209話─黄金の覇者! 機怪神将オルドー!
見事ゲームマスターたちを倒したコリンたち。決戦から七日後、彼らは約束通りオルドーの住まう黄金宮に招かれた。
「さて、これで忘れ物はないのう。……っと、ハンカチを忘れるところだったわい、いかんいかん。……何だか湿っておるな。まあよい、持って行こう」
「コリンはん、急がんと遅れるで。決戦当日に遅刻はかっこ悪いで?」
「うむ、すぐに行くから待っていておくれ」
ホテルを出る時間になり、コリンたちは身支度を調える。やたら湿ったハンカチに顔をしかめながらも、コリンはポケットに入れた。
その後、一行は街の北東の高台にある黄金宮へと向かう。断崖絶壁の下に設置されたエレベーターを使って、決戦の地へ足を踏み入れる。
「ふん、悪趣味な宮殿よのう。キンキラぴかぴか、嫌みったらしいわい」
「ホント、性根の悪さが透けて見えるよ。さ、突撃だよししょー! オルドーをふん縛ってボコボコにしちゃうぞ!」
「うん! みんなで襲えば怖くないもんネ!」
黄金宮の前に立ち、コリンたちはそれぞれ好き勝手言う。少し待っていると、宮殿を覆う結界の一部が解除された。
一行が一歩踏み出し、黄金宮の中に入るとコリンのポケットから、小さな水の塊がこぼれ落ちる。床に落ちた水が大きくなり……。
「よし、これでオルドーに気付かれずに潜入出来たな。オルドーの奴、何かしら罠を張ってるだろうからな……コリンたちのために妨害してやる」
一瞬だけドレイクの姿になった後、水の塊はコリンたちとは別の方向に消えていった。一方、コリン一行が廊下を進んでいるとマリスが走ってきた。
コリンと引き分けたことでチャンピオンの名目を保てたため、黄金宮に入る資格を維持出来ていた。一足早く宮殿に入り、一行を待っていたのだ。
「コリン! いた、見つけられてよかった」
「おお、マリス! よかった、無事落ち合えたのう。さあ、共にオルドーの元へ」
『おっと、そうはいかないなぁ。分断させてもらうよ、そらっ!』
マリスと合流し、先に進もうとするコリンたち。その時、どこからともなくオルドーの声が響く。直後、通路の下から壁がせり上がる。
その結果、コリンとマリス、それ以外の三人とで分断されてしまった。初っ端から卑劣な行為をするオルドーに、一行は乾いた笑いを漏らす。
「……あのクソガキ、ほんまええ根性しとるわ。初手からこれはもう呆れるばかりやわ」
『この壁、かなり分厚そうだ。壊すのは時間のムダだろうね、あの子どもの命と同じくらいに』
「わお、お姉ちゃんちょー辛辣ー」
「仕方あるまい、分断された以上は別々に行動しよう。オルドーめ……どこまでも腐っておるわ」
壁を壊すのに時間を使うより、さっさと進んだ方がいいと判断したコリンたち。悪態をつきながら、二手に分かれて行動する。
しばらくして、コリンとマリスは大広間にたどり着いた。キョロキョロ周囲を見渡していると、入ってきた扉がひとりでに閉まった。
「ようこそ、僕の宮殿へ。お友達がいないけど、はぐれちゃったのかな?」
「白々しい、貴様が分断したクセに! オルドー、覚悟せよ。貴様の息の根を止めてくれるわ!」
「ガルダの民、草原、救う。お前、ここで殺す!」
大広間に現れたオルドーに、コリンとマリスは殺意を向ける。それでも、オルドーは怯まない。それどころか、ニヤニヤ笑っていた。
「あれあれ? いいのかなぁ、殺しちゃうよ? 君たちの大事な仲間をさ。レテリアはもう母上のところに送ったからいないけど、もう一人は……ん? こんな時にもう……もしもし、一体なに──!」
「お? なんじゃ、余裕の笑みが消えたのう」
ジャスミンやガルダの民を盾に、コリンたちを脅そうとするオルドー。その時、懐に入れていた板状の通信端末が震える。
オルドーは端末を取り出し、部下と通信を行う。その直後、大広間の明かりが消えた。何が起きたのか分からないコリンたちに、オルドーの叫び声が届く。
