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192話─親と子の戦い

 アシュリーたちの協力により、無事城内に侵入することが出来たコリンたち。そんな彼らに、城の内部に潜んでいたダルクレア兵たちが襲いかかる。


「いたぞ、奴らだ! ラヴェンタ様のところに行かせるな!」


「殺せぇぇぇ!!」


「雑魚どもが……邪魔をするな! 刃性変換、断殻刀【追憶】!」


 星遺物を呼び出し、ツバキは叫ぶ。刀身が濃い青色に変わり、オーラに包まれる。その状態のまま、ツバキは刀を振るい敵を切り刻む。


「ぐあっ!」


「この……ぎゃあっ!」


「片付いたな、先を急ごうコリン殿。……っと、今拙者がいる場所近辺は通らない方がいい、危ないから」


「うむ、よく分からんが分かったぞよ」


 城の二階の廊下にて、襲いかかってきた敵を全滅させたツバキがコリンに声をかける。いまいち要領を得なかったものの、コリンは従うことにした。


 ツバキが戦っていた場所を避け、三階へ向かおうとしていると、一階への階段がある方向から足音が聞こえてくる。どうやら、増援が来たようだ。


「そこまでだ! じきに三階からも増援が来る。そうなればお前たちは挟み撃ちだ!」


「そうか。なら、もう二カ所ほど()()()()()か」


 そう呟くと、ツバキは進行方向と増援が来た方向の虚空を一回ずつ刀で大きく横薙ぎに斬り払う。そうしているうちに、増援が到着した。


 これで、敵の言った通り挟み撃ちされることになった……が、ツバキは平然とした様子で突っ立っている。


「ツバキ、反撃は……」


「不要さ、まあ見ているといい。さあ、どうした! これだけの数がいても来ないのか、臆病者どもめ!」


「生意気な! 全員かかれ!」


「おおおお……お?」


 挑発されたダルクレア兵たちは、コリンたちを抹殺するため襲いかか……ろうとするも、その途中で勝手に首をはねられた。


「な、なんじゃ? 何が起こっておるのじゃ?」


「これが断殻刀【追憶】の能力……一度斬った空間に、斬撃を『残す』。彼らは、拙者が先ほど放った斬撃の軌跡にふれて首をはねられたのだ」


「なるほど……一歩間違えれば自分を傷付けかねんが、中々に強力な能力じゃな」


 能力のカラクリを知ったコリンは、そう呟く。上手く使えば今のように迎撃用の罠に使えるが、うっかり斬った場所に触れると自分が斬られる。


 中々扱いの難しい能力だと、ツバキも口にする。とはいえ、場所とシチュエーションを選べば強力なことに変わりはないが。


「さ、行こう。すでに【追憶】の効果は解除した。急がないと、また追っ手が来る」


「そうじゃな、急ぎラヴェンタを倒しに向かおうぞ」


 ダルクレア兵たちを退けた二人は、さらに上へと登っていく。次々に襲ってくる敵を撃滅し、ついに天守閣に通じる扉の前にたどり着いた。


「感じる……この扉の先にラヴェンタがおるな。じゃが、それとは別の気配も感じるのう。新手の敵じゃな」


「問題はない。誰が相手だろうと、我が剣で屠るのみ。今日……全てを終わらせる! 入ろう、コリン殿!」


「うむ、突入じゃ!」


 観音開きの扉を押し開け、二人は天守閣の中に押し入る。次の瞬間、コリンの足下に転移用の魔法陣が現れた。


『あんたはこっちだよー、屋根の上までおーいで!』


「ぬう、わしらを分断するつもりか! よかろう、返り討ちにしてくれる!」


「コリン殿、ご武運を!」


「うむ、そなたはもう一人の敵を倒すのじゃ! 頼んだぞよ、ツバキ!」


 短く言葉を交わした後、コリンは屋上にて待ち受けるラヴェンタのところに転送されていった。一人残されたツバキは、部屋の先に広がる闇を見つめる。


 ズッ、ズッ……と、足を引きずるような音が近付いてくる。断殻刀の柄を握り締め、ツバキは身構え……その直後、闇の中から現れた相手を見て驚愕した。


 現れたのは、漆黒の甲冑を纏ったトキチカだったのだ。左手には妖刀、雷光血鳥を握っている。いくつかの欠片に砕いたはずの刀身は、復活していた。


「ど、どうして……父上が? まさか、生きているわけが……。いや、それ以前に……ラヴェンタに従うわけがない!」


『どーお? 驚いてくれたー? 二年前にぶっ殺した後で、ゾンビ化してよみがえらせたんだよねー。今じゃもう、アタシの忠実な部下だよ』


「ラヴェンタ……貴様ァ! 命だけに飽き足らず、死した者の尊厳まで貶めるのか!」


 父の姿を見て動揺しているツバキの元に、またしてもラヴェンタの声が響く。一切悪びれることのない態度に、ツバキの怒りが爆発する。


『アタシは神様だもーん、何しても許されるんですーだ。というわけで、()っちゃえトキチカ! 目の前にいる女を八つ裂きにしろー!』


