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183話―船出へ向けて

 用事が終わり、コリンとマリアベルはリオと別れ帰路に着く。何事もなくすんなりアルソブラ城に帰り着いたコリンは、早速動き出す。


「まずは船じゃ。頑丈な船を使って、もう一度船滅ぼしの三角海域(ロストシップデルタ)に向かわねばならん」


「船……ならドレイクのオッサンに頼るのが一番なんだろうけど、どこで何やってンのかさっぱり分からねえンだよなぁ」


「そうだねー、ワタシたちもあちこち旅したけド。全然ウワサを聞かないヨー」


 海と船のことなら何でもお任せ、頼れる海賊キャプテン・ドレイク……はいない。四年の間、人助けの旅をしてきたフェンルーの一族ですら、行方が分からないのだ。


「もー、肝心な時にいないんだねぇ。そういうの困るよねぇ、お姉ちゃん」


『優れた船乗りがいなければ、その海域には到達出来ないのだろう? 困ったものだね』


「……一人だけ、頼れる人物がいる。ママ上の配下たる大魔公……その中でも、上位五指に入る強者が、ドレイクと同じ海賊なのじゃ」


 リビングに集まり、顔を突き合わせて相談するコリンたち。ドレイクに頼れない以上、彼と同等かさらに優れた船乗りの協力が要る。


 しかし、邪神の支配によって人口が減ったイゼア=ネデールにはそのレベルにいる船乗りがいない。そのため、外部の者の協力が必要だ。


「あら~、それなら安心ね~」


「ああ、マスター・ネモのことですか。確かに、彼ならば問題はないと思いますが……」


「スケルトンじゃからなぁ、ネモ殿は。下手するとわしらまで幽霊船に取り込まれてしまうのが難点じゃな」


「全然安心出来ないわ~……」


 協力者のアテがあるらしく、コリンが呟く。カトリーヌは喜ぶも、主従コンビの会話を聞いてすぐに手のひらを返した。


「ああ、カティは昔っからオバケの類いが大の苦手だもンなー。いつだったか、お泊まり中に夜中トイレ行ってるカティの」


「シュリ~? 他の娘たちには聞かせてもいいけど、コリンくんに言ったら全身の骨を粉にするわよ~?」


「……スンマセンでした」


 幼馴染みの笑い話を暴露しようとしたアシュリーだったが、うっすらと目を開いたカトリーヌに睨まれすんなり引き下がる。


 殺人鬼のような眼光を宿した目で睨まれれば、彼女でなくても震えてしまうだろう。そんなこんなで話を脱線させつつ、話し合いは続く。


「あ、船なら一隻あるわよ? ノースエンドの入り江に、ママがオーダーした砕氷船を隠してあるの。万が一要塞が陥落した時に脱出するためにね」


「むー……ネモ殿は基本自分の船以外には乗りたがらないからのう。仕方ない、イチかバチか掛け合ってみるわい。流石に、わしもお化けの仲間入りは嫌じゃからな」


「お願い、ししょー。幽霊船に乗るのはボクも嫌だもん」


『……私は何でもいいけどね。船に乗ること自体始めてだから』


 テレジアとマリアベル以外、みな幽霊船に乗るのは勘弁ということで意見が纏まった。結果、コリンとマリアベルは城の地下にとんぼ返りすることになる。


 今度は暗域へ向かい、フェルメアの配下である大魔公の一角……マスター・ネモに協力を仰ぎに行くことになったのであった。


「やれやれ、今日は忙しい日じゃな。上に下にと移動しっぱなしじゃよ」


「ガーゴイルたちに、いつもより多めの餌を与えなければなりませんね。研磨剤も普段より高級なものをあげないと拗ねますよ、これは」


 そんな会話をしながら、コリンとマリアベルは故郷へと向かうのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



 次の日。コリンとマリアベルがアルソブラ城に戻ってきた……が、二人ともかなりやつれていた。その理由は……。


「ワガハイが! 偉大なる魔戒王、フェルメア様の配下である魔の貴族! 常闇の海の覇者ネモである! 大地の民よ、感激の涙を流しへつらうがよい! ワガハイが来たからには万事上手く行くぞ! ガハハハハハ!!」


