206話─死闘! ステルスドームデスマッチ!
「そっか~、二人とも勝てたんだネ?」
『うん、天下無敵の大勝利だよ! いやー、みんなにも見せたかったね!』
『ウチの方は結構ギリギリやったな。あんなに胃がキリキリするバクチ、もうごめんやで』
正午を回った頃、フェンルーは総合格闘場の控え室にいた。チャンピオンこと【バトルタイラント】、ラングバルとの戦いに備えて。
ウォーミングアップをしている途中、連絡用の魔法石を使いアニエスたちに連絡を取る。彼女たちが無事ゲームマスターを下したことを知り、フェンルーは笑う。
「じゃあ、ワタシも頑張らないとネ! よーし、やる気が湧いてきたゾ!」
『頑張ってね、フェンルー。私もアニエスも応援してるから』
『気張っていきぃや、ゲームマスター相手に楽に勝てると思わへん方がえぇ。油断は禁物やで!』
「ウン、分かっタ! 絶対勝つカラ、期待してテ!」
アニエスたちとの連絡を終え、フェンルーはウォーミングアップを再開する。仲間たちが勝っている以上は、自分も負けられない。
心の中に闘志がわき上がってくるのを感じ、フェンルーは獰猛な笑みを浮かべる。それから十数分後、係の女が控え室にやって来た。
三週間前、フェンルーが初めて総合格闘場を訪れた時に対応してくれた女だ。
「時間よ、お嬢ちゃん。リングに行くわよ」
「はーい、待ってましタ! それじゃあ、レッツゴー!」
係の女に案内され、フェンルーは連絡通路を通ってリングに向かう。その途中、女が歩きながら声をかけてくる。
「それにしても、驚いたわね。たった三週間でここまで成績を上げるんだもの。あの日、あなたと会った時には想像も出来なかったわ」
「ふっふーん、ワタシは強いんだヨ。なんたって、星騎士だからネ!」
女に褒められ、フェンルーは胸を反らして誇らしげに笑う。そんな彼女を見ながら、女はほくそ笑み……歩みを止めた。
フェンルーに気付かれないよう、懐から手のひらサイズの注射器を取り出す。その中は、不気味な銀色の液体で満たされている。
「ええ、ですから……こうさせてもらいます!」
「へ? うあっ!」
女は素早くフェンルーに接近し、首筋に注射器を打ち込んだ。中の液体が注入され、空っぽになる。女を蹴り飛ばし、フェンルーは首を押さえる。
「な、何をするネ!」
「ふふ、悪く思わないでくださいよ……がふっ。オルドー様から、あなたの勝利を阻止するよう命じられていましてね……毒を、打たせて……」
「むうう、ヒキョーなことするネ! でも、これくらいのハンデなんかどうってことないヨ! ワタシ、毒には強いモンネ!」
蹴り飛ばされた女は、勝ち誇った笑みを浮かべそう口にする。そして、気を失ってしまった。フェンルーは顔をしかめ、歩みを再開する。
「さあさあ皆様、長らくお待たせしました! 本日のメインイベントを始めましょう! 絶対王者と挑戦者の戦いを、刮目して見届けろー!」
「わああああ!!!」
若干重くなった足取りでリングに到着すると、実況の叫びと観客の声援で迎えられる。すでにラングバルも来ており、仁王立ちしていた。
真っ黒なレスリングパンツに革のブーツのみと、鍛え上げた肉体を惜しげもなく晒している。対して、フェンルーはいつものチャイナドレスだ。
「さあ、両選手入場です! 赤コーナー、チャンピオンラングバル! 今日もまた、挑戦者を血祭りにあげるのかー!?」
「相手にとって不足なし、だ。楽しみにしてたぜ、この時を」
「青コーナー、チャレンジャーフェンルー! 華麗な身のこなしと可憐な笑顔で、観客たちを魅力してきたリングの妖精の登場だ! 果たして、下克上を成せるのかー!?」
「ぶっ倒してやるネー! チャンピオン、覚悟!」
両者共にリングインすると、透明な壁と天井がリングを覆う。今回の戦いの舞台は、ステルスドームデスマッチだ。
