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184話―大海原の裏切り

 数時間後、必要な荷物を積み終えたコリンたちはいよいよ出航の時を迎えた。錨を上げ、魔導エンジンを起動させる。


「ここからだと、十日から十二日くらいで目的の海域にたどり着けるわ。さあ、船出の時よ!」


「ようし、それでは出航する! ヨーソロー!」


 ネモの号令の元、マザー・マデリーン号は吹雪の海に旅立つ。波間を漂う流氷を押し退け砕き、勇ましく南東の方角へ進む。


 そこからは、しばらくの間順調に航行することが出来た。ダルクレア聖王国軍は海軍を持っていないのだろう……コリンはそう考えていた。


 だが、それは違った。海軍を持っていないのではなく、()()()()()()()()()。その事を知ったのは、船滅ぼしの三角海域(ロストシップデルタ)を目前に控えたある日のことだった。


「見えてきたのう、あそこがわしらの目的地……船滅ぼしの三角海域(ロストシップデルタ)じゃ」


「ほう! 嵐がとどろく魔の海域……実に心躍る! ワガハイの航海日誌に記すのに相応しい海だ!」


 甲板にて十数キロ先に見える暗雲を望遠鏡で眺めながら、ネモは歓喜の声を出す。いっぱしの船乗りとして、難関海域に挑むのが楽しみらしい。


「実に頼もしい限り……む? あの船は!」


「殿下、あの船を知っているので?」


「うむ、あれはドレイクの船じゃ。奴め、どこで何をしておったのやら。テレジア、向こうの船に信号を送っておくれ」


『分かった、任せてコリンくん』


 いざ魔の海域に突入せん……と気合いを入れていたその時、マザー・マデリーン号の数十メートルほど前方の海に魔法陣が現れる。


 その中から出てきたのは、ドレイクが乗る海賊船――マリンアドベンチャー号だ。憎まれ口を叩きつつも、コリンは船内にいるテレジアに魔法石で連絡する。


 自分たちの存在を知らせ、再会を祝おうと考えたのだ。だが……。


「キャプテン・ドレイク。向こうの船から信号が届きました。例の少年が乗っているようです」


「……そう、か。なら……全速前進! 砲撃を浴びせて海の藻屑にしろ!」


「アイアイ、キャプテン!」


 マザー・マデリーン号からの信号をキャッチしたマリンアドベンチャー号の通信術師は、ドレイクに報告を行う。


 しばし考え込んだ後、ドレイクが下した命令は――コリンたちへの攻撃だった。船を進め、コリンたちの元に向かう。


「お、近付いてきたぞよ。無事信号が届いて――!? 危ない! ディザスター・シールド!」


「いきなり砲撃してくるとは。随分な挨拶ですなぁこれは!」


 マリンアドベンチャー号が近付いてくるのを見て、コリンは喜ぶ。が……直後、砲弾が飛んできた。慌てて闇の盾を展開し、船を守る。


「防がれたか。ま、だろうとは思ったよ。なら……船を横付けしろ! 直接乗り込むぞ!」


「アイアイ、キャプテン!」


 一方、攻撃を防がれたドレイクは砲撃は無意味と判断する。直接刃を交えることを決め、マリンアドベンチャー号をマザー・マデリーン号に並ばせた。


「殿下、敵が乗り込んできますぞ! 我らにご指示を」


「仕方あるまい、こうなった以上は応戦する! みな、外に出よ! 迎撃するのじゃ!」


 タラップが降ろされ、アルマー海賊団の船員たちが乗り込んでくる。コリンは魔法石を用いて連絡し、アシュリーたちを甲板に呼ぶ。


 理由は定かではないが、こうして攻撃してきた以上は反撃するしかない。例え、相手が共に戦った星騎士であろうとも。


「全員乗り込め! コリンを倒せ!」


「おおおおーーー!!」


「来ましたなァ、殿下。ここはワガハイにお任せを。時間を稼ぎましょうぞ……ぬぅん!」


 マザー・マデリーン号に乗り込んでくる海賊たちを食い止めるべく、ネモが進み出る。カットラスを引き抜き、中腰になり構えた。


「ぬんっ! 疾風抜刀斬!」


「なっ、はや――!? うぐあっ!」


 目にも止まらぬ速度で動き回り、ネモは海賊たちを斬りつける。だが、傷は浅く大したダメージにはなっていない。


「なんだ、速いだけの見かけ倒しか! この程度、ただの切り傷みたいなもんだぜ!」


「全員で囲め! 逃げ道を断ちゃ自慢の速さ……も? な、なんだ? 身体が動か……ひいっ!? 何だこれはぁっ!?」


「カカカカカ! 残念だったなァ! ワガハイの力を見るがいい!」


 複数人でネモを取り囲み、袋叩きにしようとする海賊たち。だが、突然身体が言うことを聞かなくなってしまう。


 ふと傷口を見ると、小さな骨の破片がくっついていた。破片が少しずつ大きくなり、不気味な顔になっているのを見て海賊たちは悲鳴をあげる。


