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196話─黄金の壁の先に

 ヤサカでの戦いを終えたコリンたち。海底の里に戻り、レテリアに一部始終を報告しようとしてドレイクが残したアクアレターに気付く。


 ジャスミンのためにレテリアを捕らえたこと、旧ガルダ草原連合に身柄を移送したこと、そして襲撃の黒幕が邪神の子の一人、オルドーであること。


 それらを知ったコリンたちは、急遽大陸へ戻っていく。十五日ほどかけてゼビオン帝国に戻ってきたコリン一行は、すぐにガルダ草原に向かおうとする、が。


「全く、次から次へと忙しいものよ。わしらがおらぬ間に、南から聖王国軍が攻めてきておったとは」


「はい……今は相手の数が少ないのでどうにか押し返してはいますが、それもいつまで持つか。星騎士の皆様のお力があれば、話は別ですが……」


 コリントたちが留守にしている間に、旧ランザーム王国領を支配しているダルクレア聖王国軍が侵攻を試みていたようだ。


 国境を脅かす回数が目に見てて上がっているといことで、コリンは仲間と話し合いを行う。そして、帝国の守りを固めるため、何人かを残すことにした。


「というわけで、済まぬが残ってもらえるかの? アシュリーにカトリーヌ、イザリーよ」


「おう、任せとけ。こっちの守りはアタイらがバッチリ固めるからよ、コリンはガルダ草原に行ってきな」


「心配はいらないわ~。わたしたちがいる限り、ダルクレア軍の好きにはさせないもの。ね、イザリーちゃん」


「ほとんどロクに戦えないけど、精一杯頑張るわ!」


 ヤサカ復興のため祖国に残ったツバキを除き、役割分担が決まった。アシュリーとカトリーヌ、イザリーが防衛のために残る。


 コリンやエステル、双子コンビにフェンルーがガルダ草原に向かうこととなった。なお、今回マリアベルはネモと共に暗域に出向しているため参戦はしない。


「さて、行こうか。おば上とジャスミンを助け出し、オルドーを叩き潰すとしようかのう」


「やったろうやないか、なぁ? へへ、殴り込みしたるわ」


「よーし、ガルダ草原にレッツゴー! それっ、進メー!」


「ああっ、待つのじゃフェンルー! そっちは東、思いっきり反対方向じゃ!」


「……大丈夫かな、このメンバーで」


『何とかなるさ……きっと』


 帝都を発ち、いざ草原へ……というところで、早速生来の方向音痴っぷりを発揮するフェンルー。慌てて彼女を追いかけるコリンを見ながら、アニエスとテレジアはそう呟いた。



◇─────────────────────◇



 帝都アディアンを出発してから、十日が過ぎた。今回は馬車を使ったため、以前の倍の日数が必要になった……が、そんなのは些細な問題だった。


 ゼビオン帝国とガルダ草原を隔てる国境が、北から南まで延々と黄金の壁で閉ざされているという、異常な状態に比べれば。


「何じゃこの壁は? こんなものがあったら国境を越えられぬではないか」


「ふっふっふっ、問題はあらへんでコリンはん。この四年、ウチら黒蠍衆は逃げ回っとたわけとちゃうで。ちゃーんと、この壁の調査もしとるんやで」


『へぇ、それは頼もしい。それで、どうすればこの壁を越えられるんだい?』


 黄金の壁を叩き、強度を調べていたコリンにエステルが自慢気にそう語りかける。アニエスの体内にいるテレジアが問うと、エステルは歩き出す。


「こっちや。だいぶ前に、もう少し南の方にある壁に秘密のトンネルを作っといたんや。ガルダ草原に侵入出来るようにな」


「なるほどのう。流石エステルじゃ、抜け目がないわい」


「わっはっはっはっ! 照れるわぁ~、もっと褒めてくれてもええん」


「あのー、もしもし。入国希望の方たちですかぁ?」


「ほわあああああ!?!??!!?!?!!? か、壁から人があああ!!」


 エステルの言葉通り、早速壁沿いに南下しようとするコリンたち。だが、その直後。壁からにょっきりと人の上半身が生えてきた。


 完全に虚を突かれ、アニエスが金切り声をあげる。コリンたちもギョッと驚き、動きが止まってしまう。


 金色のタキシードを着た黄金人間が突然現れたのだから、驚くのも無理はない。


「ぬおっ!? な、何じゃおぬしは! もしや、新手の敵か!」


