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188話─紫電とどろく海で

 里が隠されている船滅ぼしの三角海域(ロストシップデルタ)は、相変わらず嵐が渦巻いていた。船ごと浮上したコリンは、目の前にいる人魚を睨む。


「神将……フン、貴様もヴァスラサックの子の一人よようじゃな。貴様もここで、ゼディオたちのように仕留めてくれる!」


「あの日、わたくしは闇の眷属たちを守るだけで精一杯でした。でも、今は違います。姉上、あなたをここで倒します!」


「やれるものならやってみなよー。死ぬのはあんたたちの方だけどねー! 神将技、アメジスト・ストーム!」


 コリンたちの言葉を受け、ラヴェンタが叫ぶ。右胸に埋め込まれた【紫電色の神魂玉】が光り輝き、天を覆う暗雲と共鳴する。


 すると、黒い雷雲が紫に染まり、禍々しい雷が海に落ちる。火花が弾け、雷が直撃したのだろう魚の死体が浮かんできた。


「みぃんな、みぃんな焦がしてあげる。アタシの雷で、肉も骨も血も魂も! ぜぇぇんぶね! サンダーストラッシュ!」


「そんな雷、防いでくれる! ディザスター・シールド!」


「無理だよぉ? 曲がれ、紫電の雷よ!」


「何っ!?」


暗雲から降り注ぐ雷を防ごうと、コリンは闇の盾を作り出す。だが、ラヴェンタの力によって雷の軌道が変わり、盾を回り込んでくる。


 そのまま雷の直撃を食らう……と思われたその時、レテリアが水の膜を作り出しコリンを覆う。水に触れた雷は四散し、消滅した。


「あれれ~? どうして雷が消えちゃったの~?」


「残念でしたね、姉上。不純物を極限まで取り除いた水は電気を通しません。自慢の雷は、わたくしがいる限り効きませんよ!」


「ありがとう、助かったぞよおば上!」


「む~、だったら……こうするもんね! ライトニング・サーベル!」


 レテリアによって必殺の雷を無力化されたラヴェンタは、次の手を講じる。今度は自分の右手に雷を落とし、稲妻の剣を作り出した。


「これで船をバラバラにしちゃうもんね! そーらっ!」


「まずい! ネモ殿、取り舵いっぱいじゃ!」


『カーカカカ! お任せあれーい!』


「なら、わたくしも!」


 マザー・マデリーン号を電撃の刃で両断せんと、ラヴェンタは剣を振り下ろす。それを見たコリンは、魔法石を使ってネモに指示を出した。


 レテリアが海流を操り、ネモの舵輪操作と合わせて船を左へ勢いよく進ませる。そのおかげで、何とか第一撃を避けることに成功した。


「避けたね~。でも、もう一本あるんだなぁ! ライトニング・サーベル二刀流!」


「くっ、連続攻撃か! こうなれば……ディザスター・シールド【不壊(アンブレイカブル)】!」


 今度は雷を左手に落とし、もう一本稲妻の剣を作り出すラヴェンタ。無防備な船尾に向かって斜め上から剣を叩き込み、航行不能に追い込もうとする。


 コリンは魔力を練り上げ、船尾に強固な闇の盾を作り出して剣を受け止める。今度はガッチリと防御出来、何とか船の破損は免れた。


「くっ……せぇ、はぁ……。シールド系の最上位魔法だけあって、魔力の消耗が半端ないわい……」


「コーネリアス、大丈夫ですか?」


「ええ、何とか……」


 だが、その代償は大きかったようだ。盾を形成するのに総魔力の四分の一を使ってしまったコリンは、その場に座り込んでしまう。


「何やらチャーンス! 食らえー、ビッグテイル・スプラッシュ!」


「のじゃっ!? ぐ、うーん……」


「きゃあっ! コーネリアス? 手すりに頭を……まずいですね、これは……」


 コリンがダウンしたのを好機と捉え、ラヴェンタは身体を縦に回転させ、巨大な尾を海面に叩き付け大波を起こす。


 船が激しく揺れ、虚を突かれたコリンは手すりに頭をぶつけて気を失ってしまう。宙に浮いていたおかげで難を逃れたレテリアは、甥を起こそうとするが……。


「させないよー、まずはお前から殺すよレテリア! ピアッシング・アクアレイン!」


「くっ、ウォーターガード!」


 戦闘不能に陥ったコリンを後に回し、先にレテリアを始末することにしたラヴェンタ。雨粒を鋭い針に変え、甲板に降り注がせる。


 水の膜をドーム状に展開し、コリンを含め攻撃から身を守るレテリア。窮地に陥った二人を、アルソブラ城に避難したアシュリーたちは水晶玉を通して見ていた。


「おい、これはまずいぞ。早く助けに行かねえと二人ともやられちまう!」


「なら、ウチが行くわ。砂で水を吸収……って、ツバキはん!? どこ行くんや、ジッとしとき!」