「さあ、試合開始です! 真っ先に攻めたのは……チャレンジャーの方だぁぁぁ!!」
「先手必勝、行かせてもらうネ! シールズリング展開!」
「来い! 壊体八封殺の餌食にしてやる!」
「行くヨ! 白羊剛拳、斬鉄剛腕薙ぎ!」
四本の帯を展開し、フェンルーは攻撃を繰り出す。右腕に四本の帯を巻き、ラリアットを仕掛ける。が、しゃがんでかわされ腕を掴まれてしまう。
「捕った! 挨拶代わりだ、こいつを食らえ! 壊体八封殺、弐の技! 立体四つ裂き刑ー!」
「おーっと、チャンピオン早くも逆襲に出たー! チャレンジャー、早くも敗れてしまうのかー!?」
毒を打ち込まれたせいで、普段のパフォーマンスを発揮出来ずにいたフェンルーは、あっさり捉えられてしまう。
手足を締め上げられ、以前見た試合の選手のように四肢を破壊される……かと思われた。
「なんの、このくらい楽に抜けれるヨ! 白羊柔拳、油壺滑り!」
「なにっ!?」
「おお、これは凄い! チャレンジャー、帯を手足の隙間に差し込んでクラッチから脱出! 恐怖の人体破壊を免れたー!」
技をかけられても、フェンルーは慌てない。シールズリングを使い、拘束を外して脱出してみせた。そして、すかさず反撃を叩き込む。
「食らうネ! 白羊剛拳、飛翔刃脚撃!」
「よく逃げたな、だがこれはかわせまい! 壊体八封殺、参の技! ストマック・ブレイク!」
「はや……うぶっ!」
透明な壁を蹴って空中回し蹴りを放つフェンルー。だが、それよりも速くラングバルの正拳突きが炸裂する。
第三の人体破壊技たる、腹部への攻撃が直撃しフェンルーは吹き飛ぶ。壁に叩き付けられ、そのままリングに落下した。
「決まったー! チャンピオンの無慈悲な一撃がチャレンジャーを捉えた! これは一撃での決着もあり得るかもしれませ……」
「うー、いったいネー。帯巻いてなかったら死んでたヨ」
「おーっと、チャレンジャー生きている! 再び立ち上がったー!」
腹を破壊されたと思われたフェンルーだったが、わりと元気そうに起き上がる。使っていない残り四本の帯を腹に巻き、守りを固めていたのだ。
「面白い、そうこなくちゃ戦う意味がねぇ! 壊体八封殺、肆と伍の技! 視聴壊斬首!」
「もう当たらないヨ! 白羊柔拳、幻影帯舞踏! からの! 白羊剛拳、飛翔刃脚撃!」
今度は視覚と聴覚を封じるべく、チョップを仕掛けるラングバル。フェンルーは帯を用いてそれを華麗に避け、もう一度回し蹴りを放つ。
今度は胸板にヒットし、大ダメージを与えることに成功した。
「ぐうっ……まだだ! 壊体八封殺、陸の技! 狩り鎌腰砕き!」
「チャンピオン、負けじと大技を繰り出します! 今度は腰骨をへし折りにかかるー!」
「あぐあっ! っつー、腰いわしちゃうヨ! よくもやってくれたネ、お返しダ! 白羊柔拳、六ツ帯絡め!」
腰への強烈なローキックを食らうフェンルー。が、帯による防御が辛うじて間に合った。矢継ぎ早に反撃を行い、帯を絡めてラングバルの腕を折ろうとする。
「そんなもの、外してくれるわ! 壊体八封殺、漆の技! 地獄への直滑降!」
が、ラングバルの怪力で帯を振りほどかれ、フェンルーの攻撃は失敗に終わる。ラングバルはフェンルーの首を掴んで身体を持ち上げ、高く飛び上がる。
「これで終わりだ! 死ねぇぇい!!」
「くっ、ここで負ける訳にはいかないネ! この技、必ず脱出してみせるヨ!」
首をへし折られまいと、フェンルーは抵抗し抜け出そうとする。が、毒のせいでパワーが出せず、少しずつリングが近付いてくる。
「チャンピオン、チャレンジャーを仕留めにかかる! 果たして、この試合どう転がるのかー!?」
二人の死闘は、クライマックスを迎えようとしていた。無事技から逃れられるのか、それとも……。