「承知……全ては、ラヴェンタ様のために……」


「父上、ま──くっ!」


 トキチカを説得しようと試みるツバキだったが、雷光血鳥による攻撃を仕掛けられ後退してしまう。濁りきったトキチカの目には、敵意しかない。


 ツバキは覚悟を決め、断殻刀を構える。父を救うためには、殺すしかない。そう理解した瞬間、乾いた笑い声がひとりでに漏れる。


「ふ、ふふ……。奴は、拙者から全てを奪いたいようだな。いいさ、ならくれてやる。人としての意思すらも捨て……冥府魔道に落ちてでも殺してやるぞ、ラヴェンタ!」


「そうは……いかぬ。まずは……私を、倒せ!」


 ラヴェンタへの憎しみをほとばしらせるツバキに向かって、トキチカが踏み込む。死してなお衰えることのない剣技が、ツバキを襲う。


「ぐっ……速い! それに力も拙者以上……生前の能力は、そのまま備えていると見ていいな……てやっ!」


「遅い……その程度の剣、寝ていてもかわせる……」


 天守閣内部を縦横無尽に駆け回り、斬撃の嵐を見舞うトキチカ。一方のツバキは、相手の攻撃を防ぐのにいっぱいいっぱいだ。


 大名たちの長としてその強さを知られていた父と自分の差を、嫌でも意識させられてしまう。だが、ツバキに敗北は許されない。


「拙者は負けられぬ……絶対に! 刃性変換、断殻刀【斬鉄】!」


「ムダな……ことを。刃性変換……断殻刀【盾甲】。我が守りは……突破、出来ぬぞ」


 ツバキの行動に合わせ、トキチカも星遺物を呼び出す。盾のような形状に断殻刀を変化させ、その場にどっしり構える。


(あれは……! まずいな、【盾甲】の防御力はとんでもなく高い。【斬鉄】の能力を持ってしても、完全に両断出来るかどうか……)


「来ない……のか。なら……こちらから行くぞ、ツバキ」


「え……? ぐっ!」


 娘の名前を呼んだ一瞬、その時だけトキチカの瞳の濁りが消えた。それを見たツバキが動揺した、次の瞬間。


 彼女の胸に斬撃が叩き込まれる。一瞬で距離を詰めてきたトキチカによって、斬られたのだ。それに気付いた時には、ツバキは宙を舞っていた。


「う……がはっ!」


「なんども、言った……はずだ。戦いにおいて……決して、気を緩めるなと。やはり……お前は、まだ未熟だ」


「はあ、はあ……! 父上、まさか……記憶も、あるのか……?」


 倒れ伏したツバキに追撃を放つことなく、トキチカは諭すように声をかける。だが、ツバキからの呼びかけには答えない。


「刃性変換、断殻刀【癒舞(ゆまい)】! ……拙者には、分からない。父上が本当に操られているのか、それとも自我が残っているのか……。でも、迷っている暇は……拙者にはない!」


「来い……次は、首を……()る。慈悲が二度……あると思うな」


「ええ、分かっていますとも。それも……生前の父上の教えだった。……刃性変換、断殻刀【疾駆】! 今度はこちらの番だ!」


 傷を癒やした後、ツバキは再度刀の特性を変化させる。刀身がまばゆい銀色に染まり、身体に力がみなぎっていく。


 今度は、ツバキが攻める番だ。先ほどのトキチカのように、天守閣の中を跳び回り斬撃を叩き込む。トキチカは右手に持った断殻刀【盾甲】を構え、攻撃を防ぐ。


「はあっ! てやっ! たぁぁぁっ!!」


「なかなかに……(はや)い。だが……なかなか止まり……だ。私を斬るには……遅い」


 勇猛果敢に攻め込むツバキだが、あと一歩のところで父に届かない。今はまだ、防戦一方な状態に追い込めているから問題はない。


 だが、ツバキの体力が尽きて動けなくなれば……今度こそ確実に、トドメを刺される。先ほども言われた通り、二度目の慈悲はない。


(負けられない……! 拙者は負けられないのだ! 憎きラヴェンタを殺すためにも、コリン殿たちのためにも! 父を……超えなければならないのだ!)


 ツバキの中で、ラヴェンタへの憎しみと仲間たちへの想い、そして……誰よりも強かった父を超えたいという熱意が混ざり合う。


 その結果、ついに目覚めの時が来た。ツバキの背中に、【コウサカの大星痕】が浮かび上がる。彼女の意思に呼応し、星の力が目覚めたのだ。


「拙者は! 必ずあなたを超える! そのために、ここにいるのだ!」


 猛攻を仕掛けながら、ツバキは吼える。星の力が覚醒するまで──あと少しだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しい戦いになってしまったか(-_-メ) だかこれが最大の試練であり最大のチャンスに繋がる(ʘᗩʘ’) ツバキよ、怨敵への怨みも仲間達の思いも今は閉まっておけ(ب_ب) 剣士であり侍なら剣…
[一言] トキチカ……すまない。ラヴェンタのアマを潰すために……アンタを斬る。
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