「カーカカカ! これぞワガハイの秘技、骨面瘡! 骨の破片を埋め込まれたが最後、ワガハイが解除せぬ限り全員操り人形となるのだ!」


「わわわ、身体が勝手に!」


「うわあああ! 落ちるー!」


「しばらく海を漂っていてもらおう! 殿下には指一本触れさせん!」


 ネモは斬りつけた海賊たちを操り、海に飛び込ませて無力化する。その甲斐あって、アシュリーたちは無事甲板に上がってこられた。


「待たせたな、コリン! しかし、どうなってンだこりゃ? 何で、ドレイクのオッサンが敵に……」


「世の中ってのはよ、変わっていくもんなのさ。望む望まないに関係なく、な」


 その時、ついにドレイク本人が打って出てきた。コリンは杖を呼び出して身構え、静かに問いかける。


「……ドレイク。何故わしらを攻撃する? そなたとわしは、同じ星騎士。敵対する理由はないはずじゃ」


「あるんだよ、残念だけどな。今のオレは……ダルクレア聖王国海戦部隊を束ねる総督だからよ」


「なんじゃと!? む、ぬおっ!?」


 コリンに対し、ドレイクは衝撃の一言を口にする。その直後、マザー・マデリーン号が激しく揺れる。少しずつ、海の中に引きずり込まれているのだ。


「オレに与えられた命令は一つ。何人たりとも、船滅ぼしの三角海域(ロストシップデルタ)に立ち入らせるな。だからよ……わりぃな、コリン」


「コリンくん、危ない!」


「しばらくの間、海の底にいてくれや」


「ぐうっ!」


 ドレイクは水の弾を作り出し、コリンに向けて発射する。防御が間に合わず、コリンは直撃を食らって吹き飛ばされてしまう。


 水の弾が弾け、大量の水がアシュリーたちにも降りかかる。ドレイクが操る水の膜と化し、コリンたちの身動きを完全に封じてしまった。


「じゃあな。頼むから、おとなしくしといてくれよ」


「待ちやがれ、オイ! オッサンよ、こんなことしてタダで済むと思ってンのか!」


『そうだよ! こんなことしてたら、ジャスミンちゃんも悲しむよ!』


 アニエスの言葉に、ドレイクは身体を震わせる。一瞬だけ辛そうな表情を浮かべたのを、コリンは見逃さなかった。


 それと同時に、コリンはある可能性に思い至る。ドレイクは、自らの意思でダルクレア聖王国に味方しているわけではないのではないか、と。


「ドレイク! 去る前に聞かせよ! そなた、ジャスミンを人質にされているのではないか? そなたのような傑物が、自分から奴らに荷担するなど」


「それ以上は言うな、コリン! ……わりいな、オレからは何も言えねえ。今はただ……お前たちを、海の底に沈めさせてもらう。ただ、それだけだ」


 コリンの言葉を遮り、ドレイクは叫ぶ。そう言い残した後、くるりと背を向けてマリンアドベンチャー号へと戻っていく。


 身動きが取れない中、コリンは精一杯の力を込めて大声で叫んだ。


「待っておれ、ドレイク! わしは必ず、そなたが邪神に従っている理由を暴いてやるぞ! そして、覚えておくがよい! そなたが悪に染まっているのでなければ……いつでも味方をするぞよ!」


「……じゃあな、コリン」


 振り返ることなく、ドレイクは去った。そのすぐ後、マザー・マデリーン号は海の中に没した。それを見届けた後、ドレイクは悔しそうに顔を歪める。


「……済まねえ、コリン。こうするしかねえんだ。ジャスミンを取り戻すためには……。オレは、ジャスミンまで失いたくないんだ。本当に……ごめんな」


 海の底に消えたコリンたちに向かって、ドレイクはそう呟くのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……ん、ここは……海の中か。ドレイクめ、わざわざ船を水の結界でコーティングしてくれたのか。ますます、分からなくなったのう」


 海中に沈められたコリンたちは、まだ生きていた。ドレイクがマザー・マデリーン号に結界を施し、船の損傷を防いでくれたのだ。


「……待っておれ。必ず真相を暴いてやるぞ。邪悪に染まったのか、理由があっての裏切りかをな……」


 海の底で、コリンは決意を固めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 状況的にやはりな展開だけど(ʘᗩʘ’) 目的地が海の底なら別に問題無いがうまく辿り着けるかのう(↼_↼) あのおっさんも仕事だから沈めたのかそれとも海の秘密に感づいてんのか?(゜o゜;
[一言] >「……済まねえ、コリン。こうするしかねえんだ。ジャスミンを取り戻すためには……。オレは、ジャスミンまで失いたくないんだ。本当に……ごめんな」 なる程、ジャスミンを人質に取られてる訳だな……
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