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228話─砂鉄舞う嵐の中で

「この技はかわせまい! 召喚、石毒の牙!」


「むっ……! マグネット・ディフェンス!」


 砂鉄の嵐が吹き荒ぶ中、オセは石で出来た蛇の像を呼び出す。直感的に危険だと判断したラインハルトは、砂鉄を集め盾を作る。


 相手の行動を見極めようと身構えていると、石の蛇が動き出す。大口を開け、ラインハルトに噛み付かんと一気に跳躍した。


「シャアアアア!!」


「来るか……だが、私には牙一本触れさせん! アイアンディバイン!」


 ラインハルトは砂鉄を操り、五本のロープを作り出した。ロープは蛇に巻き付き、動きを封じる。だが、それで終わらない。


「甘い、まだ我がいるぞ! シールドブーメラン!」


「させん! ジャベリンシュート!」


 オセは背負っていた盾を引き抜き、ロープを切断するべく投げ付ける。それを阻止するべく、ラインハルトも手槍を投げた。


 空中で盾と槍がぶつかり、地面に落ちる。盾を回収しようとするオセだったが、ラインハルトは砂鉄で盾を押さえつけ動きを封じる。


「回収などさせん。その盾は置物にさせてもらう!」


「小癪な。だが、盾も斧も好きなだけ呼び出せる。一つ封じたところで無意味! 召喚、飛刃の盾!」


「くっ、しまった!」


 回収は不可能と判断し、オセは一つ目の盾を消滅させて新たにラウンドシールドを呼び出す。今度は邪魔をされる前に、盾でロープを切断する。


「キシャアアア!!」


「さあ、逃げ惑うがいい。その蛇に噛まれれば、お前も石になる。我の格納庫にお前の石像を飾ってやろう!」


「生憎、私は誰かの部屋に飾られて鑑賞されるような趣味は持ち合わせていない。もちろん、石になるつもりもない! アイアンサンド・ナックル!」


 ラインハルトは砂鉄を操り、巨大な拳骨を作る。拳を発射し、石の蛇を粉々に砕いてみせた。脅威が減り、手槍の回収に乗り出した直後。


 今度はオセ本人が襲いかかってくる。盾のフチを鋭い刃に変え、ラインハルトを両断しようとしているのだ。


「よく石毒の牙を凌いだな。なら、我が直々に切り刻んでくれる!」


「来い。手槍二刀流で相手をしてやる!」


「ふっ、そんな槍などすぐに真っ二つだ!」


 振り回される盾を、ラインハルトは両手に持った手槍で防ぐ。ただ守るだけでなく、相手に隙が出来た時は果敢に攻める。


 一方のオセは、アンドロイド故の耐久力の高さにものを言わせてひたすら攻撃を繰り出す。だが、その最中……左のこめかみに鈍い痛みを覚えた。


(なんだ、この痛みは? 攻撃を食らったわけではない……なのに何故?)


「動きが止まったぞ、オセ! 隙ありだ!」


「くっ、させぬ!」


 こめかみの痛みの原因について思考を巡らせ、動きが止まった瞬間。ラインハルトが手槍を突き出し、心臓を貫こうと狙う。


 間一髪、盾で攻撃を防御したオセは一旦距離を取って姿を消す。固有能力を使い、光の屈折率を変化させて透明になったのだ。


「仕切り直すつもりか。だが、これまでの戦いで奴の特徴がある程度見えてきた」


 砂嵐の中に消えたオセの奇襲を警戒しつつ、ラインハルトは思考する。オセの長所と短所、両方を見つけ出したのだ。


(奴は武器を作り出すことは出来るが、オリジナルの魔神のようにエレメントの力を自在に操ることは出来ない。もし出来るのなら、とうの昔にこの部屋は極寒地獄になっているだろうからな)


 思い返せば、最初に大木を生やして以来オセはエレメントの力を使っていない。ラインハルトを侮り、あえて使っていない……とは思えない。


 ゲーニッツから厄介さを聞かされているだろうことを考えると、何かしらの制約があるせいでエレメントの力を使えないと考えるのが妥当だ。


(それに、各魔神のように獣へ化身することも出来ないようだ。なら、こちらにもやりようがある。野生の探知力が無いのなら……な)


 一方、オセは思案しているラインハルトの背後に回っていた。ちらりと右手首を見つめ、内蔵されたメーターをチェックする。


(エレメントゲージは七割がた回復したか。後少し時間を稼げば、氷と水の力で一気に仕留めてやれる。それまで、時間を稼ぐとしよう)


 ラインハルトが推測した通り、オセは属性の力を自由に操ることが出来ない。ゲーニッツの技術には限界があり、完全に再現することが不可能だったのだ。


 そのため、エレメントの力を行使するには一回につき十分のインターバルが必要となる。それを無視し、無理に力を使えば……。


 メイン回路に多大な負荷がかかり、オセのメインコンピュータに深刻なエラーが発生する。故に、ゲーニッツから厳命されていた。


(必ずインターバルを守れ……。言われなくてもそうするさ、ゲーニッツ様。このまま隠れていれば、じきにメーターも回復……!?)