「うわ……めんどくさそうなのが来た……」


 コリンたちの後ろに着いてやって来たのは、やたらとテンションの高いガイコツの船乗り……マスター・ネモ。真っ黒な軍服と、白い頭蓋骨の対比が印象的だ。


「何だとぉ? そこの貴様! そう、その耳長だ! 貴様、名を名乗れ!」


「ふぇあっ!? え、えと、ボクはアニエスです!」


「先ほどの無礼な言葉、しっかりとワガハイの耳に届いたぞ! そこに直れ、仕置きをしてやる!」


「いや、まず耳どこやねん……」


「わー、助けてししょー!」


 腰から下げていたカットラスを抜き、アニエスに襲いかかるネモ。リビング中を走り回る二人を見ながら、小声でエステルがツッコむ。


「これこれ、ネモ殿もアニエスもそこまでにしておくとよい。マリアベルが怒るぞよ?」


「承知! これにて仕置き終了!」


「切り替えはやっ!?」


「ふふふ。わたくしには頭が上がらないのですよ、マスター・ネモは。ねぇ?」


「ハ、ハハハ……」


 マリアベルの名を出され、ネモはピタッと動きを止めておとなしくなった。意味有りげな視線をマリアベルから向けられ、ネモは冷や汗を流す。スケルトンのクセに。


「すでに、砕氷船を使うことを呑んでくれた。これからノースエンドに向かい、すぐに船出の準備をするぞよ」


「今回は、皆様にも同行していただきます。この先、何が起きるか全くの未知数。戦力は多いに越したことはありませんから」


「よっしゃ、任せておきな。アタイらがいりゃ負けはねえ。なぁ、みんな!」


「もちろん!」


 アシュリーの言葉に、カトリーヌたちは頷く。すぐに準備にとりかかり、一行はノースエンドに向かう。街に出て、北の岬に向かっていると……。


「あ、コリンお兄ちゃん! どこかにおでかけするの?」


「おお、ロッカにミュル。うむ、北の岬にな。二人とも、新しいパパやママとは仲良くやれておるかのう?」


「うん! ふたりともやさしくてだいすき!」


「ぼく……も」


 広場を通りかかった際、遊んでいたロッカとミュルの姉弟と偶然会った。悲惨な境遇にあった二人も、今は里親に引き取られ幸せに暮らしている。


 ミュルの喉も治りはじめており、少しずつではあるが喋れるようになってきていた。幸せそうな二人を見て、コリンは微笑みを浮かべる。


「そうかそうか、それはよかった。二人とも、風邪には気を付けてな。元気なのが一番じゃからな」


「うん! お兄ちゃん、ばいばーい!」


「また……ね」


 ドワーフの姉弟と別れ、コリンたちはイザリーに案内されバーウェイ一座の館……の、奥にある岬へと向かう。海へ続く下り坂を降りていくと……。


「あったあった。ここの大岩をどかして……それ、よいしょ! ふう、これでよしっと」


「こんなところに洞窟への入り口があるとはな。寒いしさっさと入ろうぜ」


「ええ、着いてきて。この奥に砕氷船があるから」


 秘密の入り口を通り、洞窟内に入る。中は広い空洞になっており、ドックとして整備されていた。コリンたちの目の前に、巨大な黒い砕氷船が鎮座している。


「ほほう! これは素晴らしい! ワガハイ所有のスカル・ダッチマン号に勝るとも劣らぬ名船! さぞ名のある船大工が建造したと見える!」


「あ、やっぱりそういうの分かるんだ。そうよ、この船は名工ドン・ラファンテが造った、大地に一隻だけの砕氷船……マザー・マデリーン号よ!」


 今は亡き母の名を冠する船を見上げ、イザリーは誇らしげに笑う。彼女が指を鳴らすと、ひとりでにタラップが降りてくる。


 コリンたちは船に乗り込み、あちこちを見て回る。船室は全てピカピカに掃除されており、埃一つ落ちていない。


「ふむ、実に素晴らしい! 思っていた以上に良い船であるな、これならば王子殿下に快適な船旅を約束出来よう!」


「頼んだぞよ、ネモ殿。目的地はここ、船滅ぼしの三角海域(ロストシップデルタ)じゃ。わしはここに行かねばならぬ」


「お任せを、殿下。さあ、早速船出の準備をしましょうぞ! いざ行かん、嵐の海へ!」


 目的達成のため、前へ進んでいくコリンたち。だが……この時、彼らはまだ知らなかった。広い海原で、かつての仲間と――最悪な形で再会を果たしてしまうことになるのを。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドレイク……敵対せざるを得ない状況になってしまうのか? 立ちはだかるなら戦うまでだが……命を奪うのは本当にどうにもならない時に、だ。
[一言] ドレイクのおっさん不在の為にピンチヒッターでスケルトン船長か(ʘᗩʘ’) ブラック隊長とは別の意味で灰汁が強いな(゜o゜; 向かう先は海だけにやはりこういう形になってしまうのかおっさんよ…
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