「地下の人間電池収容所に侵入された!? あり得ない、セキュリティーが……え!? 誰かが水で濡らしてショート!? もう、何やってるのさ!」
「コリン、チャンス来た。今、あいつ、殺せる」
「うむ、わしらのことなどすっかり忘れておる。ここで裁きを下してくれるわ」
部下とのやり取りに夢中で、オルドーの眼中にコリンたちの姿はない。それを利用し、二人は先制攻撃を放とうと身構える。
星の力を解き放ち、魔力を練り上げる。必殺の一撃を叩き込み、瞬殺しようとするが……。
「おっと、忘れてた。神将技、トパーズ・エクスマキナ! お前たちの相手も、ちゃーんとしてあげるよ。だからさっさと死ね!」
「これは……キカイの獣か!」
「大きい、強そう、油臭い」
オルドーは通信を続けつつ、左手をコリンたちの方に向ける。手のひらに埋め込まれた【琥珀色の神魂玉】が輝き、床に魔法陣が現れた。
魔法陣の中から、金色に輝く巨大なキカイの獣が出現する。二足歩行のソレは、頭部にコクピットを備えていた。オルドーはコクピット内にワープし、獣を操る。
「さあ、これで通信しながらお前たちを殺せるよ。誰が手引きしたか知らないけど、お前たちの仲間が地下に行っちゃってね。そっちを早く始末したいから、お前らにはサクッと死んでもらうよ!」
「やれるものならやってみよ! ディザスター・ランス!」
「お前、返り討ち! 来い、旋風弓ゲイルフローン! 食らえ、ウィンドアロー!」
キカイの獣を操るオルドーに、コリンたちは攻撃を行う。だが、金色に輝くボディには傷一つ付けることが出来ない。
「ムダムダ、そんな攻撃は効かない……え? 人質に逃げられた!? 嘘だ、見張りをたくさん……」
「戦いの最中にムダ話とは、随分と余裕じゃな! ディザスター・スタンプ!」
「うおっ! もう、邪魔! セレブリティ・ナックル!」
闇の槍では効果が薄いと考えたコリンは、闇の鎚による攻撃を行う。が、多少表面がへこんだだけで終わってしまい、反撃を食らい吹き飛ばされる。
「ぬうあっ!」
「コリン! 今助ける!」
「ばぁか、背中を見せたな! 食らえ、ギガトンコイン・チェーンソー!」
矢を射つのを止め、コリンを助けに向かうマリス。彼女の背中に向かって、オルドーは獣の右腕を振り上げる。
手首から先が金貨を模したチェーンソーに代わり、唸りをあげて高速回転し始める。その勢いのままに、マリスの背中目がけて振り下ろす。
「ズタズタにしてや……ええっ!? よ、避けられたぁ!?」
「マリス、背中敏感。振り向く、不要。気配、危険、分かる。小細工、ムダ!」
背後からの攻撃を、振り返りすらせずにマリスは避けてみせる。オルドーの配下になってから、マリスはずっと背後を気にしていた。
ドレイク以外味方はおらず、周りはオルドーの部下だらけ。いつ、どこで後ろから刺されるか分からない緊迫感が、マリスを成長させたのだ。
「コリン、大丈夫?」
「うむ、何とかな。しかし、あの獣ノロマじゃな。一向に追い付く気配がない。……そこを突けば、勝てるやもしれぬぞ」
キカイの獣は、パワーこそあるが動きは鈍重だ。装甲の頑丈さを重視した結果、速度が犠牲になっているらしい。
「あーもう、そっちはそっちでちゃんとやっといてよね! 一旦切るよ! ……さて、そろそろ死んでもらおうかな! セレブリティミサイル!」
「コリン、下がって! ミリオンズアロー!」
部下との通信を終えたオルドーは、本格的な攻撃を開始する。獣を四つんばいの姿勢に変え、背中の装甲を開く。
そこから大量のミサイルを発射し、コリンたちを爆殺しようとする。それを見たマリスは、負けじと大量の矢を射って対抗した。
「マリス、負けない。お前、許さない。ガルダの力、見せてやる!」
そう叫ぶマリスの腹部に、【ガルダの大星痕】が浮かぶ。覚醒の時は、近い。




