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200話─電脳遊戯と双子のエルフ

 フェンルーが試合を観戦していた頃、アニエスとテレジアは街の北西部……電脳遊戯郷に足を運んでいた。アーケード街のそこかしこで、賑わう声が聞こえてくる。


「ふぁぁ、人がいっぱいだよお姉ちゃん。みんな何で遊んでるのかな?」


『ふむ、後で誰か捕まえて聞いてみようか。……それにしても、ここまで大規模なキカイ文化を取り入れるとは。オルドー、中々侮れないね』


 街を散策しながら、双子はそんな会話を行う。何となく目に付いた店に入ってみると、大音量のアップテンポな曲にお出迎えされた。


 アニエスたちが入り込んだのは、エル・ラジャッドで最大の規模を誇るゲームセンター……『ノック&ダウン』という店だった。


「うわっ、うるさ! 何これぇ、耳がおかしくなっちゃう」


『これは中々……どうする、アニエス。外に出るかい?』


「いやぁ、一回入ったんだしいろいろ見てみるよ。ボクたちが挑めそうなゲームがあるかもだし」


 最初こそゲームセンター内の騒々しさに驚いていた双子だったが、次第に慣れてきたようだ。あちこちを見て回り、下調べをする。


 ……が、一階にあるのはプリクラやUFOキャッチャーくらいのもので、特段アニエスとテレジアの興味を引くものはなかった。


『うーん、特に面白そうなものはないね。上の階に行ってみようか』


「うん、そうだね。そっちなら面白そうなゲームがあるかも!」


 階段を登り、二階に向かう二人。二階にはリズムゲームや格闘ゲームの機械が大量に並んでおり、対戦に熱を上げる客で賑わっていた。


「おー、こっちはこっちで……なんかいっぱいあるね!」


『みんな鬼気迫る表情で齧り付いてるね。私たちも試しに……うん? アニエス、向こうの方が騒がしいよ。行ってみるかい?』


「うん、行く!」


 適当なゲームで遊んでみようとしていたテレジアだったが、フロアの奥が騒がしいことに気付く。アニエスに呼びかけ、そちらへ向かう。


 フロアの奥には、卵の一部をくり抜いたような形状をした椅子が二つと、その上に展示されたモニターがあった。


 椅子に座っている者たちは、ゴツい四角形のゴーグルを身に付け手元のレバーとボタンを操作している。どうやら、格闘ゲームをしているようだ。


「さあ、ここでチャンピオンどう攻める!? フェイバリットゲージ満タンまであと少し、チャレンジャーの猛攻を凌ぎきれるのか!?」


『このまま一気に終わらせてやる! 必殺コマンド、サボテンスープレックスだ!』


 モニターの中で、ソンブレロを被ったサボテン人間が叫ぶ。どうやら、卵型の椅子に座っている人物が操っているらしい。


 対戦相手である、刀を持った和装の美女に対して攻撃を仕掛けていく。観客たちが見守る中、実況の声が響き渡る。


『サボテンスープレックス……なら、カウンターさせてもらうわ』


『な……げっ、しまった!』


 向かい合った椅子のうち、アニエスたちから見て左側の椅子に座っている人物が手元のボタンとレバーを操作する。


 すると、モニターに映っている和装の美女が刀を鞘にしまい、中腰になり力を溜め始める。対戦相手はその意味に気付き、慌ててコマンドをキャンセルしようとする。


 が、一歩遅かったようだ。キャンセルボタンを押すよりも早く、サボテン人間の手が相手に触れる。その直後、和装美人が刀を抜く。


『もう遅い! カウンターアクション、鏡斬り!』


「おーっと、素早く的確なコマンド入力で見事カウンターを決めたチャンピオン! 咄嗟に鏡斬りを成功させるのは至難の技、超絶技巧が炸裂です!」


「……何がなんだか、全然分かんない」


『奇遇だね、私もだよ』


 観客たちが盛り上がっている以上、白熱する戦いであろうことは分かるが、何がどう凄いのかアニエスたちはさっぱり分からない。


 だが、心の中の深いところで、むくむくと好奇心が頭をもたげてくることに双子は気付いていた。そんな中、新たな動きが起こる。


『やべぇ、フェイバリットゲージを使い切っちまった! こうなりゃガードで凌いで……』


『ムダな足掻きはやめときなさい。あんたのガードゲージの残量じゃ、アタシの必殺技は防ぎきれない! 必殺コマンド、神速カマイタチ!』


『ぐ……ぎゃああああ!!』


 カウンターを食らい、大ダメージを受けたサボテン人間はモニターの右端に下がる。防御姿勢を取ると、画面右上に表示された三本のバーのうち、一番上の緑色のバーが少しずつ回復していく。