「けったいな登場の仕方するなや! 心臓止まるかとおもったやろがい!」


「あー、待ってください。私敵じゃないですよ。ほら、こんなにハンサムなんですよ? この顔は敵の顔じゃないでしょ? ね?」


 突然壁から生えてきた黄金人間を前に、コリンたちは警戒心を剥き出しにする。そんな彼らに、黄金人間はすっとぼけた表情でそう声をかける。


 ハンサムかどうかはともかく、敵意は見られなかったため一応コリンたちは警戒を解く。……念のため、距離は離しているが。


「それで、君は一体誰なのサ」


「おっと、これは失礼。私、黄金郷エル・ラジャッドの案内人を務めているバークスと申します。以後お見知りおきを」


「黄金郷……」


「エル・ラジャッドぉ?」


 フェンルに質問され、黄金人間ことバークスはそう答える。彼の言葉に、コリンとアニエスは首を傾げてしまう。


「何じゃそれは。この先には獣人たちの国があるはずじゃろう」


「いえいえ、それはもう過去の話ですよ。今この壁の向こうにあるのは、人々の欲望が渦巻く歓楽の都! この世のありとあらゆる娯楽が集う場所なのです!」


 コリンに問われ、バークスはそう答える。彼が指を鳴らすと、壁の一角が変化し、大きな扉が現れた。ひとりでに扉が開き、道が出来る。


「本来、ダルクレア聖王国のお貴族様以外が足を踏み入れることは不可能……ですが! 貴方がたは特別です、何せ我らが主──オルドー様からVIP指定を受けておりますからね。さあ、どうぞ! めくるめく欲望の都へ!」


 開かれた扉の横に移動し、バークスは恭しくお辞儀をした。そんな彼と仲間たちを、コリンは困った顔で交互に見やる。


 どう考えても、オルドーが罠を仕掛けているとしか考えられない。だが、壁は百メートルほどの高さがあり普通に超えるのは困難。


「虎穴に入らずんば虎子を得ず……か。危険を承知で進むしかあるまい。おば上やジャスミン、獣人たちの安否を知るためにもな」


「せやな、マリスはんたちのことも気になるしな。ここでうだうだしててもしゃーないわ」


「だね。ちょっと怖いけど……行ってみよっか!」


 だが、コリンたちの頭に『撤退』の二文字はなかった。ここで退くことは出来ない。コリンたちには、助けなければならない者たちがいるのだから。


 心を決めたコリンたちは、バークスによって開かれた扉の中へ進んでいく。扉の先は、長いトンネルになっているようだ。


『だいぶあるね、このトンネルは。一体どこまで続いているのだろう?』


「みな、気を付けるのじゃぞ。いつどこで何がおこるか分からん。敵の本拠地に乗り込んでいるわけじゃから……ん? 何じゃ、この音は」


「歓声……なのかナ? トンネルの向こうから聞こえてくるヨ」


 しばらくトンネルを進んでいると、出口の方から何かが聞こえてくる。熱狂する人々の歓声と、何かの駆動音。


 それが、トンネル内を反響してコリンたちのもとに響いているのだ。その正体を知るべく、駆け出すコリンたち。


 トンネルの出口にたどり着き、通り抜けた先で彼らが見たものは……巨大なサーキット場だった。観客たちの歓声が響く中、実況の声がこだまする。


「決まったァーーー!!! たった今、鮮やかにナイトライア選手がゴールイン! 今シーズンも絶対王者の走りは絶好調! 夜明けの覇者(デメルングズィーガー)は止まらなーーーい!!!」


「わあああああああ!!」


「な、何じゃ? この国は……草原は、どうなってしまったのじゃ?」


 前方十数メートル前に設置された、巨大なモニターにはヘルメットを被った人物が映し出されている。優勝カップを受け取る様子を見ながら、コリンは困惑する。


 だが、彼らはまだ知らなかった。草原がどれだけ変貌したのか──その全貌を。

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― 新着の感想 ―
[一言] う〜〜わ( ≧Д≦)トンネルくぐっただけなのにイキナリ胸くそ悪い空気で気持ち悪いぞ(╥﹏╥) 今回マリアベルいないのに明らかにコリンの教育に悪そうな所に来てしまったが(‘◉⌓◉’) メン…
[一言] 草原が変貌したとかなんの冗談だ?
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