203話─再会は喫茶店で
ナイトライアに連れられて、コリンは競技郷の西のはずれに向かう。そこには、古ぼけた喫茶店がぽつんと佇んでいた。
栄えあるゲームマスターが利用する店にしては、随分ボロっちいとコリンが考えていると……予想もしていなかった人物に出迎えられる。
「よっ、コリン。久しぶりだな、あの時はいろいろ悪かった」
「のじゃっ!? ど、ドレイク!? 何故おぬしがここに!」
「説明は後だ、まずはメシ食えメシ。この時間に来たってことは、そういうこったろ? ナイトライアさんよ」
「……その呼び方、キライ。同じ星騎士、本名、呼ぶ」
なんと、店の中にいたのはキャプテン・ドレイクだった。普段の海賊装束ではなく、バーテン風の衣服を身に付けている。
コリンに問われたドレイクは、さっきまで拭いていたカウンター席を指差す。ついでにナイトライアをからかうが、そっぽを向かれてしまった。
「同じ星騎士……? まさか、ナイトライアは」
「そう。久しぶり、コリン。マリス、ずっと……コリンに会いたかった」
ドレイクの言葉に引っかかるものを覚えたコリンは、ある可能性に思い至る。その時、ナイトライアがヘルメットを脱ぎ──素顔を見せた。
現れたのは、今にも泣き出しそうに表情を歪めつつ笑みを浮かべる、マリスだった。予想もしていなかった再会の仕方に、コリンは固まってしまう。
「なっ!? 一体全体、何がどうなっておるのじゃ!? 何故そなたが、オルドーの元でゲームマスターなど……」
「話、長くなる。ご飯、食べる。話す」
聞きたいことは山ほどあるが、まずは腹ごしらえをすることに。コリンはベーコンチーズのサンドイッチを、マリスはパンケーキを注文する。
「すぐ作るから待ってろ。出来るまで、互いの身の上話でもしてな」
「……何だか不安じゃのう。おぬし、ちゃんと料理出来るのかえ?」
「あたぼうよ! オレぁ元から料理は得意だぜ。目ん玉飛び出るくらい驚かせてやる、覚悟しとけ!」
そう言い残し、ドレイクは奥にあるちゅうぼうに去って行った。少しして、ぽつぽつとマリスが語り始める。
この四年間で、ガルダ草原に何が起こったのか。そして、何故彼女がゲームマスターとしてオルドーに仕えているのかを。
「四年前、コリン、消えた。すぐ後、オルドー来た。マリス、マーマと一緒。戦った。でも……」
「……敗れてしもうたわけじゃな。ガルダの民が」
「四年、持ちこたえた。でも、勝てなかった。オルドー、不思議な技、使う。みんな、ヘンテコな塊、変えられた。マーマも、マリス、庇って……」
そう言うと、マリスはうつむいてしまう。馬耳もへにゃりと力無く倒れ、ピクリとも動かない。そんな彼女の手を取り、コリンは謝る。
オルドーの言葉も合わせて考えると、リュミたちは戦いの最中でエル・ラジャッドの動力源たる人間電池にされてしまったのだろう。
「辛い思いをさせて済まなかった、マリス。わしがもっと早く帰ってきていれば、無用な悲しみを背負わせずに済んだものを」
「コリン、悪くない。悪い、マリス。オルドー、倒せなかった。だから……取引、した」
「取引?」
「十シーズン連続で、レース、優勝する。そしたら、みんな解放する。オルドー、そう言った」
一人生き残った……いや、生き残ってしまったマリスに、オルドーは取引を持ちかけたのだという。配下に加わる代わりに、条件を満たせば獣人たちを解放すると。
その条件を呑んだマリスは、オルドーの配下となった。そして、ヘルメットで素顔を隠し、偽りの騎士を名乗ることになったのだ。
「マリス、三シーズン連続で優勝した。あと七回で、みんな助けられる。でも……」
「不安なんじゃな。オルドーがそう簡単に条件を達成させてくれるわけがない、と」
実際、コリンは自分たちがオルドーに提案をされた時からそう考えていた。必ずどこかで妨害を仕掛けてくる。
そう思っているからこそ、マリスの抱える不安やプレッシャーをよく理解出来た。一人孤独に戦っている彼女に、コリンは心を痛める。
「お待ち、出来たぜ。ドレイク様特製のサンドイッチとパンケーキだ。旨そうだろ?」
「うむ、確かに見た目は美味しそうじゃ……って、おぬしはこんなところで何をやっておるのじゃ、ドレイクよ」
「チャンスを窺ってるのさ、ジャスミンを取り返すためにな。オレもオルドーに臣従させられて、こんなコックの真似事をさせられてるが……いつでも寝首を掻けるよう、機会を狙ってるんだぜ」