 時間を稼いで再度エレメントの力を使い、一気にラインハルトを始末しようとするオセ。が、そんな彼に異変が訪れる。


 途中から感じていたこめかみの痛みが、一気に悪化したのだ。何とか痛みを我慢していたオセだったが、やがて耐えられなくなる。


「ぐ、う……! なんだ、この痛みは……! 何故こめかみが痛むのだ!?」


「そこか、見つけたぞ! ジャベリンシュート!」


 思わず声を漏らしてしまい、ハッとしたオセは慌てて口をつぐむ。だが、耳聡いラインハルトは相手の声を聞き逃さなかった。


「ぐうあっ!」


「やはり私の後ろに回り込んでいたか。後ろから盾や斧でザクリ……あるいは、牙でガブリとやるつもりだったか?」


 ラインハルトの投げた手槍がオセの左肩を貫き、重大な損傷を与える。ステルス機能にエラーが発生し、オセの姿が現れ足り消えたりを繰り返す。


 盾を背中に装着し、オセは手槍を引き抜いて真っ二つに握り砕く。だが、ラインハルトはコートの裏から新たに手槍を取り出して構える。


「随分と調子が悪そうだな、あんなに元気だったというのに。薬でも出そうか? アンドロイドには効かないだろうがな」


「き、さま……我に、何かしたな? そうでなければ……こんな痛みなど、あるはずがない」


「ああ、そうだとも。この砂鉄の嵐が、お前を倒す切り札なのさ。戦いの最中、少しずつ……気付かれないよう、お前のこめかみに砂鉄で傷を付けさせてもらったよ」


「なんだと……?」


 ラインハルトの言葉を受け、オセは左のこめかみに触れる。指先に、僅かな違和感があった。よく触らないと気付かない、本当に小さな穴が開いていたのだ。


「真正面からやり合えば、長期戦は避けられない。悪いが、私は急がねばならないのでな。手っ取り早くお前を倒す方法を実践させてもらった」


「何を、した……我に何をした!」


「その傷から、砂鉄を侵入させた。お前の頭脳……コンピュータと言ったか? それを破壊するために。お前の感じていたこめかみの痛みは、砂鉄が侵入した時の擦れが原因だ」


 痛みの原因は分かった。だが、オセにはどうすることも出来ない。まだ試作型のため、内部に入り込んだ異物を除去する機能が搭載されていないのだ。


 故に、オセが取れる戦法は『頭脳回路が破壊される前にラインハルトを仕留める』の一つしかない。……いや、なかったのだが……もう時間切れだ。


「う、ぐ……あがっ!」


「哀れなものだ。魔神の力を操る強大なマシンといえど、内部から破壊されればただのガラクタ。一時はどうなることかと思ったが……私の勝ちだ」


「ぐ、まだだ! こうなれば、自壊しようが構わぬ! お前を道連れにしてやる!」


「悪いな、残念だがタイムオーバーだ。さようなら、オセ」


 相打ち覚悟で特攻するオセだったが、もう遅い。ラインハルトが操る砂鉄が頭脳回路を破壊し尽くし、機能を停止させた。


「が、はっ……! 頭脳回路、フェイタルエラー……クリーンアップ、不可……能……」


「……終わったか。ゲーニッツめ、恐ろしいものを作るものだ。もしこいつが完全体だったら、負けていたのは私の方だっただろう」


 機能停止し、倒れて動かなくなったオセを見下ろしながらそう呟くラインハルト。オルドーから始まり、ゲーニッツに続くキカイの力への危機感を強める。


「この大地には、キカイの力は脅威過ぎる。一刻も早くゲーニッツを始末し、奴の研究成果も破壊しなければ」


 そう呟き、ラインハルトはきびすを返し歩き出す。左右の通路で起きた戦いは、ドレイクとラインハルトの勝利で終わった。


 最後に残るコリンとマリアベルの戦いも……じきに、始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石にオリジナル1人でも一騎当千なのに一人で複数の能力搭載は無理があったか(ʘᗩʘ’) 中身まで機械だけにさっさと退避しないと自爆しかねんな(?・・)
[一言] 試作型といえどラインハルトの手を焼かせるとはな……。
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