 が、悪足掻きも虚しくガードの上から多段ヒット攻撃を受け、一番下にある青色のゲージがガリガリ削られていった。


「おーっと、ここでガードブレイク! 即死はまぬがれるましたが、HPは残り僅か! カクタスウォリアー、絶体絶命のピーンチ!」


『これで終わりよ、覚悟なさい! 超必殺技、剛刃・巨岩両断斬!』


『ひっ……ぎゃあああーーー!!』


 防御状態を破られ、身動き出来ないサボテン人間ことカクタスウォリアーに向かって、和装美女はトドメの一撃を放つ。


 頭から真っ二つにされたカクタスウォリアーは、オーバーキルダメージを受け戦闘不能になる。モニターには、勝利ポーズを決める美女が大写しになった。


「決まったァー! 勝ったのはチャンピオン、【ヴァーチャルクイーン】エスタロットだぁぁぁぁ!! 今日もまた、無敗伝説を楽々更新ーーー!!!」


「おおおおおおおお!!!」


 実況が叫ぶ中、床に穴が現れ椅子が下がっていく。観客たちが熱狂の声をあげる中、アニエスはテレジアに向かって呟く。


「……ねえ、お姉ちゃん。ボクさ……」


『おっと、みなまで言うことはないよアニエス。双子だからね、何を考えてるか分かる。やりたいんだろう? あのゲームを』


「うん! だって、凄くかっこよかったんだもん! ボクも、あんな風にズバーっと」


「お嬢ちゃん、さっきから何をブツブツ言ってるんだ? もしかして、参加したいのかい? ヴァーチャルリアリティー型格闘ゲーム……『デモンイクリプス』に」


 双子が話していると、近くにいた小太りの男が声をかけてきた。ゲームの名前を知り、アニエスは何度も首を縦に振る。


「うん、そうそう! ボクもやりたいの、そのデモンなんちゃら!」


「そうかそうか、新規のプレイヤーが増えるのは嬉しいぜ! なら、まずは自分用の『VRゴーグル』を用意しなくちゃな。あれがないとプレイヤー登録出来ないんだよ」


「ぶい……あーる? むむ、ちょっとちんぷんかんぷんになってきた……」


『やれやれ、しょうがない。ここからは私が出よう、チェンジだアニエス』


「はーい!」


 小太りの男に懇切丁寧にデモンイクリプスの遊び方を説明してもらっていたが、アニエスは半分くらい理解出来ず目を回していた。


 妹の醜態を見かねたテレジアは、彼女に代わって表に出る。地頭はテレジアの方がいいため、とんとん拍子にゴーグル入手まで進められた。


「へぇ、これが……。これを着けるだけでゲームの世界に入り込めるだなんて、にわかには信じられないけど」


「へへ、この街に来た連中はみんなそう言うんだよ。あんたも驚くぜ、そんでデモンイクリプスに大ハマリするぞ、確実に」


「そういうものかねぇ……。分かった、とりあえず遊んでみるよ。ありがとうね、おじさん」


 男と別れ、テレジアは三階に登りデモンイクリプスの機体があるフロアに向かう。購入したゴーグルを機体に接続し、プレイヤー情報を登録する。


『どれどれ、へー。一人用のモードと対戦モードがあるんだって! お姉ちゃん、どうする?』


「まずは一人用のモードでじっくり遊ぶさ。操作に慣れてからでないと、対戦なんてとてもとても。よっこらしょっと」


 テレジアは卵型の椅子に座り、機器をチェックする。コントローラーは二つあり、八つのボタンがある右手用のものと、八方向に入力出来るレバーを備えた左手用のものがあった。


「なるほど、これで自分のキャラクターを操作するわけだ。さて、まずはどのキャラクターを使うか決めないとね」


『全部で三十二人のキャラクターがいるんだって! 楽しみだね、お姉ちゃん!』


「そうだね、なんだかんだでワクワクするよ。でも、大目的を忘れないようにしないとね。レテリアさんとジャスミンの救出のために、ここに来てるんだから」


『大丈夫、ちゃーんと覚えてるから! さ、ゴーグルかけてゲームスタート!』


 アニエスに促され、テレジアはゴツいVRゴーグルをかける。男に説明された通りボタンを入力し、電脳世界に飛び込んでいった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 都市が都市だけに今までの世界観がぶっ壊れたな(ʘᗩʘ’) フェンルーとアニエスの偏差値低そうな脳筋コンビがリアルファイトとバーチャルファイトを選んだか(↼_↼) しかしこのまま一月も缶詰状…
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