「……ければ。行かなければ。あの人魚は……ラヴェンタだけは、許せない」


 エステルが加勢に向かおうとしたその時、それまでずっと怯えていたツバキが立ち上がる。ブツブツ呟きながら、リビングの外に出ようとしている。


「もしかして、記憶が戻りつつあるのかもしれない。でも、今の状態で戦いに向かわせるのは……」


『絶対まずいよね? お姉ちゃん。だって、目が据わってるもん! 凄く怖いよ、あれ!』


「そうね、止めた方がいいわ。待って、ツバキちゃん!」


 テレジアやアニエス、カトリーヌは様子のおかしいツバキを止めようとする。だが……振り返った彼女に睨まれ、動きが止まってしまう。


 憎悪の光に満ちた目で睨み付けられ、心臓を鷲摑みにされたような錯覚に襲われる。その間に、ツバキは星遺物たる刀を呼び出した。


「邪魔を、するな。あいつは、私が……拙者が仕留めねばならん! 出でよ、断殻刀【次元】!」


「ツバキちゃん、待って! ……行っちゃった」


「おい、やべぇンじゃねえかこれ。早く追いかけ」


「必要ありませんよ、いざとなればわたくしが出ますから。それに……あの目、憎悪にこそ吞まれていますが……だからこそ、勝機があるとわたくしは踏んでいます」


「そんなこと言っても、心配だヨ! だって、あんな怨霊みたいな……」


 ツバキを追おうとするアシュリーたちの元に、マリアベルが現れる。彼女の言葉に反論するフェンルーに、マリアベルは微笑みながら答える。


「心配ありません。時として、憎しみは人に力を与えますから」


「本当かよ……あ、ツバキが甲板に出たぞ!」


 彼女たちが話をしている間に、ツバキが甲板に現れた。薄い水色に染まった刃をきらめかせ、降り注ぐ針の雨を切り裂く。


「あなたは……何故ここに!?」


「……殺さねばならないから。奴を……あの女を! 奴を見て、全て思い出したぞ! 久しぶりだな、ラヴェンタ!」


「あれっ、あんたは二年前の! なーんだ、まだ生きてたんだ。てっきり、海の藻屑になったとおも」


「黙れ! あの日の屈辱と怒り、思い知らせてやる! 断殻刀【飛龍】! 食らえ、赤炎翔波!」


 ラヴェンタへの怒りを剥き出しにし、断殻刀の刃を赤く染め上げるツバキ。炎の衝撃波を飛ばし、邪神の子へ猛攻撃を叩き込む。


 何故そこまで、憎悪を燃やすのか。その理由が分からずレテリアが困惑していると、気絶していたコリンが目を覚ました。


「うう……む、あれは……ツバキ!?」


「殺してやる! 殺してやるぞラヴェンタ! お前が皆を、父上を! あの日殺したんだ!」


「あっはは、そんなこともあったねえ。でも、あんたたちが悪いんだよ? いつまでもアタシに刃向かうんだもん。だから……みぃんな、海に沈めて殺してやったんだよーんだ!」


 炎の衝撃波を一対の剣で弾きつつ、ラヴェンタは笑みを浮かべる。二年前、彼女はヤサカを襲い何かを行ったようだ。


 ツバキの怒り狂い具合からして、ロクでもないことだけをしたのはまず間違いない。ラヴェンタが言い放った言葉からも、それがよく分かる。


「コーネリアス、目を覚ましたのですね! よかった……」


「コリン、殿? ……生きていたのか」


「うむ、そうじゃ。ツバキよ、力を合わせて戦うのじゃ! 奴を倒すには、連携せねばならん!」


「……承知した。ゆっくりと話をしたいが、それは全てが終わった後。まずは……ラヴェンタを仕留めてからだ」


 紫色の嵐の中、ツバキは宿敵を睨み付ける。彼女の背中に、【コウサカの大星痕】が浮かび上がっていることを……コリンはまだ知らない。


 その輝きが、ドス黒くおぞましいものであることを。


「やってみなさぁい? 弱っちいのがどれだけ集まっても、アタシには勝てないってことを教えてあげる! あっははははは!」


「その思い上がり、叩き潰す。お前の首を両断し、海を汚れた血で染め上げてやるぞ! 拙者の怒りを思い知るがいい!」


 ツバキとラヴェンタは、互いに敵意を剥き出しにして叫ぶ。嵐の海での戦いは、クライマックスを迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] あっちゃ〜(☉。☉)よりによってアシュリーと同等の悲劇であったか(ʘᗩʘ’) アシュリー2号状態や(↼_↼)でもうん?アシュリー本人はあの悲劇から3年も彷徨って殺し回ったけどドス黒い物は無か…
[一言] 記憶は戻ったらしいが、父親は死んでしまったか…… だったら、外道は三枚に下・ろ・すのだァァァァ!!
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