コリンたちの前に料理が乗った皿を置きつつ、ドレイクはそう答える。彼もまた、愛する娘のため水面下で戦っているのだ。
「一応、あのくそガキの部下の幹部筆頭って扱いになってるからな、黄金宮の隠し通路やらセキュリティの解除方法とかはバッチリ把握してるぜ。あの忌々しい結界と首輪爆弾さえなきゃ、とっくの昔に殴り込んでるんだがな……」
「おぬしも大変なのじゃな……む、確かに旨いのう。このサンドイッチは」
「マリス、ここの料理、好き。いつも、ここ来る」
話もそこそこに、コリンはサンドイッチに齧り付く。濃厚なチーズの味わいと、歯ごたえのあるベーコンが絡み合い絶妙な旨味を引き出していた。
「ジャスミンを助け出したら、オレ様特製のヘルシーフルコースを食わせてやるつもりだ。あんな悪趣味なとこに閉じ込められて、無駄にカロリー高いメシ食わされてるだろうからよ」
「あり得るのう。オルドーの奴、バリバリの成金趣味のようじゃからな」
「マリス、あの宮殿嫌い。キンキラピカピカ、頭くらくらする」
話は次第にオルドーに対する悪口へとシフトしていき、三人は大いに盛り上がる。夕方になるまで話し込んだ後、コリンたちは帰ることにした。
「マリス、ドレイク。今は辛い雌伏の時じゃが……必ず、道は開ける。共に頑張ろうぞ」
「ああ、お互いにやれることを精一杯やろうぜ。もし黄金宮に乗り込めたら……オレに連絡をくれ。加勢しに行くからよ」
「マリス、頑張る。でも、手、抜かない。レース、必ず勝つ」
「うむ、わしも負けるつもりはない。それぞれの目的のためにも、全力でかからねばな」
今のコリンとマリスは、協力しあえない敵同士。チャレンジャーとゲームマスター、それぞれの立場がある。だが、内に抱く思いは同じ。
今回の話し合いにて、二人はある秘策を考え出した。二人が同時に勝者になれる、とっておきの作戦だ。
「マリス、コリンとは違うレース出る。コリン、まずたくさん勝つ。勝てば、チャンピオンシップ、出場出来る」
「まずはそこからじゃな。さっさとビギナーシップを卒業して、挑戦状を叩き付けてやるからの。待っておれよ、マリス」
「分かった。マリス、待つ。コリン、来る、楽しみ」
そう言葉を交わした後、コリンたちは別れた。それからの三週間、コリンたちの挑戦が始まった。それぞれが選んだゲームに、連日挑み続ける。
元々のスペックの高さと順応力の強さが幸いし、コリンたちはメキメキ頭角を現していくことになる。その結果……ついに、チャンピオンに次ぐ地位に登り詰めた。
「何だか、あっという間だったネ。この三週間。ワタシ、ずっと戦いっぱなしだったヨ」
「こっちもこっちで、指にタコが出来るくらいゲームしっぱなしだよ。でも、おかげでこの街のエグい裏側を知れたのは幸運……なのかな?」
オルドーが提示した期日まで、残り八日となった。その日のよる、コリンたちはいつものように顔を突き合わせ、報告会を行う。
「ゲームに敗れ、死んだプレーヤーは複製したボディに意識を移され、記憶をリセットされた状態でまたゲームをさせられる……。オルドーめ、どこまでも性根が腐っておるわ」
『たまたまフェンルーがその処理をしてる現場に迷い込んだおかげで、私たちも知ることが出来たけど……許し難い行為だ、命を何だと思っているんだろうね』
ランキングの上位に登るべく、日夜闘技場で戦っていたフェンルー。そこで彼女は見たのだ。初めて見た試合で惨殺されたはずのリッチーが、何事もなく復帰しているのを。
当然、怪しんだフェンルーがエステルの手を借りて調査を行った結果……オルドーが裏でやっているおぞましい所業を、知ることになったのだ。
「けったいなガキやで、胸くそ悪いわぁ。神やからって人の命を弄んでええわけとちゃうわ! ホンマ、怒りが収まらんで」
「奴にはたっぷり仕置きをしてくれる。ツケはたっぷりあるでな、全部キッチリ清算させてやるわい。そのために、まずは明日のチャンピオンとの戦いに勝たねばな」
オルドーをぶちのめすためには、各ゲームの頂点に立つチャンピオンを倒さなくてはならない。最後の壁を前に、コリンたちは己を奮い立たせる。
ここから先は、一回も負けることは許されない。窓の外に映る夜景を見ながら、コリンは呟く。
「待っておれ、オルドー。貴様には生まれてきたのを永遠に後悔するような苦しみを与えてやる。必ずな」
その声には、強い怒りと憎しみの感情が宿っている。一世一代の大勝負が、ついに始まろうとしていた。




