自分から迎え入れなどしない。ようこそ、我が砦へ。吾輩はゲーニッツ・ゼラベルド。ラディウス様の配下にして、研究開発部門の長だ」
「能書きを垂れる必要などないぞ、ゲーニッツ。貴様に関する全てを、今日ここで闇に葬り去るのじゃからな。トーマの家族の無念、晴らさせてもらうぞ!」
部屋の奥には、様々な機材が置かれている。それらに囲まれるように、ゲーニッツが立っていた。飄々とした態度を崩さない彼に、コリンは挑む。
「最初から全力じゃ! 星魂顕現・カプリコーン!」
「星魂顕現……オヒュカス! 罪深き者よ、死して贖いとしなさい!」
「フッ、やはり星の力を解放してきたか。そう来なくては面白くない。実験データをたっぷりと採らせてもらうぞ!」
「何をペラペラと。死ぬがいい! ディザスター・ランス!」
星の力を覚醒させ、姿を変えたコリンは闇の槍を放つ。生身のゲーニッツ一人、一撃で消し飛ばせると踏んだのだ……が。
ゲーニッツはニヤリと笑った後、首から下げていたネックレスを指でつつく。すると、ネックレスから魔力が放たれる。
「!? なんじゃ、奴の身体が何かに包まれていくぞよ!」
「あの禍々しい魔力……これは一体……!?」
魔力はゲーニッツの身体を覆い、赤黒いアーマーへ変わる。滑らかな甲冑で全身を覆ったゲーニッツは、右手を前に出す。
そこに、闇の槍が触れると……相手の身体を貫くことなく、魔力が分解され霧散してしまった。
「なっ、これは……!?」
「驚いたかね? 吾輩はこの四年、ずっと研究してきた。吾輩の居場所だったヴァスラ教団を滅ぼした、貴様ら星騎士へ復讐する方法を! その答えがこれだ」
驚愕するコリンに、ゲーニッツはアーマーを指差しながらそう口にする。直後、下半身が蛇になったマリアベルが、尾を伸ばした。
鞭のようにしなる尾の一撃で、首をへし折ろうとするが……難なく受け止められ、防がれてしまう。
「この違和感……! まさか、わたくしの力を吸い取っている……?」
「そうだ、吾輩は創り出したのだ。貴様ら星騎士の持つ力を吸収し、星の力を弱めるプログラム……スタージャマーをな!」
「スター、ジャマー……」
マリアベルは尾をひねり、無理矢理ゲーニッツの手を振り払う。得意気に語る相手の言葉を、コリンは小さな声で呟く。
「部下たちには、試作のスタージャマーを搭載した武器を持たせていた。貴様らとの戦いでデータを集め、リアルタイムでアップデートを行わせてもらったよ」
「なるほど。あの雑兵たちはその機能を完成させるための捨て駒……そういうことですね?」
「そうさ。奴らは全員、大地の民に似せて作った量産型の戦闘用アンドロイド。どれほどの数を失ったところで……痛手になどならん!」
そう叫ぶと、アーマーがさらに展開されフルフェイスの兜が生成される。ドクロの仮面とフード、たなびくマントを身に付け、完全体となったゲーニッツが動く。
「オラクルたちの仇を討たせてもらう。貴様らを滅ぼすために開発したアーマー、この星騎士潰しでな!」
「やれるものならやってみぃ! ディザスター・クロウ!」
「そのアーマーの力が如何ほどのものか、確かめて差し上げます! ヴァイパーショット!」
大鎌を呼び出し、走り出すゲーニッツ。対して、コリンは闇の拳を、マリアベルは巨大な蛇を呼び出す。二人同時に攻撃を仕掛るが……。
その瞬間、スターストンパーの胸にドクロの紋章が現れる。目と口が開かれ、不気味な駆動音が鳴り響き出した。
「ぐっ、何じゃこの感覚は……! 力が、吸われていく……」
「これがスタージャマー……なるほど、厄介ですねこれは」
「ククク、遅い遅いぞ! 貴様らの攻撃が止まって見えるわ!」
スタージャマーが起動し、コリンとマリアベルの力を吸い取り始める。その力は、フランクが用いていた試作品の比ではない。
星の力を解放した状態でなお、著しく弱体化していることをハッキリ自覚出来るレベルなのだ。コリンたちの攻撃は、あっさり防がれてしまう。
「マリアベルよ、これはちとまずいぞ。あの装置をどうにかしなければ、じわじわ弱らされて負けてしまうぞよ」
「困りましたね……。あの装置を止めるなり壊すなるか、あるいは星の力に頼らず戦うしか方法はありませんね……」
「攻めてこないのか? ならば、吾輩から攻めさせてもらおう! スターエンド・ディスパライザー!」
攻めあぐねるコリンたちに、ゲーニッツが猛攻を仕掛ける。二対一のハンデをものともせず、大鎌で命を刈り取らんと斬撃を放つ。
「お坊ちゃまには指一つ触れさせません! テイルウィップ!」
「むっ、ぐうっ!」
「今じゃ! ディザスター・ランス【雨】!」
コリンから凶刃を遠ざけようと、マリアベルは尾をしならせ足払いを仕掛ける。流石に物理的な攻撃力までは減退させられないようで、ゲーニッツは体勢を崩す。
その隙を見逃さず、コリンは大量の闇の槍を放つ。一つならダメでも、大量に数を用意すれば……と考えたのだ。
「短絡的な思考だ。その程度、吾輩が予想しないと思うか! イレイザーシールド!」
「甘い! サーペント・シックル!」
ゲーニッツは素早くコリンたちから離れ、白い魔法壁を作り出して槍の雨を防ぐ。その瞬間、マリアベルが地を這い接近する。
右手首に蛇の牙を生やし、ゲーニッツの喉を掻き切ろうと狙う。そこに、コリンも加わる。杖を構え、心臓を貫こうと走ってきた。
「魔法がダメならば、物理で殺す! 死ぬがよい、ゲーニッツ!」
「物理で殺すだと? 生意気な。ガキである貴様が……」
「ぐっ!」
「お坊ちゃま!」
「大人である吾輩に、腕力で勝てるものか!」
ゲーニッツはコリンにターゲットを定め、マリアベルの振るう腕をしゃがんで避ける。そのまま走り出し、左手でコリンの首を掴む。
「このままくびり殺してくれるわ!」
「そうはさせません! テイルウィップ!」
「ぐおっ!」
コリンを絞め殺そうとするが、そこにマリアベルの尾が叩き込まれゲーニッツが吹き飛ぶ。解放されたコリンが尾で巻かれ、即座に回収される。
「ぐ、げほっげほっ。助かったぞよ、マリアベル」
「申し訳ありません、不埒な輩にお身体を触らせてしまいました。……しかし、ここまで厄介な相手だとは思いもしませんでしたね」
「だからと言って、おめおめと逃げ帰るわけにはいかん。トーマのためにも、ここで奴は討つ。必ずな!」
ゆっくりと立ち上がるゲーニッツを睨みながら、コリンはそう口にした。潰されるのは輝く星か、復讐に燃える死神か。
双方共に負けられない戦いが、幕を開けた。




